2024年11月15日

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≪首都圏郊外主要百貨店店長パネルディスカッション2024≫地域・生活者に寄り添い、攻勢に転じる百貨店

ストアーズ社主催の「首都圏郊外主要百貨店店長パネルディスカッション」を10月3日(木)に開催した(リーガロイヤルホテル東京にて)。今回は、丸広百貨店川越店、東急百貨店吉祥寺店、高崎高島屋、小田急百貨店町田店(発言順)の店長を招いて、「地域・生活者に寄り添い、攻勢に転じる郊外百貨店」をテーマに、各店各様の将来の「あるべき姿」の実現に向けて、短期・中長期視点で戦略・戦術を語って頂いた。

それぞれ前半と後半に分けて発言して頂き、前半では2024年度の位置付け、重点戦略、上期に優先的に取り組んできた具体的な施策と成果などについて、独自の視点で語って頂いた。(司会:ストアーズ社編集部 羽根浩之)


創立75周年、全館改装11月13日グランドオープン
丸広百貨店
川越店 本店長 関口 実
今年、創立75周年を迎えた丸広百貨店の関口実本店長は、足掛け5年に亘る耐震工事に伴い段階的に着手してきた全館規模の改装の背景と概要について言及した。11月13日(水)のグランドオープン日も明かし、新たな企業スローガンを具現化した「百のトキを過ごす『百過店』づくり」を披露した。

全館規模の改装は1998年以来で、26年ぶり。コロナ禍前の2019年から着手していたが、一旦休止。中期経営計画と共に、リモデル計画も修正した。コロナ禍で消費環境が劇的に変化していたため、改めて企業スローガンも見直した。それは「地域に役立つパートナーとして、私たちはお客様の満足を実現します。私たちはお客様の暮らしをより豊かにし、暮らしの全てでお役に立てる企業、丸広百貨店を目指し、新たな価値を創造することで、地域と共に成長し続けます」という宣言だ。

改装にあたり、友の会やハウスカード、外商など組織顧客を対象にしたアンケート調査と館内の顧客の声をベースに、「なるべく普遍的なものを抜き出して進めてきた」。

改装のテーマは「百のトキを過ごす『百過店』」で、関口本店長は「消費がモノからコトへ、コトからトキへと変化している中で、買い物以外の入店動機や目的をつくり、トキの過ごし方を提案する百貨店に変革していく」と強調した。

21年6月に完成した屋上をはじめ、23年3月の別館の新レストラン街、今年7月末の別館4階のベビー休憩室など、今夏まで段階的に完成させてきた売場の特徴を紹介した。さらに「それぞれのフロアでどのようなトキの過ごし方ができるのか、店頭の全員が同じような説明や案内ができるように『百トキブック』を用意している」という。

11月13日、いよいよ「新生・丸広川越店」が本格船出する。

開店50周年、「感謝と前進」をテーマに
◆東急百貨店
吉祥寺店 店長 東出 隼洋 氏
今年、開店50周年を迎えた東急百貨店吉祥寺店の東出隼洋店長は、足元商圏の特徴と現況、「感謝と前進」をテーマにした50周年の営業施策、上期に導入したMDの成功事例について述べた。

同店の足元商圏は住みたい街・住んで心地良い街の上位にランクされる吉祥寺エリアで、ハウスカードホルダーの9割が半径5キロメートル圏内。「かつては3つの百貨店が存在していたが、今では地域唯一の百貨店になっている」。

開店50周年を迎えた今年は、インナー向けに「感謝」と「前進」をキーワードに、営業施策を展開している。感謝では、「足元商圏のお客様への感謝を込めて、プレゼント企画、『50』にちなんだ福袋やセールなどを実施してきた」。

ただ重視したのは「前進」。「これからの50年を見据えた、新しいお客様の来店促進と認知の拡大で、新しい集客イベントを数多く打ってきた」という。その中で特に好評だったのが、春に実施した「リアル謎解きゲーム」。「全館を舞台に、子供から大人まで楽しめるように、やさしい謎解きと難しい謎解きの2つの企画を用意した」。さらに屋上を活用したキッズダンスステージ、DJライブ、屋外上映会などの事例を紹介。これらは若年層ファミリーの来店と滞留時間の促進につながったようだが、実は全て若手社員が自主的に立案した企画。「若手社員の人材育成にもつながった」。

上期に導入した新規MDの好事例として挙げたのは、コストコ再販店の「ストックマート」。3月下旬に3階に導入したが、「百貨店のお客様に支持されるのか、食品フロアや3階の食物販の店舗とカニバリが生じないか懸念していたが、それが杞憂に終わった」。近隣のファミリー層の集客装置となり、3階のアンカーテナントと化した。3階は食と雑貨の融合フロアで「フロア特性とも見事にマッチングした」という。

同店はコロナ禍の22年に店舗構造改革を手掛け、百貨店運営を集約し、中上層階のテナント化に踏み切った。ここに今上期は50周年企画が加わり、売上高だけでなく、客数も若年層ファミリーの増加によって、コロナ禍前の19年度の水準に戻っている。

地方都市でも「フルライン型百貨店」を強みに
◆高崎高島屋
代表取締役社長 倉橋 英一 氏
今春の人事異動で、大宮店店長から高崎高島屋の社長兼店長に就任した倉橋栄一氏は、商圏特性と同店の強み、競合環境の変化に対応した上期の主な営業施策について述べた。

都内から新幹線で1時間の距離に位置するJR高崎駅前の高崎高島屋は、高崎市と前橋市の合計人口約70万人を基本商圏にしている。「大宮店から異動して驚いたこと」を同店の強みとして紹介。その1つが客層の若さだ。「化粧品売場など女子高生や大学生の姿も見受けられ、若いお客様が多い。高島屋のグループ店舗の中でも多い方の店」という。次いで地方都市でもフルライン百貨店で「バランス良く(カテゴリーを)維持できている」。3つ目が外商の強さ。外商の売上高構成比は2割超で、高島屋グループの中でも高い方ではないが、客単価では都心店にも匹敵する水準だという。

上期の営業施策については、中心街の競合百貨店がこの春、売場面積を半減し移転改装オープンした環境変化に対応していくため、「顧客の囲い込み、化粧品の強化、催事とギフトセンターの見直し、地域との取り組み」に注力してきた。

4月以降、新規顧客の開拓が進み、タカシマヤカードの獲得は毎月、前年比2桁増で推移。化粧品の強化に関しては、競合百貨店の欠落MDであり、各々のショップで顧客の囲い込みに取り組んでいるという。催事も欠落MDであり、北海道物産展は媒体を強化した結果、客数が増え、過去最高の売上高を更新した。減少傾向だった中元ギフトセンターの実績はプラスに転じた。「地域のお客様が百貨店に何を求めているのか、あらためて強く感じた」という。

地域との取り組みについても「高崎市との連携、地域との関わりをさらに強めて、百貨店としての役割を果たしていきたい」と、競合環境の変化によって、地域から求められている同店の役割、存在価値を再認識できた格好だ。上期(3~8月)は売上高、入店客数共に前年実績を上回っており、コロナ禍前の水準も超過している。

集客を第一義に、次世代顧客の開拓に成果
◆小田急百貨店
町田店 店長 鳥越 茂 氏
小田急百貨店町田店の鳥越茂店長は、町田市を中心とした約170万人商圏の特徴と、地域密着の実践と次世代顧客の獲得に注力してきている取り組みを述べた。

同店の足元商圏である町田市は人口減少と高齢化が進んでいるとはいえ、周辺を含めると人口約170万人商圏で、郊外エリアでも肥沃なマーケットに違いない。それだけに「次世代のお客様の開拓、潜在客の掘り起こしに徹底して取り組んでいる」と強調。まず集客優先の営業施策、イベントや催事、SNSを活用した販促などの事例を紹介した。

同店はコロナ禍前の19年春に全館改装を完成させた。しかしながら20年にコロナ禍に見舞われたため、想定していた改装効果を享受できず、コロナ禍が落ち着いた23年度から改めて「再スタート」を切った。しかも小田急百貨店では、23年10月に旗艦店の新宿店が再開発に伴う移転・縮小による営業を強いられているだけに、町田店の存在価値が高まっている。

全館改装では、強みだった食品フロアの全面刷新、化粧品売場の拡大、若年層向けファッションの充実に取り組み、この結果、改装前の課題だった顧客の若返りが進み、一定の成果を享受しているものの、この成果をさらに高めていくための施策が24年度の最優先の課題であり、それが次世代顧客の開拓と地域密着の実践である。

次世代顧客の開拓では、特に「小田急沿線の子育てファミリーの集客に力を入れている」。子育てファミリーを対象にした夏休みの参加型イベント、夏の手土産フェア、母の日や父の日などへの取り組み事例を紹介した。

もちろん平行して既存顧客へのアプローチも強化しており、特にお得意様外商向けの店外催事や特選ブランドの特別販売会が好調で、お得意様外商の存在価値も高まっている。

地域密着の実践では、日本プロサッカーリーグに所属するFC町田ゼルビアとの取り組みなどに言及した。


郊外・地方百貨店ならではの価値創造と地域密着の要諦

会場の様子

次いで後半の発言は、前半の現状を受けて「地域・生活者に寄り添い、攻勢に転じる百貨店」をテーマに、25年度以降の中長期視点を踏まえ、秋以降の重点施策や優先的課題、リアル店舗の魅力化への方向性や具体的事例を語って頂いた。

百のトキを過ごす、新たな「百過店」始動
◆丸広川越店 関口本店長
丸広川越店の関口本店長は、11月13日にグランドオープンする「時間消費型の新たな『百過店』づくり」について、さらに踏み込んで述べた。

フロアごとに「トキ」(過ごし方の提案)のテーマを設定。地下1階食品フロアは「旬と活きのライブなトキ」(出来立てを提供、待っている時間も楽しめる場所)で、以下、1階「ここから始まるトキ」(川越ランドマーク、ここに集まる)、2階「上質を楽しむトキ」(ゆったりとした心地良いお買い物の場所)、3階「趣味を深めるトキ」(スポーツ、絵画、手芸など日々の暮らしを豊かにする空間)、4階「家族で過ごすトキ」(家族で心地良く過ごす)、5階「ウェルビーイングなトキ」(心も体も健康で心地良い毎日のお手伝い)、6階「みらいを創るトキ」(心地良い居場所、自分磨きの場所)、屋上「みんなが集るトキ」(家族と仲間と笑って集まれる場所)、別館2・3階「記憶に残る大切な人とのトキ」(まるひろレストラン街で特別なひとときを)といったテーマを設定して、モノ・コト・トキを提案する。

各フロアでトキ提案のポイントとなる売場や環境を具体的に説明した。6階の「みらいを創るトキ」フロアには、約80坪の「まるひろば」、上位顧客向けの「スターサロン」(約100坪)、イベントやワークショップ、特別販売会などが開催できる「ギャラリー」(約100坪)を新設。「百貨店の効率を求めるのではなく、お客様からの『愛着』を醸成していく空間であり、意味のある『無駄』な空間」と位置付けている。6階にはデジタルサイネージも設置して、全館の情報を発信するが、メインは新生「丸広百過店」のトキ提案の拠点としての役割だ。

いずれにしても「楽しく過ごした記憶が、お客様の来店動機になり、リピートにもつながり、必ず愛着を持って頂けると信じて『百過店』づくりを進めていく」と意欲を示した。

街と共存、サードプレイス的な満足感を提供
◆東急吉祥寺店 東出店長
東急吉祥寺店の東出店長は、下期の開店50周年をフックにした営業施策、今後の店づくりの方向性について言及した。

秋の仕掛けは開店50周年企画の集大成。地域で唯一の百貨店として存在価値を高める好機でもあり、記念セール、屋上を活用したファミリー向けイベント、外商顧客向け特別販売会など、全方位の顧客を対象に全館で様々なイベントを繰り広げている。中でも22年に断行した店舗構造改革に伴い一時期、伸び悩んでいた外商(個人)も「50周年を機にお客様との信頼関係が再構築できた」という。

今後の店づくりの方向性については、24年度が東急百貨店の中期経営計画の初年度であり、開店50周年の節目と重なったことで「お客様視点で吉祥寺店のリブランディング、ターゲッティング、ストアコンセプト、MDの再設計に着手している」。

その前提として「街と東急百貨店がどのように共存していくのか」。続けて「50年間で積み上げてきたノウハウを生かしながら、今後の50年を見据えて、街と共存していくために、街の居住者、来街者にとって、様々な世代が思い思いに過ごせる、安全・安心な場所、サードプレイス的な満足感を提供できる館にしていきたい」と方向性を述べた。

この方向性は、コロナ禍の21年春に改装した屋上に集う生活者の姿、様子からヒントを得た。「テーブルも椅子も置いていない人工芝に、平日の昼間はベビーカーの姿が、夕方には女子高校生の姿が目立ち、それぞれ時間を過ごされており、こうした公園的な機能が求められている」という。

MDの再設計に関しては、滞留時間をポイントに挙げた。「地域唯一の百貨店として支持され、信頼され続けていくためには、エンターテインメント、カルチャー、アート、カフェ、ラウンジなどのサービス機能を進化させていく必要がある」との考えを示した。

店舗構造改革を機に中上層階をテナント化したものの、「百貨店のDNAがあり、培ってきたサービスレベルを全ての取引先に伝播させて、お客様に感じて頂くことができれば、他の大型商業施設との圧倒的な差別化になる」。「地道でアナログ的な取り組みかもしれないが、百貨店としてリアル店舗の魅力化への大事なミッションだと考えている」と締め括った。

「都市型百貨店の地方モデル」構築を目指す
◆高崎高島屋 倉橋社長
高島屋グループでは創業200周年にあたる2031年に目指す姿「こころ豊かな生活を実現する身近なプラットフォーム」を掲げているが、これに基づき高崎高島屋の倉橋社長は「都市型百貨店の地方モデルの構築」を目指しており、優先的な取り組みについて言及した。

地方都市百貨店は「ヒト、モノ、カネ、情報の全てにおいて都市部と比べ大きなハンディを背負っている」という厳しい環境下だが、「フルラインの都市型百貨店を維持していくためには何ができるか。2031年に高崎高島屋が目指す姿の実現に向けて取り組み始めたところだ」という。

都市型百貨店の地方モデル構築を目指し、「百貨店の王道を進み続けていけるように、8年間で組み立てていきたい」考えを示した。そのための優先的課題として「顧客基盤の整備、品揃えの強みを磨くこと、企業としての体制整備」の3項目を挙げた。

顧客基盤の整備では、強みでもある外商顧客の拡大に注力している。上期より外商顧客の新規開拓担当(2名)を配置した。開拓は概ね順調で、特に「30~40代のお客様の獲得が目立っている」。もちろんハウスカード顧客の拡大にも取り組んでおり、組織顧客の基盤固めに着手している現状を説明した。

品揃えにおける強みの磨き上げでは、前半で発言した化粧品と催事(イベント)も引き続き強化していくが、もう1つの柱として「平場の再構築」を挙げた。競合店である郊外の大型SCと使い分けをしている顧客が少なくないため、「大型SCができない品揃えを徹底して磨き上げていく」というMD戦略である。

その象徴が社内起業制度で採用され、今年で4年目を迎えた自主編集ショップ「メゾンドエフ」。高崎高島屋独自の自主編集ショップで、ファクトリーブランドやデザイン雑貨などで構成。4階紳士服フロアのエスカレーター前の好立地で展開している。メゾンドエフの「エフ」には「ファクトリー、ファインド、ファン、ファンクション、フリー」の意味が込められており、これらをキーワードに「従来の百貨店のカテゴリーにとらわれない品揃え」を実践している。高島屋グループの首都圏店舗でポップアップショップの展開も始めており、成長軌道に乗ってきた。

3点目の企業体制の整備では、人材育成を重視している。高島屋の完全子会社である同社は5年間、新卒採用を休止しており、新卒採用と若手の人材育成プランの充実に取り組んでいきたい意向だ。

地方の中核都市で、高崎高島屋ならではの「百貨店の王道」を歩み続けるための「プラットフォーム」づくりが始動している。

2026年の開店50周年見据え、MD修正に着手
◆小田急町田店 鳥越店長
小田急町田店の鳥越店長は、コロナ禍前の19年春にグランドオープンした全館改装の背景とMDの現況、そして今後の取り組みを中心に述べた。

コロナ禍前の改装時の最大の課題は、主要顧客の高齢化だった。「組織顧客比率が7割を占めるが、その中心が60代、70代だったため、改装では40代、50代の次世代顧客の獲得を狙った」。化粧品売場の拡大、次世代顧客向けのアパレルショップの強化など客層の若返りを図った。

しかしながら周知のようにグランドオープン直後にコロナ禍が直撃し「改装効果の十分な検証ができない状況が続いていた」が、ようやくコロナ禍が落ち着きはじめ、改装効果が顕在化してきた。「組織顧客の(売上高)シェアが減少したものの、現金や他社クレジット顧客のシェアが伸びてきた」という。要は目指していた顧客の若返りが図られてきた。

とはいえ「コロナ禍で消費に対する価値観、生活スタイルが大きく変化してきたので、対応していかなければならない時期がきている。コロナ禍で投資を控えていたが、変化への対応に積極的に取り組まなければならない」という認識を示した。

すでに9月には8階を一部改装。100円ショップとカプセルトイの店舗を誘致した。新規顧客の開拓を狙ったMDで、「想定を上回る実績」で推移している。

このほかにも、昨年からブランドショップのスクラップ&ビルドに着手している。昨秋から今秋にかけて順次飲食店を誘致したレストラン街は全区画が揃い、次世代顧客の集客にもつながっており、売上げは好調だ。

同店は26年に開店50周年を迎える。「お客様の日常の豊かな生活を提案し、貢献できるような品揃え、サービスの充実にポジティブに取り組んでいきたい」と、2年先を見据えた攻めの営業戦略に転じている。