2024年11月22日

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資生堂、福岡久留米工場が稼働 国内サプライチェーンが完成

5月に竣工した福岡久留米工場

資生堂の国内サプライチェーンが整った。19年に那須工場、20年に大阪茨木工場が完成し、今年5月に福岡久留米工場が竣工、6月から本格的な稼働を始めた。生産能力は全工場合わせて年間約4億2000万個で、投じた予算は1400億円を超える。代表取締役社長CEOの魚谷雅彦氏は「ようやくこれで、高品質の商品をしっかりと供給できる生産体制が完成した」と意気込んだ。

資生堂は中長期経営戦略「WIN 2023 and Beyond」で、2030年までに「スキンビューティー領域における世界No.1」となることを目指しており、同社の強みである「品質の高さ」を伸ばす施策を講じてきた。15年から研究開発への投資を積極化し、横浜・みなとみらい21地区に「資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK) 」を設立。19年4月にスタートした。次のステップとして、日本製の高品質な商品を安定して供給できる基盤を築くため、新工場の建設を進めていた。

「WIN 2023 and Beyond」では「高収益構造への転換」、「スキンビューティーへ注力」、「成長基盤の再構築」の3つを指針としており、これら3工場では「高収益構造への転換」として生産性の向上、「スキンビューティーへ注力」として生産体制の強化、「成長基盤の再構築」としてサステナビリティを意識している。

先陣を切った栃木県の那須工場は、「エリクシール」、「IPSA」、「dプログラム」など中高価格帯のスキンケアアイテムを生産する。高品質を徹底的に追求し、クリーンな生産環境を用意。リアルタイムで設備の稼働状況を収集し、品質保証と連携させるIoTシステムを導入した。生産能力は年間約1億2000万個(22年見込み)となる。

大阪茨木工場は物流センターも併設し、同社のサプライチェーン拠点を担う

20年に完成した大阪茨木工場は、「SHISEIDO アルティミューン」の美容液や「クレ・ド・ポー ボーテ」などプレステージスキンケア商品を生産する。生産能力は、23年以降に年間約1億6000万個とする。同工場は物流センター「西日本物流センター」も併設され、工場、物流、コンシューマーセンター、一般向け見学コースの4つの機能を備えている。

西日本物流センターは、同工場以外の国内工場で生産された商品も入庫、保管する。全国7カ所にある出荷センターへ在庫を供給する物流の機能と、関西エリアを中心とする近隣のリテーラーに商品を届ける出荷機能を持つ。

生産工場に物流センターを併設するのは資生堂で初めて。機能を集約することで効率的なサプライチェーンを構築し、市場への商品供給のリードタイムの短縮と、輸送コストの削減を可能にした。大阪茨木工場からは国内最大規模の商品保管自動倉庫を介し、商品が自動で入庫する。出荷には商品のピッキングから梱包、荷札のラベリングまで同時に行うシステム「GP3」を採用し、荷積みや荷下ろしの自動化など、徹底的に省人化した。

福岡久留米工場は最先端のIoTテクノロジーを導入し、効率的な生産と高品質を両立させる

福岡久留米工場は、スキンケアブランド「エリクシール」を始めとした中価格帯のスキンケア商品を生産。九州の立地を活かし、生産した商品は博多港を通じてアジアへの出荷も行う。年間生産数量は、26年以降に1億4000万個とする。

同工場では最先端IoTテクノロジーを導入した。これまではベテラン社員が長年培った知識や高度な技術によって設備運転の条件を調整していたが、センシング技術と情報処理技術で支援して生産技術の標準化、高度化へ繋げる。具体的には、化粧品の中身製造において、複数の品質項目をリアルタイムでモニタリングし、設備を自動制御する製造方法を業界で初めて実現。さらに、少人数でのオペレーションのための複数ラインの作業進捗可視化システムを活用し、品質の安定性と生産性を向上させる。一部の化粧品の充填仕上げラインでは最新のロボットや化粧品業界初のリニアモーター駆動の梱包装置を導入し、生産性を同社既存設備比で約3倍に高める。

開放的なカフェテリアなど、社員が快適に過ごせるような職場環境にもこだわった

これら3工場に共通して、労働者が働きやすい職場環境にもこだわった。同社は、人財が会社にとって最も大切な資産であるという「PEOPLE FIRST」の考えのもと、生産現場も含め人財育成へ積極的に投資をしている。大阪茨木工場と福岡久留米工場ではフリーアドレスのオフィスを導入し、全スタッフ部門を集約した広い空間で業務の効率化を図った。

各工場には一般客が利用できる見学施設も設け、ものづくりへのこだわりや歴史を発信する

地域に開かれた工場を目指し、また、工場を生産機能だけでなくブランド価値と品質へのこだわりを発信してファンを増やす拠点として位置付け、3工場全てに見学施設を併設した。ブランドの歴史や商品の製造過程、メイクテクニックなどについて、楽しみながら学ぶことができる。

サステナブルな要素も取り入れた。大阪茨木工場は外壁に軽量で断熱性に優れたサンドイッチパネルを採用。建物内の断熱性能が上がり、二酸化炭素を約30%削減することが可能となった。製造時に使用する冷却水は循環水を再利用し、年間6万5000トンの水使用量の削減効果を生み出した。福岡久留米工場は、電力に100%再生可能エネルギーを使用する。駐車場の敷地に太陽光パネルを設置しており、23年にはさらに倍のパネルの設置を予定。年間消費電力の約11%にあたる1800MWhの発電量を見込む。

5月に行われた大阪茨木工場の内覧会の様子(左から3番目が代表取締役社長CEO魚谷雅彦氏)

魚谷社長は今後について「日本のコロナからの経済回復は欧米に対して遅れているが、最近は外出する動きが活発化しつつある。いよいよこれから事業が回復、発展していくタームであり、工場がそれを支えていきたい」と語る。同社はコロナ禍以降、インバウンドの消失やマスクの定着によって苦戦を強いられてきたが、6月10日に日本への観光客が解禁されるなど、直近では追い風も吹く。〝ジャパンクオリティ〟の商品供給体制で、再び成長軌道へと復帰する構えだ。