1日滞在できる施設に前進した「ビナウォーク」 【支配人 石田裕司氏インタビュー】
神奈川県海老名駅前にある「ビナウォーク」が1日滞在できるショッピングセンターに前進した。同施設は開業以来地域とのつながりを持ち、官民学と連携したイベントを展開。コロナ禍を契機にさらに地域との共生を一段と強めたイベント施策を打ち、リニューアルでも地域共生を反映させた新施設などを開設した。そこで小田急SCディベロップメント海老名営業室支配人の石田裕司氏に、“1日滞在できる施設づくり”についてお聞きした。
――GWはフードフェスタ、夏は盆踊り、秋は文化祭、冬にはスケートリンクといったように、ビナウォークが開催されるイベントは多彩であり、集客力もあるようです。
ビナウォークはコロナ禍による影響が都心部にある店舗ほどなかったとはいえ、まだコロナ禍前の勢いまでに戻ってはいないものの、売上げも客数も順調に回復を遂げています。新しい生活様式に合わせることが契機となってモノからサービス系へのシフトが強まり、消費者の生活様式も消費傾向も大きく変わり、館内にある約130の店舗にしても業種別の構成に変化が見られます。
我々は2022年頃から街と人に寄り添っていくことを運営方針に掲げ、イベントでも地域との共生を一段と強め、イベントで吸引したお客様を館内リテイラーに反映させる機会をもたらすことを重要な任務としています。我々の施設は、駅に直結していながら約9000㎡の「海老名中央公園」を囲むように立地しており、開放的な特徴を生かし公園と一体となって、街に欠かせないコンテンツとなる大型イベントを開催しています。
――「ビナウォーク校文化祭」はコロナ禍が開催のきっかけになったそうですね。
文化の日がある11月に開くビナウォーク校文化祭は、21年11月に1回目を開催し、24年11月で4回目を迎えましたが、今ではもうなくてはならない地域共生型の代表的イベントです。きっかけは、コロナ禍で演奏や合唱、ダンスなどのパフォーマンスができなくなってしまった海老名市や神奈川県在住・在学の学生さん、神奈川県を活動拠点としている個人・団体の方々に、発表できる場として私どものステージを提供させていただいたことです。毎回、5000人ほどの方々が観覧されています。この文化祭には行政からの後押しがあり、県と市から名義後援と補助金も頂戴しています。
「海老名みんなの夏まつり」も海老名市から補助金を受けています。これも動機はコロナ禍です。というのは、コロナ禍で市民盆踊りが中止となったまま再開の見通しが立たないことを受け、我々民間のSCも隣接している海老名中央公園が盆踊りの主催会場となり得るので、市からバトンを受けビナウォーク主催で23年夏から始めました。公園内に櫓を建て、櫓を囲んでの盆踊りやステージパフォーマンス、昔懐かしい縁日遊びなどのお祭りを展開。以前からお住まいの方だけでなく新たに流入されてきたニューファミリーの方々も踊りの輪に加わり、一夜だけで2万人の人出(24年7月28日に開催した2回目)となり、夏の一大イベントになりました。
――かつて「いきものがかり」がここビナウォークで音楽ライブを開いていますね。
いきものがかりはメジャーデビューする前からビナウォークの大階段ステージ・ビナステップでライブをされており、県央出身とあって多くの人が集まりました。いきものがかりが2人体制をスタートさせた23年5月の凱旋ライブには8000人もの人が詰めかけました。
音楽イベントは開業時から力を入れてきましたが、ややマンネリ化したのか、集客が頭打ちになったこともあってしばらく取りやめていました。最近になって再び音楽イベント強化に踏み切ったのは、昨夏5番館1階に新規出店されたタワーレコードが新譜を出されたミュージシャン紹介のライブイベントを月に2~3回開くようになり、音楽ファンが良く集まるようになったことがきっかけです。
――駅西口側にある「ららぽーと海老名」との共同販促も続いているそうですね。
共同販促はバーゲン時期や初売り、夏休みなどに合同で開いています。我々はイベントにしてもビナウォークの施設に来館者を集めるというより海老名の街に来街者を集めるという気概をもっており、ららぽーと海老名とは競合関係にあっても一緒になって街に人を呼び込むことで利害が一致しています。ビナウォークとららぽーととは歩いて10分少々かかるくらい離れていますが、共同販促期間に限らず普段も両施設を買い回りされるお客様がみられます。それはお客様が持っているショッパーを見ればわかります。特に10スクリーンの大型シネコンやゲームセンターはららぽーとにありませんから、こちらにららぽーとの主要顧客層のお客様も回遊してやってきます。
――やはり大型のシネコンやアミューズメント施設は集客装置となって回遊性を高め、ビナウォークならではの強みともなるわけですね。
コロナ禍に地域共生をテーマに強化したのはイベントだけでなくリニューアルも同様で、エンターテインメントとコミュニティ機能を再強化しました。シネコン、ゲームセンターに続く第3のアミューズメントの核として、5番館の3階にも体験をテーマにしたスポーツアトラクションとお子さんがお絵かきのアクティビティができる大型の屋内テーマパーク「BOOTVERSE(ブートバース)」「らくがキッズ」を設け、エンターテインメントを一層強化した施設としました。
――コミュニティについてはどのようなリニューアルをされたのでしょうか。
昨夏、3番館6階に「ビナSUNホール」を、5番館M2階に「ビナまちリビング」を新設しました。ビナSUNホールは従業員用の後方施設を転用して設けた貸会議室です。各種会議、展示会、研修など様々な場面で地域の方々に使っていただけるように、最大で84名が収容できる駅周辺で最大級となる貸会議室・貸しホールにしました。もう一方のビナまちリビングは空き区画となっていた所を活用して、地域の方々が集い・繋がる・憩いの場となる地域のコミュニティ拠点となる施設を目指しました。ここは我々営業室が自主運営してマネジメントしています。趣味や学びに関わる講座を回してイベント展開していますが、地域に住まわれているシニア層や子育て中のお母さん方など幅広い年代の方々が参加され、まさに地域のコミュニティ拠点となり、想定以上に活用されています。
――1~6番館、ビナフロント、ビナプラスを合わせた8つの館からなるビナウォークそれぞれが持つ特徴と、最近の商況はいかがでしょう。
1階に生鮮を中心にした食、2階にドラッグストア、100円ショップ、3階にスポーツショップ、4階に書店などが入っている「1番館」はデイリー対応の館ですが、海老名駅東側エリアに住まわれている方や相鉄線利用者、1番館そばにバスロータリーがありバス利用者の利用頻度が高いことなどで入館客数に恵まれ、前年をキープできています。
集客力があるのが「5番館」「6番館」「ビナフロント」で、リニューアル効果も出ています。5番館は、ファッションからファッション雑貨、ライフスタイルショップ、ホビー&バラエティ、レストラン&カフェまで多様な店舗を集積しています。街歩きができるオープンモールなので、冬場の今はやや集客力は落ちるものの真冬と真夏以外はよく人が集中し、8つの中で中心的な館です。
集客装置となる大型シネコン(TOHOシネマズ)と大型ゲームセンター(タイトーステーション)に加え、1階に7店舗からなる「ら~めん処」などの飲食店が集まる6番館も集客力があり、売上げ、集客とも安定しています。3~4階にユニクロが入る商業施設とレジデンスからなり、駅改札横に位置する複合型のビナフロントは、一昨年に開業以来初となるリニューアルで2階に新ショップが加わったことで活性化し、改装してから売上げを伸ばしています。
地域共生をスローガンにして取り組んできたイベントと、コミュニティとエンターテインメント強化を主眼にしたリニューアルを手掛けたことで、ビナウォーク全体ではコロナ禍前の実績確保に向け売上げ、客数ともしっかりと回復を辿っています。シネコンで映画を見たり、大型ゲームセンターやアミューズメントパークで遊んだり、館内にある多くの飲食店で食事をしたり、そして海老名中央公園でのイベントを楽しんだりと、ビナウォークは1日中滞在できる施設に前進することができたと自負しています。
(聞き手:塚井明彦)