2024年11月22日

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にんべんの「つゆの素」、ロングセラーの秘訣は“味の三角形”

今秋冬は周年記念のPRを積極的に行う方針だ

にんべんの「つゆの素」は今年60周年を迎える。発売された1964年はだしを使った液体調味料は少なく、先駆け的な存在だった。しかし、同商品のヒットの後は多くのめんつゆ商品が生まれ、市場は拡大の一途をたどる。競争も激しくなる中で、なぜにんべんの「つゆの素」は60年を超えるロングセラーになったのか? 「味覚設計は60年間ほとんど変えていない」と話す経営企画部町田忠男部長に、つゆの素の奥深さやこだわり、周年プロモーションなどについて伺った。


――「つゆの素」が誕生した経緯や、その後の歩みについて教えてください。

当時、うま味調味料が普及したことから、かつお節の需要が減少していました。そうした中で商社から、にんべんのかつお節だしを使った「つゆ」をつくらないかと声を掛けられました。しょうゆとうま味調味料を組み合わせた液体調味料はすでに他社から出ていましたが、だしの味や香りがしっかりと出るものは当時なかったそうです。

60周年企画などを担当する、経営企画部町田忠男部長

加熱殺菌技術の確立など開発には苦労もありましたが、それを乗り越えて1964年に「つゆの素」発売となりました。初年度こそ苦戦したものの、その後は順調に売上げを伸ばし、2年目は1万5000ケース、3年目は3万ケースを販売しました。つゆ市場には他社も参入し、市場規模が拡大していきますが、1978年には数量で1位、1989年には数量、売上高共に1位となりました。

その後、プレミアムラインの「つゆの素ゴールド」「糖質70%オフつゆの素ゴールド」「塩分ひかえめつゆの素ゴールド」など派生商品を発売していきました。基幹商品であるオレンジラベルの「つゆの素」は、一部マイナーチェンジはありましたが、味は大きく変えずに60年間続けています。

――消費者が好む味にも流行がありそうですが、ほとんど変えていないというのはすごいですね。

めんつゆ系の商品は、しょうゆの味、砂糖の甘さ、だしのうま味の3点が基本の構成要素になっています。開発当時、この3点がきれいな三角形になる設計にしたそうです。甘さが突出したり、しょうゆの塩味が尖ったりといったことがなく、バランスの良い味わいになっています。

めんつゆ市場では2倍希釈タイプのめんつゆも多いですが(編集部注:にんべんのつゆの素は3倍希釈タイプ)、2倍のめんつゆは「そうめんのつゆ」に特化していて、しょうゆよりもだしの風味を前に出していることが多いです。料理用が主な用途でないため、軽い甘さを出すために、砂糖以外の甘味料を使っているものもあります。当社のつゆの素は、そうした商品がトレンドとなった時も開発当初の仕様を貫いています。

もちろん素材にもこだわっていて、しょうゆはJIS規格で最上級の「本醸造醤油」を40%以上使用。だしはかつお節をふんだんに使用したほか、色々な料理に使えるように昆布だしも入れ、まろやかな味にしています。こうした味覚設計により、めんつゆはもちろん料理にも使える“万能つゆ”として、ご支持いただけているのだと思います。

今年の「つゆの素」は60周年のロゴ入りで、キャンペーンも開催する

ーー最近はプレミアムラインの「つゆの素ゴールド」も人気が高まっています。つゆの素ゴールドと、オレンジラベルの「つゆの素」は、どのような違いがありますか。

オレンジラベルは、いわゆる“関東のしょうゆ”で味をしっかりとつくっています。原料にシャープで切れ味の良いしょうゆを使っています。おそらく皆さんが普段慣れ親しんでいるしょうゆより、きりっとしたメリハリのあるものです。

最近はマイルドなしょうゆを好むトレンドがあり、めんつゆにもその傾向があります。ですので好き嫌いは分かれるかもしれませんが、「関東らしい味のオレンジラベルが好き」というお客様が結構いらっしゃいます。逆にゴールドはマイルドなしょうゆを使っているので、関西では「ゴールドの方がおいしい」という方が多いですね。

どちらも固定ファンがしっかりと付いていますし、特にオレンジラベルは今当社で最も売れている商品で、愛用者が多いです。昨年はゴールドの20周年ということで様々な企画を実施しましたが、今年下期(24年9月~25年3月)は60周年をきっかけとして、改めてオレンジラベルについてのコミュニケーションを図ろうと考えています。

――今年下期に行う、60周年のコミュニケーションの内容について教えてください。

テレビCMの放映と、ハッシュタグ「#にんべん15秒レシピ」を軸としたネット上のプロモーションの2つをメインに計画しています。CMは10月から放映を開始し、店頭もそれに連動して10月15日~20日、10月28日~11月3日の2回にフェイシングを強化。タイミングを合わせることで、店頭接触による購買率アップを図ります。

めんつゆを使った手軽な料理のショート動画などを展開する

「#にんべん15秒レシピ」というのは、つゆの素を使った料理を15秒にまとめた動画を当社のユーチューブチャンネル、X(旧Twitter)、TikTok(ティックトック)などで投稿します。当社のファンコミュニティ「にんべんだしアンバサダー」のメンバーにも声を掛けていますし、流通企業と連動してリテールメディア(小売り広告)でもPRしていきます。

「#にんべん15秒レシピ」は、意外とめんつゆ以外の使い方を知らないユーザーの方も多いということから企画しました。例えば「バニラにつゆの素をかける」など、手軽にできるものを中心に考案しています。これを見た方にもトライして、動画を投稿していただき、さらに広がりを見せることも期待しています。

こうしたプロモーションで改めてつゆの素の魅力を再発見してもらい、利用を促進すると同時に、今まで使ってなかった人にも手に取っていただくことを狙いとしています。

――最後に、今後に向けてのメッセージをお願いします。

お客様のご支持あっての商品・ブランドだと思っているので、これからも使い続けていただくため、しっかりとしたものづくりとコミュニケーションに取り組んでいきたいと思います。先ほどお話したつゆの素の“味の三角形”はオレンジラベルだけでなく、ゴールドや塩分ひかえめなど、全て同じコンセプトでつくられています。違いは原材料のグレードや、 配合バランスの調整などです。

そうしたとても強いポリシーを持った商品なので、お客様とのコミュニケーションを通じて「つゆの素ブランド」として大きく育てていきたいですし、より強固なファンづくりにも励んでいきます。

(聞き手:都築いづみ)