2024年11月22日

パスワード

購読会員記事

【後編】改装にみるニューノーマル時代の商業施設づくり

SCなどの商業施設で集い・体験・交流などの活動が強まる気配

「たまプラーザ テラス」が2020年夏に実施した「たまプラーザ近隣地域での生活実態アンケート調査」(調査対象地域=神奈川県宮前区・青葉区・都筑区・麻生区、調査方法=オンラインアンケート、有効回答数=868人、複数回答)によると、「新型コロナウイルス感染症の流行前に比べて増加したこと」として挙げられたのが「家族とゆっくり過ごす時間や会話」と「ECサイト(オンラインショッピング)の利用」が同数でトップ。3位は「家事・育児時間」。「家計において新型コロナウイルス感染症の流行前に比べて増加したこと」についてでは、「食費」に次いで「光熱費」。以下「日用品費」、「総支出」の順となった。

こうした結果を踏まえ、たまプラーザ テラスは今春のリニューアルを実施した。それは体に優しい食材や運動を提案する「健康」と、家の近くで働く・大切な思い出をつくることを提案する「家族」と、家族で楽しむ・新たな出会いを提案する「コミュニティ」の3つを柱にして強化する策をとった。健康の切り口では「ビオセボン」(オーガニックスーパーマーケット)や「オリエンタルトラフィック」(レディスシューズ)。家族は「築地銀だこ」や「ラブスト」(写真館)。コミュニティ+健康で「チャコットスタジオ」(バレエスタジオ)や「ニューワーク」(シェアオフィス)などの新ショップが導入されている。

コロナによって市場が激変しているだけに、改装でのコロナ対策は必須といえる。ショッピングセンターは屋外にある広場の整備を改装のポイントにしている。ららぽーと富士見は今春から今秋までに新規・改装合わせて40店舗オープンさせる一方、屋外イベントプラザに人工芝と遊具を設置。近くで遊ぶ子どもを見守れるようベンチや飲食用テーブルも設置した。また、3階屋外テラス「フジミテラス」にはテイクアウト外食も楽しめるドームテントを設置。ドームテントではコロナ禍で三密の不安なく安心してテイクアウトした食事を楽しめるという。

「東急プラザ銀座」の屋上にある「KIRIKO TERRASE(キリコテラス)」は銀座の街が一望でき、ゆったりくつろげる場所である。そのキリコテラスが4月、東京の中心でワーケーションができるハイブリッドテラスとなった。キリコテラスは壁面にグリーンを配した開放感のある「グリーンサイド」と、中央部にあるプールがリゾート気分をもたらす「ウォーターサイド」からなり、今回一新されたのがグリーンサイドで、強い日差しや雨をしのぐことができるテント付きの座席やコンセント、無料Wi-Fiなどが完備され、デリバリー&テイクアウトアプリ「menu(メニュー)」を利用して東急プラザ銀座内の一部店舗から食事の注文ができるサービスも開始した。グリーンサイドに続きウォーターサイドも6月頃を目途にリニューアルオープンとなる模様だ。

イベントなどがない日でも憩える集える広場にリニューアルした光が丘IMAの「光の広場」

都営地下鉄大江戸線・光が丘駅に直結した複合型SC「光が丘IMA」は昨年12月、中央館専門店街の地下1階~4階を改装してフードコートなどを搭載した「イマミセ」に一新した。昨年12月中にイマミセだけで約90店舗オープンしているが、今春になっても新店オープンが続いており、その数は新規と改装合わせて100店舗以上になる。集客のメイン通路となる1階には開放的な大空間「光の広場」と結ぶかたちでスターバックスコーヒー、カルディコーヒーファーム、リンツショコラブティック、ゴンチャなどの食物販やカフェなどが並ぶ「IMAストリート」も新設された。光が丘IMAを運営している新都市ライフホールディングスでは「今回の改装でショッピング機能だけでなく、体験やつながりができる機能をもち、広域から取り込める施設を目指した」という。体験やつながりができる機能を担うのが光の広場や「IMA ホール」など。今回の改装で光の広場は集客できるスペースを広げ、大型イベントや体験型催しにも対応できるようにし、自由に座れるシートも多数設置してイベント開催時以外でも憩い、賑わえる空間に一新した。

東急不動産SCマネジメントが運営する「あべのキューズモール」と「あまがさきキューズモール」のリニューアルは、新規・移転・増床するショップについては食物販や生活雑貨などのイエナカ需要を満たす業種の誘致を広げ、施設共用部については密を避けて安全で快適に過ごせる屋外空間(キューズパーク)を整備するなど、コロナ対応を徹底した。あべのキューズモールには2016年の改装で開設した子どもの室内遊び場「キューズランド」があるが、今回、屋外空間の3階アーバンテラス部分に人工芝と遊具を敷設して開設したのが「キューズパーク」だ。都会の中の憩いの場として、コロナ禍でも子どもたちが安心して遊べる環境づくりをした。ちなみに4階にはアフターコロナを見据え、地域住民が交流できるコミュニティスペースを開設している。一方のあまがさきキューズモールも食物販、生活雑貨、手芸などの業種を広げ、都心に出なくても欲しいものが揃う場所とした。屋外にある「緑遊広場」は新たに人工芝の敷設と子どもの遊び場を設置。子どもから大人まで快適に楽しく過ごせる「キューズパーク」へと一新している。キューズパークの遊び場は屋外の開放的な空間で楽しく過ごせるよう、すべり台、ボルダリング、クライミングなど子どもが安全に遊べる遊具が設置され、快適に1日ゆっくりと過ごせる施設を目指すという。

「カラフルタウン岐阜」の開業20周年リニューアルの目玉は中央に公園をイメージした大型イベントスペース「カラフルパーク」。1階に新設されたカラフルパークにはレストスペースを随所に設け、休憩をとりやすい環境にした。館内専用電動モビリティの貸し出しなどを行う「未来Labステーション」を併設。カラフルパークの周辺部には子育てファミリー向けのショップ群を配置した。

「天王寺ミオ」の場合は、今春の改装で新規・移転・改装合わせ約60店舗を一新した一方で、本館1階南側に食事ができる空間「ミオガーデンテラス」を誕生させた。ミオガーデンテラスには約70席のスペースが設けられ、ミオ館内で購入した商品を食べられる。便利で開放的なオープンテラス型の空間となっており、キッチンカー事業者と連携した取り組みも始まっている。

イオンモールは改装に限らず全国のショッピングモールを挙げてローカライズの取組みを強めている。イオンモールは経営理念として「イオンモールは、地域と共に暮らしの未来をつくるLife Design Developerです。」と定め、経営ビジョンの一つとして「パートナーとともに、地域の魅力を磨き続ける究極のローカライズに挑戦する」ことを掲げ、地域と連携した取組みを行っている。

「イオンモール岡山」では「haremati♡JIMOTOプロジェクト」を展開。同プロジェクトでは「岡山を拠点とするプロスポーツ4チーム」との取組み。ファジアーノ岡山(サッカーJ2)・トライフープ岡山(バスケットボールB3)・岡山シーガルズ(Vリーグ)・岡山リベッツ(Tリーグ)の4チームの活動支援を行い、館内には各団体のPRゾーンを設置した。加えて19年の統一地方選挙や20年10月の岡山県知事投選挙など期日前投票所を館内に設置している。「イオンモール岡崎」の場合は、イオンモールが岡崎市と「地域活性化に関する包括連携協定」を締結。これにより館内にマイナンバーカードの申請ができる「岡崎市市民コーナー」並びに中小企業相談所「岡崎ビジネスサポートセンター」を設置した。「イオンモール日の出」の場合は1階レストラン街側通路に日の出町、青梅市、あきるの市など西多摩地域8市町村の観光情報やおすすめスポットを紹介している。期日前投票所の館内設置は岡山以外のイオンモール施設でも取組みが多く、新型コロナウイルスのワクチン接種会場として自治体へ名乗りをあげているイオンモール施設も多い。

アトレで地域との連携で注目されるのが、従来型駅ビルをリノベーションして日本最大級の体験型サイクリングリゾートとなった「プレイアトレ土浦」だ。プレイアトレ土浦はサイクル拠点となる「りんりんスクエア土浦」、レストランゾーン、サイクルカフェ、駐輪場、シャワー・更衣室、星野リゾートが運営するサイクリングホテルなどで構成されている。このプレイアトレは地域や行政と深い関わりをもっており、プレイアトレの核施設であるりんりんスクエア土浦は茨城県・JR東日本・アトレによる官民一体(県が設置、JR東日本がオーナー、アトレが運営)となった地方創生による取組みだ。サイクリングホテルも茨城県宿泊施設立地促進事業の第1号案件として事業認定された。プレイアトレ土浦は首都圏から「つくば霞ケ浦りんりんロード」にやってくるサイクリング顧客を呼び込んでいる。

商業施設のリニューアルは春と秋を中心に実施され、定借満了や開業10周年といった節目の年になると改装の規模が大きくなる。新型コロナウイルスの感染拡大が続いている昨年から今年にかけたリニューアルは大規模な改装で次世代に向けて大きく転換し、コロナで一変した生活スタイルへの対応を果たし、単なるショッピングを提供する機能を超え、体験、集い、つながりができる施設づくりが本格的に始まったといえる。

2019年11月に開業50周年を迎えた「玉川高島屋S・C」は大規模改装に踏み切り「時間を過ごすために訪れる玉川流ライフスタイルセンター」をこれからの商業施設の役割として打ち出した。これに対し、21年3月に開業10周年を迎えた「二子玉川ライズ・ショッピングセンター」も改装と同時に「人と人がつながる場となる二子玉川エリアのプラットフォームの役割を担っていく」ことを表明したことなどは、その象徴的な動きといえる。

※新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の発出やまん延防止等重点措置の適用などによって前編・後編ともリニューアルによる新規出店やリニューアルオープン日に変更がある場合があります。