心豊かな暮らしを目指して、高輪ゲートウェイシティが来春3月まちびらき
東日本旅客鉄道は、品川車両基地跡地に開発中の「TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ、以下シティ)」のまちびらきを、来年3月27日に行うことを発表した。まちを支える主要5棟のうち「THE LINKPILLAR1(ザ リンクピラーワン)」も先行開業。直結する高輪ゲートウェイ駅も全面開業し、段階的に他の施設も完成させて、26年春に全体のオープンとなる。
シティは南北約1.6km、開発規模は約9.5haで、約1.5haの「東京ミッドタウン八重洲」の6倍超。延床面積も、六本木ヒルズの約72万㎡を上回る約84万5000㎡と大規模。総事業費は6000億円となる見込み。まち全体を「100年先の心豊かなくらしのための実験場」と位置付けて、開発を進めている。
まちの主要5棟を段階的に開業していく
主要5棟は以下の通り。
・THE LINKPILLAR1(ザ リンクピラーワン、以下ピラー1)」
ツインタワーで、地下3階~地上29階の北棟と、地下3階~地上30階の南棟からなる。延床面積は約46万㎡。商業施設、オフィス、JWマリオット・ホテル東京などが入る。
・THE LINKPILLAR2(ザ リンクピラーツー、以下ピラー2)
地下5階~地上31階、延床面積約20万8000㎡。商業施設、オフィス、フィットネス、クリニックなどが入る。
・MoN Takanawa: The Museum of Narratives(モン タカナワ:ザミュージアムオブナラティブズ、以下モン高輪)
地下3階~地上6階、延床面積約2万9000㎡。「M0N」は門、ゲートを意味する。1200人収容のライブ空間、1500㎡の展示室、約100畳の畳スペースなどがある。
・TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE(タカナワ ゲートウェイ シティ レジデンス、以下レジデンス)
地下2階~地上44階、約14万8000㎡。高級賃貸住戸で、インターナショナルスクールや商業施設も入る。
ルミネは、商業施設の枠を超えたまちづくりを目指す
上記のうち、3月のまちびらきに開業するピラー1は、高輪ゲートウェイ駅正面に位置する。共創パートナーのKDDIやマルハニチロなど、大手企業の本社が入り、国際会議も可能な都心最大級コンベンション施設「TAKANAWA GATE WAY Convention Center」や、新しい旅をデザインする観光拠点「TAKANAWA GATEWAY Travel Service Center」もできる。ラグジュアリーな「JWマリオット・ホテル東京」は南棟高層階。首都圏初進出だ。
ショッピング施設ルミネの「ニュウマン高輪」は、3月のまちびらきに一部開業、秋に全面開業となる。ニュウマン高輪は3棟にわたり、ピラー1の南棟1~5階、北棟1~5階および28~29階が25年秋開業。ピラー2の2~3階が26年春開業。延床面積は約6万㎡、約200ショップで構成される。
ルミネは、ライフバリューセンターとして「100年先の豊かな未来」を創ることを使命としている。24年4月からの中期経営計画において「グローバル&サステナブル」をテーマに、地球や社会が抱える課題に対して、ルミネらしいアプローチで解決を図り、日本を元気にするというビジョンを掲げている。それをかなえるべく、商業施設の枠を超えたまちづくりに挑戦。ニュウマン新宿やニュウマン横浜ではスペースの制約から実現できなかったことだ。
東日本旅客鉄道社長の喜勢陽一氏は「これまでのルミネは、先進的なファッションに特化して、主に女性に向けた提案をしてきたが、ここニュウマン高輪では、テクノロジー、社会性、地域性などにフォーカスした新しい商業空間を目指したい」という。
駅構内にも4店舗がオープンする。改札内1店舗、改札外3店舗で、手掛けるのは「JR東日本クロスステーション デベロップカンパニー」。開発コンセプトは「エキナカ エンタテインメントで、贅沢な時間を、洗練されたモノトーン空間で味わえる。また、商品の生地製造から焼成・陳列までをガラス越しに楽しめる「LIVE FACTORY」、地方と首都圏、街と駅を結ぶ「体験型イベントスペース」も設ける予定だ。
レジデンスや文化創造棟は、26年春に開業
26年春開業予定の施設の概要は以下のとおり。
ピラー2は泉岳寺駅に隣接する。柔軟性の高いオフィスフロアに加え、クリニック、フィットネス、ニュウマン高輪などが、ビジネスワーカーの街での暮らしを支える。地下の地域冷暖房施設に国内最大級の蓄熱槽が導入され、効率の高いエネルギー供給を実現する。災害時には、蓄熱槽の水を、一時滞在施設などのトイレ用水や消防用水とった非常用水として使用できる。
26年春に開業するレジデンスは、外国人ビジネスワーカーにも対応した国際水準の高層住戸で、テラス型住戸を含む。低層階にはインターナショナルスクールが26年8月に開校する。植栽や水辺空間などによって、多様な生態系に配慮したビオトープに隣接し、豊かな自然を感じられるエコロジカルな環境を整備する。
文化創造棟のモン高輪は、一般社団法人JR東日本文化創造財団が企画運営する。開館は26年春だ。緑と光にあふれた地上6階、地下3階の低層建築で、ライブ・パフォーマンス空間、展示室、オルタナティブスペース、畳スペースを備えた複合文化施設である。スパイラル状の建物で、全体が緑に覆われ、屋内外がシームレスに混じりあっているのも特徴。館を彩る植栽のほとんどは、日本の在来種で構成され、四季の移ろいを楽しめる。各フロアはゆるやかなスロープでつながり、歩いて屋上庭園まで移動できる。展示室や客席はもちろん、出演者が利用するバックステージもバリアフリーに対応している。
展覧会、各種イベントなど、様々なコンテンツを実施できるが、アート、サイエンス、テクノロジー、エンタテインメント、日本の四季、伝統文化など、分野を横断しながら4事業を柱に展開していく。
1つ目は、5階の約1500㎡の「BOX1500」をメイン会場にして、文学、歴史、ポップカルチャーなど多彩なジャンルのトピックを掛け合わせ、シーズンテーマにアプローチするオリジナル展覧会。
2つ目は、ステージ前面にLEDが設置された地下3階の最新シアター空間「BOX1000」での、オリジナル企画を含むライブ・パフォーマンス。着席最大約1200席、立席だと約2000人を収容可能。
3つ目は、4階の約100畳の「TATAMI」。和を象徴する畳スペースで、和文化とテクノロジーが融合したプログラムを実施。また、屋上庭園や月見テラスで、花見や月見など、四季折々のイベントも取り上げる。
4つ目は、2階の「BOX300」。壁が開閉する自由な実験空間で、企業や研究機関、アーティストらの先端プロジェクトや共創による実証実験をはじめ、夜はDJやパブリックビューイングなどを実施していく。
ちなみに、1階エントランスには、待ち合わせ場所にもぴったりのオープンスペースも。地下2階のメディアシェルフでは、開催中のプログラムや参加クリエイターに関連する書籍やグッズ゙などのアーカイブが並ぶ巨大な本棚が設置される。6階には月見テラスと足湯ができ、屋上庭園には草木や果樹のほか、野菜や花の栽培も行われる。
高輪築堤を「高輪リンクライン」で再現
喜勢社長は、高輪築堤の保存と活用を通じて、鉄道開業のイノベーションを未来へ継承することも強調。
「シティは、江戸時代には海であり江戸への玄関口だった。150年前に海上に堤を築き、海の上を鉄道が走ったここは、日本と西洋の技術が掛け合わされ、日本のイノベーションを生み出した場所である。高輪築堤は、鉄道人にとって大切な記憶が宿るものであり、鉄道人の責務として街づくりの中でしっかりとこれを継承、保存し、また整備、活用することでイノベーションの地としての大切な記憶を次世代につないでいく」と語っていた。
まちびらきにあわせ、高輪築堤の特徴である海側と山側の石積みを「高輪リンクライン」で再現。開業期の鉄道が走ったライン上に、レールを埋め込んだりして、高輪築堤の歴史をリアルに感じられる空間づくりを行う。具体的な高輪築堤の保存と活用策は、国指定史跡の第7橋梁部および公園部の現地保存と27年度公開予定に加え、信号機土台部を移築保存公開することで当時の風景をそのままに実感できるようにする。
鉄道開業当時の風景の再現を目指し、文献調査や現地調査などの結果から得られた知見を基に、橋梁部や発掘時に欠損していた箇所の再現などの整備計画が進めている。第7橋梁部の周辺に、高輪築堤を眺め憩える広場空間を整備し、隣接するピラー2内に、鉄道開業や日本の近代化の歴史を紹介する「(仮称)築堤ギャラリー」を開設予定。デザイン監修は内藤廣氏で、内装には、高輪築堤を支えていた木材(松杭)を活用する。
国指定史跡の公園部の再現および地下回廊の整備では、回廊を展示空間にする。「ユニークベニュー」やナイトタイムでの活用を通し、高輪築堤をより身近に感じてもらえる取組みを検討中。公園地下回廊のデザイン監修は隈研吾氏。さらに鉄道開業期のイノベーションを体感できるように、先端技術を活用した展示などを行う。日本で初めて鉄道が走った当時の風景を感じられるARプログラム「TAKANAWA LINK SCAPE(タカナワ リンク スペース)」による疑似体験を通じて、この土地の歴史を新たなかたちで継承していく。
(塚井明彦)