“行きたくなる街”つくりプラットフォーマーの役割強化 三井不動産の植田社長、事業進捗を語る
今秋、三井不動産グループ、野村不動産グループ、東急グループが「2023年度記者懇談会」を開き、現在のグループ企業の事業進捗状況などが報告された。そこで第1回目は三井不動産グループを取り上げる。10月10日に帝国ホテルで開催された記者懇親会において、三井不動産代表取締役社長の植田俊氏はグループ企業の現在の取り組み状況について以下のように語った。
約3年に亘って猛威を振るっていたコロナが5類になって収束に向かっていますが、コロナ禍でもリアルの価値が再認識され、今後は新たな暮らし方や働き方が始まり、仮想空間、宇宙、グリーンなどの新分野も含む様々なイノベーションが加速していくと考えられます。一方で生活リスクの高まりやインフレ、グローバルな金利上昇など、まさに時代は大きな転換点を迎えている状況にあり、企業がどうすべきかを模索する変革期に直面していると思われます。
今、日本では本気でイノベーションを起こし、圧倒的な付加価値を創り出して産業競争力を高めることが求められています。当社グループはこれまで時代時代の社会課題を街づくりという価値創造を通じて解決してまいりましたが、今後は産業創造によってよりポジティブに関わり、場とコミュニティを提供するプラットフォーマーとしての役割を強化してまいります。特にリアルの価値を最大限に生かした“行きたくなる街”をつくっていくことが重要であると考え、街のあらゆるシーンにおいて我々がプラットフォーマーとして関わっていきたいと考えています。
こうした街づくりの思想を基に展開しているグループの事業を紹介します。まずオフィス事業においては今年3月、ミクストユース事業プロジェクトの1つである「東京ミッドタウン八重洲」が満床でグランドオープンしました。出社回帰の動きを実感しており、当社としてはサテライトオフィス事業の「ワークスタイリング」、テナントの店舗運営をがっちりサポートする「&well」、グリーン電力提供サービスなどソフト面の政策も含めて“行きたくなる街にある 行きたくなるオフィスづくり”を進めていきます。
商業施設事業においては、今年4月に当社初となるららぽーととアウトレットの複合商業施設を大阪・門真市に開業しまして、大変好調に推移しています。ほかの商業施設についても概ねコロナ前の水準まで回復している状況にあります。また、来春には当社初となるアリーナ事業「ららアリーナ東京ベイ」が船橋に開業する予定です。先日当社が協賛する男子バスケットボール日本代表がパリ五輪出場権を獲得しました。スポーツは筋書きのないドラマであり、圧倒的な感動が生まれます。今後もリアルな価値が最も実感できるスポーツエンターテインメントコンテンツを積極的に展開してまいります。
ホテル・リゾート事業においてはインバウンド需要を十分に取り込み、すでにコロナ前の客室稼働率にまで回復しています。昨年11月にリ・ブランディングを行った三井ガーデンホテルズをはじめとして、より一層多様なお客様のニーズに対応できるよう進化させてまいります。
物流施設事業は、近年急拡大しているデータセンター事業にも進出するなど、今年度に累計総投資額1兆円達成が見込まれる成長著しい事業です。いわゆる2024年問題が注目される中、物流効率化によりお客様の課題解決に貢献する物流コンサルティングプラットフォーム「MFLP &LOGI Solution」を開始し、よりプラットフォーマーとしての力を高めていきます。
住宅事業においては、堅調な実需に支えられ、高価格帯の「三田ガーデンヒルズ」をはじめ好調に推移しています。今年は約30年掛けた再開発プロジェクトである総戸数約2800戸の「パークタワー勝どき」が竣工。シニア向けサービスレジデンス「パークウェルステイト」の3物件目を大阪に開業し、着々と事業を拡大しています。
ソリューションパートナー事業は、2021年に買収した東京ドームの業績もコロナ禍を経て回復しつつあり、「東京ドームシティ」は今年4月から約2年掛け大規模リニューアルを実施中です。スポーツエンターテインメント事業は当社が得意とするミクストユースの街づくりとともに親和性が高く、グループ全体での推進を一層強化していきます。
海外事業においてはニューヨーク・マンハッタンにおける「50ハドソンヤード」が昨年竣工しましたが、オフィスビルの優勝劣敗が顕著なマンハッタンエリアで高い評価を得ており、勝ち組の筆頭となっています。アジアにおいても5月に「三井ショッピングパーク ららぽーと台中」が開業するなど、世界各地で当社グループの強みを生かした街づくり型事業を進めています。
そして、日本橋におけるライセンスや宇宙事業でのプラネットフォーム提供やベンチャー事業については、今日まで我々が構築してきた多種多様なポートフォリオとして、産業デベロッパーというプラットフォーマーとしての役割を具現化した取り組みとなっています。ライセンス分野のコミュニティ構築を担う会員組織「リンクJ」は、立ち上がりから7年経った現在の会員数が714、宇宙領域における会員組織「クロスU」も今年4月に立ち上がって現在の会員数は208です。
日本橋にスタートアップも含む多くの企業やアカデミアが集まり、システムが形成され、新たなビジネスの創出、新需要の創造につながっているのを実感しています。脱炭素やD&I、生物多様性といったESG課題についても引き続き最重要経営課題でありまして、脱炭素についてはプラットフォーマーとしてサプライチェーン全体を巻き込んだ取り組みをしていきます。
神宮外苑の開発事業についてお話します。スポーツの聖地でもある神宮外苑については大きく4つの開発意義があります。1つ目は神宮球場が築96年、秩父宮ラグビー場は築74年と老朽化が大変進んでいることから、継続性に配慮しながら連鎖的に更新し、世界に誇れるスポーツクラスターを形成すること。2つ目は4列のいちょう並木を保全するのはもちろん、歴史あるデータを残しながら樹木本数を1904本から1998本に増やし、緑の割合を25%から30%に増加させること。
3つ目は現在の閉鎖的な施設をバリアフリー化し、回遊性を高め、家族連れの方やレジャー、スポーツイベント目的でいらっしゃる方々が合間に利用でき、憩える芝生広場のオープンスペースを現在の21%から44%まで拡張し、来街者が安全に楽しめる複合型の街づくりを推進すること。4つ目は30年以内に首都圏直下型地震の発生確率が70%といわれており、大規模災害待ったなしの状況を踏まえ、帰宅困難者の受け入れをはじめ、広域な場所としての防災性を高めること。これら4つの開発意義を持って、次の22世紀に向けて憩いと賑わいにあふれ、皆様に愛されるウェルビーイングな街づくりを進めてまいります。
(塚井明彦)