ワコール、「ワコールサイズオーダー」拡大へ 24年度に30億円
2021/02/24 12:00 am
ワコールは、セミオーダーブランド「デューブルベ」を「ワコールサイズオーダー」に改称し、リブランディングによって売上げの拡大を目指す。昨年には販売員向けの接客用アプリを導入。採寸や接客にかかる時間を短縮し、接客の質を高めることに成功した。今後はECサイトの利便性を高めるなどの取り組みも始める。21年度(21年4月~22年3月)で売上高10億円、24年度(24年4月~25年3月)で30億円を目標に定める。
【写真】同ブランドは広告ビジュアルに様々な体型、人種のモデルを起用し、「多様な美」を発信する
デューブルベは1993年に誕生。カップはAAA~I相当から、アンダーバストは62~102センチから1センチ単位で選べるなど、豊富なサイズ展開が特色で、組み合せは約3000通りにも上る。計測も、一般的なアンダーバストとトップバストの2カ所を測る手法ではなく、アンダーサイズとワイヤーサイズ、バストボリューム(容積)の3カ所を測定。これらのデータを踏まえて商品を提案し、既製品とは一線を画す、精度の高い「着け心地の良さ」を提供する。生産は全て日本の工場で熟練の職人が手作業で行う。
もともと同ブランドは直営店を中心に展開していたが、収益構造を見直すため、百貨店を中心とした商業施設内への出店へと段階的に移行を進めていた。19年2月に最後の直営店である三宮店がクローズし、切り替えが完了。そこで、新客の獲得や顧客の育成といった次の段階へ進むステップとして、ブランドのリニューアルを計画した。
リブランディングの狙いは、「より多くの方に知ってもらい、新規のお客様を増やすため」と卸売事業本部ワコールブランドインナーウェア商品統括部プレステージ営業部部長の大原誠氏は説明する。同ブランドは既存顧客から高い支持を集めているものの、現在、売上高のうち新客が約2割、リピート客が約8割と既存客の割合が圧倒的に高い。そのため、どんなブランドであるかをわかりやすく表現し、新規の客に知ってもらうことを目的に、今年1月13日に「デューブルベ」から「ワコールサイズオーダー」へとブランド名を変更した。
サイズオーダーというサービスは、ワコールがスローガンとして掲げる、各消費者に〝ぴったり〟を届けるという意の「MEET YOUR JUST.」とも合致しており、その意を象徴するブランドとして成長させたい考えだ。
昨年10~12月にかけては、接客用アプリを導入。同ブランドはサイズを豊富に揃え、独自の採寸や丁寧な接客を行う一方で、課題も抱えていた。従来の接客時間は平均で約60分かかり、サイズも複雑で多岐に亘る。売場ではワコールの他のブランドも扱っているため、「接客経験の浅いビューティーアドバイザー(販売員)は、ワコールサイズオーダーを勧めることにハードルの高さを感じていた」と大原氏は当時の状況を振り返る。
そこで導入した接客用アプリは、オリジナルサイズの測定や商品スタイルの選択、デザインの案内、商品が届く日程などを、接客時にアプリの流れに沿って入力することで、確実かつスムーズな提案ができる。これによって、販売員による接客は高いレベルで平準化。経験の少ない販売員にとっても、接客への抵抗感が一気に下がったという。販売員が勧めるのに積極的になれば、新客の獲得や認知拡大に繋がり、極めて効果的な一手であったと言える。
さらに、接客時間が平均で約30分とアプリ導入前に比べて大きく短縮。これによって、「従来の採寸から商品提案にかかる時間が短くなった分、むしろお客様とのコミュニケーションを密に取れ、より〝深い〟接客が可能になった」(大原氏)というメリットも生まれた。「1人あたりの接客時間の短縮によって効率を上げることが目的だったが、導入後はまた違うかたちで成果が出せた」と思わぬ効果に喜ぶ。
今後は、ECサイトの利用も積極的に促進する。19年度(19年4月~20年3月期)は売上高の構成比が15%のところを、24年度は約4割を目指す。具体策として、まず今年7月に、リピート注文時のシステムのリニューアルを予定。ワコールサイズオーダーは最初に店舗で採寸し、ECサイトは2回目以降の購入で利用できるが、現在は注文時に客が個人情報やオリジナルサイズを、都度手入力する必要がある。サイズ展開も複雑で入力に手間がかかるため、客のIDと紐づけ、自動でサイズが出るようにする。
EC利用の強化には実店舗の展開も関連する。実店舗は現在33店舗を有し、将来的には約40店舗を想定。ブランドの特性上、売場には一定の接客環境が必要であることから、あまり極端な拡大策は取らない。そのため、実店舗が遠方にある客でも2回目以降の注文は手軽にできるよう、ECサイトの利便性の向上に注力する。
さらに、計測サービス「3Dスマート&トライ」を導入した店舗では、サービス利用者にワコールサイズオーダーを積極的に薦める意向だ。同サービスは、ワコールが独自に開発した「3Dボディスキャナー」を使ってセルフで身体を計測し、約5秒で体型データを得られる。機械が自動で行い、かつ短時間なため、比較的手軽に試すことが可能だ。最近では若年層を中心に、販売員に接客や採寸をされることに苦手意識を持つ人も多い。3Dボディスキャナーをきっかけに自身の身体やサイズ、下着選びに関心を持つ客もいると睨み、新客との接点拡大の機会とする。
大原氏は「最近では外見や体型の多様性を受け入れる、『ボディポジティブ』という考え方が広がっている。ワコールサイズオーダーでは様々な体型の方に合わせた商品を用意しており、なりたいシルエットや着け心地の良さを提案することで、多くの方の心にも響くのではないか」と今後の展望を語る。認知度の上昇や接点の拡大といった新客への〝入口〟を広げ、一方で既存客に対して店頭の接客やECの利用におけるサービスのレベルを上げる。両軸を強化し、さらなる飛躍を狙う。