2025年01月18日

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リニューアルとプロモーション効果で勢いづく浦和パルコ

24年10月、2階に浦和エリア初登場した「le. coeurblanc(ルクールブラン)」

浦和パルコは、ピークだった19年度の取扱高(売上高)を超え、23年度(23年3月~24年2月)に過去最高売上高を更新した。インバウンドがほとんどないにもかかわらず勢いがあるのは、エバーリニューアルとプロモーションによるコミュニティづくりが成長エンジンとなっているからだ。改装効果は続き24年度に入っても快調そのもので、売上げだけでなく、入館者数でも過去最高となる公算が強くなってきた。浦和パルコの強さを探った。


パルコ浦和店店長 金子圭司氏

23年度は春と秋の大改装が集客に寄与

浦和パルコにとって23年は飛躍をもたらす年となった。パルコ浦和店店長の金子圭司氏は「リニューアルは元よりプロモーションから地域連携まで、あらゆる施策を講じた1年間だった」と振り返る。「ライフスタイル、ウェルネス、ファンコミュニティを備えた地域に根差した館として、あらゆるお客様がお買い物とコミュニティがつくれるエクスペリエンスセンターと規定して臨んだ」という23年は、コロナによる行動制限が解除されたことを踏まえ、リニューアルもプロモーションも大掛かりとなった。

春と秋に行われたリニューアルは、過去最大規模となる36区画、全体の15%にあたる5320㎡を一新した。春は、6階に子ども写真館の「ミチュールフォトスタジオ」とマシン専門ピラティススタジオ「ピラティス ケー」、シミュレーションゴルフの「ゼンゴルフレンジ」がニューオープン。

5階レストランフロアには首都圏初の「佐渡廻転寿司 弁慶」(回転寿司)、浦和エリア初の「五穀」(和定食)が登場し、「新宿中村屋 オリーブハウス」「生麺専門 鎌倉パスタ」「叙々苑」が改装オープンした。4階には「エービーシー・マート グランドステージ」(シューズ・アパレル)が加わり、「ラックラック」「タワーレコード」「レゼール」がリニューアルした。

秋には、2階に関東最大規模の「ドゥ・セー」(ライフスタイルショップ)が、3階には埼玉県最大規模の「3COINS+plus」(生活雑貨)が新規オープンした。3階には「無印良品」、「フランフラン」、「ロフト」、「ユザワヤ」があり、そこに3COINS+plusが加わったことで雑貨の集積が盤石となった。3階のリニューアルショップは「Honeys」「グリーンパークストピック」「Oriental Traffic」「靴下屋」。4階は「スマホ修理工房」「アイデクト」「じぶんまくら」をリニューアルした。

プロモーション(イベント)でも地域共生、参加や体験型、カルチャー・エンターテインメントの発信といった多彩な仕掛けを設けた。地域を巻き込んだ鉄道イベント「トレインフェスタ in URAWA」では開業140周年を迎えたJR浦和駅と連携し、駅員も参加してJRの制服を着用した撮影会やワークショップを行い、浦和高等学校鉄道研究会の生徒達がプラレール展示などで参加した。

夏休みに開催した「PARCO BOOK & CULTURE WEEK」も好評を博した。個性的な書店が集まりここでしか買えない面白い本を展開する「うらわ本のやま」や、個人クリエイターが自ら制作した本や写真集を販売する「ZINEフェス」、さいたま市立中央図書館による読み聞かせ会に加え、テナントから無印良品や紀伊國屋書店なども加わってカルチャーを発信した。

そのほか、埼玉新聞社と共同による体験教室「じぶんデザインプロジェクト」、埼玉県出身の工藤遥さんをキービジュアルに起用した「私が撮りたかった女優展 in PARCO 2019~2023」「TVアニメ【推しの子】展 嘘とアイ」「ちいかわPOP UP STORE」、浦和レッズとの共同イベントなどを開催。

これらのリニューアルとプロモーションは、売上げと集客に大きく貢献した。改装したゾーンの売上げ伸長率は前年比で1.65倍、客数は1.9倍に。23年の客数は年間60万人近く増え、そのうちの28万人の集客が改装ゾーンによるものだ。

ブック&カルチャーウィークイベントのビジュアル

子育て夫婦や3世代ファミリーの誘引に成功

浦和パルコの過去最高売上高はコロナ前の19年度に計上した271億円、入館者数も1149万人でピークとなった。19年度とは対照的に20年度の売上高は、コロナの影響を受け21.7%のマイナス。21年度から回復を辿り、21年度の236億円に続き、22年度には259億円まで戻し、入館者数も1000万人台(1030万人)に乗せた。そして23年度には全館売上高が284億円に達し、19年度を超え過去最高を記録した。

コロナが収束してから、コロナ前のピークを乗り越え過去最高売上高を更新する商業施設が出てきており、それは特にインバウンド効果が大きく出ている都心部の商業施設にみられる。これに対し、浦和パルコのインバウンドはパルコ全店の中でも一番弱く、インバウンド売上げは1%未満。ほぼ100%が国内顧客に支えられている。でありながら過去最高売上高となったのは、さいたま市の人口増加が未だに続き、特に20~30代のミレニアル世代の増加が著しいエリア特性もあるが、やはり間断なく続けているリニューアルが大きいといえよう。

一連のリニューアルでもミレニアル世代の子育て夫婦や3世代ファミリーをターゲットにして、都市型MD、バラエティに富んだショップ集積を高め、ライフスタイルからウェルビーイングまで提案。かつて館内に見られなかったベビーカーに子どもを乗せた子育て女性も取り込み、老いも若きも集まる館を実現させた。

23年度にマークした284億円は前年比で110%、19年度比で105%。1086万人の入館者数は前年比では105.5%だが19年度比では94.6%であり、19年度のピークにはまだ届いていない。23年度の買上げ客数は1082万人。これは前年比で105.9%、19年度比では98.5%に当たる。

客単価は2629円で前年比では103.9%、19年度比で106.3%。買い上げ率は99.6%で19年度の95.6%を上回っている。23年度はコロナで鈍っていた顧客への発信力強化に努めたことでインスタグラムのフォロワー数が年間で2.2倍、X(旧ツイッター)のフォロワー数は3倍になった。インスタグラムフォロワーは直近で1万1000を超えている。

24年11月、4階にオープンした「ベビーパーク/トイズアカデミー」(幼児教室/学習塾)

消費マインドが冷え込む24年度も快進撃続く

改装とプロモーションを仕掛け、強気のスタンスで臨んだ24年度(24年3月~25年2月)は、円安、物価高などで消費マインドは冷えており、インバウンドの恩恵もない。浦和パルコとしては元々24年度は取扱高295億円、入館者数1130万人を想定しているが、実際には24年3~11月までの累計で235億円を計上。前年比112.6%、19年比で115.2%となった。

入館者数850万人は前年比で105.5%、19年比で98.9%。客単価は前年比で106.2%、19年比で112.1%の2779円だ。買上げ率は99.6%で前年同期より0.5%アップ、19年より3.6%アップしている。「この実績からして売上げの確保はほぼ間違いないが、19年を下回っている入館者数は11月、12月の動員が鍵を握る」(金子店長)としている。

コロナ前の売上げを超えて過去最高を更新した商業施設でも単価アップが主要因であり、客数で塗り替えたところはあまり見当たらない。浦和パルコがそれを成し遂げるのか、注目されるところである。

地下1階に24年9月にオープンしたサラダボール専門店「WithGreen(ウィズグリーン)」

改装効果は24年度に入っても持続し、24年3~10月取扱高の累計で23年に改装したゾーンは146%、24年に改装したゾーンは135%で勢いがあり、既存部分でも106%となっている。23年12月~24年11月の累計では310億を超え、入館者数も1130万人を超えた。今の勢いからすれば、入館者数でも19年度実績の1149万人を上回る可能性が限りなく高い。

ちなみに23年12月~24年11月までの累計でみたカテゴリー別の売上げ伸長率は、衣料品は前年並みで伸びていないものの、身の回り品110%、雑貨114%、食品108%、グルメ(レストラン・カフェ)117.2%、サービス129%といったように好調ぶりが窺える。

24年に行った改装は、春夏が新店を含む計8店舗で915㎡、秋は新店5店舗を含む計7店舗で約550㎡。改装の対象となるのは、春夏と秋を通じて地下1階フード/デイリーバラエティフロアと5階レストランフロアが中心だ。地下1階フード/デイリーバラエティフロアは、春夏と秋の改装でシュークリーム専門店「ビアードパパ」と和菓子「あんこのやまか」、SNSで話題のりんご飴専門店「代官山Candy apple」、サラダボウル専門店「WithGreen」が新規に加わり、食のバラエティが広がった。

リニューアルしたショップはオーガニック食品を扱う「こだわりや」、クレープやソフトクリームなどを販売する「MOMI&TOY‘S」、100円ショップ「キャンドゥ」、歯科医院「ホワイトエッセンス」。

5階レストランフロアには、SNSで話題の人気うどん専門店「山下本気うどん」、新宿曙橋発の本格真鯛らーめん「鯛塩そば 灯花」、韓国料理「韓美膳」が新たに登場。リニューアルは築地もんじゃ・お好み焼きの「こてがえし」。これで5階レストランフロアは23年、24年を合わせてレストラン全体の64%までリニューアルが完了した。

5階レストランフロアに出店したコリアンレストラン「韓美膳(ハンビジュ)」

コンセプト型医療モール「Welpa」が登場

24年春の改装で目玉として登場したのが、心斎橋パルコに続いて7階の大型スポーツクラブ跡に開業したパルコのウェルネス事業となるコンセプト型医療モール「Welpa」だ。内科・消化器内科・乳腺外科・人間ドック・健康診断/歯科・矯正歯科・調剤薬局で構成される。

日頃仕事や家事・子育てに忙しく、クリニック受診を逃してしまっている女性に婦人科検診をはじめ、健康診断や検診を受診しやすい環境を提供することで、健康診断や人間ドックの受診率が低い子育て世代の受診やセルフケアをサポートする。Welpaがきっかけとなり、このフロアだけでなく館内の女性トイレに生理用ナプキンを無料提供するディスペンサーが設置された。

浦和パルコはWelpaとの共同プロモーションに踏み切り、3月の国際女性デー、5月の母の日、10月のピンクリボン月間などに開催。ピンクリボン月間に合わせた「ピンクリボンキャンペーン」では、働いている女性が検診や健康診断を受診する機会を促進する企画として、期間中に人間ドック・健康診断、婦人科を受診した人を対象に無料で未就学児を預かる一時保育無料キャンペーンを実施。

そのほかゆっくりショッピングやランチを楽しめるように保育士がお子さんを預かる一時保育イベント「ハピいく」、薬剤師の仕事を体験できる体験型保育プログラムなどを開催した。埼玉県と共催してピンクリボンライトアップも行った。ロフト、無印良品、コスメキッチン、ワコールなどのテナントも参画し、ウェルネス関連商品などをアピールした。

Welpaの利用者は子育て世代の女性が多いようだが、一般女性顧客だけでなく、テナントのショップスタッフも同じ館内にある利便性から、人間ドックや検診、インフルエンザの予防接種などで受診しているようだ。

21年28店舗3300㎡、22年8店舗980㎡、23年36店舗5320㎡、24年16店舗1494㎡というように浦和パルコのリニューアルは続いており、25年も上期(25年3~8月)が16区画2500㎡、通期で大型改装が予定されている。25年はテナントの入れ替えだけでなく、24年から始まったトイレの改修、館内から外壁も含めたLED化を進め、27年春にはCO2排出量削減に向け空調の稼働システムを更新する計画だ。

金子店長は「多客層・多MD・多機能を強みにして、0歳児から90歳のおばあちゃんまでが笑顔になれる館になり、健康、趣味、発見、関心事といった多くの人のニーズを深堀りして応える。地域連携ではさいたま市にとどまらず、県外へもアプローチをかけBtoBや地元企業とお客様の接点を担ったり、まちづくりにも関わったりして館の個性を強めていきたい」と述べた。

(塚井明彦)