2024年11月22日

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買い物をより快適に 新時代に対応する婦人肌着売場

デジタル技術の発展や、コロナ禍をきっかけとした新しい生活様式の普及など、婦人インナーウェアを取り巻く環境は大きく変化している。そうした中で、新たな挑戦を行っている百貨店がある。あべのハルカス近鉄本店は、フィッティングのウェブ予約システムや、電話注文のカード決済を新たに導入し、客の利便性を高める。ジェイアール京都伊勢丹は、2019年の改装で「ワコール3Dスマート&トライ」を導入するとともに売場を再編し、若年層の獲得に成功した。

【写真】ジェイアール京都伊勢丹のインナーウェア売場。19年に移設改装した


ワコール ワコール「ワコール サイズオーダー」

リブランディングで売上げ拡大へ


 

あべのハルカス近鉄本店、ネットの予約サービスが好調

あべのハルカス近鉄本店の売場。商品の豊富さが特色

あべのハルカス近鉄本店は、昨年にフィッテイングのネット予約サービスを導入して自社アプリで案内し、今年2月には電話注文の決済をウェブ上でできる「でんわ de オーダー」を始めるなど、デジタルを活用した新サービスで買い物の利便性を向上させる。

同店4階の肌着売場「ランジェリーヌ」では、ウェブで事前に予約をして専門のフィッターによる測定やコンサルティングを受けるサービスを、トリンプは昨年3月、ワコールは同10月に導入した。そしてより多くの客に知ってもらうため、近鉄百貨店の自社アプリ「近鉄百貨店アプリ」を活用する。アプリ内の各店のニュース配信ページにサービスの内容や開催日程、予約サイトへのリンクなどを記載して誘導。以前から試験的に行っていたが、昨年7月以降に本格的に実施している。

同社は19年9月にアプリをリリースし、以降店頭で案内をしたり、クーポンを配布したりなどして登録者数を増やしていた。2月12日時点で登録者数は約30万人に上り、発信力の強いツールと絡めてサービスの認知度を上げる。

こうして始まったフィッティングサービスは人気を博し、営業自粛明けのピーク時には「予約枠が全て埋まってしまう時期もあった」(百貨店事業本部本店婦人服部婦人キャリア・サイズ課長東哲也氏)ほどだ。自粛明けには買い替え需要に加え、外に出掛けたり運動ができずにいた分「コロナ太り」となり、体型を見直したいという客が増加。コロナ禍であっても「体型に合った肌着を身に着けたい」という客のニーズは高く、さらに新型コロナの感染拡大防止のため、「外出を短時間に抑えたい」という要望にも合致した。ネットで調べた新客が訪れるきっかけにもなっている。

昨夏に一気に利用が伸びた後も、顧客にこのサービスが定着し、利用率は安定しているという。「同じサイズであっても見せたい体型や着心地によって、自分にフィットする商品は異なる。やはり実際に試して、納得して買いたいという方は多い」と百貨店事業本部本店婦人服部婦人キャリア・サイズ課婦人キャリア・インナーウェア係の青島麻美氏はフィッティングの重要性を説明する。

アプリでの告知も効果を発揮しており、フィッティングサービスのページの閲覧数は、月に平均で約1500を数える。「(肌着のフィッティングに)関心を持っているお客様と、サービスがマッチングした数と考えると、有益な施策と言える」と広報担当者は話す。

 

ウェブ予約サービスによって実店舗の買い物環境をより快適にする一方で、来店しなくても買い物ができる電話注文サービスもテコ入れした。電話注文自体は以前から行っていたが、ネットで決済ができる「でんわ de オーダー」を今年2月3日に開始。このサービスは売場へ直接電話を掛け、販売員へ購入するものを伝える。その後販売員が購入用のURLをSMS(ショートメッセージ)で客へと送り、客はそのリンク先へ遷移して決済する。決済方法は、クレジットカードや後払い決済、キャリア決済などから選べる。

以前から行っていた電話注文は決済方法が代引きのみだったため、決済方法が大幅に広がった。また、以前は電話注文だと近鉄グループのポイントカード「KIPSカード」のポイントが付与されないなどの問題もあったが、同サービスでポイントが付くようになるなど、客にとって得なサービスとなっている。

肌着売場ではコロナ禍以降電話注文が増えており、「体感としては以前の倍くらいある」(青島氏)。もともとニーズは高く、同サービスの導入によって一層利便性やメリットが上昇する。現在インナーウェアは近鉄百貨店のインターネット通販(EC)サイト「近鉄百貨店ネットショップ」で常設の取り扱いはないというのも寄与し、さらなる売上げの伸長に期待が寄せられる。

 

JR京都伊勢丹、改装で若年層の獲得に成果

JR京都伊勢丹肌着売場の「3Dスマート&トライ」。導入は京都エリアで初

ジェイアール京都伊勢丹は19年11月の改装で、5階にあった売場を3階に移設。ナチュラルコスメやスキンケア、ヘアケアを扱うゾーンを隣に配し、肌着とそれと合わせて美しさを磨くビューティーゾーン「キレイテラス」とした。肌着のゾーンには測定サービス「ワコール3Dスマート&トライ」を京都エリアで初めて導入。また、従来の主要顧客である50~60代に加えて35~45歳のキャリア層をターゲットに定め、この層に人気の高い、スイス発の高品質ブランド「ハンロ」や、日本製のセミオーダー「ワコールサイズオーダー」を売場の前面に打ち出しアピールした。店装も刷新し、窓から外光が入り、グリーンが置かれるなど開放的でくつろげる空間に仕立てた。

これらの取り組みの結果、若年層の客が増加。20年1~12月の売上高は前年比で24歳以下が約300%、25~34歳が約117%と好調に推移した。中でも特に3Dスマート&トライが集客装置となった。このサービスは、専用機器「3Dボディスキャナー」が5秒間で体の約150万点を計測し、接客AIがそのデータをもとに商品を提案する。計測から商品の提案まで全て機械が行うため、対面の接客が苦手な人でも挑戦しやすいというメリットがある。これが若年層に好評を博し、客数が増加。その多くは、一度来店した客がSNS、特にインスタグラムに投稿した口コミを見て訪れるという。口コミは意図して起こせるものではないが、「思わず感想をシェアしたくなる」ような仕掛けづくりは、特に若年層を呼び込むには有効な手段だろう。

さらに、コロナ禍という状況も、3Dスマート&トライの支持に繋がった。販売員ではなく機器が計測を行うため人との接触が極めて少なく、計測自体はわずか5秒で前後の説明などを合わせても短時間で完了するため、「測定はしたいが、人との接触は避けたい」という客のニーズにマッチし、稼働率が高い状況が続いているという。

改装の狙いであった、キャリア層の購買も伸長。改装で刷新した開放的な空間が「落ち着ける」と人気を集め、目に留まりやすい前面に打ち出したハンロやワコールサイズオーダーの売れ行きも好調。結果、20年1~12月の35~44歳の売上高前年比は4%増と、コロナ禍の中でも前年を上回った。

 

改装によって新たな客層を店舗へ呼び込むことに成功したが、無論、売場へ来れない人へのフォローも欠かさない。コロナ禍以降は、手紙や電話などによる顧客へのアプローチを積極的に行っている。同店は電話注文サービスを以前から実施しており、特に架電はそのまま購入にも結び付きやすい施策だが、目的はそれだけではないという。「来店できていないお客様との絆を深めるために行った。肌着という特性上、お客様は体型についての悩みを抱えていることも多い。馴染みの販売員と話すことで、心が晴れたりする」とファッション・雑貨統括部ビューティーショップディレクターの今井美穂氏は狙いを説明する。長期的な視点で考え、コロナ禍で途切れがちな顧客との繋がりの確保に努める。

今後の課題は、売場の認知度の向上と客数の増加だ。改装してすぐにコロナ禍となったため大規模なプロモーションが打てず、全体の客数は厳しい状態が続いている。改善に向けた取り組みとしては、コスメゾーンとの併設を生かし、今年1月27日~2月2日に「アットアロマ」のアロマ用品などを集積したポップアップをプロモーションスペースで展開。すると、昨今の「イエナカ時間を充実させる」という機運の高まりも後押しし、通常の約5倍を売上げ、売場の認知度の上昇に繋がった。コスメと肌着の買い回りといった施策はコロナ禍が終息するまでは難しいため、まずはプロモーションスペースを生かした企画を継続する考えだ。

 

両店のアプローチ方法は異なるが、どちらも時代に即した新サービスの導入がカギを握っている。若年層はインターネットの活用がもはや日常となっており、百貨店の主要顧客層であるシニア層も、コロナ禍をきっかけにインターネットの利用が普及している。そうした中で、客が「より便利に」、「より快適に」買い物を楽しめる環境の提供が求められている。