2024年11月22日

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百貨店の中元商戦は「SDGs」と「イエナカ消費」、「EC」に軸足

間もなくピークを迎える中元商戦で、百貨店業界の各社は世界的に関心が強まる「SDGs」、コロナ禍が長引き依然として旺盛な「イエナカ消費」に適う商品を充実させるとともに、同じくコロナ禍で利用者が一段と増加したインターネット通販にも力を入れ、前年実績のクリアを目指す。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置(まん防)が解除され、“日常”を取り戻しつつある今年は、帰省の手土産を含めて贈答需要の回復への期待が大きい。実際、百貨店のギフトセンターには賑わいが戻っており、視界は良好だ。

デパートニューズウェブでは、東京都と大阪府の主要百貨店を対象に、中元商戦に関するアンケートを実施。品揃えの工夫、右肩上がりのネット通販への対応、売上げの見通しなどの回答を得た。

品揃えではSDGsとイエナカ消費がキーワード。外出に慎重な人に向けて全国の美味を増やしたり、夏らしさを強めたりといった“演出”も目立つ。

SDGsでは、大丸松坂屋百貨店が「絶品発見!にっぽんの半島フード」を初企画。半島に位置する23の地域の事業者と組み、男鹿半島の「児玉冷菓のババヘラアイス」などを打ち出し、各地との共生を推進する。購入するとSDGsに貢献できる「明日へつなぐ幸せギフト」も充実させ、カタログのリサイクルにも取り組む。カタログはギフトセンターで客から回収し、トイレットペーパーに再加工してプレゼントする。

大丸松坂屋百貨店の「SDGs 無添加野菜スープ&夏のカレールウ(大豆ミート入り)」

近鉄百貨店も「SDGsを意識したギフト」を初めて企画。菓子の数を1個減らし、その分の費用を募金に充てる「アンリ・シャルパンティエ スマイルフォー東北‐フロム芦屋」などを揃えた。

阪急阪神百貨店は「地域創生」や「文化継承」、「環境保全」の 3つの理念を軸に、つくり手の想いが詰まった美味を紹介する阪急うめだ本店の地下2階の売場「Hankyu PLATFARM MARKET」の特製のカタログを初めて作成。掲載する商品の数も昨年の12から29に増やした。

髙島屋はガーデニングパーティーやキャンプなどのシーンを「サステナブル」に適う食材で演出。障がい者が自分のペースで働ける制度、就労継続支援B型を採用する鹿児島県の「トロピカアマミ」の「奄美のジェラート」などをラインナップした。

三越伊勢丹は「みらいへつなぐ贈りもの」をテーマに、世界農業遺産に認定された石川県能登地域をフィーチャー。奥能登の珠洲に伝わる揚げ浜式製塩を使った「塩サイダー」、石川県産の素材を使ったライスバーガー「ごはんば~が」などを揃えた。紙の使用量を減らせるセラミック製のコーヒーフィルター「セラフィルターセット」や北海道内の廃車の窓ガラスを再利用した「タンブラーペア」ら食品以外も販売する。簡易包装にも力を注ぎ、専用の配送センターを全国8カ所に集約。輸送距離と時間を短縮し、CO2を削減する。

イエナカ消費は、百貨店ならではの「上質」や「稀少」、「限定」などで取り込む。小田急百貨店は大河ドラマの舞台でもある鎌倉を特集。「カノムパン」のパンの詰め合わせ、「鎌倉 井上蒲鉾店」の店舗限定品を加えた揚げ物のセットがイチオシだ。そごう・西武は「おうちグルメ」を提案。産地や素材にこだわった「夏のごちそう」は「うなぎ坂東太郎」の蒲焼など7点からなる。大丸松坂屋は「お家で楽しむグルメ特集」と題し、「Z’s MENU」の「ワシントンD.C.で食べた2種のチーズバーガー」などを扱う。

そごう・西武の「うなぎ坂東太郎」の蒲焼

東急百貨店は流行の中心地で話題の「渋谷スイーツ」、札幌店が厳選した「北海道セレクション」、バイヤーの探究心が生んだ「極味伝心」などを訴求。松屋は「紫野和久傳」の「季節の飯蒸し三種」をはじめ、料亭やレストラン、ホテルのギフトを「自宅や友人宅でのパーティーに合う」として推奨。近鉄百貨店は「おうちで○○」をテーマに、イエナカ消費に向くギフトを手掛ける。例えば「えびすもち豚バラサムギョプサル」には「おうちdeバーベキュー」と冠した。京阪百貨店は「島の恵みをご家庭へ」を巻頭で特集。島に特有の“滋味”を打ち出した。

近鉄百貨店の「えびすもち豚バラサムギョプサル」

緊急事態宣言、まん防が発出されていなくても、外出に慎重な人は少なくない。そこで東武百貨店は昨年の中元で初めて企画した、全国の美味を集める「おうちで!旅気分」の品揃えを21から43に倍増。都道府県も17から29に増やした。

近年はパーソナルギフトの需要が旺盛だ。京王百貨店では1000~2000円台の「京王の夏みやげ」が好調で、品揃えを約1.3倍に拡充した。

ネット通販は、なお伸び代

各社が力を注ぐのは、品揃えだけではない。コロナ禍で勢いに拍車がかかったネット通販も、だ。ギフトセンターでは販売しない限定品、送料無料や送料込み、特別なポイントの付与などを用意して購買意欲を喚起する。

小田急百貨店は、ギフトセンターにネット通販の利用をサポートするスタッフを配置するとともに、6月末までにネット通販で購入した人にクーポンをプレゼント。京王百貨店はギフトセンターの1.5倍以上の送料無料や送料込みの商品を揃え、新規会員登録者にクーポンを初めて配布する。簡易な質疑応答が可能なチャットボットも導入した。

伸び代が大きいインターネット通販は、各社が力を入れる(写真は小田急百貨店)

そごう・西武は前年の中元の購入者に送るカタログにネット通販サイトを案内。髙島屋は「おうち時間充実ギフト」などライフスタイルに根差した品揃えを独自に特集した。東急百貨店は動画での利用案内を強化。ネット通販ではないが、郵送やFAX、電話での注文にも配送料無料を新規に加えた。品揃えでは、昨年動きが良かった電子レンジや湯煎で手軽に調理できる「便利品」に冷凍食品を組み込んだ。

東武百貨店は、昨年にはなかったネット通販サイトの限定品を86点で展開。サイトを構える期間も16日間延長した。松屋はギフトセンターからネット通販への移行を本格化。ネット通販サイトの品揃えを昨年から50点以上増やすとともに、送料無料や「松屋ポイントカード」のポイントが5倍といったメリットを打ち出す一方、ギフトセンターの面積や展示品を約4割に減らした。

近鉄百貨店は「近畿2府5県送料無料おすすめギフト」と名付け、ビールやそうめん、洋菓子など定番の20点を8月3日まで送料無料とした。京阪百貨店も「近畿2府4県送料無料」と題し、5月12日~6月30日まで30点を送料無料で販売。阪急阪神百貨店は「阪急」のれんが約1600点、「阪神」のれんが約1450点と、店頭と同じラインナップを購入できるほか、阪急のれんの「赤いギフトカタログ」と阪神のれんの「きいろのギフトカタログ」の商品は10%オフ(清酒やワインなどは5%オフ)、送料無料とした。

ネット通販の売上げは、小田急百貨店が前年比19%増、京王百貨店が同微増、そごう・西武が同5%増、大丸松坂屋百貨店が同15%増、松屋が同80%増、三越伊勢丹が「三越」のれんと「伊勢丹」のれんとも同微増、近鉄百貨店が同5%増を見込む。

アンケートの回答期限とした6月10日時点では、東武百貨店が「6月8日までで7.7%増」そごう・西武が「前年比5%増」と伸びる反面、京王百貨店は「少々厳しい滑り出し」、東急百貨店は「6月第1週時点では前年並みで、1件当たりの点数が減っている」、京阪百貨店は「前年並み」と、まだら模様だ。

ギフトセンターに賑わい

コロナ禍が一段落し、今年はギフトセンターへの“回帰”に期待が寄せられる(写真は阪急うめだ本店)

中元商戦の傾向について、京王百貨店は「従来の中心価格帯である3000~5000円台より一段階高い6000~9000円台が伸びており、『プチ贅沢』や『お取り寄せ感覚』が垣間見えるため、前年に順位を上げた『産直』が今季も伸長するとみる。2000円台以下の『プチギフト』も売れている」、そごう・西武は「継続して洋菓子が好調で、コロナ禍で定着したイエナカ消費が後押ししていると考えられる」、髙島屋は「売れ筋は継続して洋菓子や個食の惣菜、『簡単便利』などだが、コロナ禍の一段落でギフトセンターを含めて店舗で買い物を楽しむ人が多いのではないか」とコメントした。

東武百貨店は「ギフトセンターの売上げは開設した5月26日から前年を上回っており、ビールやそうめん、飲料など夏の定番が好調」、松屋は「例年通りビールや洋菓子、カタログギフト、飲料、和菓子などが人気と予想する」、近鉄百貨店は「5月18日に立ち上げたあべのハルカス近鉄本店のギフトセンターはコロナ禍前に迫る売上げ」、京阪百貨店は「昨年はギフトセンターが不振、ネット通販が好調だったが、今年はギフトセンターが好調、ネット通販が前年並みで、5月は前年の売上げをクリアした。カテゴリーでは1位が洋菓子、2位がビール、3位がそうめん」、阪急阪神百貨店は「回答期限では傾向を把握中だが、阪急うめだ本店が前年比1%増、阪神うめだ本店が同12%増の売上げを見込む」という。

今年の中元商戦のピークと予想される7月2~3日は目前で、各社は追い込みにかかる。外出自粛から解き放たれた人々は、ギフトセンターでの吟味を楽しんでおり、平日でも賑わいが目立つ。コロナ禍では「帰省できないから」、「気軽に遊びに行けないから」といった代替消費が特需と化し、百貨店業界の中元商戦は堅調だった。コロナ禍の一段落で、贈答需要は増加するのか減少するのか。百貨店業界の関係者は固唾(かたず)を飲んで見守る。

(野間智朗)