2024年11月22日

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アルビオン、「フラルネ」で挑む「エクサージュ」超え 中原洋子取締役に聞く勝算

中原洋子取締役カスタマーサービス本部副本部長は「最も大事にしているのは、店頭がお客様で賑わうことです。中でも、アルビオンを知らないお客様が来て下さること!」と強調する

「エクサージュ」を超える――。アルビオンが大きな挑戦に乗り出した。8月18日、新しいスキンケアシリーズ「フラルネ」を発売。同社は7月1日、1997年9月の発売から25年近いロングセラー「エクサージュ」の生産終了を発表しており、フラルネはその後継を担う。看板商品、いや象徴と言っても過言ではないエクサージュをリニューアルするのではなく、フラルネにバトンを渡すのは、なぜか。仏語で小瓶を意味する「Flacon」と、同じく運命を指す「Fortune」を掛け合わせた造語であるフラルネには、アルビオンの運命も託せるのか。「エクサージュを超える」と高らかに宣言した、中原洋子取締役カスタマーサービス本部副本部長に勝算を尋ねた。

注)「ストアーズレポート」9月号の記事を一部修正して転載します。

多様性や個性を尊重して、お客様にもっと寄り添う

——エクサージュの生産終了はSNSで広く拡散され、愛用者に衝撃を与えました。決断に至った経緯を教えて下さい。

中原 エクサージュはデビューから25年が経つ2022年にリニューアルを計画していました。そもそも、エクサージュが誕生した25年前の化粧品業界は、ありとあらゆる年代軸でシリーズが区切られていて、大手ほどではないものの、当社でもかなりのシリーズ数がありました。そうした中で、「みずみずしい赤ちゃんのような潤いのある弾力肌へ」というコンセプトの下、「シェルテ」、「フォールクリスタル」、「レリューション」を統合したのがエクサージュです。
エクサージュによって、当社の潮目が変わりました。まず、年齢軸ではなくなったため、紹介しやすくなりました。「潤いのある、みずみずしい肌にしてくれるシリーズなのですよ」と、お客様の年齢に関係なく勧められたからです。

紹介の機会が増えた結果、客層と客数が圧倒的に変わりました。百貨店や専門店が最も求める20代や30代の獲得に大成功。「(社名をもじって)ヨルビオン」と呼ばれるようになりました。昼間はそれほどでもないのですが、夕方の17時くらいから百貨店や駅ビルが閉じる20時か21時まで、夜になればなるほど客数が増えたからです。年配のお客様が多いブランドは18時を過ぎると閑散としていましたが、当社だけは閉店まで賑わっていました。それくらい、エクサージュは会社帰りの20~30代の女性に支持されたんです。

エクサージュのヒットは、美容部員の確保にも好影響を与え、採用活動への応募が非常に多くなりました。それまで当社は「高級品」や「年配向け」といったイメージを持たれていましたが、エクサージュでガラッと変わったからと言えるでしょう。

こうした背景があるだけに、まずは「エクサージュをリニューアルして、もっともっと大きくしていくべきか」と検討しました。しかし、世の中には常に変化が起きていて、人の価値観やライフスタイルなども変わっていきます。エクサージュは過去に数回のリニューアルを重ねてきましたが、「(アルビオンとの)出逢いのシリーズ」としての存在感を、この先も保てるのか……開発部門の若手を中心とするメンバーから、疑問の声が上がってきました。

ただ、私達はエクサージュとともに育ってきた人間です。「エクサージュのリニューアルでいいのでは」と考えてしまいますし、世の中に名前が通ったエクサージュを捨てるのには勇気が要ります。社長の小林(章一氏)も「(95年にマーケティング部門の責任者に就き、初めて手掛けたのがエクサージュだからこそ)俺はショックだったよ」と言っていました(笑)。正直、リニューアルか新しいシリーズの立ち上げか、判断をしかねる部分が多かったのですが、社内の若手メンバーによれば「エクサージュは20代前半に知られていないですよ」というのがリアルな声だったんです。

実態としてエクサージュは、ありがたいことにお客様と一緒に歳を重ねていて、売上げ構成比を見ても「20代前半には知られていない」と、私達にも分かりました。最終的には「改革が必要」、「新しい中核シリーズ(の開発)だよね」という結論に至ったわけです。

もう1つの背景には、いわゆる「パーソナライズスキンケア」の急成長があります。自分に合うモノ、自分に似合うモノ、自分が好きなモノが売れます。「自分に合ったモノを選びたい」、「失敗したくない」という潜在需要があり、自分に合う商品やサービスへの関心が強いです。それも踏まえ、「25年間をリセットしようよ」、「新しい挑戦をしようよ」と前を向きました。

——それでも、ロングセラーを廃止して、新しいシリーズに切り替えるリスクは大きいです。

中原 エクサージュを止めるのは、今でも勇気が要ると思っています。「アットコスメ」の「ベストコスメアワード」でも複数の商品が殿堂入りしていますし、「乳液といえばエクサージュだよね」ともいわれます。その栄光が「ゼロになるのか」と考えもしますが、新しいシリーズをスタートさせるのは若手の社員にとって新鮮ですし、当社にとっては後進の育成につながります。先輩達がエクサージュをつくってきたように、新しい時代を担う若手にフラルネを託すのが、私達の役目です。若手を伸ばすための手段ともいえます。ゼロからは一番厳しいですが、一つ一つ積み上げ、商品が成長し、世に知られていくと、大きな達成感や喜びを得られます。小林も「多くの社員に成功体験をしてほしい」と常々語っています。

フラルネの中身に関しては、多様性や個性を尊重して今のお客様にもっと寄り添う商品をつくろう、(エクサージュの強みである)潤い特化のアプローチに縛られず(お客様に)変革を提供しよう――といった想いがあります。具体的には①高い肌効果②納得性のあるコンセプト③美容理論――の3つを考え、深掘りしていきました。

「フラルネ」は美容液、乳液、化粧水、クレンジング、洗顔料の計9種・12品を揃える

アルビオンには「4ステップ」の印象が強いでしょうが、これからの時代は「4ステップで使わないと潤いのある肌になれませんよ」ではなく、単体でも使いたいと思わせる商品が必要とも考えました。洗顔の後は乳液、次に化粧水というステップありきが全てではなく、一つ一つの商品の個性が際立つようにしなければならないと。単品でも美しく、組み合わせでもっと美しく――というモノづくりを追求しました。

そして、このフラルネは、若年層の「自分らしくありたい」という要望に対して、個々の肌に寄り添って自分にぴったりのアイテムに出会えるシリーズとして訴求し、認知されたいと考えています。一言で表現するなら「自分の肌を知って、私だけのキレイがみつかるシリーズ」です。

この想いはキャッチコピーにも表れています。一般的にキャッチコピーは機能性や美容成分、「こういう肌になります」といった切り口で作成しますが、フラルネは20~30代前半を中心に共感や共有を創出するため“対話言葉”を用い、「好きな肌は、わたしの肌 肌を知る。えらぶ。ぴったりがみつかる。」としました。20代~30代前半は、機能性や成分の“自慢”に惹かれる人達ではありません。機能性や美容成分を謳うなら、エクサージュのままでいいですからね。

やがて、このキャッチコピーが「フラルネ」を語るキーワードになっていければいいなと。機能を際立たせなければならない商品もありますが、フラルネはお客様との距離がなく、身近に感じて頂ける存在になれたらと思っています。

パッケージの形や色、持った時の感覚を試行錯誤

——フラルネの商品は、デザインを見るだけでも過去のそれとは一線を画しますね。

中原 決定までが大変でした(笑)。パッケージの形や色、持った時の感覚など、とことんこだわりました。また、お客様が家に置いた時に、自身のライフスタイルになじむ形や色であることを凄く意識しました。もう1つ、シェアコスメやジェンダーレスの時代も、です。パッケージは最終的に小林の決裁を経て決まりますが、フラルネは形にしろ、色にしろ、持った時の感覚にしろ、全て4~5回は修正しました。色に関しては、1つ当たり4~5回ですから、かなりの数ですね。特に持った時の感覚は重要で、ちょっとした重みは高級感を味わってもらいたいからですし、心地良い手触りや質感にも一切妥協を許さない……これは小林のこだわりでもあります。毎日のことだからこそ気持ち良く使ってほしいという想いが、細部にまで息づいています。

——ナチュラルで柔らかい色や形状は、化粧品に限らず世の中としてのトレンドですね。

中原 化粧品のイメージであるキラキラ感はないかもしれませんが、家の中でふと存在感が漂い、男性が持っても違和感がありません。これもチャレンジです。今まではキラキラした可愛らしいピンクやオシャレなブルーを使ってきましたし、従来のアルビオンの商品のイメージとは異なるかもしれませんが、いち早く7月初旬からテスターを並べてもらっている専門店からは「お客様の足が止まる」という声が届いています。つまり、アイキャッチ効果が表れているんです。「男性のお客様にも紹介しやすい」という声もありますし、狙い通りです。

「肌性格」と「肌タイプ」に焦点。原因解明、最短でキレイに

——専門店の評判は上々ですが、改めてフラルネが完成するまでに苦労した点は何ですか。

中原 中身の開発同様にこだわったのはパッケージです。パッケージの形状は20くらいの案から1つに絞りましたが、そこからもベストを求めて削ぎ落としていきました。形だけで20回は小林の決裁を受けたはずです。さらに、色の決裁が待っています。正直、決まるまでウンザリするくらい長かったです(笑)。言い換えると、それだけ全員の想いが注ぎ込まれていますし、だからこそ妥協しませんでした。

一方で、メインターゲットの20代~30代前半は「成分が凄く良く、肌効果がありますよ」というメッセージだけでは買ってくれません。「私の肌がどうなるの?」が一番の関心です。ゆえに「自分にしか出せない美しさ」を叶えることを、シリーズコンセプトに掲げました。

一人一人の肌の違いを捉え、肌の個性に合わせてケアすることが、それぞれの肌の気がかりに的確に応えられる近道であると考え、着目したのが「肌性格」と「肌タイプ」。肌性格とは、肌の傾向と皮膚生理に基づく性質です。肌の傾向は、その人が持つ悩み、気掛かりを指します。従来はお客様の気掛かりに対応した商品をショップで販売してきましたが、実は皮膚生理で肌のターンオーバーとエネルギー生成力が肌の性質に大きく絡んでいると発見しました。

その性質の違いを3つに分類したのが肌性格です。3つとは、つややかさ、ハリがある反面、肌が硬く詰まりやすい「YR」(=やる気肌)、キメが細かく、つるんとしてみえる一方、皮膚が薄く外的刺激を受けやすい「HK」(=はかなげ肌)、しなやかでふっくらしているものの、時々トラブルが起きる「KM」(=気まま肌)です。これらの肌性格に対応するのが、フラルネのキーアイテムである3種の美容液「ビビッドチューナー」です。

美容液は丸みを帯びたシルエットやナチュラルな色、持った時の手になじむ感覚が印象的だ

——耳になじみやすい言葉ですね。

中原 ありがとうございます。「乾燥する」、「ニキビができる」、「脂っぽい」などは誰もが分かる気掛かりですが、最も大事なのは「肌の中がどうなっているか」です。トラブルの原因が元々の肌の性質と分かり、適切に対処できれば、キレイになるのが早いですよね。「冬は乾燥する」、「夏は脂っぽくなる」といった一般論ではなく、自身の肌の性質を把握して、トラブルを解決できる。フラルネは、それを魅力と思ってもらえるのではないでしょうか。とりわけZ世代は、そういうモノに投資すると捉えています。上の世代は何かを買おうとしても悩み、すぐには飛び付きませんが、Z世代はバックボーンがきちんとしているモノへの投資は素早いです。しっかりとお金を使います。自分の肌が、どう速くキレイになるか。想像できるのがフラルネの美容液です。

もう1つの目玉は乳液です。こちらは2つの肌タイプに分類し、きちんとキメを改善します。一般的にキメが細かければ細かいほど美肌ですが、フラルネの乳液を使うと“キメの中にさらに細かいキメが表れる”んです。しかも、使ってすぐに。実験によれば、4週間で劇的な変化が表れます。変化を視覚的に示せるよう、店頭では専用のツールを使用して、お客様にご紹介していきます。

「肌シル活動」と名付けてサンプリングを徹底的に

——新しいシリーズが早期に定着するためには、販促活動も欠かせません。

中原 フラルネを展開するにあたっては、どんな販促活動がいいか熟慮しました。その上で「肌シル活動」と名付けてフラルネを紹介していきます。略して「肌シル」です。具体的には、店頭でのカウンセリングを通して、お客様に肌性格と肌タイプを知って頂き、ピッタリなアイテムをご紹介していきます。全国の専門店をはじめ百貨店56店舗で7月頭よりサンプリングを行いました。

フラルネがデビューした後は肌シルのイベントを開催し、新しいお客様の獲得に注力します。百貨店でのイベントの参加者は10月末までに10万人が目標です。イベントは大小に分かれ、伊勢丹新宿本店、三越銀座店、西武池袋本店、阪急うめだ本店、大丸神戸店、ジェイアール名古屋タカシマヤの6店舗が大規模で、別会場を構えます。その他の百貨店では「肌シルウィーク」と銘打ち、店頭でのサンプリングを徹底します。

6店舗での大規模イベントに当たっては、特別なカスタムトライアルキットを用意しました。カウンセリングを受けた方に、ぴったりの乳液と美容液をお選びし、名前を記してプレゼントします。

「肌シル」活動で配布する「カスタムトライアルキット」

——カスタムトライアルキットは特別感がありますね。無料とは大盤振る舞いですが、接点を得るためには必要ですか。

中原 まずは使ってもらうのが先決です。1万1000人分を用意しました。気に入ってご購入頂いた方には、オリジナルのポーチセットもプレゼントします。店頭での肌シル活動は10月まで継続する予定です。

イベントでは購入特典として百貨店限定オリジナルポーチセットを用意

リアル店舗に限らず、オンラインカウンセリングでも期間限定でフラルネのご紹介キャンペーンを行いました。予約枠は埋まっており、反応は上々です。初めてショップを訪れる方が「サンプルを下さい」とは言いにくいでしょうし、オンラインカウンセリングというワンクッションを置いてサンプルを試してもらい、ショップへ送客する流れがいいかなと思うので、途切れさせずにやり続けたいです。今後も計画的に実施していくことを検討しています。

また、8月8日にはツイッターとインスタグラムにフラルネの公式アカウントを開設し、イベントなどの情報を全て集約しました。アルビオンの公式ウェブサイトには全てのブランドや商品が掲載され、フラルネに関する情報へすぐに辿り着けませんからね。同日にはフラルネのティザー動画も公開しました。動画には4人のアンバサダーが登場し、男女2人ずつ計4人のインフルエンサーを起用しました。
いずれにせよ、販促活動は“途切れさせない”が大事です。何らかの形で、いつも施策を考え、フラルネのラインナップを拡充する時などにつなげていきます。

当社にとっても、お取引店様にとっても、これからのお客様づくりの要となるのはフラルネです。5年後、10年後のお客様づくりを考えてフラルネをデビューさせ、生涯顧客化を目指します。

——具体的な数値目標などは設定していますか。

中原 将来的にはエクサージュを超えたいと思っていますが、スタートにおいての大きな目標は前年の1.5倍の新しいお客様の獲得。もちろん、既存のエクサージュのお客様もサンプリングで切り替えを促します。

——既存顧客の切り替えは可能ですか。熱心なファンが多いブランドほど、廃止による流出も多いとされます。

中原 エクサージュの生産終了について、ネガティブなツイートが目立ったのは事実です。「アルビオンさようなら」と何人にも書かれましたし、「信じられない」や「あんなボトルになって」などと批判されました。しかしサンプリングが始まると、ポジティブなツイートに上書きされていったんです。「使ってみたらかなりいい!」、「気に入りました!」とか、「発売が楽しみ!」という方もいらっしゃいました。「エクサージュから『アンフィネス』に変えちゃった」というツイートも見ましたが、他社に流出せず自社の別シリーズに移って頂けて安心しました。

——好意的なツイートが増えたのは好感触ですが、企業として問われるのは結果です。

中原 “肌実感ありき”だと思っています。まず体験してもらわなければ、何も始まりません。そのためのサンプリングです。店頭には「プロモーションリーダー」がいて、地域の特性などに合わせてお客様への紹介を工夫してくれています。現場の美容部員達が自ら考え、集客につなげていることを、とても嬉しく思います。

確かに、売上げや新しいお客様の獲得は重要です。ただ、最も大事にしているのは、店頭がお客様で賑わうことです。中でも、アルビオンを知らないお客様が来て下さること! これが1番重要で、結果はその次です。今後も店頭がお客様で賑わうようなモノをつくり、情報を発信し、活動してまいります。この3つがしっかりしていれば、必ず良い結果が収められると信じています。

(聞き手:野間智朗)