2024年11月22日

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デジタルの活用を加速し、「安心に便利」発信 そごう・西武

《連載》「ウィズ・コロナ」に求められる安全・安心な買い物環境を提供する百貨店 第3回 そごう・西武

「ウィズ・コロナ」の時代に、どう安全・安心な買い物環境を提供できるか――。全館営業を再開した百貨店業界の各社は、配慮や工夫に余念がない。消毒、検温、マスクやフェイスシールドの着用、ソーシャルディスタンスの確保など手法は多岐に亘るが、根幹には〝おもてなし〟がある。百貨店業界は常に安全・安心を追求し、おもてなしに昇華させ、信頼を育んできた。そして、最良のおもてなしは時代によって形を変え、ウィズ・コロナの時代にも適合していく。百貨店で買い物を楽しむ人々に、〝百貨店流のウィズ・コロナ〟を発信する連載の第3回は、そごう・西武だ。同社はデジタルの活用を加速し、さらなる安全・安心を目指す。中元のギフトセンターの人混みを避けて順番を待てる「デジタル整理券」、ウイルスが感染するリスクを孕(はら)む現金の受け渡しを避けられる「バーコード決済」の導入を決めた、関口泰史営業企画部デジタルコミュニケーション担当担当部長に尋ねた。

 

■「デジタル整理券」を導入

――新型コロナウイルスの感染拡大が本格化して以降、どう対策を講じていきましたか。

「まず、1月24日に店頭でのマスクの着用を許可するとともに、感染者が多い国への不要不急の渡航の自粛を要請しました。続いて31日には、社長をトップにリスク管理部門が事務局として運営する『新型コロナウイルス災害対策本部』が発足し、総務や人事、店舗運営、関連会社部門、広報の担当者で組織しました」

「対策本部の責任者に商品部、お得意様部、商事事業部、営業企画部など主要部門の責任者を加えた会議も定期的に実施し、ルールの策定や啓蒙用のポスターの作成などを進めていきました。当時は1週間に2~3回の頻度で会議が開かれ、今は週に1回です」

――消毒、検温、マスクやフェイスシールドの着用、ソーシャルディスタンスの確保など普遍的な対策に加え、デジタル整理券やバーコード決済などデジタルを積極的に活用していますね。

「デジタル整理券は、ギフトセンターで整理券を受け取り、QRコードを読み込んでスマートフォンと連動させると、外で順番を確認できます。コミュニケーションアプリ『LINE』を利用していれば、自分が何番目か分かり、順番が来ると『お呼び出し中』と通知されます。昨年までは、整理券を持って近くで待たなければなりませんでした。6月4日に西武池袋本店で稼働し、7月17日時点ではそごう横浜店、そごう千葉店、そごう大宮店、そごう広島店でも利用が可能です」

 

中元のギフトセンターでは、外で順番を待てる「デジタル整理券」を導入

「デジタル整理券に限らず、入口にアルコール消毒液を、お客様とお客様の間にはパネルを、お客様と従業員の間にはビニールシートを、それぞれ配し、注文を承る端末の間隔を昨年の60センチメートルから180センチメートルに広げるなど、ギフトセンターも感染の予防を徹底しています」

――デジタル整理券の反応はどうですか。

「好評を博しており、西武池袋本店が8月6日~14日に開く『私の針仕事展』にも導入を予定しています。元々は、文化催事や展覧会、そごう横浜店内の美術館などでの使用をメインに考えていました。文化催事や展覧会は、スーパーマーケットやショッピングセンターにはない、百貨店の強みです。コロナ禍で延期および中止を余儀なくされてきましたが、8月以降は徐々に再開します。ただ、『3密』を回避するための施策は欠かせません。その1つがデジタル整理券です」

「例年、中元や歳暮のギフトセンターは開店と同時に大勢が立ち寄り、順番を待ってもらいました。その場にいなくていいデジタル整理券は、それを抑制できます。通常は6月末までの早期割引を2週間延長し、客足を分散させる工夫も奏功し、『3密』は上手く防げています」

――ギフトセンターで順番を待つ人は、どれくらい減らせたのでしょうか。

「具体的な数字は計測できませんが、西武池袋本店でギフトセンターが立ち上がった6月4日に2時間ほど接客した体感では、(来場者の)最大で3~4割が利用してくれました。スマホを使いこなす方からは『便利だね』、『いいね』といった声を頂き、スマホの操作が苦手な方も我々が教えると同様に歓迎してくれました。導入にあたっては、ギフトセンターで接客する従業員への研修に力を入れましたが、その成果も利用者の多さという形で表れています」

「3密」を防ぐため、デジタル整理券の訴求に余念がない

――デジタル整理券の採用は、いつ決めたのですか。

「4月初旬ですが、実は2月の時点でコロナ禍とは関係なく、予約の新しいシステムを検討していました。予約のシステムは、仕組みによってはメールアドレスなど個人情報の管理がネックになりますが、LINEを用いれば不要です。LINEを使う方法で様々な企業を調べ、4月中旬に大阪府の企業へ依頼しました」

「これは偶然ですが、当社と関係性の強い埼玉西武ライオンズも昨季に同じシステムを使っていました。人脈を伝って、その担当者に辿り着き、メールや電話、ビデオ会議などで使い勝手や現場でのオペレーションなどを聞けたのは大きかったです。埼玉西武ライオンズは、球場でユニフォームの購入者に好きな選手の背番号を入れられるサービスを提供する際、待つ間に試合を見逃さないよう、他の買い物を楽しめるようにデジタル整理券を導入したと聞きました。この『他の買い物を楽しめる』は重要で、百貨店であれば、文化催事や博覧会の混雑を避けたい方を、隣接する物販のスペースに誘導できます」

――安全・安心を提供するのは大前提で、販促にも生かすという意図ですね。

「百貨店として、小売業者として、マーケティングの視点は大切です。当社はLINEの販促を長く続けており、会員に該当する『友だち』は約40万人にのぼります。従業員もLINEを介した販促や接客に慣れており、親和性が高いと判断しました。どれほど優れたシステムでも、使われなければ意味がないですからね」

「ギフトセンターや催事場に限らず、子供靴売場での足の計測でも活躍するのではないでしょうか。コロナ禍において、子供の安全・安心は親や祖父母にとって特に大事です。システムはリーズナブルですし、導入の障壁も低いので、今後はレストラン街などのテナントに対しても導入をサポートできたらと思っています。整理券の利用者と自動で『友だち』になるシステムも開発中です」

「ちなみに、デジタル整理券のシステムは全てリモートで導入しました。先方の担当者とは会っていません。時には互いの自宅からビデオ会議システムで顔を合わせ、子供の声も聞こえてきました。交渉から合意、契約まで全てがリモート、オンラインで完結する――。ウィズ・コロナの時代の新しい仕事の進め方ですね」

■「バーコード決済」を7月7日に開始

――7月7日に始まったバーコード決済は、どれくらい利用されていますか。「ペイペイ」、「楽天ペイ」、「LINEペイ」など10種類でスタートしました。

「お客様からは『現金に触れずに済むから安心』と支持されています。接客する側としても、現金を持ち運ばずに済みます。売場の位置によっては、レジまでの移動に少なくない時間がかかりますからね。操作も思ったより簡単で、新しいシステムの稼働には付き物のトラブルは発生していません。セブン&アイグループとして、買い物でマイルが貯まる『セブンマイルプログラム』を経験していたのも役立ちました。スマホのバーコードを読み取る行為が売場に根付いています」

「稼働から1週間の時点では、西武池袋本店での件数が多く、西武渋谷店と西武東戸塚S.C.ではバーコード決済のシェアが高いです。とりわけ西武東戸塚S.C.は、件数と売上げの両方が多い。バーコード決済に慣れた30~40代が中心顧客だからでしょう。カテゴリーでは、菓子や惣菜、生鮮品などの食品売場、化粧品やハンカチなどの婦人雑貨売場がメイン。決済では、ペイペイのシェアが高いです」

――キャッシュレスは世界的な波であり、インフラの整備は不可欠ですね。

「それを1年半前に痛感しました。仕事で中国・深セン市のテンセントを訪ね、『ウィーチャット』の責任者と会いましたが、キャッシュレスの未来の姿が見えたのです。『アジアのシリコンバレー』とも言われる深センでは、タクシーの運転手との遣り取りも電子化され、いわゆる『ぼったくり』には遭遇しません。日本に戻ると、すぐにバーコード決済の導入を経営陣に提案しました。本来は東京五輪を見据えたプロジェクトでしたが、結果的にはコロナ対策にもなりました」

――デジタル整理券と同様、販促の幅も広がります。

「LINEペイと組んで8月1日から、5%オフのクーポンを発信します。1カ月に1枚まで利用が可能で、金額の上限はありません。仮に5000円の商品をLINEペイで購入すると、支払いは4750円です。ブランドが対応していれば、『呉宝美』(百貨店業界では、呉服、宝飾品、美術品を示す)にも使えます」

「当社は安全・安心と販促を掛け合わせ、お客様に『安心に便利』というメッセージを伝えていきます」

(聞き手・野間智朗)