2024年11月22日

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<ストレポ3月号掲載>百貨店アプリの進化・深化・真価

※画像はイメージです

デジタル技術を活用し、顧客とのタッチポイントを増やしてコミュニケーション(関係性)を深め、一人ひとりに寄り添いながらライフスタイルニーズに応えていく。しかもリアル店舗を基点に「いつでも・どこでも」つながり、体験価値を提供していく。その顧客にとっては、百貨店がこれまで培ってきた信用・信頼に裏打ちされた親しみやすさと使いやすさを兼ね備えた「拠り所」になり、結果的に各々百貨店のライフタイムバリューの向上につながっていく。これが事業再構築を問われている多くの百貨店にとって共通する命題であろう。

※この記事は、月刊ストアーズレポート2022年3月号掲載の特集「百貨店アプリの進化・深化・真価」(全16ページ)の一部を抜粋して紹介します。購読される方は、こちらからご注文ください。(その他3月号の内容はこちらからご確認いただけます)

もはや百貨店の新たなビジネスモデル構築に向けて、デジタルツールの活用は欠かせない。コロナ禍の消費環境の劇的な変化が、この活用に拍車をかけた。このひとつがスマートフォン向けのアプリである。顧客との関係性を築き、深めて、生涯顧客化していく、いわば「顧客とのつながり戦略」に欠かせない重要なデジタルツールのひとつだ。

百貨店各々の公式アプリはコロナ禍以前からも展開されていたが、ここへきて既存アプリの機能の改修やコンテンツの充実、並びにアプリの新規導入や開発が活発化してきた。中長期経営計画に基づく重点戦略を推進していくうえで、アプリを重要なデジタルツールに位置づけている百貨店もある。それだけアプリ活用に手応えを得ており、存在価値が高まってきている証しであろう。

情報発信による来店促進とCRM活動のリソースに

百貨店が導入するアプリの営業施策視点での主な役割は、情報発信による来店促進とオンラインショッピングへの誘導、顧客との関係性強化による囲い込みだ。運用面ではコスト削減効果も想定した導入でもある。大丸松坂屋百貨店では、「新しい顧客体験の提供と営業施策の高度化という視点から、さらなるお客様との関係性の強化に取り組む一環」と位置づけて、2019年5月末に「大丸・松坂屋アプリ」を本格リリースした。近鉄百貨店も「お客様への情報発信を強化することで長期的な関係を維持し、リアル店舗への誘客、来店数・買上げの増加を図ること」を目的に、19年9月3日より「近鉄百貨店アプリ」をローンチした。

両アプリ共にリリース当初は、リアル店舗への来店促進が第一義的なミッションだった。大丸・松坂屋アプリは、現金ポイントカードに替わるデジタルツールとして導入され、「店頭で使って便利なアプリ」をコンセプトに、店頭への来店促進を第一義にした多様なタッチポイントを意識した機能を搭載した。

リリース後は、機能の改修や新たな機能を追加しながら、着実にユーザー数を増やし、大丸・松坂屋アプリの21年度末(22年2月末)時点のダウンロード数は約125万人に達する見込みだ。百貨店の公式アプリの中でもトップクラスのユーザー数を誇る。同アプリの稼働率は7割を超えており、ユーザーの顧客単価は大丸松坂屋カード顧客のアプリ未登録者と比べ約2.5倍にもなるという。中期3カ年経営計画の最終年度の23年度には約240万人を目標にできるまでアプリ活用が軌道に乗ってきている。

ダウンロード数の増加に伴い、次のフェーズに入ってきた。ローンチ当初の現金ポイントカードに替わる「店頭で使って便利なアプリ」というタッチポイントの位置づけから、店頭だけでなくオウンドメディアを通じて顧客に関心の高い情報を発信し、タッチポイントで顧客の情報を収集し分析して的確なアプローチを実現していく、いわゆる「CRM活動のための重要なツールに活用していく」フェーズだ。

そのため昨年10月に一部機能を改修して、レコメンド機能を追加した。ユーザーの閲覧や購買履歴などのデータをベースに、アイテムやコンテンツ、あるいは各ショップのお薦めブログ記事などを表示する機能。メール配信やプッシュ通知など、顧客の関心が高いコンテンツ配信の精度を高めていくためだ。まだ試行錯誤を繰り返している段階だが、レコメンド機能の活用と精度向上は、大丸松坂屋が中期経営計画で進めている重点戦略に欠かせないCRM活動の高度化につながってくる。顧客との長期的かつ深い関係性を築き上げていくためのデジタルツールとしての活用こそが、百貨店アプリの肝でもあろう。

コロナ禍で新規導入相次ぐパッケージ型開発を活用

百貨店ではコロナ禍でアプリの新規導入が相次いでいる。それも1からオリジナルのシステムを開発するスクラッチ型ではなく、開発期間が短くコスト面でもメリットがあるパッケージ型開発を活用したアプリである。昨年、京王百貨店では3月下旬に「京王ビューティーLINEミニアプリ」を、6月中旬に「京王百貨店新宿店LINEミニアプリ」をローンチした。共に京王パスポートカード会員向けで、京王ビューティーLINEミニアプリでは、コスメ関連の情報やクーポンの配信を行い、アプリ内で紹介した化粧品が購入できるオンラインサイトにリンクする。京王新宿店LINEミニアプリは、同店の催事やキャンペーンなどの情報発信やクーポンの発行、オンラインサイトへのリンクなどの機能を備える。

京王パスポートカード会員情報と、LINE公式アカウントと紐付けた施策が実現できるLINEミニアプリ開発プラットフォームを採用した。京王パスポートカード顧客は、京王百貨店店頭などに設置されたQRコードからそれぞれのミニアプリ登録画面にアクセスし、カード会員情報を入力する。京王百貨店としては、LINEミニアプリを活用して、カード会員とのワン・トゥ・ワンのコミュニケーションによるファンづくりを深化させていく。

京急百貨店は昨年9月末にローンチした。イベントや催事の情報、チラシやデジタルカタログの閲覧といった店舗情報機能や、店内でスタンプを貯めるスタンプカード機能を備え、同社のオンラインショッピングやコト体験教室「コトノワ」にもリンクできる。スタンプカード機能とは、店内やレジに設置されたスタンプ用QRコードをアプリで読み取ると画面にスタンプが押印され、貯まるとお得な特典を取得できるサービスだ。

京急百貨店アプリは公式アプリ開発サービスを採用した。既存のアプリ機能から必要な機能を組み込むことでオリジナルの公式アプリを短期間で開発できるという。パッケージ型開発では、公式アプリのミッションやコンセプトの設定が肝要になる。そのうえで顧客ファーストの視点による使いやすい機能の搭載と情報やサービスコンテンツの充実、さらにPDCAによるこれらの間断ない改修作業が欠かせない。

PDCAによる改修継続と迅速に実践する運用体制

こうしたPDCAによる改善を継続して完成度を高めているのが、三越伊勢丹が20年11月25日に伊勢丹新宿店から本格リリースした「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」である(詳細別掲)。同社は同年6月にデザインや機能を刷新して「三越伊勢丹アプリ」をローンチしたが、リモートショッピングアプリはこれとは別に自社オリジナルアプリとして開発した。

来店せずにオンライン上でスタイリスト(販売員)とのコミュニケーションを通じて買物が楽しめるアプリだ。ひとつのアプリ内でチャットによる会話ができ、さらに希望の顧客に対しては予約制での動画接客で対応する。新たに開発した「個品登録機能」で商品が購入できるようにした。

リモートショッピングアプリは、グループ子会社とアジャイル型で共同開発した。特筆したいのは、開発手法と完成度を高めていくための運用体制だ。20年4月の臨時休業をきっかけに開発が始まり、開発チームが編成されて約3カ月で本格リリースに至った。リリース後も、グループ子会社の担当者を加えたチームを結成して、顧客と現場に寄り添いながら機能の改修を重ね、より使いやすいアプリへと進化させている。毎週2回定例会を開いており、そのうち1回は三越伊勢丹ホールディングスの情報システム統括部執行役員が加わり、意思決定ミーティングを行っている。

三越伊勢丹の担当者はリモートショッピングアプリを活用している現場のサポート業務にも携わっており、ここで機能や運用、サービスに関連する顧客の声や現場からの要望を吸い上げる。これらはミーティングで議題に挙がり、適時に解決策を講じる。システム機能の改修に関する案件では、最短で2週間、長くて2カ月程度で改修ができる体制を整備している。

アジャイル型で試行錯誤しながら改修を重ねているうちに、「買物アプリ」だけにとどまらない役割が見えてきた。リモートショッピングアプリが持つ機能を活用して、売場が抱えているお困りごとを解決していくサポート機能である。現場が使いたい機能を組み合わせて最適な売り方や接客を提供していくことで、新しいデジタル業務フローや効率的な売り方の構築につながってくる。「買物アプリ」に加え、「コミュニケーションアプリ」や「現場のお困りごと解決アプリ」として、運用範囲も広がりつつある。

こうした運営体制こそが、顧客ニーズに柔軟かつ迅速に対応していくための改修を継続して、顧客も現場も使えるアプリに進化し、顧客との関係性の深化にもつながる。アプリの真価が発揮されつつある。

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