共創ディベロッパーを担い、池袋に活動領域を拡大 サンシャインシティ川上常務に聞く
専門店街アルパ内にある4層吹き抜けの大空間「噴水広場」
「サンシャインシティ」にとって大きな転換点となったのが、開業45周年にあたる2023年だ。同年4月に掲げたサンシャインシティグループの新ビジョンは「誇りや愛着を抱く“まち”を創る“共創ディベロッパー”」。これを契機に施設の運営のみならず、これまで培ってきたノウハウを生かし、外にも打って出ていく活動を加速させた。豊島区、特に池袋エリアに活動領域を広げ、まちづくりに積極的に取り組んでいる。22年に産官学が一体となり立ち上げた「池袋エリアプラットフォーム」ではサンシャインシティが理事長・事務局となり、地域と一丸となったまちづくりを本格化させている。
サンシャインシティが開業して早46年。年間3000万人超を呼び込む大規模複合施設の強さは未だ衰えていない。そこでサンシャインシティ常務取締役の川上裕信氏に、複合施設が持つ強さや専門店街「アルパ」の現況、地元を中心としたまちづくりなどについてお聞きした。
サンシャインシティ常務取締役 川上裕信氏
――サンシャインシティは展示ホール、博物館、劇場、水族館、展望台など集客施設が多いですから、コロナによる影響が大きかったのではないですか。
コロナ禍で来館者数が落ち込み、厳しい3年間でした。それまでは14年度から毎年3000万人を上回る来街者数が続いていました。20年度は緊急事態宣言の発出を受け、他の施設同様に、4月から一部生活必需品のショップを除いて2カ月程度の臨時休業を行いました。その後も国や東京都の指針に則った運用を行った影響で、20年度の来街者数は2000万人を下回りました。21年度は2000万人台に乗り、22年度は2670万人へと回復し、コロナが5類に移行した23年度はコロナ禍前の19年度と同じ3080万人に達してV字回復となりました。24年度は3100万人を上回るとみています。
――専門店街アルパの動きはどうですか。
アルパもコロナ禍前まではコンスタントに売上げを伸ばしてきましたが、やはり20年度からの3年間は落ち込みました。それが23年度には前年比で131%の331億円の売上げを計上。これは過去3番目となる売上高です。過去最高売上高は、バブルの頃の1991年の333億円です。24年度に入っても勢いがあり、今期は過去最高売上げを更新できると予測しています。
――アルパ好調の理由は何ですか。
複合施設としての特性もありアルパには、幅広い年代で多様なお客様が来街されています。ヤングファッション店舗を配置している地下1階には20代、30代の若い層、1階は近隣にお住まいの方やオフィスワーカーが多くみられます。2階はファミリーからインバウンドに至るまで幅広い層に支持され、3階のレストラン街は平日、休日問わず幅広い年代層に利用されています。
アルパで今一番勢いがあるのが、キャラクターショップを集積している2階です。キャラクターショップの集積は「ディズニーストア」や「ジブリがいっぱい どんぐり共和国」「サンリオ ビビティックス」などがある地下1階から始まりました。14年の2階リニューアルに合わせて導入した「ポケモンセンター メガ トウキョー」を皮切りに「クレヨンしんちゃん シネパレード THE MOVIE OFFICIAL STORE」「ONE PIECE 麦わらストア」などを順次加えていった結果、地下1階と2階合わせて国内最大級と言えるほどの集積ができました。アルパならではの強みです。
キャラクター好きの方は思っていた以上に幅広く、お子さんを連れたファミリーだけでなく、アニメで育っている20代、30代の大人の方や外国人からも好まれています。キャラクターショップを集積する前の2階はアウトドアやリラクゼーションなどをコンセプトにした展開をしていましたが、このリニューアルをきっかけに幅広い客層を呼び込み、活性化しました。
――サンシャインシティは開業して46年が経ちますが、年間3000万人超を動員して勢いが落ちていません。館内に多くの集客施設がありますから、それによる相乗効果も大きいのではないですか。
サンシャインシティのオフィスビルには1万2000人近いオフィスワーカーがおり、平日はアルパ、アルタからなるショッピングセンターの支えになっています。広域からの来街者が多い土日との補完関係が取れ、平日と休日との差が他施設に比べて大きくないと考えています。キャラクターにしても、アルパでキャラクターショップを展開するだけでなく、噴水広場などを会場にしてキャラクターイベントを開催してシナジーにつなげます。この4月にはキャラクターショップが参加して、キャラクターによるステージイベントなどを楽しめる「キャラもりっフェス」を開きますが、多くのお子様連れのファミリーに来ていただけると期待しています。
「サンシャイン水族館」(天空のペンギン水槽)
館内には噴水広場だけでなく1ホール1000坪超を含め展示ホールが4つもありますから、イベントを単独でなく噴水広場や展示ホールにも連動させてダイナミックに展開でき、それは複合施設だからこその強みです。例えばサンシャインシティ館内の各施設で沖縄物産展やライブステージなどを展開する「沖縄めんそーれフェスタ」は、もう15回も続いています。始めたきっかけはサンシャイン水族館が2006年から沖縄県恩納村と共同でサンゴの保全活動に取り組んでいたことで、そこから恩納村観光協会を介して同イベントの開催となったことも、複合施設だからこそと言えます。年間約120万人が入場する水族館も館内の施設にシャワー効果をもたらしていると考えます。
――専門店街アルパの中心部にある「噴水広場」は地下1階~3階まで4層吹き抜けとなっており、常にイベントが開催されています。まさにここが集いの場になっていて、存在感が大きいですね。
実はこの春、噴水広場の大型ビジョンを更新するために工事で閉鎖していました。お客様には寂しい思いをさせてしまいましたが、より高解像度のものにバージョンアップして3月下旬から再開し、イベントも始まっています。噴水広場では音楽系のライブイベントをはじめトークショー、企業のプロモーション、観光PR・物産展といったように多彩な催しが開かれ、かなり先までイベントのスケジュールが埋まっている状況です。
――サンシャインシティに来街される顧客のプロフィールは。
来街者のうち、豊島区、練馬区、板橋区、文京区、北区の近隣5区で約45%、その他の23区と東京都下を合わせた東京で7割程度を占めています。首都圏の主要都市には大型商業施設の開業が相次いでいるもののあまり影響は感じられず、アクセスに恵まれている埼玉県からは15%程度の来街比率があり、千葉県、神奈川県が後に続きます。
今、我々はSNSなどを通じて足元商圏顧客へのアプローチを強めており、地元ファミリーを対象にしたイベントも強化しています。というのも、豊島区は23年の「人口増減率ランキング」で全国3位にランキングされ、ファミリー世帯と単身者を中心に豊島区の人口が増加傾向にあるからです。これに加えて池袋駅東口、西口を含めて大型の再開発が進んでおり、すでに当施設の周辺もタワーマンションが幾棟も建ち、豊島区による公園も整備されています。新しく住まわれる人が増えたことで、当施設に来街する足元のお客様が増えています。池袋駅からサンシャイン60通りを通って地下道から来街される人が大半を占めていましたが、最近は足元からの来街が増えたことで、1階入口からの来街増が顕著です。
サンシャイン60ビルの60階にある展望台に「てんぼうパーク」という名称をつけたのも、足元商圏顧客強化の一環となるものです。
「サンシャイン60展望台 てんぼうパーク」(てんぼうの丘)
――てんぼうパークについて教えてください。
豊島区は16年から20年にかけて、池袋駅周辺にある4つの公園を整備しました。その1つである「としまみどりの防災公園(愛称:イケ・サンパーク)」は当施設のそばの東池袋にありますが、ここも人が集える楽しい公園に一変しました。我々はそれに倣い5つ目の公園を目指し、23年4月に「サンシャイン60展望台 てんぼうパーク」として展望台を全面リニューアルしました。これによって展望台がピクニックを楽しめるような設えになり、今では平日午前中からお子様連れが集うようになりました。
――都心では渋谷、新宿、品川、日本橋、東京駅周辺などで大規模再開発が進んでおり、これからさらに都市間競争が強まる様相です。
池袋でも大型再開発が動き出しているだけでなく、産官学が一体となって池袋ならではのウォーカブルなまちづくりがスタートしました。それが「池袋エリアプラットフォーム」です。サンシャインシティ・東京建物・UR(都市再生機構)・豊島区の4者が事務局となり、企業・団体・学校など66の団体が会員となって、22年11月に発足しました。
池袋エリアプラットフォームが目指すのは「通りや建物がみどりあふれる気持ちの良いまちなかになっている」「公園やストリート・公開空地などで、多彩なスポーツなどのプログラムが行われ、人々がいきいきと活動している」「アートなどの文化・芸術がまちなかで感じられ、日常になっている」「学生や外国人、ワーカーなどの交流が生まれ、まちなかがオープンラボ化している」といったシーンが生まれる“感動共奏都市”です。
――池袋駅は1日の平均乗降客数が260万人以上に上り、新宿駅、渋谷駅に次ぐ国内3位を誇るほど、多くの人が訪れているまちですね。
池袋が「駅袋」と言われてきたように、乗り換えなどで駅構内にとどまったり、駅に直結した商業施設で用を済ませてしまったりで、駅から外に出て街中をあまり回遊していないのが現状です。乗降客数の25%程度しかまちに出ていないと言われています。これを30%、40%へと引き上げるにはウォーカブルなまちづくりを進め、回遊したくなるような魅力あるまちに変えていくことが肝要となります。
池袋エリアプラットフォームによる社会実験「IKEBUKURO FURNITURE TRIAL」
池袋エリアプラットフォームがこれまで行ってきた活動の1つが、ウォーカブルなまちの実現に向けた社会実験です。昨年10月には池袋の歩道や公園にファニチャーを設置して街中にくつろぎ空間を創る「IKEBUKURO PUBLIC FURNITURE TRIAL」という社会実験を行いました。設置したストリートファニチャーから利用者の回遊行動や属性を調査して、池袋のまちを一層心地良い空間へつなげるための取り組みです。また、池袋エリアの価値向上のため携帯基地局、GPS、消費額などのデータを活用し、人の動きを捉えながらそのエリアでどのような消費が行われたかを分析し、様々な施策につなげる取り組みも行っています。
ウォーカブルなまちをつくり上げるには時間がかかるかもしれませんが、「地域の発展なくして当社の成長なし」と肝に銘じ、官民が一体となって前進させていきたいと思っています。
(聞き手:塚井明彦)