2024年11月22日

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西武HD、全国に1億㎡の土地を有する西武グループの不動産戦略

画像左から坂氏、後藤氏、ケン・チャン氏

西武ホールディングスは4月26日、プリンスホテル高輪で西武グループの不動産価値最大化に向けた取り組みついての記者会見を開いた。西武ホールディングス代表取締役会長会長執行役員兼CEOの後藤高志氏が、西武グループの不動産戦略を説明。4月16日付で建築家の坂茂氏と資産運用会社を経営するケン・チャン氏の2人を、エグゼクティブアドバイザーに招聘した経緯についても述べた。会見には就任した坂氏、シン・チャン氏も登壇し、開発に取り組む意気込みなどを語った。リゾート開発事業を担当する西武リアルティソリューションズ取締役常務執行役員の荒原正明氏も、西武グループにおけるリゾート開発のポテンシャルや方向性を説明した。


 西武ホールディングスの後藤高志氏・談

西武グループは中期経営計画に基づき、2023年度までの3カ年において経営改革を進めてきました。経営改革の柱としてグループ各社がそれぞれの専門性を発揮した、持続可能な事業成長を見据えた専門性の追求を目的とする組織再編を実行しました。

「西武鉄道」は組織運営体制の見直しを行い、安全・快適な輸送に特化するとともに、沿線価値の向上に主体的な役割を担っていきます。プリンスホテルは「西武・プリンスホテルズワールドワイド」に会社名称を変え、運営特化型のホテルオペレーターとなり、日本をオリジンとしたグローバルホテルチェーンとして世界に飛躍してまいります。そして不動産事業を担う西武プロパティーズは「西武リアルティソリューションズ」に名称を変え、プリンスホテルが保有していた不動産を集約することにより、グループ保有資産の価値極大化を追求する総合不動産会社へと業容を拡大し、その潜在価値を自らの手で顕在化していく役割を担っていきます。

このような新体制の下で24年度から始まる新たな中期経営計画においては、不動産事業をグループの成長戦略の核とし、企業価値向上を強力に進めてまいります。企業価値向上のために要諦となるのは不動産開発であり、当社グループの強みは豊富なリアルアセットの質と量であり、不動産開発事業にそのアセットを最大限に生かすことが西武グループ全体の成長のキーファクターとなります。

当社グループは都心、西武線沿線のアセットに加え、軽井沢や箱根、富良野などの国内有数のリゾート地にホテル、ゴルフ場、スキー場などを有しており、山林や原野などの低・未利用地までを含めると全国で約1億㎡の土地を有する国内有数のアセットホルダーであります。都市部においては品川駅前という希少な立地に約13万㎡の敷地面積を保有する高輪・品川エリアに加え、東京タワーのふもと、江戸時代の歴史を伝える芝公園エリアに約5万㎡の敷地を有し今後開発を行っていきます。また、新宿エリアにおいてもエリア全体の再整備の一環として行政や関係機関と連携した開発を進め、リゾートにおいては北海道から九州まで非常に多岐に亘るエリアに優良な資産を保有しています。

それぞれの資産にはその地域ならではの唯一無二の魅力があり、不動産開発により各エリアに高いポテンシャルを顕在化させることで日本の観光大国としての発展に大きく寄与していきたいと考えております。これらの保有不動産の価値最大化を自社のリソースのみで推し進めていくのではなく、外部有識者の広範な知見を加えることでより質を高めた形で実現させていきたい。その思いから、世界で活躍される坂茂氏、ケン・チャン氏をエグゼクティブアドバイザーとして招聘しました。西武グループの優良な資産、そして100年を超える不動産開発の歴史を土台として、世界で活躍する2人のグローバルな知見を加えていただくことにより、このチームでしか成し得ない不動産開発のコンセプトができると信じています。

まず、坂茂氏を招聘した理由を説明します。坂氏は世界的な建築家であり、プリツカー建築賞を受賞されるなど、その実績や功績は皆様もご存じの通りです。西武グループの今後の不動産開発に当たり坂氏をお招きしたのは、当社が抱えているその土地が持つ歴史や文化を大切に育み、地域や社会の発展に貢献したいという思いに共感をいただき、その姿の実現に向け知見や発想をいただきながら共に議論し、新しい開発の形を生み出していきたいと考えたからです。

また、坂氏は建築を通じてクライアントか抱える課題を解決するという方針を掲げ、被災地へのボランティア活動などを積極的に行っており、地域に寄り添う建築を第一に考えておられます。今年1月に発生した能登半島地震の際にも、石川県内でプライバシー確保のための紙管間仕切りユニットや段ボールベッドを設営され、当社グループも支援させていただきました。

敷地が広いリゾートエリアにおいては単に施設の設計、デザインだけにとどまらず、まちづくりという観点でもこれまでの経験を還元していただき、坂氏の発想や知見を生かし、世界に誇る日本らしいリゾートを一緒につくり上げ、国内外に発信していきたいと考えております。

一方のケン・チャン氏については、シンガポール政府投資公社の前代表を務められ、そのキャリアの中で各分野の不動産資産のコアポートフォリオをグローバルな視点で構築された、まさに不動産投資家としての確固たる実績をお持ちの方です。また、GICの日本におけるプライベートエクイティ、インフラストラクチュアー投資の新規進出をけん引した金融のプロであることに加え、これらの業務を通じて日本はもとより、アジア圏を中心としたグローバルなネットワークを築かれています。

こうした知見を生かして、足元ではご自身で日本の観光振興や地域創生を目的としたグローバル投資運用会社であるPCGも立ち上げられ、不動産投資のホテルにご自身でも妙高エリアを中心に不動産開発を手掛けられております。当社グループとの出会いとなった妙高エリアの中でも、世界に通じるリゾート開発の提案をいただき、私もその内容に強く共感しました。その人柄も含め絶大な信頼をしており、まさに当社グループの不動産戦略の先鋭化に欠かせない大変強力なパートナーであると確信し就任していただきました。


会見で挨拶する建築家の坂茂氏

坂茂氏・談

西武グループは日本の大手企業の中で唯一、日本を代表する建築家に施設設計を託してきた歴史を持ちます。例えば、村野藤吾、丹下健三、黒川紀章、清家清、池原義郎など、つまりほとんどの日本企業は建築に合理性と収益性の身を追求しているのに対し、西武グループは建築文化そして都市やリゾート地に素晴らしい景観をつくってきた企業だと言えます。その西武グループからエグゼクティブアドバイザーに委任されたということは、建築家として大変名誉なことと感じています。

就任するに当たり、日本全国にある西武の施設、特にリゾート施設を見て回りました。そこで驚いたことは多くの施設が稼働しておらず、また時代に取り残された施設となっている現状です。それともう1つは、例えば巨大なスキーリゾートが70年代、80年代のスキーブームが終わった後は、一定のエリアからのインバウンドのお客様に頼ったままの営業体質であることです。現在EUでは“デリスキング”が議論されています。そういう意味で現在西武が抱えている負の遺産をどう当面売りさばいていくかではなく、もっと将来に亘って日本の文化をつくっていくかという観点に立って開発を進めていくべきだと考えています。そのような仕事に私は少しでもお役に立てればと願っています。


今後の取り組みついて意気込みを語るケン・チャン氏

ケン・チャン氏・談

新たなエグゼグティブアドバイザーとして、西武グループの不動産開発における可能性を見え出したいと考えています。西武グループが保有する素晴らしい資産のバリューアップをサポートし、インバウンドの増加に伴う日本への投資拡大を見据え、国内のマクロ的な機会にも着目しています。前職のGICで培った経験と、現在取り組んでいる開発の世界的なノウハウを生かし、西武グループの資産価値を最大化するために貢献します。


西武リアルティソリューションズの荒原正明氏・談

当社のリゾート開発における強みは、100年を超えるリゾート開発の歴史、そしてリアルアセットの質と量の2点です。まず100年を超えるリゾート開発の歴史については、当社グループは大正時代に当たる1918年に軽井沢を、翌19年には箱根の開発に着手するなど、リゾートのパイオニアとして数々の開発や施設運営を行ってきました。大磯や苗場、富良野、箱根といった名だたるエリアに、ホテルをはじめゴルフ場、スキー場などを開発し、“夏は大磯、冬は苗場”といわれるような日本のリゾート文化を生み出してきました。

また、昨年はG7広島サミットのメイン会場となった瀬戸内海に面するグランドプリンスホテル広島をはじめ、リゾートアウトレットの先駆けとなった軽井沢プリンスショッピングプラザ、近年においては会員制リゾートホテルのプリンスバケーションクラブなど、その時代に合わせた新しい形のリゾートを追求しています。そしてそれぞれの施設においては、村野藤吾氏や丹下健三氏など日本を代表する建築家の皆様と共に開発を進めてまいりました。

リアルアセットの質と量については、当社グループは全国に約1億㎡の土地を保有する国内有数のアセットホルダーであります。軽井沢、箱根、富良野、川奈など世界に名だたるリゾートに加え、日光や大磯など特にリゾートエリアにおいて絶好のロケーションかつ開発余地も残している競争力の高いアセットを数多く抱えています。当社グループの持続的な成長と企業価値向上のためには、リゾート開発が非常に重要な位置付にあると捉えています。

具体的に開発を進めるに当たってはグローバルな視点を持った坂茂氏、ケン・チャン氏の知見を生かしながら自社開発のみならず、他社との協業を組み入れることでスピード感を持って開発を進めるとともに、ホテルコンドミニアム事業や会員制リゾートホテルの展開、既存施設の再開発といった様々な手法を検討していきます。その中でも優先的に開発するエリアは軽井沢、箱根、富良野、大磯、川奈、日光の6カ所。特にその中でも軽井沢においては民間企業としては最大のアセットホルダーであり、これまでも様々な開発を行ってきました。

1つは、軽井沢駅に近く圧倒的立地性と規模を誇る駅前エリアです。ホテルは700室を超える客室を運営しており、ショッピングは約240店舗を展開、スキー場も運営しています。2つ目は別荘地として5200区画以上抱える大規模再開発可能な千ヶ滝エリア。千ヶ滝エリアについては野村不動産と協業して開発を進めていくことになります(千ヶ滝地区に保有する約22haの広大な敷地を活用し、次世代のリゾートのあり方を見据えた大規模開発行う「軽井沢千ヶ滝地区開発プロジェクト」の共同開発に向けた基本協定書を野村不動産と24年4月25日付で締結)。3つ目は、合計で162ホールのゴルフコース、そして会員制ホテル事業を展開する南軽井沢エリアです。これら3つのエリアの敷地規模は1250㎡に及びます。

西武グループが培ってきた100年を超えるリゾート開発の歴史と、豊富で魅力的なリアルアセットをベースとし、そこにグローバルな視点を持ったプロフェッショナルな2人の知見を加えることにより、必ず世界に誇る日本らしいリゾートの実現が可能と考えております。

都市、沿線開発のほか、今後の成長の土台になると位置付け、「世界に誇る日本らしいリゾートへ」のコンセプトの下、世界中のお客様が我々のリゾートに集い、日本の皆様が我々のリゾートを世界に誇って下さり、そして地域の方、そこで働く方が今よりももっと誇りとやりがいを持つといったことを実感していただけるような開発を進めていきたいと考えています。

加えて環境変化にもしなやかに対応できる持続可能なリゾートを確立すべく、地球、自然環境を保全し、さらに豊かにする歴史や文化を守りながら地域の社会に貢献する、当然ながらお越しいただくお客様に感動を提供する、これらのことを将来に亘って注力してまいります。

(塚井明彦)