2024年11月23日

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<ストレポ10月号掲載>百貨店注目の改装・最新MD

10月8日に建て替え先行開業する阪神梅田本店

多くの百貨店では、コロナ禍前の利益水準への早期回復と再成長戦略に向けて21年度から経営・営業改革を加速させている。中でもアフターコロナを見据えた新しい百貨店のビジネスモデル構築は風雲急を告げる。そのためにはリアル店舗の価値向上が不可欠であり、改装やMD再編、新たな編集ゾーンの開発や新規ショップ導入が、全てではないものの、有力なコンテンツに違いない。

しかしながらコロナ禍による収益悪化と、デジタル投資の優先順位が上がっている経営環境では、改装投資とその実行に慎重にならざるを得ない。が、コロナ禍で消費環境が劇的に変わり、顕在化してきた新しい生活様式に適応していかなければ生き残っていけない。オンラインでもオフライン(リアル店舗)でも買物ができる体験価値の提供は、あくまで魅力的なリアル店舗が屋台骨となる。

百貨店の魅力化への改装・MD再編は、立地環境、地域特性、培ってきた店舗の強み、狙うマーケットによって各店各様だ。これがそこになくてはならない百貨店の存在価値につながる。コロナ禍の厳しい環境が続く今秋冬シーズンでも、次世代百貨店の創出、新しい売場・業態開発に果敢に挑戦している。

※この記事は、月刊ストアーズレポート2021年10月号に掲載する特集「百貨店注目の改装・最新MD」(全19ページ)の一部を抜粋して紹介します。購読される方は、こちらからご注文ください。

 

■総論 マーケティング力、編集力、目利き力 問われる百貨店本来の強みと基本

百貨店業界の喫緊の命題は、コロナ禍前の利益水準までの業績回復と再成長戦略への道筋づくりだ。もはや店舗構造改革は待ったなし。多くの百貨店では、百貨店MDと専門店の融合、地域との融合(共生)、並びにオンラインとの融合という「ハイブリッド型の新百貨店モデル」への転換期の真っ只中であり、その中心施策が大小の改装だ。強化領域は、ラグジュアリー(特選・時計・宝飾)とビューティー(美と健康)、フード(食・飲食)で、いわば百貨店の「強み」を発揮できる領域である。

これらの領域の拡充に伴い、ファッション雑貨や生活雑貨の再編と、低迷が続く婦人服、紳士服の売場面積規模の適正化が進みつつある。カテゴリーバランスの再編と共に、品揃えの幅を広げていくために、従来型の百貨店MDにとらわれない専門店(テナント)の導入が改装の潮流と化しており、百貨店と専門店運営との融合による安定的収益を確保していくための新しい百貨店のビジネスモデル構築に挑んでいる。そこではこれまで百貨店が培ってきたマーケティング力、編集力、商品の目利き力、情報発信力といった強みの最大化が問われよう。

ファンコミュニティ型創造へ 新生・阪神梅田本店が船出

今秋の百貨店の改装で最も注目されるのは、約7年に亘る建て替えプロジェクトが10月8日に先行開業する阪神梅田本店であろう。大規模改装というよりも、営業を継続しながら次世代の新しい百貨店を創り上げる一大プロジェクトだ。

新生・阪神梅田本店のストアコンセプトは「毎日が幸せになる百貨店」で、「自分充足志向の価値観」にフォーカスして、これまでの「阪神らしさ」を大切にしながらマーケットの変化に応じて、日常や暮らしの豊かさとその本質の価値を提供していく新しい百貨店づくりに挑戦している。ここがトレンドや高級、ステータスといった「憧れアッパーマーケット」や「非日常」を提供価値の基軸にしている阪急うめだ本店とは一線を画す特徴化の根幹だ。

阪神梅田本店は、「お客様の『毎日の幸せ』がきっと見つかる、ライフスタイルや嗜好性で編集した」というフロア構成を具現化しており、大都市百貨店の基幹店で展開されている特選ブティックは揃えていない。この点ではラグジュアリーブランドの常設店がない地方都市や郊外立地の百貨店の参考にもなろう。

松山三越が地元企業と協業 新しい複合型商業施設に

一方、地方都市・郊外立地百貨店の店舗構造改革は待ったなし。国内アパレルブランドの撤退問題とコロナ禍による消費環境の劇的な変化が重なり、生き残りをかけた改革に拍車がかかった格好であろう。ただ在宅勤務の増加や外出自粛など、生活圏の近場で買物を済ませる傾向が強まっており、これまで大都市圏への消費流出が課題だった地方・郊外百貨店にとっては、存在価値を高める追い風に転換できる購買動向の変化だ。既存顧客とのつながりを深め、並行して新しい顧客との接点を拡大する好機が到来しているとも言える。

今秋の地方百貨店の改装で最も注目されているのが、新しい館に生まれ変わる松山三越(売場面積約2万平米、地下1階~8階)だ。昨年秋から着手してきた30年ぶりの大規模改装が、10月6日の第1弾オープンから3段階に分けて12月上旬に完成する。

ドラスティックな店舗構造改革であり、従来の百貨店運営を2階~4階の中層階に集約し、上層階にラグジュアリーなホテルや美と健康に留意したフィットネスジム、1階と地下1階に瀬戸内の土産物やフードホール、食の専門店を配する。道後温泉で旅館を運営する「茶玻瑠」と「古湧園」、不動産店やホテルを運営する「三福ホールディングス」、飲食店を運営する「タケシカンパニー」など愛媛県内の有力企業が参画しており、ホテルや専門店の開発・運営に携わる。同店は「地域協業によって松山でしかできない百貨店と専門店が融合した新しい複合施設」(浅田徹社長)へと一新される。

 

 

■東急百貨店 「渋谷 東急フードショー」

「楽しいから、もっと美味しい」 20年経て食のテーマパークが進化

渋谷マークシティ1階に6月1日にオープンした「渋谷 東急フードショー」のスイーツゾーン

もはや「デパ地下」の枠を越えた。エキサイティングな「食のテーマパーク」を目指して2000年4月に東急東横店の地下1階に誕生し、「デパ地下」ブームの火付け役となった「東急フードショー」が、開業時のコンセプトである「楽しいから、もっと美味しい」を受け継ぎつつ、エンターテインメント性と地域性をより強めて「新たな発見と街歩きの楽しさ」を存分に味わえる「渋谷 東急フードショー」に生まれ変わった。東急百貨店にとっては食の専門業態として独立した「東急フードショー」ブランドの新たな船出と共に、「東横のれん街」、「東急フードショーエッジ」との3拠点による「渋谷の食の一大マーケット」を網羅する態勢が完成したことになる。「食の劇場」の第2幕が開いている。

20年の歳月を経て進化した「東急フードショー」のコンセプトは、「渋谷エンターテインメントフードショー」で、スイーツ、デリ、生鮮・グロサリーという3つのゾーンを回遊する中で、「新たな発見と街歩きの楽しさ」を存分に味わえる進化を目指した。具体的には商業施設初出店の個性あるショップ、アイテムを絞り込んだ専門ショップ、過ごす時間を楽しめるイートイン併設型ショップなどを誘致し、各ブランドの意匠を生かしたショップづくりに留意した。

MDのテーマは、「渋谷ローカライズ」である。「渋谷駅乗降客、渋谷近隣や駅に乗り入れる各路線沿線の居住者、渋谷のオフィスワーカーなど、渋谷に親和性が高い顧客ニーズに徹底してフォーカスして、品揃えやサービスの質や利便性をより高めて、暮らしに根付いた日常使いのマイストアとして長く愛される食の館を目指した」(食品統括部第一食品部部長薮崎崇氏)。

渋谷の近隣や各路線沿線の人気店、話題性・利便性・日常性などの顧客ニーズに対応できるショップ、サステナブルやウェルネスフードなど新たなライフスタイルに応じたフードを提案するショップ、渋谷ならではの限定商品や新メニューを提供するショップなどを意識して揃えた。いわゆる特徴化と地域性にこだわっており、これらを象徴するショップは全104のうち、同店のみのオンリーショップが15、商業施設初出店が8で、合計23にも上る。

 

 

■西武渋谷店 「CHOOSEBASE SHIBUYA」(チューズベースシブヤ)

「意志を買う」小売の未来に挑む メディア型OMOストアを創出

パーキング館に9月2日にオープンした。売場面積は約700平米

そごう・西武が西武渋谷店のパーキング館1階を全面改装して9月2日にオープンしたメディア型OMOストア「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベースシブヤ)」(売場面積約700平米)は、これまで百貨店が開発してきた自主編集売場とは全く異なる前例のない新業態だ。半年ごとに設定する独自の編集テーマに共感するD2Cブランドをパートナーに、常に新しい出会いと学びのある購買体験を提供することによって、「単に『モノを買う』のではなく、『意味に出会い、意志を買う』拠点」(事業デザイン部新業態推進担当伊藤謙太郎担当部長)という次世代型ストアの創造を目指している。

チューズベースは、4つのエリアで構成される。オーダーメイドのビジネスウエアブランド「FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)」と、専用モバイルアプリと連動したOMO型の完全キャッシュレスカフェ「TAILORED CAFE(テイラードカフェ)」を展開するラウンジエリア、そして独自の編集テーマに共感するD2Cブランドを中心に揃えた2つの展示室エリア。2つのアンカーテナントと2つの自主編集売場で構成され、いわば特徴ある専門店と百貨店の編集力を融合させた新業態だ。そごう・西武にとって、百貨店の枠を越えた次世代の店舗のあり方と新しいビジネスモデル構築に挑戦している新規事業でもある。

開発はコロナ禍前から動き出し、ゼロから立ち上げた。ヒントにしたビジネスモデルは、米国でスタンダード化しているRaas(リテール・アズ・ア・サービス)業態で、既に日本にも上陸している「b8ta(ベータ)」に代表される小売のサービス化ビジネスである。チューズベースでは商品を展示するショールーミング型だけでなく、店頭での買物体験を付加した。「お客様がその場で商品を購入できないと、不便に感じられるし、取引先にとっては販売機会損失になる」(伊藤氏)からで、「メディア型OMOストア」と称する所以だ。

 

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