2024年11月24日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 高級時計ブームが富裕層の心変わりで終焉

2024年から相続にまつわるルールが大きく様変わりする。

スイス時計業界はこの3年間、新型コロナウイルスの世界的な大流行時に始まったブームに支えられてきた。外出自粛を強いられた富裕層が高級な機械式腕時計に魅了され、高額商品を購入していたからだ。その結果、スイス時計の輸出額は過去最高を更新し、22年には約250億フラン(約4兆1300億円)に達したという。

しかし今、そうしたブームにも陰りが見える。金利上昇や景気低迷といった外部要因に加え、強気な値上げや供給増加など業界内の要因も裏目に出ているといった理由が語られている。それに加えて、高額出費をいとわなかった富裕層の心変わりもありそうだ。

  • 21年、22年は常軌を逸していた

ここ数カ月、時計メーカーの需要は冷え込み、流通市場での価格が急落。歴史あるブランドを率いる経営陣も、最近のブームの中で成功を収めた新興ブランドも、事態が急速に転換しつつあることを受け入れ始めているという。

例えばスポーツウオッチ「ロイヤルオーク」で知られるオーデマピゲのフランソワアンリ・ベナミアス最高経営責任者(CEO)は、「21年と22年に目にした状況は常軌を逸していた。われわれの人生でこのようなことが起こるとは想像すらできなかった。こんなことは2度とないだろうと思う」と述べている。

LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンからグッチのオーナーであるケリングに至るまで、ラグジュアリーブランドは、インフレと景気後退懸念で売り上げが落ち込んでいる。こうした状況が続けば、利益に下向き圧力がかかるだろう。

カルティエを所有するフィナンシエール・リシュモンが23年11月に発表した半期決算では、時計販売が3%減少、米州では17%も落ち込んでいる。同社は「ヴァシュロン・コンスタンタン」といった高級時計ブランドを傘下に置いている。

あるアナリストは、「残念ながらラグジュアリーブランドはリセッションの影響を受けないわけではない」と指摘。コロナ禍の「輝かしい成長とはお別れだ」と語る。

  • ブームに急ブレーキ

スイスの時計輸出は23年7月に、過去2年余りで初めて減少に転じ、ここ数カ月の平均伸び率は上期のペースを大きく下回っている。一方の中古時計に関しては、1年余り値下がりが続いている。ブルームバーグによれば最も取引額の多い50モデルを追跡したところ、価格は22年4月のピークから約42%下げている。

コロナ禍、ロックダウン対応のため時計店はシャッターを下ろし、対面販売を停止した。そのため1970年代や80年代に起きたいわゆる「クオーツクライシス」と似たような危機に陥るとの懸念もあった。しかし、実際はその逆で、コロナ禍は富裕層に人生は短いと改めて感じさせた。また、インスタグラムやユーチューブでロレックスの「デイトナ」やパテックフィリップの「ノーチラス」を自慢するインフルエンサーの触発もあった。

その結果、コロナ禍が沈静化して再開した店舗では顧客が列をなし、オメガ「スピードマスター」の廉価版である「ムーンスウォッチ」をスウォッチグループが22年3月に発売したときには大人気になった。

こうしたブームにより、スイスの時計輸出は21年に過去最高を更新。この年、米国が中国を抜いて最大の市場になった。22年も記録を塗り替えた。だが市場は23年後半から急ブレーキがかかっている。

ある富裕層は、「転売するならまだしも腕は2つしかなく、そんなにたくさんはいらない。コロナが沈静化して海外旅行に出掛けられるようになったし、時計以外の用途にお金を回し始めている」と明かす。

減速はすでに業界全体に波及。スイスを拠点とする部品サプライヤーは人員削減を始めたという。

  • 値上げで消費者離れ

ただ市場低迷の一因は、業界の自業自得と言えるかもしれない。というのも需要が急増し、インフレの急加速がコストを押し上げると、業界は「チャンス」とばかり値上げに飛びついた。ポンド安やユーロ安を補うという狙いもあった。

業界大手のロレックスは、22年に2回の値上げを実施したのに続き、23年も2回、24年に入っても再び値上げしている。その他のメーカーも同様で何度も値上げを実施しており、一般の消費者からは「そこそこ背伸びすれば手が届いていたような時計も、もう雲上のような値段になってしまった。高級時計は富裕層以外買えない代物だ」とあきらめの声も聞かれる。

富裕層から見放され、一般の消費者も手が届かなくなってしまったスイスの高級時計の勝敗は不透明と言えそうだ。

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