2024年12月04日

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新型コロナウイルスが5類に移行して初めての初売りは、開店を待つ長蛇の列が各地でみられた(写真は松屋銀座店)

百貨店業界は2024年も好スタートを切った。デパートニューズウェブが東京都と大阪府の主要百貨店を対象に調査した初売りの結果は、新型コロナウイルス禍からの“復興期”に入った23年に続き、総じて前年を上回った。伸び率が2桁を記録した店舗も少なくない。昨年来の旺盛な高額消費やインバウンドに支えられる構図は変わらないが、初売りの風物詩である福袋、食品や化粧品、衣料品などの売れ行きも良く、富裕層や訪日外国人以外の購買意欲も高まりつつある。一方で、近年は「本当にほしいものでなければ、どれほど安くても買わない」という価値観が加速度的に浸透し、クリアランスセールは低調。各店は正価品の品揃えを拡充しているが、その穴を完全に埋め切れてはいないのが現状だ。とはいえ、縁起の良い年になるとされる「甲辰(きのえたつ)」にふさわしく、初売り以降も視界は良好だ。

小田急百貨店新宿店は2日、通常より5分早い午前9時55分に営業を開始。開店前には約300人が並んだ。同日の売上げ、客数は前年比で100%。店頭販売の福袋は前年比で2桁増となった。クリアランスセールは割引に特化せず、「小田急 冬トク」として2~23日に全館で“お得”なモノやコトを訴求し、化粧品売場では「新春コスメ特集」を新たに実施。同店の15日時点の売上げは前年比10%増と好調だった。

インバウンドは1月13日時点で、売上高が前年比20%増、客数が同50%増。インターナショナルブティックや化粧品、ハンドバッグ、ゴルフファッションなどが伸長した。

1月商戦の見通しについては「7階のイベントスペースでは『クッキーワンダーランド』(15日まで)が予算、前年の売上げ共に大きく上回り、若い世代の来店につながった。17日から『小田急Cha×茶×ちゃ』、そして24日からバレンタインイベント『ショコラ×ショコラ』と人気の高い食関連催事を実施し集客を図る。17日からのカード優待施策に合わせてインターナショナルブティックや靴・ハンドバッグ・服飾雑貨売場では新作を展開、化粧品では冬トクのコスメイベント、食品ではクーポン施策を実施して売上げ拡大を目指す」とした。

京王百貨店新宿店は2日、通常より40分早く午前9時20分にオープン。開店前の行列は前年の約1.3倍を数えた。同日の売上げは同約6%増、客数は同4%増。福袋は例年通り23年内に店頭およびインターネット通販サイト(以下、EC)で一部の販売をスタートし、年内販売分は2桁増を記録したが、ECが鈍かった。初売りからの福袋は、人気の食品と婦人・紳士洋品の一部を7階の特設会場で提供。食品は7階での販売が3回目となり、開店間もなく完売。ワゴンで展開した婦人・紳士洋品は単価を伸ばすなど盛況で、年内販売分も合わせて売上高は前年を上回った。

応募抽選式は、新宿店開店60周年企画として前年より3点多い計7点を用意。「ダイヤモンド婚」にちなみ、ダイヤモンドとディナーをセットにした「結婚記念日お祝い福袋」(60万円)、「豊洲市場見学案内付き食品福袋」(5000円)など食関連の福袋が人気。全体では、単価が上昇する一方、個数の減少によって前年実績を割り込んだ。

クリアランスセールは近年の不振を踏まえ、短期集中化とプロパーの強化を実施。プロパーは「京王百貨店新宿店LINEアプリ」の会員を対象とした優待を2~8日の期間で新たに行った。プロパーはプラスだが、暖冬の影響などにより防寒品がクリアランスセールを含めて伸び悩み、トータルでは前年並みかマイナスで推移した。

インバウンドは、2~4日は台湾と香港を中心に中華圏からの客が約6割を占め、衣料品が伸長するなどクリアランスセールへの反応も上々。しかし、その後は能登半島地震や羽田空港の事故などが影響したか、厳しい状況が続いた。

1月商戦の見通しについては「新宿駅周辺の商環境の変化に加え、新型コロナウイルスの5類移行も重なり、昨年から引き続き食品売場を中心に好調を維持。6日に始まる『第59回元祖有名駅弁と全国うまいもの大会』もコロナ禍前の来場者数を見込む。大催場には『石川・福井 物産展』やバレンタインデーといった食物販催事もあり、これらをフックに新規のお客様の顧客化を進め、売上高の確保を目指す」という。

西武池袋本店は1日、通常より30分早く午前9時30分から営業。同日の売上げは前年比約6%増、客数は同約8%増、3日までの累計では売上高が同約2%減、客数が同約1%増だった。元日、3日までの累計、共にコロナ禍前の20年に届いていない。

百貨店業界で唯一の元日営業に関しては、友人同士や家族連れなどの来店が目立ち、特に食品売場が盛況。3~4人用のケーキ、手土産用の菓子が好調で、同売場の売上げは前年比10%増を記録した。今年の元日は「開運日」に当たり、品揃えを約1.5倍に増やした財布も売上げが前年の約3倍に膨らんだ。福袋は約130ブランド、前年より5%多い約1万6000個を販売。食品の売れ行きが良く、有名な菓子のブランドは開店と同時に完売した。

西武池袋本店の食品売場は大勢で賑わった

2024年の元日は「開運の日」に当たり、関連して財布を打ち出した

クリアランスセールでは、23年末まで動きが鈍かったコートを求める客が増加。春先まで長く使えるタイプが人気だった。新年会や謝恩会などを見据えた、明るいカラーのニットの購入も目立ったという。

インバウンドは菓子や高額品が好調で、元日の免税売上げは前年の2倍、客数は同2.5倍となった。

1月商戦の見通しは「5類移行後ということもあり、春の式典向けのバッグやシューズ、ハレ服の需要が昨年よりも高まると予想される。バレンタインデーも催事場のイートインをさらに充実させるなどで客数の増加が期待できる」とした。

大丸東京店は2日、前年の約1.1倍に当たる約2200人が並んだため、当初の予定である午前9時30分より20分早く9時10分に営業を始めた。同日の売上げは同10%増と伸び、2~3日の累計では前年並みだった。今年は福袋を強化。テーマを「偏愛福袋」とし、昨年10月に社員によるプレゼン大会を開き、その愛が詰まった福袋を今年1月2~9日(一部は2~3日のみ)に販売した。注目を集めたのは、アイドルグループ「AKB48」とのコラボレーション。3~9日に11階の催事場で販売し、集客力の嵩上げにつなげた。

インバウンドは好調に推移。昨年12月の免税売上げも過去最高を更新した。円安効果で特選ブランドが伸び、旅行用品や化粧品も活況。コロナ禍前は中国からの客が多く、化粧品のまとめ買いが多かったが、台湾や香港、韓国、タイ、マレーシアやシンガポールなどからも客足が増えており、「本当にほしいものが選ばれている印象」という。

1月商戦の見通しは「前年並みを見込む。インバウンドを中心に特選ブランドは引き続き好調な上、食関連のイベントも賑わっており、恵方巻やバレンタインにも期待できる」とした。

高島屋日本橋店は2日、午前10時にオープン。開店前の行列は前年の約1.3倍で、先頭は午前5時30分に並び始めたという。2~3日の累計売上げは同5%増、客数は前年並みだった。福袋は前年並みの約430種類、約1万4000個を販売。食品、キッチン用品をはじめとする日用品が早い段階で完売し、独自に企画した「三井ホーム 新築住宅福袋 3500万円 3棟限定」には約10件の応募があった。

クリアランスセールは、ファッションでアウターや春物などの正価品を拡充。2~9日の累計で正価品の売上げは前年比約11%増と伸び、セール品は同5%減だった。正価品は婦人、紳士共に好調という。

インバウンドは免税売上げ、客数共に前年を大きく上回り、カテゴリーでは特選ブランドや化粧品がけん引。中国からの客が戻ってきており、免税売上げが高伸長したほか、台湾、シンガポールをはじめ東南アジアからの客も増えている。

1月商戦の見通しは「全体的に好調に推移しており、特に特選ブランドや宝飾品などの高額品が伸長。24日からは『アムール・デュ・ショコラ』の開催となるため、その他の買い回りにも期待する」とした。

松坂屋上野店は2日、通常より20分早い午前9時40分にオープン。前年の約1.3倍に当たる約1300人が開店を待ちわびた。同日の売上げは同14.2%増、客数は同18.8%増と共に高伸長だった。

昨年の約1.3倍、約1300人が行列した松坂屋上野店

客数の増加には、初めて実施した「松坂屋上野店パンダフルジャンボ」が貢献。クリアランスセールが前年の12月にシフトする中、年末に対象売場での買上げ金額に応じて「パンダフルジャンボ」と呼ぶ宝くじのようなものを配り、初売りで当選番号を発表するという企画だ。当選したパンダフルジャンボは商品券として使える。

初売りで好調だったカテゴリーは、訪日外国人に向けてパールを使った商品を強化したアクセサリー。前年実績を大幅に超えた。業界的なクリアランスセールの低迷を受けて、正価品の販売を伸ばすため、2~31日まで「アプリがおトクな1か月」として、アプリ会員限定の稀少商品の抽選販売や限定価格商品の提供なども行った。

インバウンドは、免税売上げ、同件数、客数の全てが前年に比べて大きくプラス。婦人服や食品の免税売上げは前年の倍以上に及ぶ。食品は和菓子が、婦人服は「ピンクハウス」「ヒロココシノ」などが、それぞれ好調だった。国別では中国が前年から大きく伸ばした。

1月商戦の見通しは「化粧品が免税売上げを除いても前年比で20%以上の伸びを持続している。特選ブランドもアパレル、ジュエリーともに堅調を維持すると予想する」とした。

松屋銀座店は初売りを前年の2日から3日に移行。通常より15分早い午前10時45分に営業を始めた。開店前には約2200人が並び、同日の売上げは前年の2日に対して約30%増、客数は同3%減。売上げは前年の2~3日の累計の約8割にも上り、コロナ禍前の20年比でも15%増と高伸長だった。客数の減少は銀座地区の競合店が2日に営業を開始した影響もあるが、20年比でも約35%減にとどまった。

クリアランスセールは3日から1週間の短期集中で実施。1月の売上高におけるクリアランスセールのシェアが2割を下回っており、同店は「もはやセールを狙う需要はめっきり減り、ほしいものをほしい時に適正価格で買うという動きが顕著になっている」と指摘。さらに「メーカーも大量生産を避け、短いタームで正価品をつくり、売り切る形が増えたため、セールの在庫も少なく、店頭でセールのPOPを見つけるのが難しいほどだった。店の意志としてセールを減らしてプロパーを強化するということではなく、お客様の需要が自然にその方向に進んでいる」と強調した。

インバウンドは、免税売上げが前年比約55%増と盛況。20年比でも同約27%増と伸ばしている。

1月商戦の見通しは「前年比約15%増。これは前年に比べて営業日が1日少なく、営業時間も1時間減少(昨年9月に開店を午前10時から午前11時に変更)した中での数字であり、大変好調と言える。やはりラグジュアリーブランドや宝飾時計の売れ行きが良い」とした。

三越伊勢丹の伊勢丹新宿本店と三越日本橋本店は2日に営業を開始。伊勢丹新宿本店には前年より約4%多い約7700人が並んだ。同日の売上げは三越銀座店を含めた基幹3店舗の合計で同100%、客数は伊勢丹新宿本店が同100%、三越日本橋本店が同約6%増だった。売上げをプロパーとセールで分けると、前者が同7%増、後者が同9%減。2~3日の累計売上げは同じく基幹3店舗で同約2%増、プロパーは同8%増、セールは同約8%減だった。セールの退潮は明らかだ。

三越伊勢丹ホールディングスは、初売りについて「5類移行後初めての初売りで、多くのお客様にお越しいただいた。『初売りで安くなっていそうだから買う』というより『価格で妥協するのではなく、欲しいもの、価値のあるものを買う』という方が多く見受けられた。伊勢丹新宿本店では、セールやプロパーにかかわらず、ウールのコートや薄手のセーター、ジャケットなど今から着られる、春先まで着られるアイテムが人気」と振り返った。

インバウンドは依然として驚異的な伸びを示しており、12日までの累計で伊勢丹新宿本店は前年比55.6%増、三越日本橋本店は同32.6%増を記録した。

1月商戦の見通しは「14日まででの商況だが、店頭売上げは継続して基幹3店舗がけん引しており、特に宝飾・化粧品などが好調」とした。

あべのハルカス近鉄本店は2日、当初の予定を20分早めて午前9時30分にオープン。開店前には約5200人が並び、売上げは2~3日の累計で前年比4.4%増、客数は同4.7%減だった。クリアランスセールは16日までで、9日時点では同4.2%減。セールの苦戦を見越して、「ハッピープライス」と名付けて価格訴求できる正価品を拡充したが、色やサイズのバリエーションも充実させた結果、好評を博した。館内でのポップアップスペースも強化しており、“手の届く贅沢品”としてインポートのエコダウンブランドの動きが良かった。

インバウンドは14日時点で免税売上げが前年比約45%増、同件数が同約78%増。特選洋品が好調だ。

1月商戦の見通しは「14日時点で食品、婦人服、紳士服、子供服、家庭用品の売上げは前年を上回っており、中でも特選用品・アクセサリーの売上げは同約18%増、化粧品は同約17%増と高伸長している」とした。

高島屋大阪店は2日、当初の予定より20分早く午前9時10分に営業開始。開店前には約2400人が並び、売上げは2~3日の累計で前年比約13%増、客数は同約5%だった。コロナ禍前の20年比は売上げが同約11%減、客数が同約26%減。福袋は量より質にシフト。物価高などの影響から、生活を応援できる食品やキッチン用品、靴下といった日用品を拡充し、好調に推移した。5類移行後初めての年末年始で「懸垂幕メッセージ福袋」や「米作り体験付き福袋」など体験型の福袋も強化。とりわけ「南海ラピート特別ツアー福袋」は応募が殺到し、関西以外からも寄せられた。

クリアランスセールは9日までの8日間で、売上げは前年比約7%減。正価品は同約17%増だった。同店によれば「お客様はセールのマインドになってはいるが、本当に欲しいものを吟味する傾向にある。従って、好調なインターナショナルブティックや化粧品はセール、福袋を縮小。ファッションにおいては店頭でダウンやアウターの規模を拡大するとともに、春物などの正価品も展示し、再来店を促した」という。

インバウンドは免税売上げと客数が共に前年を大幅に上回っており、免税売上げは20年比でもプラス。国別の客数では中国のシェアが約4割と最も高いが、台湾やシンガポール、タイなど東南アジアの伸長が目立つ。

1月商戦の見通しは「12月から引き続きインターナショナルブティック、化粧品、食料品の好調が期待できる。下旬には年に1度のショコラの祭典『アムール・デュ・ショコラ』が開催され、今年はカード会員だけが入場できる『特別ご招待日』を初開催。和素材ショコラなど国内外のお客様に向けた日本ブランドも強化しており、成果が表れるだろう」とした。

阪急阪神百貨店の阪急うめだ本店、阪神梅田本店は2日、当初の予定より30分早い午前9時に営業を開始。阪急うめだ本店には約2000人、阪神梅田本店には約2500人が並び、売上げは2~3日の累計で阪急うめだ本店が前年並み、阪神梅田本店が同約1割増、客数は阪急うめだ本店が前年並み、阪神梅田本店も前年並みだった。

1月商戦について、阪急阪神百貨店は「阪急うめだ本店はラグジュアリーブランドのバッグや革小物関係が好調。阪神梅田本店はクリアランスセールとプロパーが共に全体的に良く、昨年の阪神タイガースの日本一の効果もあり、お客様の期待値も高い」と説明した。

(野間智朗)