2024年11月22日

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高島屋のショールーミングストア事業、「ギフト」と「海外」に勝算 TTICの川口貴明CEOに聞く

TTICの川口貴明マネージングダイレクター兼CEO。TTICが2015年に産声を上げて以来、その発展とともに歩んできた

高島屋はショールーミングストア事業を始める。同社とトランスコスモスの合弁会社、TAKASHIMAYA TRANSCOSMOS INTERNATIONAL COMMERCE PTE.LTD.(以下、TTIC)が4月下旬、主にD2Cブランドを集めた第1号店を高島屋新宿店の2階に開く。以降も国内外の高島屋の店舗、ASEANを中心とする地域の大型商業施設に出店。5年間で10店舗まで増やす意向だ。百貨店業界では昨年から、ショールーミングストアやOMO型ストアの開発が活発化。そごう・西武や大丸松坂屋百貨店に、高島屋が続いた。その陣頭指揮を執る、TTICの川口貴明マネージングダイレクター兼CEOに経緯や狙い、そして勝算を尋ねた。

――まずはTTICの事業について、教えて下さい。

「2015年3月3日に設立されたTTICは、高島屋が51%、トランスコスモスが49%を出資する合弁会社で、日本のコンテンツをASEANへ広めるための商社として、主に卸事業を展開しています。これまで現地のデベロッパーやリテーラーとの交渉や協業を重ねてきましたが、『食』や『ブランド』をはじめ日本のコンテンツは要望が多く、当社の役割を着実に果たしてきました。とりわけタイやフィリピン、インドネシア、中国、台湾では強いコネクションが培われてきました」

「もう少し具体的に事業を説明すると、初期はリニューアルしたショッピングモールに東京のデザイナーズブランドを編集したコーナーを設けたり、シンガポールで日本酒を販売したり、日本の有名生活雑貨専門店をタイで2店舗から5店舗に増やす仲介役を担ったり、小さいニーズを積み上げていきました」

「2016年頃には、タイでデニムのブームが起き、当社に『あるブランドと契約したい』という依頼が届きました。しかし、そのブランドはタイでのビジネスの経験がなく、デニムには30%の関税がかかります。当社は特恵関税を活用したゼロ関税で輸入する仕組みを構築してブランドに提案し、無事に出店へ至りました」

「直近では『アネロ』がタイで大人気となりましたが、こちらも関税が高く、並行輸入品ばかりでした。タイの大手企業から『どうにかならないか』と請われた当社は、製造国からタイへのドロップシップ方式で、FTA(自由貿易協定)を活用してゼロ関税で輸入する仕組みを提案した上で、コンペにも勝利。アネロの店舗数を2019年までの4年間で160まで増やしました。半年遅れでフィリピンへの出店にも携わり、すでに53店舗を数えます」

「収益性は着実に上がり、2019年度には単年度での黒字化を達成。現在はコロナ禍の影響を受けていますが、日本の総合商社があまり介入できない領域で独自性のあるビジネスを担い、TTICは成長してきました」

――川口マネージングダイレクター兼CEOの経歴も教えて下さい。

「高島屋への入社は1992年で、京都店に配属されて婦人服のヤングファッションを担当しました。私はファッションが大好きで、20代前半の頃は自費でパリコレに行っていましたよ。人事にも『海外で働きたい』と交渉を続け、26歳でミラノへの駐在が決定。イタリアの物づくりを学んだり、高島屋がライセンス契約を結ぶ『ペック』に関わったり、婦人服の自主編集売場用の商品を提案したり、ミラノのショールームや工場に入り浸ったり、10年ほど過ごしました」

「帰国後は日本でのプロジェクトをサポートして2年くらい国内外を行き来し、セレクト型の自主編集売場『スタイル&エディット』の立ち上げに尽力。特選のバイヤー、横浜店のセールスマネジャーを経て、2015年からTTICに籍を置いています」

イタリアの駐在員を皮切りに、海外での経験が豊富な川口氏

――なぜ、ショールーミングストア事業に参入するのでしょう。

「構想は2020年6月に遡ります。コロナ禍で卸事業の受注がどんどん減り、在庫は膨らむ一方でした。加えて、渡航制限によって高島屋では500億円くらいのインバウンドが消失。何か将来に繋げられる事業を――と模索する状況でした」

「そこで、ある記憶が蘇りました。当社は日本のアクセサリーブランドのフィリピンへの進出を助け、13店舗まで達した段階で『台湾にも出店したい』と言われ、2019年に日系の大手百貨店を見に行ったのですが、一等地にインターネット通販だけで成長したアクセサリーのブランドが集められ、大いに賑わっていました。私は『日本でもネットでしか買えない商品をリアルに見たい、体験したいというニーズは多いのではないか』と仮説を立て、D2Cブランドと接点を持ちたいと考えました。これがショールーミングストア事業への参入に至った経緯です」

「では、ショールーミングストアを、どういう形で出すべきか。『b8ta(ベータ)』などを研究しつつ、トランスコスモスには『RaaS(ラース)』(=小売りのサービス化)の仕組みがあり、オンライン接客やライブ配信も可能と知り、同社と相談して組み立てていきました」

「当社の事業構想は、第1~3のフェーズからなります。第1フェーズは国内のショールーミングストア事業、第2フェーズは越境EC事業、第3フェーズは海外卸売事業で、先行して昨年に越境ECを整備しました。当社は卸事業で海外のデベロッパーやリテーラーに流行のブランドを紹介してきましたから、国内だけにとどまらない、広大なロードマップを描けます。すでに2~3の国から、ショールーミングストアの出店を求められており、そこで日本のD2Cブランドを売れます。海外からも『ショールーミングストアに商品を出したい』という声も寄せられており、現時点で韓国の化粧品メーカーなど4社ほどにのぼります。当社は海外の強いコンテンツを採り入れられるのが強みです。実際、タイには急成長中のD2Cブランドがあります」

――高島屋新宿店の2階に第1号店を出す理由は何ですか。

「b8taは『アーリーアダプター』(=初期採用層)にアプローチしましたが、高島屋グループとしては『Z世代』や既存顧客も含めて『アーリーマジョリティ』(=前期追随者)までをターゲットとしており、新宿店が最適と判断しました」

――OMO型ストアやショールーミングストアでは、そごう・西武や大丸松坂屋百貨店が先行します。どう独自性を発揮しますか。

「新規事業が尻すぼみにならないためには、購買と再来店が大事です。勝算は『ギフトプラットフォーム』にあります。近年はデジタルギフト市場が急成長しており、いずれ1兆円規模になるとみられています。まずは40ほどの出展者の限定的な品揃えですが、シーズンごとに徐々に増やしながらギフトプラットフォームを形成し、店頭に展示するモノをギフトとして送れるようにします。ギフトには“ストーリー”も求められるため、ショールーミングストアには作り手の想いなどを伝えられる専属のスタッフを配置。贈る側にも受け取る側にもストーリーが伝わるようにします。店頭に来られないお客様には、オンライン接客も可能です」

――専用のネット通販サイトも立ち上げます。

「百貨店の強みでもあるギフト用の包装に強い企業と組み、サイトや物流を構築しました。商品の在庫は倉庫に集め、一括で配送します。展示する場所と商品を動かす場所を別々にすることは、出展者の負担を軽減する上で重要です。当社は出品料と専用のネット通販サイトでの売上げに応じて手数料を頂きますが、D2Cブランドにとって大手のネット通販モールに店舗を構えるよりは安いです。一部の商品は『食・グルメ』、『ライフスタイル』、『ビューティー』、『日本アート&クラフト』、『エシカル』のテーマに精通する5人のキュレーターがセレクトしますが、その発信力もD2Cブランドは頼れます。また、中小企業の助成金や補助金などの申請業務をサポートする企業と組んでおり、必要に応じて財務基盤が弱いD2Cブランドに紹介しています」

――売場はどのようなレイアウトになりますか。

「売場は約30のブースで構成され、うち5つがキュレーターのコーナーとなります。展開する商品は当社とキュレーター、企画会社で『選定委員会』を組織し、アイデアや新しさ、“デパートクオリティ”などを重視してセレクト。売れ筋を定番として残しながら、3カ月で入れ替えます。お客様に興味本位で入ってもらえるよう、品揃えのテーマはショールーミングストアにありがちなデジタル、サステナブルの一辺倒にしません」

「店装は真っ白で、(何でも思い描ける)白いキャンバスをイメージしました。壁と天井との境目には電光掲示板を張り巡らせ、情報を発信していきます。レトロな文字が動き、きっと目を惹きますよ。専属の販売員は当社の5人です」

高島屋新宿店の2階に設ける第1号店のイメージ

――キュレーターは3月22日時点で非公表です。

「交渉は順調です。4月上旬に発表する予定ですが、インパクトを与えられるのではないでしょうか。当社のショールーミングストアに興味を持ち、わざわざ事務所を説得して、引き受けてくれた方もいます」

――オープン後の戦略を教えて下さい。出店は国内の大都市圏の店舗からになりますか。

「メインターゲットが多く訪れる大型店を考えていますが、地方店でも、CRMなどで集客できると確信できれば、期間限定からという手があります。あるいは、ショールーミングストアを設けた大都市圏の店舗と地方店のお客様をデジタルツールで繋ぎ、その売上げを両店で分配してもいいでしょう。D2Cブランドは買上げ客のデータを持っており、どこに多くいるか分かっています。その近くの店舗にサンプルを送り、展示して買ってもらう方法も考えられます」

「海外は、運営をパートナー企業に任せるフランチャイズ形式を採ります。パートナー企業は当社の仕組みをそのまま使え、かつ品揃えで独自性を出せるので、“引き”は多いのではないでしょうか。高島屋の海外店舗にも、パートナーを通じた出店を検討していきます」

「贈答にみる日本人特有の感性は文化であり、コミュニケーションツールの1つです。消費文化の担い手である百貨店の本質でもあります。それを進化させた形のOMOが、当社のショールーミングストア事業です。ギフトの提案を高度化させれば、もっとニーズは増えると期待しています」

(聞き手:野間智朗)