2024年11月24日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 学費が年1000万円以上でも通わせる富裕層の国際教育熱

  • 岩手にできた英国の名門校

2022年8月、岩手県の安比高原にシックな外装でひときわ大きな存在感を放つキャンパスが姿を現した。全寮制のハロウインターナショナルスクール安比校だ。

現在、日本の小学6年生から中学3年生に相当する7〜10年生の生徒約180人が在籍。そのうちの約半数は海外出身で、出身国・地域は16に及ぶ。

英ロンドンにある本校は約450年の歴史がある名門校。教育理念である「全人教育」を安比校でも展開する。世界的な潮流でもあるSTEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)教育に力を入れており、教員は半数近くが修士号や博士号の取得者という。

課外活動にも力を注ぐ。自然豊かな環境を生かし、ゴルフやテニス、マウンテンバイク、スキーやスノーボードなど多様なメニューを揃えており、大半の種目にプロのコーチがつく徹底ぶり。「ハウス」と呼ばれる男女別の寮は、1つのハウスに同校のスタッフ3人が住み込み、生徒の生活状況を丁寧に把握しながら成長をサポートする。

気になる学費(含む寮費)は、7〜13年生までの7年間で合計6000万円超というから驚きだ。ただスイスの全寮制学校の名門ル・ロゼは、学費が年約1500万円。単純比較は難しいが、確かに一定の「価格競争力」はありそうだ。

では、ハロウ安比校に対して親は何を期待しているのか。6月上旬に東京で開かれた同校の説明会に、参加した50代の父親は「どんな領域でもよいので国際的に活躍する人材になってほしい。将来の選択肢を広げられる意味でも、英国式の教育は魅力的だ」と話す。

男性は外資系コンサルティング会社に勤務し、米国での駐在経験もある。高額な学費について「子どもが1人なので出せる金額。しっかり働き続けたい」と話した。

  • 相次ぐ国際校の新設

23年の夏には、英国系のマルバーン・カレッジ東京が東京都小平市の私大跡地に、同じく英国系のラグビースクール・ジャパンが千葉大学柏の葉キャンパス内に開校した。

マルバーン・カレッジ東京は、海外の大学入試などに使われる世界標準の教育プログラム「国際バカロレア(IB)」を採用予定だ。英国式インター一貫校としては日本初だ。

世界で通用する高い学力はもちろんのこと、起業家精神を養うことにも重きを置く。「これからの時代はチャットGPTのような新たな技術についても、その可能性やリスクを理解したうえで受け入れていくことが大事だ。生徒が自ら考えることを促す教育を提供していく」と同校の幹部は語る。

富裕層の間では、新設が相次ぐインター校や海外の全寮制学校への関心が急速に高まっている。富裕層を対象に教育サービス会社の運営者は、「日本の偏差値偏重教育に不信感を持つ富裕層は少なくない。国内市場の縮小によって今後ビジネスの表舞台が移る海外で、能力をしっかりと発揮できるような教育に価値を見いだしている」と分析する。

  • 世帯年収で4000万円はないと厳しい

このサービス会社は21年夏、東京・広尾にインターナショナルスクールや海外校を目指す教室を新設した。現在は約40人の生徒が英語で自ら問いを立てて情報を収集・分析し、議論をしながら解決策を見つける探求学習に取り組む。開校からわずか2年でハロウ安比校に6人、欧米の現地校に10人が合格するなど実績を積み上げる。

生徒の保護者は、外資系コンサルの社員や上場企業の経営者、医師や銀座に店舗を構える経営者らだ。「ハロウ安比校に通わせるには、世帯年収が4000万円ぐらいないと厳しい」(関係者)ものの、実績を聞きつけ、入塾希望者は後を絶たないという。

不確かな未来を生き抜く力をわが子に授けようと、富裕層による教育への投資は今後さらに熱を帯びそうだ。

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