東急Gと野村不動産Gが手掛ける事業の進捗とプロジェクト進行状況
東急グループと野村不動産グループが先頃「記者懇談会」を開き、グループ各事業の進捗状況や進行中のプロジェクトの開発状況などを説明した。東急社長の堀江正博氏はグループの複数の異なる事業を組み合わせた「地域コングロマリット(地域型複合企業体)」が東急グループの強みであることを強調した。野村不動産HD社長グループCEOの新井聡氏は2030年ビジョンに掲げる“まだ見ぬ、Life & Time Developerへ”こそがグループが目指すネクストステージであると語気を強めた。また、野村不動産HD副社長グループCOOの松尾大作氏はグループ本社が移転する芝浦、すなわち「BLUE FRONT SHIBAURA」の事業をはじめ、デベロップメントとサービス・マネジメント分野を手掛ける各部門の進捗状況を語った。それらの説明内容は以下の通り。
東急グループ 「地域コングロマリット」でまちづくり
◆東急社長 堀江 正博氏のスピーチ
2024年は広域渋谷圏において4月に東急プラザ原宿「ハラカド」、7月に「渋谷アクシュ」と「渋谷サクラステージ」が開業しました。渋谷では現在いくつものプロジェクトが進行中で、30年には渋谷駅周辺開発はおおむね完成し、渋谷が世界に誇れる新しい姿になります。これによって今まで以上に世界から注目される都市になっていくと確信しています。駅周辺以外でも再開発機運が高まっており、駅周辺から外へ向かう再開発もこれから進んでいくと思われます。
さて、当社では24年度を始期とする中期3カ年経営計画を3月に策定しました。東急グループは、郊外に住宅などを開拓し、そこに鉄道を敷設するといった、創業当時からクリエイティブなソリューションを提供してきました。これを踏まえ、「Creative Act」というキーワードを中計のビジョンワードにしました。
東急グループは長期的な視点に立ってこの100年、広い意味でのまちづくりを行ってきました。東急グループ各社はまちづくりに必要な様々な機能を事業として展開することで、それぞれの役割を担っています。その結果、渋谷や沿線を中心に輻湊(ふくそう)的なサービスが提供でき、またそれをベースに堅固な顧客基盤を整備してまいりました。グループの事業間連携が深まれば深まるほど追加的成果となり、お客様満足度の成果が出てくるものと確信しております。
グループの横断的な働きかけでクロスセル、アップセルに取り組み、地域コングロマリットプレミアムの創造を目指していきます。不動産開発や再開発を進めることが、エリアへの就業者数、訪問者数、宿泊者数などを増やします。さらに来街された人たちに、グループが提供する他のサービスを利用してもらうことで喜んでいただき、その結果、私どもにも追加的なリターンが提供されることになります。
加えて、同じエリアに対してより魅力を向上させる追加的な投資を継続的に行うことが私どもの大きな特徴です。沿線あるいは渋谷から回収した資金を再度渋谷、沿線に投資します。絶えずまちやエリアにお客様が求める企業やサービスを提供できるように、追加的な投資を行います。このことがエリア全体の価値を向上させ、お客様の支持をさらに獲得する。そうした結果、地元の皆様と同様に私どもが保有する既存の不動産や事業のキャッシュフローや価値が上がることになります。
加えて不動産以外の事業、鉄道、バス、百貨店、ショッピングセンター、食品スーパー、ホテル、バー、レストラン、エンタメ施設といった施設が輻湊(ふくそう)的に収益を上げることができる。これが当社独自の地域コングロマリットのビジネスモデルです。このように渋谷沿線のまちの価値をさらに上昇させ、豊かで美しく、楽しい街にしていくことが私どもの目指す役割です。
グループによる渋谷駅周辺への再開発続く
堀江社長のスピーチにあったように、24年は渋谷駅周辺に東急の「渋谷アクシュ」(7月開業)、東急不動産の東急プラザ原宿「ハラカド」(4月開業)と「Shibuya Sakura Stage」(7月開業)が完成した。25年以降は、東急では「Shibuya Upper West Project」(27年度竣工予定)と「渋谷スクランブルスクエア(中央棟・西棟)」(27年度開業予定)の開発が進行している。
東急百貨店本店跡地に東急グループとLCREが共同で開発する「Shibuya Upper West」(地下4階~地上36階、高さ約164.8m、延床面積約12万㎡)はレジデンス、リテール、ホテルなどの機能を含む大規模複合施設。一方の渋谷スクランブルスクエアは、19年11月に先行開業している東棟(地下7階~地上47階、高さ約230m)に、今後JR渋谷駅直上に中央棟(地下2階~地上10階)、東急百貨店東横店跡地に西棟(地下5階~地上13階)が完成すると、3棟合わせた延床面積は約27万6000㎡の規模となる。
東急不動産が広域渋谷圏で25年2月に供用開始を予定しているのが「代々木公園Park-PFI」。都立公園法に定められた公募設置管理制度を活用した公園整備事業だ。“都市と公園をつなぐ”をテーマに、公園内にカフェなどの飲食スペースのほか、アーバンスポーツパークなどを設置し、多様な人々が集える公園づくりを目指している。
野村不動産グループ 目指すは“Life & Time Developerへ”
◆野村不動産ホールディングス社長 グループCEO 新井 聡氏のスピーチ
中長期経営計画は今年度、フェーズⅠの最終年度となります。目標としていた今年度の事業利益は1150億円ですが、今のところ1180億円の予想になっています。3年間を振り返ると、事前の予想よりもかなり上回って進捗しています。加えて住宅部門ならびに都市開発部門では、将来の事業の種、いわゆる用地の取得も順調に進み、この半期は住宅価格が上昇したこともあって我々の住宅部門が好調です。
CR部門も毎年強さを増し、都市開発部門は収益不動産の売却利益率が高水準にあります。海外と資産運用の2部門は当初の計画を下回ってはいるものの、総体的にはこの3年間非常に順調であったと言えます。
ただこの3年間、我々を取り巻く環境が大きく変化しました。コロナ禍を経て多くの人の生活や働き方が変化し、我々のビジネスに影響を及ぼす変化も起きています。
まず負の影響を及ぼす1つ目は、建築費が急上昇したことによってこれからのビジネスをどうするのか、しっかり考えていかなければならない。それだけでなく人手不足によって事業が長期化するリスクも顕在化してきています。2つ目は、マイナス金利が終了していよいよ普通に金利がつくようになってくることで、金利負担が少しずつ増えることになります。
一方でプラスに働くこととして、長期のデフレから脱却したことで、インフレが定着して賃金も上昇しています。株式市場も今年度に過去最高水準を更新しており、富裕層の資産が大きく増加しています。企業においては、資産効率をどう高めるかで保有不動産を見直す動きも出ていることは、我々にとってビジネスチャンスと言えます。
このような環境下において、我々が今までと同じことを続けていたら成長できません。しっかり危機感をもって取り組む必要があります。環境変化が起きる中でも当社は業界の中で比較的良いポジションにありますが、それに甘んじることなく、進化していかなければなりません。では、どんな方向に進んでいくのか。当社グループは3年前に2030年ビジョン「まだ見ぬ、Life & Time Developerへ」を発表しました。
これがまさに私たちの目指すところ、つまり私たちの次のステージであると考えています。当社グループは従来型の不動産デベロッパーでなく、多くのステークホルダーに豊かなライフやタイムを提供する企業グループになることをあるべき姿としています。当社グループは来夏に本社を芝浦に移転する予定であり、これをきっかけに進化のスピードを加速させ、新しい環境でステークホルダーに対して今以上の幸せや豊かさを提供することを一生懸命考え、取り組んでいく所存です。
大規模複合開発「BLUE FRONT SHIBAURA」始動
◆野村不動産ホールディングス副社長 グループCOO 松尾 大作氏のスピーチ
当社グループは「デベロップメント分野」の住宅、都市開発、海外の3分野と、「サービス・マネジメント分野」の資産運用、仲介・CRE、運営管理の3分野を合わせた6分野で事業展開しています。それぞれの事業内容を紹介します(海外部門、資産運用部門等と建築費上昇問題を省略)。
まず住宅部門です。当部門は分譲と賃貸の両方の新築住宅を供給しています。同業他社がマンションの供給数を落とす中で、当社は計上戸数で4000戸前後をここ10年安定して供給しています。過去10年においても常にトップ3に入っており、今後も安定供給を継続できる盤石な体制にあります。
新築分譲マンションブランドであるプラウド以外にもOHANA、プラウドシーズンなどのシリーズがあり、新たな取り組みとなる商品も加わりました。賃貸領域においてはプラウドフラットに加えて、シェア型賃貸住宅とコワーキングスペースが融合した「コリビング賃貸レジデンス事業」に参入し、その第1弾となる「TOMORE品川中延」が来年2月竣工の予定です。
在宅ワーク、副業など働き方が多様化する一方で、20代、30代を中心とした単身世代が快適に働き、活動できる場所の選択肢が不足している社会的課題があります。国内でシェア型賃貸住宅の需要が増加していても、100戸以上の規模の物件が現在東京都内で0.5%しかない。そこで居住性の高いプライベート空間に加えて快適なコリビング、コワーキングの居住スペースを備えた100戸以上の大型賃貸レジデンスを2030年までに1000戸、開発を予定しています。
賃貸シニアレジデンス「オウカス」シリーズは、フラッグシップとなる物件を「オウカス駒場東大前」でスタートします。ここではオウカスで初めてペット入居可能な住戸、フルサービスのレストラン、パーソナルフィットネス導入など、より上位のサービスを提供します。
また、今期からホテル事業を都市開発から住宅部門に移管しました。住宅事業で培った企画・設計・デザイン力をホテルと相互に生かしていく考えからです。現在ホテルは直営の「ノーガホテル」が3棟、「庭のホテル」が1棟の計4棟681室。これにUDS社がグループ入りして16棟加わり、合わせて20棟約2500室に拡大しました。“世界がわくわくするまちづくり”をビジョンとしているUDS社はホテルの運営だけでなくキッザニア東京やジブリパーク、ロマンスカーミュージアムなども手掛けています。
続いて多岐に亘る不動産アセットを取り扱っている都市開発部門です。まずオフィス事業ではサテライト型シェアオフィスの「H¹T」、サービス付小規模オフィスの「H¹O」、中規模ハイグレードオフィスの「PMO」、そして大規模オフィスビルと、様々なテナント形態のオフィスを組み合わせて利用できるオフィスポートフォリオ戦略を提案しています。H¹Tは約300店舗あり、社数は約5700社、会員数50万人に上り、これは業界トップ水準。H¹OとPMOは合わせて830社のテナントが入居しています。
オフィス以外にも商業では「GEMS」、「ミーフル」など、物流は「Landport」があります。「メガロス」のブランドで展開しているフィットネスは42店舗あって、業務提携しているやる気スイッチホールディングスとの協業により、バイリンガル幼稚園をメガロス施設内に開園して独自性を出しています。
都市開発ではこれらアセットの開発、賃貸、売却を担っていますが、物件の保有にこだわらず収益不動産を戦略的に資産入替するビジネスモデルの「賃貸バリューチェーン」を確立しています。これらアセットのほか、過去最大級の複合開発プロジェクトである「BLUE FRONT SHIBAURA」も都市開発の所属です。
BLUE FRONT SHIBAURAは「S棟」が25年2月に竣工予定であり、上層階に入る日本初進出の「フェアモントホテル」は25年7月開業予定です。実は25年12月3、4日に、Valuable500、日本財団、日本経済新聞社が共催する「SYNC25 アカウンタビリティ・サミット」をフェアモントホテルで世界初開催することが決定しました。一方のN棟は25年度から解体に入り、27年着工の予定です。
来年8月、当グループは47年ぶりに芝浦に本社を移転します。今の基準階380坪が1500坪になるので、約4倍です。当社がさらなる成長を遂げていくために新たな働き方を模索する取り組みとして、既存の浜松町ビルのワンフロア800坪を改造し、そこをトライアルオフィスとして22年11月にスタートさせ、約3000人がトライアルを実施しながら新本社の新しい働き方を模索中です。
市街地再開発やマンション建て替えを扱う「開発企画本部」、公有地の利活用事業・新領域事業にあたるのが「事業創発本部」。いずれも複数の事業に跨り、住宅部門や都市開発部門と連携しているのが特徴です。開発企画本部が担当する市街地再開発事業やマンションの建て替え事業については現在、住宅事業を中心に45件を超えるプロジェクトが進行中です。工事費高騰によって遅れる案件も散見されますが、防災、減災、まちづくりに関わる極めて重要な事業なので、行政や国を巻き込んで地域の課題解決に貢献できるよう引き続きサポートしていく所存です。
事業創発本部は、幅広い対応力が求められるデベロップメント機会の獲得に取り組んでいます。代表的なものが国立大学法人や民間企業の遊休地の有効活用で、大学では東京科学大学、お茶の水女子大学があり、西武ホールディングスとの間では軽井沢千ヶ滝で大規模なリゾート開発がスタートしています。新領域の開拓ということでは、かなり先のことになりますがANAホールディングス、米国Joby Aviationと3社連携で、空飛ぶ車の離着陸場開発に向けた共同検討を開始しました。
これら複合再開発においては建物のハード面だけでなく、地域住民と一緒になったエリアマネジメントの活動が重要になることから、当社独自のエリアマネジメントの仕組みである「Be ACTO」を立ち上げ、亀戸、日吉、武蔵浦和、目黒に拠点を設け活動しています。
最後はコーポレート部門です。ここではサステナビリティの代表的な取り組みとして、東京奥多摩町の「つなぐ森」があります。これは私たちのメインの事業地である東京都で森を保有して、将来的には事業への国産材活用を推進し、森の新陳代謝や脱炭素、生物多様性に貢献できる事業と捉えています。
舟運事業にも乗り出し水辺の開発を本格化
野村不動産グループにとって当面の大事業は、過去最大級となる複合開発プロジェクトのBLUE FRONT SHIBAURAである。浜松町ビルディング(東芝ビルディング)の建て替え事業として、高さ約230mのツインタワー(S棟:25年度2月竣工予定、N棟:30年度竣工予定)を建設する。区域面積約4.7ha、延床面積約55万㎡。オフィス、ホテル、商業施設、住宅等を主用途にツインタワーを完成させる約10年間に及ぶ大規模複合開発だ。
このプロジェクトではツインビルを建てるだけでなく、ベイエリアの立地を生かし舟運の活性化や水辺の賑わい創出にも取り組む。ツインタワーの足元には芝浦運河が広がり、芝浦運河に面した親水空間にはテラスや船着場などが整備される。さらに野村不動産は運河沿いに整備される船着場などを使用したラグジュアリーな専用旅客船を建造し、S棟開業後にサービスを開始する計画だ。
ツインビルが建てられる街区から近い日の出ふ頭小型船ターミナル「Hi-NODE」では、日の出ふ頭を集い賑わう水辺空間・舟運拠点とするため、東京都港湾局が進める日の出桟橋の改修・新設などの事業と連携。野村不動産グループが日の出ふ頭北側の一部において、東京港湾局から用地使用許可を受け、船客待合所、飲食機能、イベント広場などを整備した。そして24年5月から晴海~芝浦・日の出区間において舟運サービス「BLUE FERRY(ブルーフェリー)」を運行。港区芝浦エリアと晴海に代表されるベイエリアを約5分で結ぶ。
ツインタワービルについては高潮や津波、ゲリラ豪雨などの水害対策を講じる。敷地内に防潮板を設置し、防災センターは2階に、電気設備なども4階以上に配置するなど、将来的な海面上昇の可能性を想定して数々の手を打つ。また、地下重要施設には水密閉扉を設置。内水氾濫対策として雨水などの対応のための緊急遮断弁を設けるなど、都市機能の維持に取り組む。
(塚井明彦)