2024年11月22日

パスワード

購読会員記事

【後編】不動産会社や鉄道会社のシェアオフィス事業

2020年9月に開業した野村不動産の法人向けサテライト型シェアオフィス「H1T梅田」

新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが広がり、会社に出勤せず、自宅やシェアオフィスを活用するオフィスワーカーが増加をみせている。駅や商業施設、ホテルなどにシェアオフィスやコーワーキングスペースがどんどん増え始めている。シェアオフィスの中には短時間でも利用できるリーズナブルなサービスを設け、仕事の利用だけでなく、学生の勉強や主婦のショッピング途中の休憩などの取り込みも狙っている。今回の後編では不動産会社や鉄道会社のシェアオフィス事業への取り組みを追う。

不動産会社大手やJRと私鉄を含む鉄道会社でもシェアオフィス事業が拡大を続けている。不動産会社大手では野村不動産が「H1T(エイチワンティー)」、三井不動産が「ワークスタイリング」、東急不動産が「Business-Airport(ビジネスエアポート)」、東京建物が「TIME WORK(タイムワーク)」と「+OURS(プラスアワーズ)」のブランドでシェアオフィス事業を展開している。

 

野村不動産のエイチワンティーは同社オフィスビルの開発・運営ビジョンである「ヒューマンファースト」の事業思想を具現化した、働き方の多様化と効率化に応えるサテライト型シェアオフィスブランドとして2019年10月にサービスを開始した。オフィスに縛られない多様なワークスタイルの実現に向けて、利便性がよく快適な第二のオフィスといえる場の提供に向けて、全国主要都市に2021年4月末時点で51拠点開発、提携先を含めると83拠点に達しており、2027年度中に自社で150拠点開発、提携先を含めて300拠点の開設を目標としている。51拠点あるエイチワンティーのうち玉川高島屋S・C(南館2階)、丸井錦糸町店(5階)、上野マルイ(3階)、ボーノ相模大野ショッピングセンター(6階)、名古屋エスカ(地下1階)、町田モディ(6階)、流山おおたかの森S・C(フラップス)などの商業施設へも出店している。

エイチワンティーの主な特徴は、一つが都心主要エリアや郊外ターミナル駅、地方ビジネス都市でのネットワーク化。二つ目が開放的なオープン席、完全個室ブース席、最大12名収容会議室などの多様な執務スペース、仕事の合間に一息つけるカフェスペースの完備など、上質で快適なワーキングスペース。三つ目はリーズナブルでわかりやすい従量課金制(入会金・月額固定費がなく、15分150円から利用可能)。四つ目は安心のセキュリティ(スマートロックで入退出を管理し、ログ情報を常に入手、セキュリティカメラによる防犯対策。五つ目は利用社員の予約状況や入退出をウェブ上でリアルタイム管理などだ。

 

東急グループでは東急株式会社と東急不動産がシェアオフィス事業を展開している。東急不動産の会員制シェアオフィスのビジネスエアポート(東京不動産100%出資のライフ&ワークデザイン株式会社が運営)は単なる場所貸しでなく、会員同士の交流を促して情報収集や新しい出会いや、その出会いから、新たなビジネスや価値の創造に貢献することに注力。また、ビジネスエアポートにオフィスを構えるメリットとして ①初期費用が抑えられる ②一等地でもコストを抑えて利用できる ③会議室や共用スペースなどの設備を利用できる ④法人登記ができるなどを挙げている。また、常駐のコンシェルジュによるきめ細かなサービスとおもてなしも売りにしている。

現在のビジネスエアポートは港区(6拠点)、千代田区(4拠点、21年7月15日開業予定の日比谷を含む)、渋谷区(3拠点)、中央区(2拠点、21年9月上旬開業予定の京橋含む)はじめ、品川区、新宿区を含めて17拠点構えている。17拠点の中には「渋谷フクラス」、「渋谷ソラスタ」、「東京ポートシティ竹芝」、「キュープラザ新宿三丁目」などの東急不動産グループの大型施設内にも開設している。渋谷東急ビルを建替え、2019年12月に開業した渋谷駅前の「渋谷フクラス」(地下4階・地上18階建て)に開設された「ビジネスエアポート渋谷フクラス」は、約540㎡の面積を充て、サービスオフィス16室、シェアワークプレイス、ミーティングルーム、シャワーブースを完備。17階にある同施設の前には眼下に渋谷が見渡せ、晴れた日には富士山が見えるテラスもある。

2019年3月に竣工した渋谷ソラスタ(地上21階・地下1階)は東急不動産本社機能も入るオフィスビル。同ビルの3階にある「ビジネスエアポート渋谷南平台」は施設の面積が約1354㎡あり、サービスオフィス65室、シェアワークプレイス、ミーティングルームなどを備え、エリアの特性から音を使用する事業者に対応可能な防音の部屋(2室)も設けている。オフィスタワーとレジデンスタワーからなる総延床面積約20万㎡の大規模複合施設・東京ポートシティ竹芝(2020年9月開業)のオフィスタワー(A街区、地上40階・地下2階)には8階に「ビジネスエアポート竹芝」が開設されている。ここでは1名から複数名で利用できる家具備付のサービスオフィス(専有居室)や電源・無線LANを完備したシェアワークプレイス(共用ラウンジ)、1時間から利用可能な会議室を完備し、個人でのスタートアップから法人のサテライトオフィス、メインオフィス、プロジェクト利用など、多様なビジネスフェーズに合ったサービスオフィスを提供している。

東急不動産の会員制シェアオフィス・ビジネスエアポートに対し、東急株式会社のそれは法人企業向け会員制サテライトシェアオフィス事業「NewWork(ニューワーク)」と個人向け非会員制の有人型シェアオフィスの「relark(リラーク)」。2016年4月から展開を開始したニューワークはこれまでの5年の間に全国に直営店(85店舗)と提携店(179店舗)合わせて264店舗、会員企業数は450社以上の規模(店舗数・会員企業数とも2021年4月1日時点)に。ニューワークは今年に入っても出店を増やしており、直営店だけでも5月はニューワーク大門・浜松町、同藤沢3F、同鎌倉3F、同橋本、6月は同赤羽東口、同北千住1F、同千葉(増床リニューアルオープン)、7月以降に同ひばりが丘、同吉祥寺東急百貨店のオープンを予定。そのニューワークは直営店・提携店合わせて200拠点以上の業界最大規模の店舗ネットワークを形成していること、大手企業を中心に約450社以上の企業が導入し、安心して利用できるサービスとなっていること、1時間700円から利用できるリーズナブルな料金設定、従業員証やQRコードを会員証として利用でき、スムーズな入退出が可能なことなどを強みとしている。

後者のリラークは法人企業向けのニューワークではカバーできていなかった個人利用者を対象とし、ニューワークが会員制で無人型運営なのに対し、リラークは非会員制で有人型運営法(スタッフ駐在)によって、初めてでも安心して利用できる体制をとっている。リラークの1号店は今年4月たまプラーザテラス内にオープンした「リラークたまプラーザ」だ。

 

名古屋三井ビルディングにある法人向け多拠点型サテライトオフィス「ワークスタイリング名古屋」

「ワークスタイリング」のブランドでシェアオフィス事業を推進しているのが三井不動産。同社が2017年4月にサービスを開始したワークスタイリングは法人向け多拠点型サテライトオフィスの「ワークスタイリングSHARE」、郊外エリアを中心とした法人向け個室特化型サテライトオフィスの「ワークスタイリングSOLO」に加え、法人向けフレキシブルサービスオフィスの「ワークスタイリングFLEX」も展開し拠点数を増大させている。2020年1月時点でワークスタイリングのSHAREとFLEXを合わせて46の拠点を開設(SOLOは2020年12月8日よりサービス開始)。それが現在(2021年4月28日時点)は国内全38カ所の提携ホテル拠点(「ザ セレスティンホテルズ」、「三井ガーデンホテルズ」、「seQuence」)と合わせて130拠点に拡がり、導入企業は600社以上、登録会員数は19万人に上っている。

SHRE、FLEX、SOLOからなるワークスタイリングにはそれぞれに特徴がある。ワークスタイルSHREは ①全国100拠点以上を10分単位で利用できるサテライトオフィス ②法人契約ならではのセキュリティ・ホスピタリティサービス ③個室から会議室まで多様なワークスペースを提供している。

東京ミッドタウン日比谷に開設した三井不動産の「ワークスタイリングFLEX」

同FLEXの場合は ①1カ月~1席単位で様々な目的に利用できるサービスオフィス ②全国100拠点以上のワークスタイリングSHARE/SOLOの利用可能 ③初期コストが不要ですぐにビジネスをスタートできる。

SOLOは ①全席完全個室、サウンドマスキングも完備したテレワークに特化した環境 ②ホスピタリティのあるコンシェルジュサービスをオンラインで提供 ③全個室施錠可能、会員QRコードを用いた入退室管理を実施するなど安心の高セキュリティが特徴だ。

 

その他、東京建物が「+OURS(プラスアワーズ)」のブランド八重洲と新宿で会員制シェアオフィスを展開している他、東京建物・日鉄興和不動産・日本土地建物の3社によるスペースシェアリングサービス「TIMEWORK」も展開している。このTIMEWORKはシェアオフィスを展開している事業者がTIMEWORKにシェアオフィスを加盟登録することでTIMEWORK利用企業(利用者)が加盟する事業者の各施設を自由に利用することが可能。利用企業(利用者)は各シェアオフィスの事業者(加盟施設)と個別に契約する必要がなく、スマホ・PCから使いたい施設を選んで予約・利用ができる。2021年に100拠点のネットワーク構築を目指して2019年11月から事業を開始した。

 

横浜駅改札内にあるJR東日本のシェアオフィス「STATION DESK横浜」

鉄道会社の中でシェアオフィス事業で先行しているのがJR東日本の「STATION WORK」だ。2019年8月にサービスを開始したステーションワークはJR東日本エリアの駅を中心に拠点を増やし、2021年には国内外でシェアオフィス・We Workを展開しているWe Work Japan合同会社と連携を開始。同年5月27日以降からステーションワーク会員はWe Workの利用が可能に。さらに2021年5月にはJR西日本とシェアオフィス事業においてホテル活用で提携。JR西日本グループの11ホテル(ホテルグランヴィア、ホテルヴィスキオ、ヴィアイン)が対象。すでにHOTEL METSやメトロポリタンホテルなどのJR東日本グループのホテルも提携店として加わっている。

その内訳はステーションBOOTH49ヵ所、ステーションDESK5カ所、ステーションOFFICE1カ所、提携店135ヵ所(ホテルシェアオフィス、STATION SWITCH、We WORKなど)。2023年度には全国1000カ所に拠点を拡げ、日本最大級のシェアオフィスネットワークを実現するため、これまでの駅を中心とした展開だけでなく、ホテルとの提携、フィットネスジム、コンビニ、カフェといったライフスタイルに欠かせないコンテンツとの融合を進め、ライフスタイル提案型のシェアオフィスへ進化させていくという。

ステーションワークが特徴としているのは、エキナカに多い個室ブース型のSTATION BOOTHは仕事に必要なデスク、Wi-Fi、電源などを整備しているだけでなく、空調も完備して静かで快適な空間を実現。STATION DESKはワークスタイルに合わせて多様な席タイプを選べるシェアオフィス空間。STATION BOOTHもSTATION DESKも駅の改札内外での展開が多いが、STATION DESKの場合、ホーム上にシェアオフィスが3カ所にオープンしている。西国分寺駅の中央線下りホームと三鷹駅中央線の上りホームと下りホーム。これら3カ所のSTATION DESKはWEB会議などに活用できる完全個室「CUBE」やハイパーテーション型の半個室「SHELTER」からなり、ニューノーマルな働き方に対応した空間となっている。

「ホテルメッツ」や「メトロポリタンホテルズ」などのJR東日本グループのホテルチェーンだけでなく、グループ外のホテル会社ともシェアオフィスとして提携が拡大しているその施設はレンタルスペース・個室となっており、仕事ができるデスク・Wi-Fi・電源などを完備。BOOTH、DESKと同様、業務の空き時間、出張の待機場所などとして活用できる。

 

最近シェアオフィス事業に参入したのがJR九州だ。会員制のシェアオフィス・コーワーキングスペース事業を展開する「Q」の第1号店をJR博多シティの「アミュプラザ博多」(地下1階)に6月下旬に開設することを決めた。第1号のQはシェアオフィス32ブース、コワーキングスペース約60席に加え、コラーニングスペース(12部屋)を設け、外国人と日本人が集える会員制語学教室を開く。7月にはQの2号店となる郊外型シェアオフィス「Q-Works FUKUMA」が福馬駅にオープンすることになっている。

JR九州は6月に期間限定で「シェアオフィス新幹線」も運転した。九州新幹線のさくらの一部車両にパソコン作業やオンライン会議などのリモートワークに適した新幹線で仕事ができる新幹線を走らせた。すでにJR東日本でも東北新幹線にテレワーク推奨車両を設けた実験を進めている。私鉄やバス会社でもテレワークに対応した社内実験が始まり、‶走るシェアオフィス”も活発になりそうだ。

前編はこちら

【前編】SCに拡大するシェアオフィス