三菱地所、丸の内に就労継続支援A型事業所を開設
施設開業の発表会の様子
三菱地所は、障がい者特化型DXプラットフォーム「NEXT HERO」事業を手掛けるVALT JAPANと協業し、新大手町ビル内に「デジタルイノベーションセンター丸の内 supported by 三菱地所」(以下、DIC丸の内)を開設した。千代田区唯一の障がい者継続支援A型事業所となる。三菱地所とVALT JAPANは協働して障がい者就労事業に取り組み、今後5年間で全国に20センターの開設、約1000人規模の雇用を目指す。
三菱地所は、「成長産業の共創」を目指すコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンド「BRICKS FUND TOKYO」を運営している。これを通じて社会課題の解決や産業構造の転換といったテーマに取り組み、社会インパクトの創出を担うスタートアップへの投資や成長支援などを行っている。
三菱地所代表執行役執行役社長の中島篤氏
2024年1月に出資したVALT JAPANとは、出資を通じたインパクト投資領域における初の事業共創事例となる。また、「今回の事業共創は、三菱地所グループサステナブルビジョンにおける持続可能性の4つの重要テーマのうち、『人を想い、人に寄り添い、人を守る』と『新たな価値の創造と循環』に資する取り組みとなる」(三菱地所代表執行役執行役社長中島篤氏)。
DIC丸の内開所の発表会に出席した千代田区の樋口高顕区長は、以下のようにあいさつした。
「千代田区としては、DIC丸の内を2つの点から応援します。1つは千代田区内になかった障がい者就労継続支援A型事業所が開所され、選択肢も増えること。2つ目は、私が公約の1つとしてきたことでもあります。千代田区は早くから都市化が始まった街で、いろんな都市ストックがあります。これから千代田区の街はどうなっていくのか考えた時、大丸有では都市の機能ストックを活かし、デジタル、DX、グリーンなどを駆使したウォーカブルな街づくりに取り組まれています。それは、持続可能に成長できる都市再生を考えている私とも合致します。ぜひとも応援していきたい」
樋口高顕千代田区長
「就労困難者の大活躍時代をつくる」をビジョンにして14年に創業したVALT JAPANは、障がい者特化型DXプラットフォーム「NEXT HERO」を運営している。これは民間企業から受注した400種類以上の仕事を確保して納品や品質に責任を担い、働く障がい者が安心して参加できる仕組み。
そして「NEXT HEROを事業基盤にして新たな未来づくりに挑戦するのが、『NEXT HERO DIC MARUNOUCHI』。『日本を代表する、企業が集う丸の内で就労困難者と企業が共につくる新たな社会インフラ』をコンセプトに立ち上げた」とVALT JAPAN代表の小野貴也氏は説明する。
VALT JAPAN代表の小野貴也氏
三菱地所と協業して丸の内にデジタルイノベーションセンターを立ち上げたのは、三菱地所が丸の内を中心としたまちづくりで独自の知見とノウハウを持ち、幅広い企業と協業してビジネス創出を推進しているためだ。加えて大丸有のポテンシャルの大きさにある。同エリアには鉄道網が28路線13駅あり、事業所数が約5000社、上場企業数の売上高が約155兆円にも上っている。
DIC丸の内は精神障がい者、発達障がい者を対象に雇用契約を結び、契約した雇用者は証憑データ入力、サイト情報のデータベースの更新、書類のデータ化サービス、データ校正作業、AI関連業務(AIアノテーション)などを行う。基本的に週20時間以上就労する。営業時間は9~18時(サービス提供時間10~15時)。初年度は定員20人、2年目から雇用数を増員して40人程度とする。
小野代表は「千代田区、千代田区以外も含めて仕事をしたい人を雇用し、三菱地所、三菱地所グループ、大丸有エリアの各企業からデータ入力といったデジタル業務を集める。雇用した方がデジタル業務のスキルを高めたら卒業していただき、各企業に就職していくという出口戦略を実行していく」と展望を描く。
なお、DIC丸の内が開設した障がい者就労継続支援A型事業所とは、「障がい者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(障害者総合支援法)における就労系障害福祉サービスのうち、一般企業に雇用されることが困難な人で、雇用契約に基づく就労が可能である人に対し、事業所が直接雇用契約を締結して就労や生産活動の機会を提供するもので、同A型事業所は23区内では初となる。
両社による障がい者就労支援事業は、DIC丸の内が軌道に乗り次第拡大に入る。都市と地方の両モデルを両立してDICを1都3県に拡大し、5年で20センターを開所、約1000人規模の雇用を創出すす。将来的にはロンドン、ニューヨーク、ソウル、北京などを対象にグローバル展開にも踏み切る計画。
現在、障害や難病があり、働く意志があっても働けない「就労困難者」は1500万人(労働力人口の5人に1人)にのぼるといわれている。また、950万人いる障がい者の一般就職率は約6%(60万人)にとどまっており、厚生労働省の「令和4年障がい者雇用状況の集計結果」によると、民間企業の51.7%が障がい者の法定雇用率を下回っているという。DIC丸の内モデルを全国に拡大していく戦略は、労働力の不均衡と障がい者が働きづらい環境にある経済損出を解決する活路として、加速していく構えだ。
(塚井明彦)