2024年11月22日

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脱炭素社会実現に向けた三井不動産グループの取り組み(3)

今、二酸化炭素(CO2)などのGHG(温室効果ガス)排出を抑え、脱炭素化を図ることが世界的課題となっている。日本も2030年温室効果ガス46%削減、2050年カーボンニュートラル達成という目標を掲げている。その達成において重要なカギとなるのが、排出量の約80%を占める企業の削減への取り組み。三井不動産はカーボンニュートラルな街づくりに向け、「SCOPE3」(企業の直接排出以外の事業活動に関連する間接排出)に当たるサプライチェーンと連携し、「&マーク」に象徴される共生・共存の精神や新産業創出のノウハウを通じて、サプライチェーン全体の排出削減に挑戦している。「脱炭素社会実現に向けた三井不動産グループの取り組み」を三井不動産社長の植田俊氏、同取締役専務執行役員の広川義浩氏、同サステナビリティ推進部長の山本有氏のスピーチで紹介する。

第3弾は、三井不動産サステナビリティ推進部長の山本有氏による「SCOPE3の削減に向けた具体的な3+αの取り組み」を掲載する。


サプライチェーンの川上と川下からのGHG(温室効果ガス)排出は、三井不動産にとってSCOPE3であり、かつ他社からの排出に当たる。SCOPE3は、国際サステナビリティ基準審議会が6月に確定したサステナビリティ開示基準でも、情報開示対象として盛り込まれるなど重視する機運が世界的に高まっています。ここで紹介する「3+αの取り組み」は、いずれも他社への排出削減を促す様々な働きかけであり、街づくりのプラットフォームである。三井不動産だからこそ取り組んでいくべきものと考えています。

まずは川上に関する取り組みですが、サプライチェーンの川上である建物をつくる際の建設時排出は65%あり、排出量の多くを占めています。この排出を削減するための2つの取り組みを進めていきます。1つが建設に携わる無数の企業に働きかけ、GHG排出を「見える化」する取り組み。排出削減を進めるためには、多くのGHGを排出する排出源を突き止めて対策を打つことです。また対策による削減効果を図ることが重要であり、そのためにはどの工程からどの程度のGHGが排出されているのか、できるだけ高精度に算定しなければなりません。

そこで排出量を算定する適切なツールをつくり、これを我々のサプライチェーンはもちろん、不動産業界全体に広げ、共通ルールとして普及させていきます。サプライチェーンには、数多くの企業や人が関わって様々に活動していることから、高精度な排出量算定が難しいという問題があります。22年3月に日建設計と共同で発表した「建設時GHG排出量算出マニュアル」は、この問題に取り組むためのもの。国際的ルールであるSBTに準拠すると、不動産業界には一般的に排出量=総工事金額×排出原単位という算定式が適用されてきましたが、建設時GHG排出量算出マニュアルに従えば、工種や資材別の排出量を見える化することができます。

我々はさらに幅広い視点から課題、知見を集約すべく、不動産協会内に同業他社や建設会社、有識者、関係省庁からなる検討会を組成しました。その結果、協会のマニュアルとして整備され、23年6月から協会のホームページに公表されています。我々はこのマニュアルを、街づくりに携わる様々な企業様に広く活用いただくことでサプライチェーン全体の排出量を把握し、脱炭素に貢献して参りたいと考えています。

そのためにマニュアルは誰でも分かる解説と、数量を入力するだけで算定できるエクセル形式としました。まずは第一歩として三井不動産が発注する建設会社の各社さんに対し、23年10月以降着工する全ての物件について、このマニュアルに沿ってCO2排出量算出を義務化していきます。これは業界初の取り組みとなります。

川上で行う2つ目の取り組みは、脱炭素時代にふさわしい旗印となるような新しい建築物のあり方の提案。木造賃貸オフィスビルなどを通じて木材を活用し、木材が吸収した炭素の固定化を促進するなど、脱炭素時代のイノベーティブな建物づくりを推進していきます。建築物を構成する資材には鉄鋼やコンクリートなどがあるが、日本のCO2排出量を部門別にみると、トップは製造業からの排出で、中でも鉄鋼、化学、窯業・セメントからの排出が多い。

新しい建築物のあり方の1つとなるのが、構造材に木材を使った木造オフィスビルです。その第1弾となる日本橋一丁目の木造賃貸オフィスビルが、いよいよ今秋着工となります。これは地上18階建て、高さ84m、延床面積約2万8000㎡で、木造高層建築物として国内最大級の高層賃貸オフィスビルとなります。構造材には、三井不動産グループが保有する森林を含め1100㎥の国産木材が使用されます。また、このビルには建設時GHG排出量算出マニュアルを適用して排出量を把握する当社初のオフィス物件となり、同一規模の一般的な鉄骨造オフィスビルと比較して、建築時CO2排出の約25%削減(竹中工務店による算出)が想定されます。

木は大気中のCO2を吸収して育ちますが、成熟するとCO2吸収量がだんだん低下していくことから、森林の若返りを促すことが重要です。その一方で、木は加工しても蓄えたCO2を排出しない炭素固定材。木を使った建物は“街に第2の森林つくる”といわれる所以であり、日本橋の木造賃貸オスィスビルに、グループが保有する森林の木材を積極的に活用して「植える・育てる・使う」のサイクルを実践します。

3つ目は川下における取り組みです。分譲施設の購入者、賃貸施設の入居者による温室効果ガス排出は、三井不動産グループの排出量全体のうち20%前後となります。販売した住宅からのCO2排出は、長期になるのを考え合わせると川下での排出削減は非常に重要です。川下における排出削減策として、これまではZEHなど省エネ住宅の建設やエネファームの設置といったハード面での取り組みを行ってきました。しかしながら、さらに排出削減していくためには街で暮らす多くの人達に、省エネなど排出削減につながる意識と行動変容を促す必要があります。そこで我々は脱炭素化に向けた新しい暮らしを皆様に提案して参ります。

街の人々が脱炭素への意識を高めるように、暮らしを通じたCO2排出を見える化し、排出削減の取り組みに楽しく持続的に参加できるような様々な仕掛けを提供することで、自然に行動変容につなげる。それが「くらしのサス活」です。くらしのサス活は、住戸ごとのCO2削減量を見える化し、削減量に応じたインセンティブを提供することで、暮らしを通じた省エネ活動を楽しく持続的に行っていただく、各家庭を対象とした脱炭素促進の取り組みです。

具体的には、住戸ごとの電気・ガス使用量の見える化するシステムを構築し、居住するお客様が日々省エネ活動をすることでどの程度のCO2排出を削減することができるのか。自動で算出を確認でき、算出されたCO2削減量はポイント化され、様々な商品と交換することができます。また、賛同パートナーへは応募数とCO2削減結果により、インセンティブを提供することによるCO2削減効果を定量的に報告することが可能です。暮らしにおける省エネプラットフォームとして、賛同パートナーの脱炭素への貢献の見える化にも寄与していきます。

くらしのサス活は、22年に設計を開始した首都圏の当社物件から全物件導入しています。システムなどの本格稼働は24年度を予定します。また、この新たな脱炭素の取り組みに共感し、協力してくれる賛同パートナーを引き続き募集していきます。使用するシステムやアプリケーションは、三井不動産レジデンシャル、東京電力エナジーパートナー、ファミリーネットジャパン、東京ガスが協働で開発しました。従来のHEMSと異なる点は、取り組みの効果の算定を可能とするシステム、実装にこのようなアプリを使った見える化による特典付与をセットとし、新しいスキームにしたことです。

この仕掛けにより、居住するお客様がCO2削減に取り組む動機づけを行うことができ、排出削減の実行性を高めることが可能となります。30年度までには過去分譲物件24万世帯を巻き込んだ取り組みへと育て、家庭からの排出量削減を目指します。さらにこうした取り組みで得られたデータは将来、家庭からの排出量算定の根拠として活用できる可能性もあります。

インセンティブとしては、各家庭の個々人に行動を変えてもらうために業界を超えた様々な企業、団体などが協力し、くらしのサス活限定のスポーツ観戦チケットやサステナブルツアーなど特別感のあるインセンティブを用意します。このくらしのサス活は、サービス開始前の醸成機運のため、電力使用量が高まる季節にオープンキャンペーンを2回実施し、延べ約1万人に参加いただきました。23年冬にもオープンキャンペーン実施する予定です。

さらなる排出削減への取り組みを進めていくためには、イノベーション創出による革新的な脱炭素技術の確立が必要となります。産業デベロッパーとして街づくりを通じてオープンイノベーションなどの機会を提供して、新産業の創出をサポートすることで培ってきた産学連携のノウハウを、脱炭素においても生かし、イノベーション創出をサポートしていく所存です。まずは新しい脱炭素技術において、物件への積極的な取り組みを図ることで技術革新を応援していきます。

その一例となるのが、これまでの太陽光発電よりも発電効率が高いペロブスカイト太陽電池開発への支援です。ペロブスカイト太陽電池は日本で発明され、実用化に向けて世界中で開発が進められているのもので、薄く、軽く、曲げられるのも特徴。住まいや暮らしの様々な空間に設置できるようになれば、グリーンエネルギーへの転換を一層促進することができます。

さらに三井不動産ならではの産学連携としては、東京大学と進めている木造建築の共同研究。これは建築時のCO2排除低減ならびに、大気中のCO2削減に寄与するという木造建築の価値と合わせて、人にもたらす身体的価値を明らかにすることでエンドユーザーにおける木造建築のニーズを増やし、木造・木質建築の市場拡大を目指したものです。

とにかくSCOPE3の排出削減には様々な困難があるが、サプライチェーン全体を巻き込んだこの取り組みは、日本の街づくりにおける脱炭素時代にふさわしい新たなスタンダードづくりへの挑戦となります。

(塚井明彦)

脱炭素社会実現に向けた三井不動産グループの取り組み(1)

脱炭素社会実現に向けた三井不動産グループの取り組み(2)