2024年11月22日

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ワコール、コロナ禍でも支持を拡大する得意のコンサルティング

3Dボディスキャナーでの計測の様子

コロナ禍で生活様式が変わった。在宅勤務は増え、人との接触を減らし、外出も控える。生活様式の変化は消費行動も変えた。時間をかけた丁寧な接客が売りであった百貨店はいまだ苦しい部分もある。女性のインナー売場でも販売員が細かくサイズを測り身体にしっかりフィットするものを提案するというコンサルティング販売を主としてきたが、それに抵抗感を持つ消費者は増えた。

そんな消費環境でも支持を拡大しているサービスがある。ワコールの「3Dスマート&トライ」と「ブラ無料診断」だ。

 

長引く外出自粛や在宅勤務の増加により、体型の変化を感じる人は多いのではないだろうか。Googleによると「ダイエット」という検索ワードも、最初の緊急事態宣言が出た2020年5月が、データのある2004年以降でボリュームが最多となっている。筆者もそうだが、女性が体型が変わったような気がすると感じるのは、きつめのボトムを履いた時か、もしくはインナーを付けた瞬間なのではないだろうか。毎日身に着けるものだからこそ、ふとした時にブラジャーのずれやカップの浮き、背中の段差を感じるものだ。

そんな悩みを抱えた女性がコロナ禍の今、3Dスマート&トライやブラ無料診断といったコンサルティングを求め、百貨店のインナー売場に殺到しているようだ。

3Dスマート&トライはデジタル技術を活用した新しい接客サービス。コロナ前から展開を始めていたが、非接触・セルフで正確にしかも素早くサイズが計測できるとあって、高い支持を得ている。

ワコール独自の3D計測サービスで、身支度をして計測のための個室の中央に立つと5秒間で約150万点の点群を計測。身体の様々な部位のサイズを瞬時に導き出す。周径等の点と点との間の距離だけでなく、体積(バストなどのボリューム)を計測し、胴の形状など体型の特徴も判定してくれる。個室の中にはモニターがあり、一人で計測できるので、販売員といえどもプライベートゾーンを人に見せたくないという消費者にとってもうれしい。今まで一カ所ずつメジャー計測していたことを考えると時間的にも接触のストレス的にも大きな変化だ。

計測したデータは店内のタブレットで体型分析や過去のデータと比較ができる。そしてそのデータを基本に、サイズ、体型、悩みや好みのデザイン、シルエット等に対応したブラジャーを提案してくれる。3Dシルエットで自分の体型を見ることもできるため、普段は見ることの無い「後ろ姿のおばちゃん感」に驚くことも(筆者個人の体験です)。最後には身体の計測データやおすすめ商品などが印刷されたパーソナルシートも発行してもらえるため、例えば計測だけ店頭で行い、ECサイトから注文するといった活用方法も可能だ。

もう一つコロナ禍で注目を集めるワコールのサービスが「ブラ無料診断」だ(予約が無くても空いていれば診断は可能だが、密にならないように予約を推奨している)。

ブラ無料診断とは店頭で、例えばサイズがわからない、どんなブラを選べば良いか分からない、買ったブラが合わなかった、ワイヤーブラはきゅうくつといった悩みに専門のカウンセラーが無料で応えるもの。希望やブラへの悩みを聞き取り、今着けているブラが合っているか確認、サイズを測り希望に合うブラのタイプのアドバイスまで無料で行ってくれる。

百貨店ではこれらのサービスをコンサルティングと呼び、当たり前に行ってきた(少なくとも筆者はそういう買い方をしてきた)。しかし、コンサルティングを受けたことのない、セルフで買い慣れている消費者にとって、このブラ無料診断は新鮮であり、このコロナ禍の悩みを解決してくれるちょうどよいサービスとして受け入れられた。

これらのサービスを取り入れている店舗では予想を超えるメリットがあった。一つは顧客の年齢層だ。ブラ無料診断はインターネットで予約を受け付けているが、20~30代の利用が多い。百貨店としては取り込んでいきたい年代の客層だ。例えば、化粧品はデパコスを使っているが上層階はあまり利用したことがない顧客をうまくインナー売場へと送客している。もう一つのメリットが買い上げ率の高さ。ブラ無料診断を受けた人の50%以上が購入に至るという驚異の買い上げ率を叩き出した。

予約もできるブラ無料診断のウェブサイトには「体験者のお声」として「一つひとつ悩みを聞いて、自分に合うブラを教えてもらえた」、「いつも適当に選んでいたけど、ちゃんと測ってもらうと、谷間ができて感動」、「丁寧にわかりやすく、ブラの着け方や、合うブラを教えてもらえた」といった感想が並ぶ。現在のワコールの商品構成を見るとノンワイヤーのブラが主流になりつつある。直営店ブランドのブラジャーのノンワイヤー比率は34%、量販店をメインにしているウイングブランドは45%。百貨店主体のワコールブランドでは約30%がノンワイヤーブラだ。SMLのサイズは確かに簡便で、完璧なコンサルティングがなくても自分の目安で買える。しかし本当のジャストフィットは中々望めない。普段そのような商品を購入している人が、ワイヤー入りのブラをコンサルティングを経て試着すると「こんなに快適なんですか?」という反応されるケースも頻出しているという。

2月1日から3月末まで「さぁ、自分のブラを見直そう。」というキャンペーンも行っている。ウェブ上にブラが合っているか確認できる「ブラチェック体操」の動画を用意し、合っていない場合の様々な症状をコミカルに紹介。さらにその下には自分にピッタリのブラを見つけてもらうために、ブラ無料診断や3Dスマート&トライなど用意しているサービスを集約した。

ワコールは本気だ。今まで商品の画像を並べていたコーポレートサイトの一番上、つまりサイトを訪れた人が必ず見る場所にこの「さぁ、自分のブラを見直そう。」のバナーを設置した。ワコール執行役員営業本部首都圏販売統括部長の堤幸信氏も「より多くの女性がこれを見て、自分のブラと身体について考えるきっかけになってくれれば」と期待する。