2024年11月22日

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百貨店は「プチ贅沢」や「サステナブル」で“イエナカ特需”を深耕 2021年お歳暮商戦

一気呵成(いっきかせい)だ――。11月末~12月初旬にピークを迎える歳暮商戦で、百貨店業界の各社は品揃えや販売体制などを強化し、前年を超える売上げを目指す。中元や歳暮の市場は長く縮小傾向だったが、コロナ禍による旺盛な「イエナカ消費」、帰省の自粛などが自家需要や贈答需要を促進させ、昨年の歳暮商戦や今年の中元商戦は健闘。特にインターネット通販は好調だった。今年の歳暮商戦は、品揃えでは「厳選」、「プチ贅沢」、「取り寄せ」、「サステナブル」、「自宅用」などを充実させ、販売体制では伸び代が大きいネット通販に引き続き注力。コロナ禍で守りに徹するのではなく、攻めの姿勢で「帰省暮」(=帰省と歳暮を掛け合わせた造語、帰省しない代わりに歳暮を贈る行動を指す)やイエナカ消費を喚起する。


にんべん、吸物やにゅうめんなど

手軽に食べられるギフト商品を拡充


 

西武池袋本店は11月9日にギフトセンターを開設した

コロナ禍は、中元や歳暮の商機を増やした。自宅で“プチ贅沢”を楽しみたい人、帰省を諦めて歳暮を贈る人の需要を開拓。そごう・西武では、「昨年の歳暮商戦の売上げはコロナ禍でも前年並みで、今年の中元商戦は前年比も前々年比もプラスだった」(平手健介リーシング本部リーシング二部フード担当)。昨年の歳暮商戦では、京王百貨店もギフトセンターが5店舗の合計で前年比16.7%増、ネット通販が同4割増、郵便が同110%増と好調。阪急うめだ本店も同3%増と伸ばした。

ギフトセンターとネット通販などの合算では前年並み、あるいはマイナスの百貨店が多かったが、総じてネット通販は活況。昨年の歳暮商戦では小田急百貨店が前年比4割増、東急百貨店が同5割増、東武百貨店が同18%増、近鉄百貨店が同43%増を記録し、今年の中元商戦でも、松屋が前年の2倍と高伸長した。

当然、今年の歳暮商戦でも各社はネット通販の成長力に期待を寄せる。小田急百貨店は初めてネット通販を利用する客に推奨品を分かりやすく伝える「ピックアップキャンペーン」を展開。ハムや菓子、ビールなどのカテゴリーで1つのブランドをクローズアップし、その購入者に抽選でプレゼントを贈る。京王百貨店はネット通販の限定として防災備蓄品を提案。決済の手段も増やし、11月18日に電子マネー「ペイペイ」を導入する。

東急百貨店は、客が見る画面を確認しながらオペレーターが入力などを助ける「画面共有サポート」を継続して実施。今年のネット通販は前年の1.2倍の売上げを見込む。東武百貨店も昨年の歳暮商戦から同様のサポートを備える。三越伊勢丹は、VRを用いた仮想空間「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」内に構える伊勢丹新宿本店で、歳暮のギフトを初めて販売。チャットの機能を利用して、家族や友人らとコミュニケーションしながら買い物できる。

松屋はネット通販の品揃えを前年の1.3倍に増やし、食品売場で人気のブランドのギフトをネット通販に限り送料無料にするなど、特典にも余念がない。近鉄百貨店は「巣ごもり」を楽しむ人が、長期間に亘り利用できるように“史上最速”の10月4日にネット通販をスタート。京阪百貨店は歳暮商戦で初めて、10月14日~11月30日の期間、30点を近畿2府4県送料無料とする。

ネット通販は今年も好発進。そごう・西武は10月14~31日までの売上げが前年比15%増で、平手氏は「目標は前年の1.1倍で、想定以上」という。売上げの目標では東急百貨店が同2割増、東武百貨店が同4%増、松屋が前年の1.5倍、三越伊勢丹が両のれんともに微増を掲げ、京阪百貨店も受注の増加を予測する。

ネット通販は右肩上がり

各社の品揃えは、コロナ禍での需要の変化に着目。百貨店ならではの特別感を深耕しながら、イエナカ消費の受け皿として売れ行きが良い自宅用、関心が強まるサステナブルやSDGsにちなんだ商品なども充実させた。

小田急百貨店は全国の逸品を選りすぐった「とっておきのグルメ特集」、「注目のエリア特集・鎌倉のグルメ」、「需要が高まる個食、簡単調理グルメ」などを訴求。イチオシは「鎌倉 井上蒲鉾店」の「おでんセット13種」だ。ギフトの合計では約1600点を揃え、販売期間はネット通販が10月20日~12月24日、新宿店が11月10日~12月24日、町田店が11月13日~12月24日、小田急百貨店ふじさわが11月17日~12月25日。

今年の歳暮商戦については「昨年は個食鍋や小分けになっているもの、有名店などの贅沢惣菜、電子レンジで手軽に調理できるものなど、イエナカ消費を意識したものが人気だったため、そうしたカテゴリーの充実を図った」(同社)という。

小田急百貨店のイチオシ、「鎌倉 井上蒲鉾店」の「おでんセット13種」

京王百貨店は「こころ、つなぐ」がテーマ。カタログの巻頭では「食がつなぐ、『えん』」として、「円」(=円卓、食卓)、「遠」(=全国各地)、「沿」(=京王沿線)、「宴」(=年末年始の宴)のシーンに最適な食べ物や酒類を特集した。イエナカ消費で昨年も人気を集めた「簡単」や「時短」にフォーカスした「美味適量」、健康志向の高まりを受けた「からだ想い 日々是好日」なども用意。需要が右肩上がりの自宅用では、バーベキュープレートやオーブントースターなど調理家電が初めて登場した。イチオシは人気のスペインバル「モン・テルセーロ」が監修した「オードブルセット」だ。ギフトの合計では約1300点を揃え、販売期間はネット通販が10月20日~12月22日、新宿店と聖蹟桜ヶ丘店が11月11日~12月22日、サテライト店が11月4日~12月22日。

今年の歳暮商戦については「イエナカ消費やプチ贅沢といったカテゴリーが伸びた昨年より会期は7日少ないが、今年の中元商戦では新宿店のギフトセンターの売上げが前年を超えるなど実店舗への回帰も考えられる」(同社)という。

京王百貨店のイチオシは「モン・テルセーロ」が監修した「オードブルセット」

そごう・西武は「あげると、あがるね。」をメッセージとして発信する。従来の慣習的な歳暮にとらわれず、大切な人と贈り合う高揚感を表現した。商品では「冬の感動鍋」を歳暮の新たな定番として提案。イチオシは「祇園丸山」の「すっぽん鍋」だ。近年はモノの背景や物語が重視され、今年の中元商戦でも「郷土色や伝統に裏付けられた商品は好評だった」(平手氏)ため、そのニーズに適う「林檎」や「鮭」も揃えた。「パーソナルギフトの需要を取り込むため、パンや物産展で人気のブランドを初めて加えた」(平手氏)ほか、イエナカ消費を家族の団らんに相応しい「冬の食卓グルメ」など、昨年より11多い1587点で構成し、販売期間はネット通販が10月14日~12月24日、西武池袋本店が11月9日~12月22日、そごう横浜店が11月2日~12月20日など。

今年の歳暮商戦については「中元商戦はネット通販もギフトセンターもプラスだった。歳暮商戦の売上げの目標は前年比5%増」(平手氏)という。

そごう・西武のイチオシは「祇園丸山」の「すっぽん鍋」

大丸松坂屋はイエナカ消費のさらなる伸長を予想。対応する“巣ごもり企画”を15点から39点に増やした。イチオシは「メゾンジブレー」の「彩りゆたかな生チョコフィナンシェ」で、「発酵バターを使って風味豊かに焼き上げたアーモンドフィナンシェと厳選した食材を用いて滑らかに仕上げた生チョコがマッチする焼き菓子」(同社)という。ギフトの合計ではカタログが約1960点、ネット通販が最大2700点を揃え、販売期間はネット通販が10月8日~12月24日、店舗が11月1日~12月24日。

今年の歳暮商戦については「昨年は自宅用のシェアが前年から2ポイント上がり、見た目が美しい惣菜やスイーツなどへの関心が強まり、単価の向上がみられた。こうした傾向は、今年より強まると予測し、品揃えの軸足を置いた」(同社)という。

大丸松坂屋のイチオシは「メゾンジブレー」の「彩りゆたかな生チョコフィナンシェ」

高島屋はSDGsへの注目の高まりを受け、新たに「サステナブルフード」を特集した。「アップサイクル」や「循環型農業」、「オーガニック認証」などをキーワードとした「おいしく食べて、環境が守れる。」、「フェアトレード」、「農福連携」、「開発援助」などをキーワードとした「分け合うことで、みんなが豊かに。」、「スローカロリー」や「ヴィーガン」などをキーワードとした「健康的な生活をおくるため、カラダが喜ぶ一歩。」、高校生が栽培、飼育、漁獲した食材を使った「次世代を担う『高校生×ブランド』が、おいしさを追求」といった切り口のギフトを販売する。

また、次世代動画技術「TIG」を活用した新たな買い方も導入。映像上に現れる、贈る相手や商品のカテゴリーといった項目を選んでいくと、「サステナブル」に合致するギフトから最適解を教えてもらえる。配送のピークの分散化、簡易包装などを促す「エコ届キャンペーン」も初めて行う。歳暮の販売期間はネット通販が10月8日~、店舗が10月27日~。

東急百貨店は、バイヤーが作り手と素材から吟味した「極味伝心」をはじめ、老舗の銘菓や惣菜からなる「東横のれん街」、全国から取り寄せる「グルメセレクション 美味彩菜」、今年7月に新装オープンした「渋谷 東急フードショー」や「東急フードショーエッジ」などのスイーツを選りすぐった「スイーツセレクション」など約1500点で構成。イエナカ消費を踏まえ、全国各地の名店の味や“お取り寄せ”を拡充した。イチオシは「福砂屋×とらや」の「フクサヤキューブ・干支小形羊羹煉菓子詰合せ」だ。販売期間はネット通販が10月15日~12月25日、店舗は11月上旬~。

今年の歳暮商戦については「(緊急事態宣言などが解除され)客数が増加傾向で、プラスの効果を想定。売上げは前年に対して100%が目標」(同社)という。

東急百貨店のイチオシは「福砂屋×とらや」の「フクサヤキューブ・干支小形羊羹煉菓子詰合せ」

東武百貨店は「こころで、分かちあう」がテーマ。今年の中元商戦で初めて企画して好結果を収めた、全国各地の特産品や名産品をギフトにした「おうちで!旅気分」の品揃えを約1.5倍に増やすとともに、昨年の歳暮商戦で売上げが前年比24%増、今年の中元商戦でも同23%増と伸びた自宅用も強化。自宅用は「サツマイモ特集」と「パン祭り」を新たに立ち上げた。イチオシは「関とら本店」の「レンジで簡単 個食鍋3種セット」だ。「とらふぐちり鍋」、「真ふぐ寄せ鍋」、「あんこう鍋」の3種類を電子レンジで簡単に食べられる。ギフトの合計では約1800点を揃え、販売期間はネット通販が10月15日~12月23日、店舗は池袋本店が10月28日~12月22日、船橋店が11月9日~12月22日。

東武百貨店のイチオシは「関とら本店」の「レンジで簡単 個食鍋3種セット」

松屋は「会えないからこそ贈る」をテーマに、有名な料亭やレストラン、ホテルの味を楽しめる豪華なギフトを中心にラインナップ。需要が多い自宅用も4点を増やした。今年の中元商戦で売上げが前年の2倍に膨らんだネット通販は、品揃えを1.3倍に拡充。ギフトの合計はカタログで約2000点、ネット通販で1500点を揃え、販売期間はネット通販が11月3日~12月22日、店舗は銀座店が11月3日~12月21日、浅草店が11月1日~12月22日。

松屋銀座店のギフトセンター

三越伊勢丹は「つなぐ」をテーマに、次代や地域、人を繋ぐギフトを提案する。サステナブルをクローズアップした「みらいへつなぐ贈りもの」を軸に、バイヤーが厳選した「太鼓判100」、全国各地の美味や名産品を集めた「美味めぐり」、健康志向に適う「日々是食楽」などからなり、ギフトカタログは三越のれんが1920点、伊勢丹のれんが1930点、ネット通販は三越のれんも伊勢丹のれんも2400点を揃える。販売期間は三越のれんと伊勢丹のれんで異なり、前者はネット通販が10月12日~1月17日、店舗が11月2日~12月24日(三越日本橋本店)など、後者はネット通販が10月15日~1月17日、店舗が11月10日~12月13日(伊勢丹新宿本店)など。伊勢丹のれんは初めて、VRを活用した仮想空間・レヴ ワールズ内の店舗で、東京国立博物館とコラボレーションしたギフトなど約20点を販売する。

近鉄百貨店は、今年4月にあべのハルカス近鉄本店に開いた「神農生活」や近鉄沿線のグルメを特集。新規の神農生活は10点、近鉄沿線のグルメは約80点からなる。イエナカ消費の増加にともなう「自宅で贅沢なモノを食べたい」というニーズにも対応。近鉄百貨店限定商品を前年の約25点から約30点に増やした。イチオシは「苺のお店メゾン・ド・フルージュ」の「苺専門店のアイスもなか3種」だ。ギフトの合計は店頭が約1700点、ネット通販が約1800点で、販売期間はネット通販が10月4日~12月25日、店舗が10月8日~12月25日。

今年の歳暮商戦については「中元商戦と同じ流れを予想。11月末には前年に近い数字に回復する見通し」(同社)という。

近鉄百貨店のイチオシは「苺のお店メゾン・ド・フルージュ」の「苺専門店のアイスもなか3種」

京阪百貨店のテーマは「贈り、贈られ、心つながる、京阪百貨店のお歳暮」。約50点の「バイヤー推奨ギフト」を中心に、約1500点を揃えた。販売期間はネット通販、店舗ともに10月14日~12月23日。ギフトのイチオシは「Z’s MENU」の「牛肉の赤ワイン煮」で、同社によれば「Z’s MENUは想像できないほどの出来栄えと美味しさを備えた究極の冷凍食品で、ポートワインでマリネして真空調理した牛バラ肉はフォークで簡単に切れるほど柔らかく、深い味わい」という。

今年の歳暮商戦については「ネット通販が受注増、ギフトセンターは受注減となる見通しで、コロナ禍がまだ癒えないため、『おうちで贅沢』を意識し、産地直送や自家需要の品揃えを強化した」(同社)。

京阪百貨店のイチオシは「Z’s MENU」の「牛肉の赤ワイン煮」

阪急阪神百貨店は、「阪急」のれんが約1500点、「阪神」のれんが約1400点。阪急のれんは、阪急うめだ本店の食品売場で毎月開催する生産者と消費者を結ぶ「Hankyu PLATFARM MARKET」から選りすぐりの美味を訴求するほか、冷凍のケーキをギフトとして全国に送る「CAKE LINK」を昨年の5点から16点に増やした。サステナブルな美味、あるいは人との出会いが毎日生まれる阪急うめだ本店の売場「コミューナルフードマーケット」のギフトも、中元に引き続き登場。阪神のれんでは、阪神梅田本店の「ナビゲーター」(=日々の暮らしを豊かにするアイデアやヒントを発信するスタッフ)が推奨するギフト、同店の1階のイベントスペース「食祭テラス」で行うイベントと連動したギフトなどを企画した。

ギフトの販売期間はネット通販が10月20日~12月22日、店舗は10月27日~12月25日(阪急うめだ本店、阪神梅田本店)など。