東急グループ、主要事業の進展を発表
今秋、三井不動産グループ、野村不動産グループ、東急グループが「2023年度記者懇談会」を開き、現在のグループ企業の事業進捗状況などを報告した。第3回目は東急グループを取り上げる。ザ・キャピトルホテル東京で11月20日、開会および乾杯のあいさつに東急取締役社長の堀江正博氏が、閉会のあいさつに東急不動産ホールディングス代表取締役社長の西川弘典氏が壇上に立ち、グループ主要事業の進展状況などを語った。
堀江社長は「この1年を振り返ると、1月には渋谷で55年間の長きに亘り皆様に支えられ営業を続けてきた東急百貨店本店が閉店しました。跡地で開発を進めている『Shibuya Upper West Project』は、27年度の竣工に向けて現在解体工事を進めています。臨時のBunkamuraについては閉鎖中、映画館やギャラリーなどは渋谷の各施設に機能を分散させて営業を継続させています。オーチャードホールは工事が休みになる日曜・祝日を活用して目下コンサートなどの公演を可能としています」
「3月には私共にとって39年振りの新線となる念願の『東急新横浜線』が開通しました。7社局14路線250kmという広域なネットワークが形成され、東急沿線の定住人口、関係人口の増加に加え、新幹線へのアクセスが飛躍的に向上したことで、将来的にさらなる増加が期待されます。4月には国内最大級のホテル・エンタメ施設からなる『東急歌舞伎町タワー』が開業しました。施設全体でエンタメの雰囲気を感じさせ、価値ある体験ができる日本で唯一無二の施設として国内外の多くのお客様にお越しいただき、10月末までに377万人にご利用いただきました」
「5月にはコロナが5類に引き下げられ、足元ではインバウンドを含め人流が回復に向かい、鉄道やバス、ホテルなどを中心に需要が確実に回復を遂げています。これからについては、東急不動産が主導する『Shibuya Sakura Stage』が11月30日から順次開業となります。“働く・遊ぶ・住まいに住む”を兼ね備えた大規模複合施設で、渋谷駅に隣接しJR線をまたいで駅と渋谷ストリームをつなぐ歩行者ネットワークが形成されます。これによって渋谷における“まち”の回遊性が高まり、渋谷にお越しいただいた皆様にまち歩きを大いに楽しんでいただきたいと考えています」
「東急グループは昨年、創立100周年を迎えました。『美しい時代へ』というスローガンのもと、人々に楽しさ、豊かさ、美しさを感じていただけるまちづくりを通じて、文化大国の一翼を担える企業集団として頑張っていく所存です」と語った。
西川社長は「東急グループは広域渋谷圏で大規模再開発を進めています。渋谷駅周辺では『渋谷ヒカリエ』『渋谷スクランブルスクエア』『渋谷ストリーム』などの大型ビルを次々開業してきましたが、今年11月末には『Shibuya Sakura Stage』が竣工し、渋谷駅周辺がますます賑やかになります。東急グループはこれからも渋谷のまちの魅力、そして国際競争力を一段と高める広域渋谷圏に経営資源を積極的に投下してまいります」
「私共、東急不動産ホールディングスグループは2030年を目標年度とする長期ビジョンに基づいて『環境経営』と『DX』を経営の軸に位置付け、強固で独自性のある事業ポートフォリオの構築を目指して経営改革を進めています。中でも環境経営では全国に80カ所以上、再生可能エネルギーの発電所を有しており、昨年末には事業会社の東急不動産の施設など国内の保有施設全244施設の電力を、100%再生可能エネルギーへの切り換えを完了し、不動産業界として初めて『TRE100』の水準を達成しています。また、グループ全体で生物多様性への対応を積極的に進めており、国内外で環境保全への関心が高まる中、環境先進企業を目指す挑戦を続けていきます」と語った。
関連して、以下に東急グループの主要企業や流通関連を中心としたトピックスを紹介する。
東急が23年4月に開業したホテル×エンタメ施設からなる超高層複合施設、東急歌舞伎町タワーの全館来館者数が累計で321万人(23年9月末までの累計数)に上っている。主要テナントであるホテルは2ブランド(BELLUSTAR TOKYO・97室、HOTEL GROOVE SHINJUKU・538室)の補完関係により堅調に推移。GROOVEで安定的な収益を確保しつつ、BELLUSTARで富裕層獲得に向けた取り組みを継続強化している。
東急が現在推進中の開発計画は、渋谷エリアにおいては東急グループとLCREとの共同開発によるShibuya Upper West Projectと「渋谷アクシュ」と「渋谷スクランブルスクエア第Ⅱ期」。東急百貨店本店跡地に開発されるShibuya Upper West Project(地下4階~地上34階、高さ約155.8m、総延床面積約11万9720㎡)は、レジデンス機能を含むワールドクラスクオリティの大規模施設で27年度に竣工予定だ。
24年上期開業予定の渋谷アクシュ(地下4階~地上23階、高さ約120m、延床面積約4万4500㎡)は、渋谷駅から青山方面へと続く渋谷東口駅エリアに位置する。誕生するビルには商業施設やオフィスに加えて緑豊かなアトリウムや広場を設け、渋谷駅東口エリアの賑わい拠点を目指す。27年度開業予定の渋谷スクランブルスクエアは、第Ⅱ期で中央棟・西棟が完成する。Ⅰ期で開業した「渋谷スクランブルスクエア」は渋谷エリアで最高の高さ(約230m)を誇る。第Ⅰ期・第Ⅱ期の3棟合わせた延床面積は約27万6000㎡となる。
沿線エリアの開発では「THE YOKOHAMA FRONT」と「新綱島スクエア」がある。前者のTHE TOKOHAMA FRONT(施工者:横浜駅きた西口鶴屋地区市街地再開発組合)は、レジデンス・ホテル・サービスアパートメント・商業などで構成され、24年上期に開業予定。施設の規模は地下2階~地上45階、高さ約178m、延床面積約7万9330㎡。後者の新綱島スクエアは共同住宅・業務施設・商業・公益施設(港北区民文化センター・ミズキーホール)が一体となった新綱島駅直結の複合再開発ビルで、高層棟と低層棟からなり、延床面積は約3万7560㎡、開業は本年12月を予定する。
東急電鉄における最大のトピックスは39年ぶりとなる新線の開業だ。23年3月18日に開業した東急新横浜線(新横浜駅~日吉駅、営業キロ:5.8km)で、現状の輸送人員は計画値と比較して7割程度。定期外旅客は新幹線利用者の転嫁やイベント需要で堅調に推移するが、定期旅客は計画に未達で、新網島駅周辺再開発に伴う利用者の定着に期待がかかる。
東急不動産のトピックスは広域渋谷圏で進めているまちづくりと環境経営の推進。広域渋谷圏での大規模再開発は19年3月のオフィスビル「渋谷ソラスタ」、19年11月の複合施設「渋谷フクラス」に続き、今年10月に代官山駅至近に“職・住・遊”近接の新しいライフスタイルを提案する2棟複合施設「フォレストゲート代官山」が開業した。
11月30日にはJR渋谷駅南西部に広がる桜丘地区の玄関口となり、渋谷駅改札口とデッキでつながる複合施設、Shibuya Sakura Stage(SHIBUYAサイド〈A街区〉=延床面積約18万4700㎡、SAKURAサイド〈B街区〉=同約6万9100㎡)が竣工し、まちが始動した。施設の周囲には安全かつバリアフリーな遊歩道を整備するほか、大型オフィス・外国人に対応した国際医療施設・サービスアパートメント・子育て支援施設などが設けられる。24年7月に店舗などが概ね開業となる予定だ。
24年度春には東急プラザ「ハラカド」(地下2階~地上10階)が開業予定。ハラカドは神宮前交差点に位置する商業施設で、銭湯やデザイン事務所、スタジオやラジオ放送局など、クリエイターが集まり、新たな文化を創造し、発信する拠点を目指す。代々木公園と渋谷・原宿を有機的につなぐ公園づくりプロジェクト「代々木公園Park-PFI計画」は25年2月の供用開始を予定する。
東急不動産の環境経営については、総合不動産デベロッパーとして大規模開発を進めてきたノウハウを生かし、全国各地で太陽光発電や風力発電などを開発しサステナブルな社会の実現を推進。23年8月末時点で全国に89事業(開発中を含む)、発電能力を示す定格容量は1625メガワット(一般家庭約74.1万世帯分)になっている。
東急バスは今春に新たな運行を開始した。1つ目が3月16日に運行を開始した渋谷・原宿・神宮外苑・表参道エリアを周遊する定期観光バス「SHIBUYA STREET RIDE」。2つ目は、東急歌舞伎町タワーの開業に伴い、新宿歌舞伎町と渋谷をつなぐアクセスコートの運行(4月28日より開始)と、羽田空港および成田空港をダイレクトにつなぐ東急歌舞伎町タワー(西武新宿駅)からの空港アクセスバスの運行(4月14日より開始)だ。
東急百貨店における新しい動きは、22年4月に開店10周年を迎えた「渋谷ヒカリエShinQs」が23年春から秋に掛け、“アップグレード”をテーマに改装を実施。これによりウオッチやジュエリーなどラグジュアリーアイテムを導入し、外商顧客専用のお得意様サロンを開設した。
郊外店については、上層階は賃貸テナント拡充による品揃えの多様化、下層階は百貨店が強みとしているカテゴリー(フード、ビューティー)をさらに強化するという構造改革リモデルを実施。24年6月に開店50周年を迎える吉祥寺店は“アップデート”をテーマに22年に改装し、21年には屋上に親子三世代が楽しめる「太陽の広場」を設けた。22年11月に開店40周年を迎えたたまプラーザ店は“ファミリーで過ごす場になること”を目指し、22年に上層階を改装、23年3月にはスイーツエリアを拡充した。23年10月に開店50周年を迎えた札幌店は、23年春から秋に掛けて段階的に改装を実施してユニクロ、ジーユー、ビックカメラ、バンダイナムコアミューズメントなどを誘致した。
二子玉川ライズ・ショッピングセンターや、たまプラーザテラスなどに代表される東急沿線にあるSCや東急線駅構内・駅隣接の商業施設(エトモ)を運営する東急モールズデベロップメントは、23年度の新たな取り組みとして「ファインドローカル」と「キャンバス ベース」を挙げる。前者のファインドローカルはSCがその街に暮らす人達と一緒に地域の魅力を見付け、集め、発信する地域一体型アクション。これまで培ってきた地域密着型SC運営の経験やノウハウ、つながりを生かし、“まちをより好きになる”をキーワードに、地域の魅力再発見につながるイベントの開催や情報発信を通じて地域連携を強化する。後者のキャンバス ベースは将来、東急沿線SCへの出店などを目指す事業者がトライアルしやすい環境設計や、契約形態を備えた場をつくり事業者のチャレンジを支援する。24年3月東急東横線武蔵小杉駅(定期券発売所跡地)に開設予定だ。
東急文化村はBunkamuraの長期休館(27年度中までに休館予定)を挑戦の時と捉え、「Bunkamura Challenge」を休館中の活動スローガンに掲げ、休館中もBunkamuraの機能を分散させ様々な場所でチャレンジを続けている。オーチャードホール(音楽・舞踊など)は日曜・祝日を中心に営業を継続、自主制作公演は「横浜みなとみらいホール」などで開催。シアターコクーン(演劇)については東急歌舞伎町タワー内「THEATER MIRANO-Za」などで開く。ザ・ミュージアム(美術)は渋谷ヒカリエ9階「ヒカリエホール」などで展覧会を行う。ル・シネマ(映画)は、渋谷駅前の東映プラザ内に「Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下」を開業。ギャラリー(美術)は渋谷ヒカリエ内に「Bunkamuraギャラリー8/」を開く。
(塚井明彦)