松屋銀座店で「林家たい平 うつわ展」、食卓に笑顔を生む600点が揃う
松屋銀座店は20日まで、「第二回 林家たい平“うつわ展”」を開いている。昨年6月に初開催し今年で2回目。同店5階プロモーションスペースで、落語家の林家たい平氏が一つ一つ染め付けした波佐見焼の器を展示、販売する。今回は前回用意した約150点の約4倍となる約600点の器を揃えた。さらにオリジナルのTシャツや扇子、風呂敷、手ぬぐいも店頭に並ぶ。初日には報道陣向けに内覧会が行われ、たい平氏本人も登場。2回目の開催に寄せる想いや、自身の制作スタイル、波佐見焼の生産状況がおかれている環境についてもコメントした。
百貨店初開催となった前回は、連日多くの客が訪れた。用意した器は会期前半にはほとんどが売約済みとなる盛況ぶり。たい平氏は前回の様子を振り返り、「銀座という場所柄、海外の方がすごく多かった、自分のことを知らない人達が器を見て感動してくれて『持って帰りたい』と言ってくれたことがすごくうれしかった」と話す。さらに、器を購入した知り合いから、買った器に料理を盛りつけた写真がたくさん送られてきたのも、喜びとなった。
今回用意された器は、約600点と前回の約4倍。たい平氏が30年近く前から制作の場としている長崎県波佐見町にある西山窯で、3日間朝から晩まで作業してつくり上げた。売場には楕円やスクエア、ボウル型など様々な形の器に、たい平氏が染め付けしたオリジナリティあふれる器が勢揃い。「福」「笑」「寿」といった食卓を和ませる言葉がデザインされた器も多く並んだ。今回は器に加え、たい平氏オリジナルデザインのTシャツや扇子、風呂敷、手ぬぐいも販売されている。
内覧会では、タイトル看板へのライブペインティングや紙皿に染め付けするデモンストレーションも行われた。たい平氏は「思い通りにならないところが好き」と、筆ではなくデスクを掃除するような小さな箒(ほうき)を使い、迷いなく手を動かしていく。いつも何も決めずに描いていくそうで、その緊張感や、勢い良く描くと出てくる力強さを楽しんでいるようだ。
器の染め付けも同様に、西山窯に行く前にイメージをスケッチすることはないという。窯にある器の形からその場でインスピレーションを得て「人との出会いと同じ様に、その場で出会った(皿の)形に気持ちを揺さぶられて」(たい平氏) 制作する。今回用意された約600点の器も「『このお皿にはこんな料理を盛ったら楽しいな、家族の真ん中にこのお皿があったらどんなに笑顔があふれることだろう』と考えながら、一点一点向き合って染め付けをさせていただいた」(たい平氏)。二回目の開催には、波佐見焼の器をきっかけに家族の会話が生まれるのを望むといった、たい平氏の想いもある。
それには、波佐見焼が日常使いの器であることも大きい。丈夫な磁器の波佐見焼は庶民の日用食器として、昔から愛され使われてきた。飾って眺めて楽しむものではなく、日々の生活の中で使うことが波佐見焼の原点とされている。たい平氏が「毎日使って、毎日楽しい」と口にする波佐見焼の魅力は、たい平氏にとって落語との共通点でもある。
こうしたことから、松屋銀座店の上階にあるギャラリースペースではなく、5階の一角を利用した開催にもこだわりがある。たい平氏は「商店街の陶器屋や瀬戸物屋は、肉屋や洋服屋の隣にあるのが当たり前。それが5階にはある。隣で財布や傘、洋服を売っていて、その中で皿を売っている。ここにいると商店街の中で『おはよう』『いつもありがとう』と挨拶しているような、そんな楽しみがある」と笑顔を見せた。暮らしの中で日常使いの雑器に美しさを見出す「民藝」を愛するたい平氏ならではのスタンスも、うつわ展の見どころの1つと言えそうだ。
会見の最後に今年もまた、記者からたい平氏にうつわ展の「なぞかけ」を求める場面があった。たい平氏は苦笑いを浮かべつつも、数秒で披露。「『波佐見焼の器』とかけまして『ご近所のうわさ話』と解きます」その心は「盛れば盛るほど楽しくなるでしょう」。
(中林桂子)