2025年03月01日

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JR東日本グループの成長戦略 喜勢陽一社長が語る

高輪ゲートウェイ駅前の再開発イメージ

先ごろ、パシフィコ横浜で日本ショッピングセンター協会による「第49回日本ショッピングセンター全国大会」が開かれた。会期中の3日間(1月22日~24日)で、商談展示会に延べ約36920人、セミナー・懇親会パーティに同約550人、接客ロールプレイングコンテスト全国大会に同約2000人、合わせて同約3万9470人の参加者があった。1月22日の基調講演では東日本旅客鉄道代表取締役社長の喜勢陽一氏が「JR東日本グループの成長戦略~TAKANAWA GATEWAY CITYを中心に~」をテーマに語った。ここでは喜勢社長によるその基調講演を紹介する。

右が東日本旅客鉄道の喜勢陽一社長

都市・地方・世界を舞台にまちづくり

私どもは鉄道を中心としたモビリティと、お客様の様々な生活シーンとつながっていく生活ソリューションの2軸に支えられる経営構造に取り組んでいるところです。ここではお客様の生活シーンにどうつながっていくかの生活ソリューションを3つの切り口でお話させていただきます。1つは3月27日に開業する「TAKANAWA GATEWAY CITY」を中心にしたまちづくり、2つ目は駅空間をもう1回リデザインする「Beyond Station構想」、3つ目は昨年12月に発表した「Suica Renaissance構想」についてです。

生活ソリューション構想で目指すのは、2023年を出発点にして10年で生活ソリューションの売上げ・利益を倍にすることです。その鍵になるのがSuica Renaissanceで、不動産事業を成長領域にしていきます。私どもは2018年に10年の成長戦略となるグループ経営ビジョン「変革2027」を発表しました。その中でグループが事業活動するまちづくりのステージを3つに分けています。1つ目が都市を快適にしていく。2つ目が地方を豊かにしていく、3つ目が世界を舞台にしていくということです。

これら3つのステージでまちづくりをしていく中で、東京圏において戦略地域に捉えているのは新宿、東京、広域品川圏、渋谷、池袋、上野などです。新宿においては京王電鉄様と一緒になって進める新宿駅西南口の開発があり、JR東日本本社ビルの隣接地に再開発ビルが整備されます。新宿はこれにとどまらず、かつて「マイシティ」と呼ばれていた一体の再開発も計画しています。東京は東京駅を中心として大手町や丸の内に加え新橋まで再開発の視野に入れ、エリアのバリューを高めていきます。広域品川圏となるのは浜松町、田町、高輪ゲートウェイ、品川、大井町です。大井町で進めている再開発(OIMACHI TRACKS)は26年3月にまちびらきとなる予定です。

東京から10キロ圏のエリアの中では横浜、大宮、千葉などで大型の開発計画があります。横浜については西口の開発は完成していますが、次は東口となります。「ステーションオアシス」と呼ばれる郵便局を中心とした再開発事業で、ルミネも開発の視野に入れ進めていくことになります。昨年再開発組合も立ち上がりました。大宮は大宮駅を中心として周囲を含めた再開発、いわゆる「大宮駅グランドセントラルステーション化構想」です。千葉については千葉駅で千葉ステーションビルがペリエを運営させていただいていますが、今度の開発は千葉駅に隣接して私どもの支社ビルがあったところが移転して開発用地となったので、そこと一体となった開発をします。

地方については私どもの力だけでできるものでなく、地域の皆様と一緒になって地域のバリューを掘り起こし、元気な地方にすることをまちづくりのテーマとしています。すでに完成している事例となりますが、秋田(ノーザンステーションゲート秋田)は秋田駅を中心にして地元の皆様と一緒に取り組みました。自社ビルは何も駅のそばにある必要がないので、セットバックして開発用地に充て、そこに地元の施設、スポーツ施設、シルバー向け施設などを設け、秋田駅を中心に線路を挟んで周辺も開発しました。今までの秋田は人の流れが外に向いていました。3年前のことですがこの開発後26年振りに地価が上昇したのは、バリュー効果が出たのではないかと思っています。

全面的に建て替えたのが青森の駅ビル(JR青森駅東口ビル)で、駅ビルというとお土産やファッションとか飲食・物販のイメージが強い。しかし青森駅東口開発では健康をテーマに定め、地元の観光事業や医療を運営しているホテルができました。青森は日本一の短命県であるので生活習慣病をウエルネスホテルに滞在されて診療することができます。またここには国内外のお客様を結びつけるツーリスト拠点もできました。その他、盛岡(リビスタ盛岡)、磐城(いわき駅南口開発)、新潟(新潟駅高架下開発)などの開発も完了しています。

TAKANAWA GATEWAY CITYに建設予定の文化施設「MoN Takanawa:The Museum of Narratives」のイメージ図

「100年先の心豊かな暮らしのための実験場」をコンセプトに開発

本日の本題であるTAKANAWA GATEWAY CITYについてお話します。ここの土地は昔車両基地でした。700~800両の車両を常時止めていたところが、今まで常磐線で上野止まりだったのが、上野東京ラインが開通したころで品川へ抜けるようになり、車両を留置しておく必要がなくなりました。そこで大宮方面と鎌倉の方に車両を留置し直すことにより、13へクタールの土地を生み出しました。このまちづくり構想を発表したのが平成14年ですから、3月27日のまちびらきによって20年来の夢が実現する運びとなります。

このまちの特徴は、これまでは大手デベロッパーと共同で開発してきたのに対し、ここは我々のグループ単独開発となります。グループ単独の開発なので1つのコンセプトのもとにまちをつくる。そのコンセプトは「100年先の心豊かなくらしのための実験場」です。開発面積は10ヘクタール。おそらく都心ではこれだけまとまった規模の開発はこれからもう出てこないのではないでしょうか。総事業費は6000億円。このまちができることによって現在2万人程度の高輪ゲートウェイ駅の乗降客数が20~25万人位となり、恵比寿駅に匹敵する規模になると思います。

国家戦略特区に認定されているここは交通の利便性にも恵まれており、羽田とは14~15分で結ばれているうえ、いずれはリニアが入ってきます。それから白金で終点になっている南北線が品川の前まで延伸され、31年(予定)にはここに駅はできませんが、羽田空港直通の「羽田空港アクセス線」が開通するなどで羽田空港へのアクセスがいっそう良くなります。そしてこのまちは高輪ゲートウェイ駅を降りたここを基準階として、一帯がデッキで結ばれます。品川の駅も高輪方面まで含め同じ基準階で結ばれるまちになっていくのです。

明治5年は、鉄道が日本に初めて開業した重要な年です。新橋~横浜間に鉄道が開業しました。そのとき今開発しているゲートウェイのところは、陸上に線路が敷けず約2kmに亘って海上に土手をつくり、その上に線路を敷いて鉄道が走りました。鉄道というのはこのようなイノベーションを起こしてきた、まさに先端技術の塊であった訳です。

高輪全体の開発を2期に分けてまち開きする予定です。10haの開発面積のうち品川寄りの3haは2期の開発になります。開発が2回になったのは、今京急電鉄の路線は高架になっていますが、これを高架から地上に降ろす計画になっています。そのため今高架になっている線路を一旦開発用地にして、地平に降りた段階でまた戻すのが27~28年頃。そこから開発するということになります。従いまして、10haのうち3月27日の第1期で約7割が開業することになります。

ここにまちをつくるのに、「地球益」をコンセプトに掲げました。この100年位の経済、生活活動において、環境問題も含めて私どもは地球に大きな負債をもっているのではないでしょうか。このまちの色々なモチベーションによってその負債を返し、さらにポジティブな方向に向けて「地球の利益」を上げていくため、このまちで様々な実験をしていきます。一定の成果を得られたら、国内外含めて実装していきます。社会実装して課題が出たらこのまちに戻し、さらに高めて次の社会実装をしてというサイクルを回すことで、新しい利便性や新しい価値、広くいえば世界にイノベーションを発信していくことを考えています。

地球益実現に向けて3つのテーマを掲げています。「モビリティ」と「環境」と「ヘルスケア」です。モビリティでは、自動運転を含めて様々な人の生活を支えていくことを推進します。環境は、このまちはまちびらきした時からカーボンゼロの街であり、しかも水素の可能性をこのまちで実装していきます。水素の可能性をこの街で追求していきたいです。ヘルスケアは、健康や運動など今までにないデバイスをつくり、ヘルスケアの提案をさせていただきます。まず高輪ゲートウェイ駅前のツインタワー、「THE LINKPILLAR 1」(以下TLP 1)がまちびらきし、25年度中に残りの3棟が順次竣工して26年春には全体がグランドオープンを迎えます。

なぜTHE LINKPILLARという名前にしたかというと、LINKとは連環のことであり、様々なこのまちに集うプレイヤーの皆さんが結びついていく。PILLARとは柱。未来に向かって日本を高めていくという意味合いからLINKPLLARとしました。TLP 1(延床面積約46万㎡)は観光拠点が入ります。名称は「TAKANAWA GATEWAY Travel Service Center」で、最新映像技術を活用し、行ってみたい日本の観光拠点が没入感をもって体験できるタッチサイネージが登場します。TLP2(同約20万8000㎡)はオフィス、クリニックなどを併設しています。特にオフィスとクリニックにこだわり、フィットネスではトライアスロンができるような機能が集まります。

TAKANAWA GATEWAY CITYでは自動運転などモビリティの機能を持たせる

「ニュウマン高輪」、100年先の未来を見据えて3つの挑戦

商業空間について説明します。ここの商業空間を担うのは新宿、横浜でニュウマンを運営しているルミネの「ニュウマン高輪」です。全体の延床面積は約6万㎡、約200店舗となります。ニュウマン高輪は既存のニュウマンあるいはルミネと違って100年先の未来を見据え、3つのチャレンジをしてここならではの店舗展開をしていきます。

1つは100年先の未来、まだ我々が見ていないような新しい生活価値に挑戦すること。2つ目が地球の価値づくりへの挑戦。3つ目が地域とともに歩む街づくりへの挑戦です。地域から独立したものでなく、地域にしみ出していくような、そういうまちにしたいと思っています。地域の皆さんにも生活の利便性を感じてもらえる、そういうコンセプトで展開していきます。ニュウマンは単なる商業施設でなく、TLP1 NORTHの28・29階に植物園を設け、植栽のなかで飲食を楽しめるレストラン街もつくります。

アカデミズムに関しては、東京大学が高輪キャンパスを開設します。スタートアップエコシステムの構築やスタートアップ企業の海外進出の相互支援を目指して、シンガポール国立大学とも提携しました。様々なスタートアップの皆さん、このまちに集う様々な組織や企業の皆さんがコラボレート、共創することで新しい価値や新しいビジネスを生み出していく。こうしたものをファイナンスで全体をサポートする全体のエコシステム「高輪地球益ファンド」を設けました。まず50億円のファンドを付けて、新しいチャレンジに対してファイナンス面からサポートする予定です。そしてスタートアップの様々な企業が何か新しいビジネスを生み出していく仕組みとなる「LiSH」というビジネス創造施設もつくりました。

このまちは「都市OS」を活用して全体のまちづくりをしています。初めての都市OSである所以は鉄道輸送とリンクした取り組みをしていることにあります。この都市OSから様々な利便性が生まれてきます。より利便性の高いSuicaにしていくためのSuica Renaissanceもこのまちでの都市OSで新しい展開を考えていますし、様々なデータを使って商業展開される皆様には新しいお客様を捉えるビジネスチャンスを高めることができると思っています。このまちは様々なロボットが動き回ります。ドローンがものを運んできて、配送ロボットがドローンから荷物を受け取ってレジデンスに運んでいくなど、モビリティロボットはこのまち全体の混雑状況を把握できるので混雑を避けながら最短で目的地に着くことが可能です。

文化施設をつくることにもこだわり、6層からなる特徴的な文化創造棟(同約2万9000㎡)を隈研吾先生にデザインしていただきました。ここも何かを展示すれば良しとするのではなく、日本の伝統を加えながら今の日本、そして未来の日本をはじめ、世界の様々なものも含めてここから発信していきます。文化創造棟の名称は「MoN Takanawa:The Museum of Narratives」で、地下には1200席の空間をつくります。高輪は昔から月の名勝であるので、屋上にある足湯で月をめでる、といったことも考えています。単なる劇場とか展示館でなく、日本のどこにもないような施設となります。

そして一番田町寄りに建つのが「TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE」(同14万8000㎡)です。ここは850戸全てを賃貸にしました。やはり分譲にするとまちが老いていきます。賃貸なら入居する方がその都度入れ替わることによって、常にまちが若さを保持できます。高輪は大使館が多いので、大使館の方が駐在されるような外国の方が利用できるスペックでの住宅とし、下層階にはインターナショナルスクールが入りグローバルな教育ができるようなレジデンスにしました。

環境については、CO2排出量をゼロにします。そのためTLP 2の下には巨大な蓄熱槽を導入します。ここで全体のエネルギーをマネジメントしていきます。あるいは飲食や商業施設から出る植物残渣を使ってバイオで発電します。発電したエネルギーは、ホテルの光熱費の約10%を賄います。

このまちの実験で特筆できるのは水素で、モビリティだけでなく様々な都市エネルギーに水素を使っていきます。水素ステーションについては、物流のトラックを水素仕様にします。まちの中に物流施設を作れないので外部に物流拠点を設け、その間をむすぶトラックをFCVにしていく。単なるCO2ゼロでなく新しいエネルギーに挑戦して環境に対する取り組みをしてエネルギーマネジメントしていくということです。

Beyond Station構想で、新たな駅空間を創造

次は2つ目の大きなテーマである「Beyond Station構想」についてです。Beyond Stationとは駅の空間をもう一度デザインし直す取り組みです。これから日本は間違いなく人口が減少していきますから、当たり前のように通勤、通学のお客様がいらっしゃるのを前提にした今までのビジネスでは早番どこかに限界がくることを踏まえ、1度駅のあり方を構想し直そうということです。

駅は電車を乗り降りするための空間、つまり通過するための駅です。平成14年に上野駅の改札外に「アトレ上野」をオープンしました。平成17年には大宮駅のエキナカにエキナカビジネスの1号となる「エキュート大宮」を開設しました。その時のコンセプトは「お客様が集う駅」です。

そして今我々が目指しているBeyond Stationのコンセプトは、お客様の生活と様々につながっている駅をつくることです。物販や飲食も大切ですが、それを越えて広がりのあるいろんな生活とつながっていけるような、そういうビジネスの拠点にします。もう1つの役割としては、駅空間から新しいビジネスが生まれていく、そうした産業創出の拠点です。このような構想で駅、駅ビル、高架下などでの使い方をゼロベースで見直していくのがBeyond Station構想です。

2年前から始めており、具体的な事例の1つは「スマート健康ステーション」です。駅の中に、オンラインのブースも備えた医療施設をつくりました。最初に開設したのが西国分寺の駅のホームで、NewDaysがあったところを医療スペースに替えました。一番奥にブース型のオンラインスペースがあり、内科の先生がいる診療スペースがあります。今の季節だと花粉症のお客様が通勤の途中に立ち寄って診療されたり、通勤前に血液検査をして勤め帰りに検査結果を聞くのに立ち寄るという使い方をされます。これからは薬でも連携して、処方箋をもらって新宿で降りるお客様であれば、通勤途中に新宿にある薬局で薬を受け取れるような使い方を考えています。

スマート健康ステーションは東京圏でいうと現在東京駅、上野駅、阿佐ヶ谷駅、鶴見駅、地方では仙台駅にもあります。まだ今は規制があってできませんが、オンラインブースだけの単独型の空間も含めて、スマート健康ステーションを首都圏にも地方にも拡大していきます。

2つ目は産業の拠点づくりで、燕三条でマッチングスペース「燕三条こうばの窓口」を開設しました。例えば「これをつくってほしい」と考えた時に、どうすればいいかわからない人に対して「ここでつくれますよ」と応じられる場です。大変好評を博しています。地域の産業振興のお手伝いをしたい、それで産業振興すれば雇用創出の一助になれるのではという想いで企画しました。

ほかに、東京駅にステーションカレッジ「学びの施設」をつくったり、那須塩原駅に子ども食堂とお子様の教育施設をつくったりしました。それから駅そのものに細工して広告空間にする取り組みがあります。上野駅、新宿駅、秋葉原駅で、駅丸ごとメディアステーションにする構想を順次進めており、新宿駅では50m近い1つのスクリーンがサイネージと連動することでイマーシブなメディア空間になり、上野は広小路口のところで5m×10mのデジタルサイネージがあり、3Dでも訴求できます。

(Suica Renaissanceについては省略します)

(塚井明彦)