2024年11月22日

パスワード

購読会員記事

【連載】富裕層ビジネスの世界 空き家問題で様変わりする相続ルール

2024年から相続にまつわるルールが大きく様変わりする。

「相続対策」というと、不動産を多数所有するような富裕層をはじめとする一部の人にしか関わりがなさそうだと捉えがち。しかし、「親の財産は、売却しても大したお金になりそうにない実家だけ」といった人達にも、大きな影響があるから注意が必要だ。

というのも今回の改正は、全国で深刻化している「空き家対策」に関わるものが大きなウエイトを占めているからだ。中でも最も影響が大きそうなのが、24年4月からスタートする「相続登記の申請義務化」だ。

例えば、亡くなった親から実家を受け継いだ場合、現在は相続登記(名義変更)の申請をする義務はない。そのため数十年に亘って名義が変更されず、長年放置されたことで実質的な所有者がわからなくなり、処分しようにもできずに廃墟化する不動産が全国で急増している。いわゆる空き家問題だ。そうした事態を防ぐため、相続登記の申請が義務化されるわけだ。

病気で長期入院しているなどの正当な理由がなく申請しなかった場合は、10万円以下の過料の支払いを裁判所から命じられるという罰則まで設けられている。

  • 相続でもめている場合は「相続人申告登記」で

では、兄弟姉妹などと遺産分割でもめており、相続する割合などが当面決まりそうにない場合は、どうすればいいのか。そうした場合は同じく24年4月から開始される「相続人申告登記」の申請をすれば、義務を果たしたと見なされる。申請時には、申請者のみの戸籍謄本などを提出すれば済むため、相続人全員から公的書類をかき集める必要はない。

すでに23年4月には、相続によって取得した土地を手放し国に帰属させる「相続土地国庫帰属制度」が始まっている。

ただ利用にはさまざまな条件があり、どのような土地でも国が引き取ってくれるわけでは決してない。まず、建物がある土地は不可で、更地でないと利用できない。さらに、土壌汚染や危険な崖があったり、担保権が設定されていたりする土地も認められない。

また制度の利用に際しては、10年分の土地管理費用相当額を、負担金として国に納付する必要がある。負担金は最低で20万円だが、土地の区域や面積によっては100万円単位になることがある。

  • 26年にも大きな変更が実施予定

ルール変更はそれだけではない。遅くとも26年4月までに開始され、相続登記の申請義務化と同様に影響が大きいとされているのが、「住所等の変更登記の申請義務化」だ。

不動産の登記簿上の所有者について、転居などで住所が変わった場合に、変更した日から2年以内に登記申請をすることを義務化するもので、違反した場合は5万円以下の過料を支払うことになる。

所有者不明不動産の発生予防のための措置だが、転勤族の場合は申請手続きの負担が大きくなりそうだ。

負担増になるケースが目立つ今回のルール改正だが、利便性向上の期待が高まっているのが「所有不動産記録証明制度」だ。26年までに始まる制度で、被相続人(亡くなった親など)が登記簿上の所有者として記録されている不動産を、各地の法務局にいる登記官がリスト化し証明してくれる。

親が複数の不動産を所有している場合に、子供達に知らせていなかった物件の有無を確認できるようになるといったメリットがある。また親が遺言を作成するに当たって、自身の保有する不動産を改めて確認するといった使い道も考えられる。導入されれば制度の活用が広がりそうだ。

<前回の記事を読む 【連載】富裕層ビジネスの世界 24年に大きく変わる「生前贈与制度」ルールの中身