生成AI、どう使う?百貨店の人に聞いてみた【前編】
昨今注目を集める、生成AI(人口知能)。とりわけ著名なのが対話型AI「ChatGPT」だろう。これからの時代、いかにChatGPTを使いこなすかがカギとなる——とまで巷では言われているが、「どのように業務に生かしたら良いのか?」「皆どれ程使っているのか?」と悩む人も少なくないのではないか。そこで、弊編集部で百貨店への匿名アンケートを実施。百貨店で働く人達のリアルな現状を聞いてみた。
調査方式は、全て会社名と個人名は匿名で、部署と年齢のみ大まかに答えていただいた。質問項目は「会社が許可しているか」「使用している人の用途、きっかけ、実感している効果」「使用していない人の理由」「周囲の使用状況」「今後百貨店業界で使われていくと思うか」など。全5社、各社1~3人に尋ねた。
前編となる今回は、会社や個人、周囲の使用状況の解答についてまとめる。「今後百貨店業界でどのように使われていくか」は3月26日公開となる後編に掲載する。
文章作成、アイデア出し、要点整理などに寄与
「使っている」と答えた中では、文章の作成やアイデア出し、要点整理、調べものなどの用途が多かった。生成AIは既存の情報を分かりやすくまとめる能力に長けているため、それを生かした格好だ。
まずA社ではChatGPTの使用が許可されており、aさん(総務・人事、30代)はChatGPTを「文章を制限時数内に要約する時や、原稿作成などで一部分の文言、表現を参考にする場合など。月に数回ほど」使用している。きっかけは「AIの方が素早く文章を作成してくれると思ったから」で、「業務効率面で多少効果を感じている」。使用している人は「周囲ではあまり見かけない」という。
B社はフリーの生成AIは不可で、試験運用のためにMicrosoftから導入した「Azure OpenAI Service」の自社専用アプリが使用可となっている。なおAzure OpenAI Serviceとは、ChatGPTやGPT-4など多様な生成AIモデルをAzureのクラウドプラットフォーム上で利用できるサービスのこと。bさん(情報システム、40代)はその自社専用アプリを使用。「メールなど文章のアウトライン作成、アンケート集計時の項目整理、提案資料のアイデア出し」などに活用している。
使い始めたきっかけは「元々生成AIに興味があったことと、全社で生成AIの業務活用可能性を検討している」ためだ。「文章作成やアイデア生成の支援により、業務効率化と時間短縮が図られている」という。周囲には「多くはないが活用している人も一定数存在する。主に作業効率化(文章作成の支援・各種アイデア出しなど)がメインではないかと認識」している状況だ。
C社はChatGTP、「Gemini」の使用が可能。Geminiとは、Googleが提供する対話型AIのブランド名だ。cさん(営業企画、20代)は「CRM施策などのアイデア出し、エクセルなどの関数の確認、文章の整理」などにChatGPTを使用する。頻度は1日に1回ほど。きっかけは「何ができるのかが気になった」ためで、「毎日触っていれば、1週間かからない程度で業務のプラスになるように使えた」と述べる。特に「アイデア出しやエクセル関数の確認については、業務の効率化につながっていると実感している」。
D社はアプリ名は非公開だが、使用は許可されている。全社で利用しているグループウェアのトップページに動線がある。eさん(情報システム、50代)は推進部署に属することから、「業務効率化を目的に週に1~2回使用。連絡書作成やIT関連の調べもので時間が短縮できた」と答えた。使いこなすまでは「取引先やウェビナーで情報を集めていたので、すんなりと利用できた」。周囲では「企画部署が文章作成と推敲、企画のアイデア出しなどで使用している」そうだ。
E社でも生成AIの使用は許可されており、ChatGPTの業務活用を支援する「Smart Generative Chat」を社として導入している。gさん(情報システム、30代)は「分からない単語を調べたり、良い言葉が思い浮かばない時に案を貰ったりしている」。頻度は1週間に2回程度だが、「まだ利用し始めたばかりなので、使いこなす領域まで達していない」と答える。周囲には「文章の要約や、画像を生成AIにつくらせて、資料作成に利用している人がいる」という。
同じくE社のhさん(業務改革部、40代)はSmart Generative ChatbotとChatGPT(GPT-4)を使用。なお、GPT-4とは23年3月にリリースされたChatGPTの新モデルのこと。「分からないことを調べる(特に専門的な分野で深掘りして理解したい時)、企画を立てる時の下書き作成、システム導入の際にベンダーに直接質問する前に前さばきをする、会話モードで壁打ち相手としてブレスト」などに活用している。
頻度は「基本毎日」で、「もう無しではいられない」というほどのヘビーユーザーだ。使い始めた理由は「GPT-4になってから内容に信頼性が置けるようになったから」と説明する。周囲の使用状況は「システム部門はエラー解決に使ったりしているようだが、企画系では不明」としつつ、「もっとシステム以外の企画職でも使えるはずだと思う」と提言する。
使っていない人も一定数、課題はメリットの周知か
ここまで「生成AIを使っている」人の解答を列記してきたが、無論「使っていない」人もいる。D社のfさん(広報、30代)は、「以前『AIチャット』というアプリを使用していたが、現在は使用していない」と解答。「お試しで使用してみたが、具体的な活用方法を見つけらなかった」と理由を述べる。ただ、「仕事で具体的に活用できることがあれば利用してみたいと考える」と、前向きな姿勢も示す。
E社のiさん(営業企画、50代)はChatGPTとGeminiを使ったことがあるが、「プライベートの使用。話題になったので使ってみたが、ほとんど使ってはいない」。理由については「便利な部分も感じたが、この程度かという感じでもあった」と答えた。
今回のアンケートは誰が解答するかを各社に任せているため、実情より「生成AIを使っている」人の割合が高いと思われる。実際は使用していない人も相当数いるのが現状だろう。ただ、「使っていない」と答えた両者とも一度は生成AIを使ってみた経験があるように、使っていない人も関心はあることが伺える。「良い使い方」や「使うメリット」をシェアできれば、社内の普及は進みそうだ。
プログラミングでは全面的に活用、共有も
生成AIはプログラミングの補助に使われることも多く、今回のアンケートではC社のdさん(情報システム、20代)が使っていると解答。「社内基盤としてGoogleを活用しているので、Geminiを使用。アプリやソフトではないが、ウェブブラウザを通じて利用できる」と説明する。「GAS(Google Apps Script、Googleが提供するアプリケーション開発プラットフォーム)を使った開発をする際には必ず使用している。実行したい処理をどのように書いたら良いのか悩んだ場合や、プログラムの解説などに役立てている」という。
メリットとして、dさんは「IT業に就いて間もないため、プログラミングの作業で分からないことがまだたくさんある。細かい質問を他の開発メンバーに聞かずに済み、検索エンジンを使用するより合致した回答が返ってくる場合もある」と語る。「生成AIが得意不得意なこと、プロンプト(生成AIへの指示)入力のポイントを掴むまで時間が掛かり、今でも気を付けながら試行錯誤することがある」が、「実現したいことのサポート役として効果を実感している」。
dさんの周囲では、「開発チームのメンバーは皆使用している。業務の一環として生成AIを活用できる環境があるので、チームの情報を溜め、チーム内の困りごとやログの解析などで活躍している」。個人の業務内だけでなく、チーム全体でフル活用している状況だ。
以上、5社9人の解答をまとめた。解答を見ると、やはり情報システム系の部署に使用している人が多い。ただし、使用方法として多く挙げられる「文章作成」「要点整理」「調べもの」などは多くの職務で活用できる。まだ使っていないという人は、まずは知りたいことの下調べや資料の要約に導入してみるのも良いだろう。dさんの「チームの情報を溜め、チーム内の困りごとやログの解析などで活躍している」も興味深い。dさんの場合はプログラミングに関してがメインだが、それ以外の業務でもデータを蓄積することで業務の分析・改善や補助に役立つかもしれない。
また、「今後百貨店業界で使われていくと思うか」の解答は後編(3月26日公開)で掲載する。そこでも生成AIの活用方法について有意義な意見が寄せられており、ぜひご覧いただきたい。
(都築いづみ)