2024年11月22日

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2020年2月期 百貨店決算 中期計画 仕切り直し

※当初、「近鉄百貨店の連結業績は、売上高0.3%減の2834億円」としていましたが、「近鉄百貨店の連結業績は、売上高0.3%増の2834億円」の誤りです。お詫びして訂正します(5月19日)。

百貨店の2020年2月期(19年度)連結業績が相次いで発表された。消費増税後の消費低迷から回復途上下での記録的な暖冬による冬物の不振と新型コロナウイルスの影響が追い打ちをかけ、大都市に基幹店を構える企業の百貨店事業は軒並み減収減益を強いられた。地方都市を基盤とする百貨店企業は経営資源の選択と集中の成果を享受しているものの、取り巻く環境の厳しさは続く。3月から始まった20年度は新型コロナ感染拡大の影響による「非常事態」が続く。4月の月例経済報告では消費・生産・雇用など足元の指標が総崩れの状況だ。今期は新型コロナの収束と「アフターコロナ」の環境変化を見据えながら、中期経営計画を再設定して、構造改革のアクセルを踏み込み、並行して中長期視点で新たな成長戦略に取り組む緊急事態の局面だ。

コロナ後の変化を注視 20年度戦略課題

構造改革にアクセル 迅速かつ柔軟な実行力鍵

百貨店業界だけではないが、今期(20年度)の経営の舵取りは、先行きを見通せない「緊急事態」下で船出している。4月7日に政府から発令された新型コロナウイルス感染拡大による「緊急事態宣言」を受け、対象となる7都府県に立地する百貨店は、翌8日から一斉に臨時休業に入った。今や同宣言は全国に広がり、多くの百貨店で宣言が解除される当面の間、臨時休業を強いられている。

日本百貨店協会が調査した全国百貨店(対象205店舗)の3月の売上高前年比は33.4%減となり、過去最大のマイナス幅だった。商圏顧客の外出自粛、営業時間の短縮や臨時休業、大型イベントの中止や縮小など、新型コロナウイルス感染拡大の影響が直撃。免税の売上高前年比は85.7%減、購買客数で93.4%減と壊滅的な状況だ。

緊急事態宣言が発令された4月の一部百貨店(41店舗)の売上高前年比は16日までで約65%減で、東京地区は77.9%減。底が見えない前例なき厳しい環境が続く。

政府の月例経済報告による景気判断では、3月に「大幅に下押しされている」に引き下げ、4月は主要項目を軒並み下方修正し「急速に悪化しており、極めて厳しい状況」だ。「悪化」と表現したのはリーマン・ショックの影響が残る09年5月以来、ほぼ11年ぶりのようだが、百貨店の売上げ実績はリーマン危機以上の未曾有の「悪化」を強いられている。

新型コロナの収束が見通せない中、業績に与える不確定要素が大きく、百貨店だけでなく多くの小売り企業が20年度(21年2月期)の通期業績予想を未定にして、船出している。

その中で J.フロントリテイリングは20年度の通期連結業績予想(IFRS)を公表。新型コロナの影響を総額売上高で約1650億円、営業利益で約330億円減と試算し、通期総額売上高は10.9%減の1兆100億円、営業利益で70.2%減の120億円を予測。このうち大丸松坂屋百貨店の通期業績は総額売上高が11%減の5838億円、営業利益は80.9%減、47億円。ただこれらの予測は3月末時点で、上期(3~8月)を中心に新型コロナの影響をシビアに見込んだ数値に過ぎない。

ここに来て緊急事態宣言を延長する可能性も出てきた。3月、4月の過去に例のない百貨店の売上げ実態では、もはや百貨店各社は持続的成長に向けた中期経営計画を仕切り直す必要があろう。言うまでもなく新型コロナ終息後の消費を取り巻く環境変化は避けられない。現段階では不透明であろうが、この環境変化を注視しながら、短期的視点と中長期視点で「守り」と「攻め」の戦略・戦術を明確にして、迅速かつ柔軟に実行していけるかが問われてこよう。

J.フロントの山本良一社長は4月13日の20年2月期決算説明会で、新型コロナ終息後の新たなビジネスモデルを考えるうえで、前提条件として重視する五つの視点を挙げた。キーワードを挙げると「グローバル化」、「イノベーション」、「ネットの活用」、「AIの活用」、「働き方改革」である。加えて、「これまでやってきたことを批判的に見て、次のビジネスを考える必要がある」と述べている。

J.フロントは定時株主総会開催予定の5月28日付で、山本社長が取締役会議長に就任し、後任の社長に大丸松坂屋百貨店社長の好本達也氏が就任し、大丸松坂屋の社長に澤田太郎氏が昇格して J.フロントの執行役専務に就任。同じく執行役専務に昇任したパルコ社長の牧山浩三氏を加えた新たな経営体制で、新たな成長戦略を推進していく。

これに伴い21年度までの中期5カ年経営計画を今年度で終了させて、今年度を足場固めに充て、21年度から一層グループ力を発揮できる戦略にバージョンアップしていく新中期3カ年経営計画に移行する。「足場固め」となる今年度は、「(新型コロナの影響の)ある程度の長期戦を覚悟して、不要不急のコストはゼロベースで見直す」(山本社長)考えだ。

新中期3カ年経営計画の方向感としては、「長期的かつ定量的なビジョンを持ちつつ、基本は3年タームで実行計画に落とし込んで結果を出す経営サイクルにしていく」考え方で、「急速な変化への対応力を強めていくために、よりスピードを意識した意思決定と、それらを迅速に着実な成果につなげる実行力」をポイントに挙げている。

高島屋は、これまで5年タームの長期プランを毎期ローリングして推進してきたが、5カ年計画を一旦休止して、短期的集中的に実行に移す3カ年の緊急的経営計画を策定。今年度は「グループ総合戦略『まちづくり』の深耕・拡大」と「グループコスト構造改革の断行」を経営課題に掲げ、各事業の成長戦略を進めていく方針。とりわけ優先するのは「百貨店収益力強化に向けたコスト構造改革の断行」(村田善郎社長)であり、ゼロベースで販管費を見直した構造改革に取り組む。

百貨店の収益力強化に向けては、営業力強化と営業費構造改革の両軸で進める。営業力強化策では、東神開発などグループ力を結集し、集客の要であるフードビジネスや利益率の高いファッション事業を再構築していく方針。

フードビジネスでは、プライベートブランドや自主編集売場で新規ブランド並びに商材の発掘・開拓をはじめ、出来立てを提供するライブ感、エンターテインメント性の高い売り方改革をポイントに挙げている。ファッション事業では、強みである自主編集売場並びに特徴化ショップのディレクション機能を強化し、顧客の期待を上回る高感度な商品の提供を拡充する。さらに大手取引先と協同で、商品カテゴリーを越えた売場開発に取り組んでいく。

19年度の百貨店事業の営業利益の減益の主因は、減収による売上げ総利益と粗利益率の低下だ。さらに踏み込んだ構造改革と営業力強化策の戦略・戦術が求められる。非常事態の20年度は「アフターコロナ」の環境変化に注視しながら、新たな百貨店グループ並びに新百貨店ビジネスモデル構築に向け構造改革と攻めの経営・営業戦略をバージョンアップさせ、迅速かつ柔軟に実行できるかが問われてこよう。

19年度業績総括 減収、営業利益2桁減

売上総利益と粗利率が低下 大手・都市

上場百貨店の20年2月期連結業績では、百貨店事業の減収減益が相次いだ。消費増税後の消費低調に、暖冬による季節商材の低迷と新型コロナウイルス感染拡大の影響が加わり、特に第4四半期に売上高が一気に減速した。

J.フロントリテイリングの連結業績(IFRS)は、売上収益が増収(4.5%増の4806億円余)だったものの、営業利益(1.5%減、402億円)と当期純利益(22.3%減、212億円)は共に減益。このうち百貨店事業は売上収益4.2%減の2637億円、営業利益27.2%減の176億円の減収減益。

消費増税後の19年10月以降の百貨店事業の総売上高前年比は、10月18.7%減、11月8.8%減、12月5.9%減、1月5.2%減、新型コロナの影響が表れた2月が21.5%減。消費増税後から立ち直りきれていない消費低迷下に、記録的暖冬による冬物不振と新型コロナが追い打ちをかけた。

大丸松坂屋百貨店の総額売上高は3.6%減の6561億円、営業利益は7.4%減の245億円の減収減益だ。免税売上高は9店舗のうち6店舗がマイナスだったが、牽引する大丸心斎橋店(9.9%増、340億円、構成比39.9%)が伸び、合計で2.1%増の601億円(構成比9.4%)と前年実績を上回った。

高島屋の連結業績は、営業収益0.7%増の9190億円、営業利益4.0%減の255億円、経常利益25.7%減の232億円、当期純利益2.5%減の160億円。東神開発、高島屋クレジット、高島屋スペースクリエイツなど主要子会社が増収に貢献したものの、国内百貨店が消費増税や新型コロナの影響で減収減益。国内百貨店は営業収益0.9%減の7752億円、営業利益50.6%減の42億円。

営業利益の半減は、減価償却や作業委託費の増加などによる販管費増(0.4%増)と、減収に伴う売上総利益と粗利益率の低下の影響が大きい。これに免税売上高の減少(9.4%減、496億円)と新型コロナの影響が加わった。

松屋の連結業績は、売上高2.9%減の898億円、営業利益47.7%減の9億6300万円、経常利益45.5%減の9億9500万円、当期純利益37.7%減の8億5600万円。主力の百貨店(単体)の減収大幅減益(売上高2.6%減の816億円、営業利益51.3%減の10億円)が響いた。連結営業利益の減少額(13億円超)のうち、単体の売上げ減と粗利益率の低下の影響が11億円超を占める。

近鉄百貨店の連結業績は、売上高0.3%増の2834億円、営業利益23%減の45億2900万円、経常利益18.2%減の44億7900万円、当期純利益33.6%減の32億2500万円。百貨店事業(単体)は売上高1.1%減の2585億円、営業利益29.6%減の36億円。基幹店の近鉄本店は1%増収(1258億円)だったものの、東大阪店を除く8店舗が減収だった。

百貨店事業はいずれも減収大幅減益を強いられた。減益の主因は、減収による売上総利益と粗利益率の低下。結果的に構造改革の進捗が両利益の低下速度に追いつけなかった格好だ。

選択と集中に成果 販管費削減で利益を堅持 地方・郊外

消費増税や天候不順、衣料品の売上げ不振の逆風下、地方都市を基盤とする百貨店の20年2月期業績は、回復基調を描いている。

井筒屋は、連結業績でコレットと宇部店の店舗閉鎖の影響によって2桁の減収(16.2%減、661億円)、営業利益も減益(4.9%減、13億200万円)だが、単体では増収(1.6%増、587億円)、営業利益で3割超の増益(31.8%増、14億400万円)。経常利益が前期損失(10億4000万円)から9億8300万円の黒字に転換。連結経常利益は3割近い増益(29.5%増、10億3000万円)を計上。連結当期純利益は前期損失(24億円超)から4億900万円の黒字に転じた。

経営資源を小倉本店と山口店に集中する経営基盤の強化策が結実した。「百貨店らしさの追求」と「地域密着」を基本方針に、本店では本館と新館の特性をより明確化して、化粧品や特選の強化、人気セレクトショップ導入など改装を実施。結果、入店客数は8.6%増、売上高は10.6%増。山口店も改装と小型店が好調で、売上高は10.9%増だった。

連結では二桁減収に伴い売上総利益も同じく16.6%減を強いられ、かつ粗利益率が前期より0.1ポイントダウン(23.17%)したものの、販管費を17.5%削減し、販管費比率が前期の21.53%から21.20%まで改善。言うまでもなく店舗閉鎖を伴う構造改革の成果だ。

井筒屋は19年度から新中期三カ年経営計画が始動しており、21年度目標は売上高600億円、営業利益12億円、営業利益率2%に設定。初年度で営業利益率が1.97%まで改善し、堅調な滑り出しだ。

大和の連結業績も減収(4.3%減、436億円)とはいえ、営業利益(7.2%増、4億200万円)、経常利益(8.9%増、3億3400万円)共に増益を遂げ、当期純利益は前期損失(47億円)から5億6900万円の黒字に転じた。単体業績では減収(3.8%減、415億円)だが、営業利益(17.8%増、4億7300万円)、経常利益(31.2%増、3億700万円)共に二桁以上の増益。営業利益で2.5倍、経常利益で3倍強も改善した前期実績に対する二桁以上の伸びであり、構造改革の成果が継続した。

単体の減収は高岡店閉店の影響が大きく、香林坊店(0.8%減、217億円)と富山店(0.2%減、172億円)は共に微減にとどめた。減収に伴い売上総利益が4.9%減だったものの、販売管理費を6.0%削減したことで、営業利益の二桁増を確保した。粗利益率は0.23ポイントダウンの20.51%だが、販管費比率は前期の19.81%から19.37%まで改善している。

山陽百貨店の単体業績は、売上高0.3%増(203億円)、営業利益1.2%増(2億8200万円)、経常利益2.4%増(3億5100万円)で、前期に続く増収増益。前期の営業利益が4.8倍、経常利益で3倍近く改善した実績に対する増益であり、堅調な業績を堅持した。

地方都市を基盤とする中堅百貨店は改革途上とはいえ、19年度は経営資源の選択と集中による収益力向上策が進展してきた。