2024年11月22日

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【連載 新事業の創出】東急百貨店が食と美を軸に出店加速

デジタル化は加速し、生活者のモノ・コトに対するニーズの多様化や高度化、個性化が進展する。これらの変化もスピーディーだ。この変化に適応していくためには、従来型の百貨店リアル店舗だけでは限界があり、業種業態を超えた新たな事業創造が欠かせない。既に商業開発(不動産)をはじめ、クレジット(金融)、建装事業など、第2、第3の収益源となる事業が育ってきている百貨店もあるものの、マーケット変化に応じた間断ない事業開発・市場創造が問われる。eコマース(EC)市場への対応も課題であろうが、これ以外でも各社各様に「あるべき姿」の実現に向け、百貨店事業を補完する、あるいは相乗効果が高い新規事業の開拓や新しい市場の創造に積極的に挑んでおり、その成果が表れつつある。

 

 

 

東急百貨店の新規事業開発に拍車がかかっている。中でも1、2年は、百貨店で培ったノウハウを生かして開発した専門店業態の出店を積極化。フード、コスメ、ファッション(雑貨含む)領域で新業態を開発し、東急沿線を中心に新規開業並びに改装した商業施設への出店を加速させている。

あざみ野東急フードショースライス 東急フードショーカフェ

△あざみ野東急フードショースライスのカフェ

 

△東急プラザ渋谷の「KAZURA」

19年末までに開発してきた専門店事業の業態は、フードで「東急フードショー」、「東急フードショースライス」、「東急フードショーエッジ」の3業態、コスメで「+Q(プラスク)ビューティー」と「ShinQs ビューティー パレット」の2業態、ファッション・雑貨のセレクトストアで「+Qグッズ」、「428(シブヤ)‐224」、「KAZURA」、「ワコール+Q」の4業態を開発してきた。これらに東急プラザ銀座に出店しているファッションのセレクトストア「HINKA RINKA」を加えて10業態を数える。「東急百貨店の強みを生かせる領域の専門店業態がラインアップされた」(経営統括室事業開発部兼営業政策部専門店開発部担当部長伊藤正貴氏)。

 

これらの専門店業態の中で、特にデベロッパーからの出店ニーズが高い領域がフードとコスメ。両領域とも「ワンフロアレベルのフルラインから、ゾーンレベルの複数区画の編集型、ユニット単位(単一区画)の出店まで、物件の規模や求められる品揃えのグレードに応じて出店できる汎用性のあるフォーマットを持つことができた」(伊藤部長)。複数の出店フォーマットが形成され、今後は東急グループの商業施設だけでなく、グループ以外の商業施設や駅周辺なども視野に、拡大戦略を進めていく。

 

専門店事業が成長してきた要因の1つが組織体制の整備にあろう。専門店事業、EC・通販事業、人材サービス事業分野における新規事業開発に関わっているのが18年8月に組織された事業開発部。東急百貨店は18年度からの中期三カ年経営計画で、より多様な提供価値を創出する「融合型リテーラー」を掲げて独自の新たなビジネスモデル構築に挑戦しており、これを推進するために設置された。

 

主な業務は「全社のマーケティング」、「事業と業態や物件の新規開発」、「新規の事業や出店の可否判断」で、「新たな事業を開発して、百貨店事業を含めた既存事業との組み合わせにより新しい事業構造の構築を目指す」機能を担う。

 

事業開発部は、前中期計画で取り組んできた「専門店事業戦略」の成果と経験が新規事業の領域に広がり、設置された。専門店事業戦略を本格化させていくために17年に営業政策部内に専門店開発部を設置。ここから業態開発の幅が広がってきたものの、さらに開発・出店を積極化させていくために事業開発部が組織された。事業開発部の部長は専門店開発部も兼務しており、両部が連携して専門店業態を開発・出店してきた。

 

ShinQs ビューティー パレット 南町田店

△南町田のShinQs ビューティー パレット

今春は、強みのフードとビューティーが融合した新業態開発にも挑戦する。新たに生まれ変わる「五反田東急スクエア」の2階に、初めてのトータル提案型専門店として「+Qスタイル」(店舗面積約780平米)を出店する。五反田東急スクエアの核テナントの役割を担う。駅利用者の有職女性の関心が高いコスメティック、ファッション、フードの3領域を集積する。コスメは「ShinQs ビューティー パレット」、フードは「東急フードショースライス」で展開する。専門業態を組み合わせて新業態に進化させるまでノウハウが積み上がってきた証しでもあろう。

 

専門店事業は20年度は拡大フェーズに入る。新規事業は「融合型リテーラー」の核となる戦略に他ならず、専門店事業も一翼を担う。独自の成長戦略が着々と進展してきている。