<ストレポ12月号掲載>金融事業 成長戦略の現在地
大手百貨店グループがコロナ禍で始動した中長期経営計画で注力してきた、金融・決済事業の収益源化が着実に前進している。金融・決済事業の中核はカード決済事業だが、コロナ禍の営業自粛の影響もあり、ハウスカード会員の新規獲得が伸び悩んだうえ、低稼働会員の解約も増え、口座数が減少した。しかしながら堅実な高額品消費に支えられ、上位顧客の購買額は伸び、1人当たりの利用額は増加傾向にある。結果、カードの手数料収入が増え、業績が安定している。
加えて他企業とのアライアンスによって資産形成や保険など金融商品の品揃えが拡充され、顧客のライフプランに応じた提案力が高まってきている。日銀が発表する家計の金融資産は23年6月末時点で2115兆円となり、過去最高を更新した。インフレとともに「追い風」が吹く中、百貨店事業、商業開発(不動産)事業に次ぐ、第3の中核事業化に拍車がかかってきた。
※この記事は、月刊ストアーズレポート2023年12月号掲載の特集「金融事業 成長戦略の現在地」(全13ページ)の一部を抜粋・編集して紹介します。購読される方は、こちらからご注文ください。(その他12月号の内容はこちらからご確認いただけます)
【高島屋ファイナンシャル・パートナーズ】
24年度以降の業容拡大へ準備着々、ライフパートナー事業が第2の柱に
高島屋グループでは、金融事業を百貨店事業、商業開発事業に次ぐ成長の第3の柱と位置付けて、23年度を最終年度とする中期3カ年経営計画で成長戦略を推進してきた。この成長事業を手掛けるのが、20年3月にグループ企業の高島屋クレジット㈱と高島屋保険㈱を統合して設立した高島屋ファイナンシャル・パートナーズ㈱(以下TFP)で、コロナ禍で矢継ぎ早に新規事業に参入してきた。
20年6月に資産形成や金融商品などを取り扱うファイナンシャルサービスの提供を開始し、ライフパートナー事業としてカード決済事業に次ぐ第2の柱への育成に取り組んできた。21年7月にはソーシャルレンディング(貸付型クラウドファンディング)事業を開始し、今年10月に㈱バンカーズと業務提携して事業拡大への布石を打った。収益基盤であるカード決済事業では、タカシマヤカードによる投資信託の積立やポイントを投資購入にも使用できるサービスなど、タカシマヤカードの魅力アップを図るだけでなく、今年8月からビジネスカード事業に参入し、来期以降を見据えたカード決済事業の拡大策にも余念がない。
ソーシャルレンディング、第3の柱事業に育成へ
カード決済、ライフパートナー事業に次ぐ第3の柱を目論んでいるのが、21年7月から手掛けているソーシャルレンディング事業だ。「資金調達をしたい企業」と「融資して利回りを得たい投資家」を結び付けるサービスで、この秋まで6本のファンドで累計約3億円を運用している。
そして今年10月から㈱バンカーズと新たに業務提携した。同社の「投資の力で日本の未来に貢献する」という理念に共感。TFPは投資案件の開拓や、貸付審査、貸付を行い、バンカーズはファンドの審査、投資家の募集・管理を担当する。同社との共創によって「高島屋ファンディング」として取り扱いの幅を広げていく。さらに「社会的課題を解決する事業などへの融資を通じ、社会貢献にもつなげていきたい」(末吉武嘉社長)考えだ。
TFPは、23年度までの中期計画でカード決済事業の基盤の再整備と、第2の柱としてライフパートナー事業の拡大戦略に取り組み、そして第3の柱を目指したソーシャルレンディング事業に参入した。コロナ禍によるカード会員の減少と人材をはじめとした先行投資をしながらも、この間の営業利益は43~45億円を確保しており、24年度以降の成長戦略に向けた準備が整ってきた。
【JFRカード】
重点エリアで「QIRAゾーン」形成へ、顧客基盤拡大への「第2フェーズ」に
J.フロントリテイリング(JFR)でも決済・金融事業をグループ成長への中核事業に位置付け、23年度までの中期3カ年経営計画で業容拡大を進めてきた。この成長事業を手掛けるJFRカード㈱では、中期経営計画の始動に伴い、21年1月に大丸松坂屋百貨店のハウスカードを全面刷新して「大丸松坂屋カード」を発行し、同時に新たなポイントプログラム「QIRA(キラ)ポイント」を開始した。加えて加盟店事業(アクワイアリング)も始動した。新カードの取扱高は順調に拡大し、22年度の営業利益は1年前倒しで中期計画の目標を達成した。
ただコロナ禍でカード会員数は減少し、そして顧客基盤の拡大に向けたグループ内商業施設のカード集約化という一大ミッションの実行はこれから。24年度以降の中期計画ではトッププライオリティになる。「くらしの楽しみ方・暮らし方を支える金融・決済サービスのベストパートナー」を目指したJFRカードの成長戦略は「第2フェーズ」に移行していく。
「GINZA SIX」の新カード、24年春発行予定
加盟店の新規開拓などに加え、QIRAポイントを活用した特別体験の提供も増えてきた。昨年10月に開催された男子ゴルフツアートーナメントのプロアマ大会に出場できる特別体験(大丸松坂屋カード会員限定で、抽選により2万QIRAポイントで出場権と交換)を実施した。今年は世界遺産の仁和寺で、茶道・和菓子づくりによる「食べる瞑想(マインドフルネスイーティング)」(3月実施)と「香盛りと写経」(5月)体験を提供。7月には福寿園京都本店で、祇園祭山鉾巡行を抹茶と菓子を楽しみながら鑑賞できる特別鑑賞会を開催した。
さらに大丸札幌店では職業体験イベントを8月に開催したが、ここでは大丸松坂屋カード会員限定で2000QIRAポイントを交換して参加できるようにした。こうした特別体験提供が、大丸松坂屋カード並びにQIRAポイントの優位性と化し、認知度向上、そして業績向上に寄与しているのは言うまでもない。
大丸松坂屋カードの1人当たりの利用金額が増え、QIRAポイント付与も着実に増えている。ただ、カード会員(口座)数がコロナ禍前より減少した事実があり、新規開拓が課題だ。そして何よりもJFRカードにとって最大のミッションは、「パルコ」、「GINZA SIX」、「博多大丸」など、グループ内商業施設のカード集約化である。グループの持続的成長にとっても強固な顧客基盤を構築していくための重要なミッションに違いない。
既に準備に入っているが、まず来年春に新たな「GINZA SIXカード」を発行する予定だ。QIRAポイントを活用して、これまでのサービスに加え、GINZA SIXで貯まるポイントの種類や銀座エリアで提供するサービスを増やし、「銀座の街」を楽しめるカードを提供していく。次いで新たな「パルコカード」を発行する予定で、この準備も進めている。グループ内商業施設のカードの集約化が、24年度から始動する中期経営計画のトッププライオリティになる。
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