2024年11月23日

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<ストレポ9月号掲載>百貨店“復活と改革”の進捗度

百貨店の売上げは着実に回復しているが、その回復具合には格差もみられる(画像はイメージ)

百貨店の回復基調に拍車がかかってきた。日本百貨店協会が調査した全国百貨店の1~6月売上高は、コロナ禍前の19年と比較して6.6%減まで戻ってきた。百貨店業界では早期業績回復と再成長への転換を目指し、各社各様に「百貨店事業再生」への構造改革と攻めの営業戦略を積極化させており、これらが結実してきた結果であろう。今号では、百貨店再成長に向けた「現在地」(百貨店の復活と改革の進捗度)を確認するために、本誌6~8月号の「全国百貨店小売業現況レポート」と大手百貨店の事業戦略説明会をベースに事例をまとめた。

※この記事は、月刊ストアーズレポート2023年9月号掲載の特集「百貨店“復活と改革”の進捗度」(全13ページ)の一部を抜粋・編集して紹介します。購読される方は、こちらからご注文ください。(その他9月号の内容はこちらからご確認いただけます)

【外商と富裕層需要】ロイヤルカスタマー戦略の軸にマスから「個」へのシフト加速

百貨店事業が「復活」し、「再成長」ステージに移行していくために欠かせない重点戦略が、外商(お得意様営業)並びに富裕層需要への対応であろう。外商顧客は各々百貨店へのロイヤリティが高く、これまで培ってきた強みをさらに強化する王道の重点戦略だ。既に大手百貨店ではコロナ禍でデジタル技術を活用した「マス」から「個」マーケティングへのシフトが進み、顧客一人ひとりとのつながりを深め、ウォレットシェアを高めていく戦略・戦術が結実してきている。外商顧客を中心に、ラグジュアリーブランドや時計、宝飾、美術など高額品消費の増勢が続いており、モノの提案だけでなく、富裕層の体験価値ニーズへの対応力にも磨きがかかってきている。

三越本店、人とデジタルで独自の「おもてなし」実践

識別顧客を基軸にした三越伊勢丹の「個客とつながるCRM戦略」が、早速、業績に結実してきた基幹店の1つが三越日本橋本店である。22年度(23年3月期)の売上高は前期比20.9%増の1384億円で、コロナ禍前の19年度(1330億円)を上回った。23年度は1403億円を目指しているが、中期計画を1年前倒した目標数値だ。

22年度の好実績を支えたのが、識別顧客(外商顧客、エムアイカード顧客、三越伊勢丹アプリ会員)の売上高シェアの上昇。19年度の54%から、22年度は65%まで上がった。年間買上げ金額別シェアでは100万円以上が43%から53%に増え、中でも300万円以上(13%から16%)と1000万円以上(7%から14%)が伸長している。年代別では30~50代のシェアが約12ポイント上昇しており、顧客の若返りも進んでいる。

識別顧客拡大策は、「個客とつながるCRM戦略」の基盤となる。そのプロセスは、三越伊勢丹アプリのダウンロードから始まる。このデジタル(アプリ)会員に様々な情報を発信していきながら、エムアイカードへの入会を促進する。エムアイカードの買上げ金額に応じて利用できるサービスが異なってくる優位性を訴求する。そして一定額に達すると外商会員を勧めるというロイヤルカスタマー化のプロセスである。

この識別顧客を対象に、「個客とつながるCRM戦略」を展開している。一人ひとりの顧客に寄り添ってモノ・コトを提案していく取り組みで、いわゆる「マス」から「個」にシフトしたマーケティング活動だ。この戦略の象徴が外商顧客へのおもてなし対応だ。外商統括部では、外商顧客の来店時に、LINEワークスやマイクロソフトのチームスを活用して、それぞれの担当が買い物のサポートをする体制を整備していたが、三越日本橋本店では外商担当者だけでなく、館全体で独自の「おもてなしプログラム」を整備した。

おもてなしプログラムとは、チームスを活用した事例で説明すると、外商顧客の来店日や買い物などの情報を入力すれば、例えば駐車場の担当は個客の車の車種やナンバーなど担当者に確認し、来店日時に車を駐車できるスペースを用意する。館内のラウンジやサロンの担当者は来店人数、子供連れや年配者などに応じた部屋や休み処を用意し、提供するお茶や菓子まで想定している。店内のマネージャーやカテゴリースペシャリストなどは顧客の好みなどをリサーチして、対応する担当者や案内するブランド、商品などを事前に想定しておく。

ただ、来店した当日に欲しいものが替わるケースもある。その場合、同行する担当者がチームスにリアルタイムで買い物や要望などの情報を入力すると、各フロアの担当者がその要望に応じておもてなし態勢を整える仕組みをつくり上げている。「個客」起点で、人を軸にリアルとデジタルを融合した「全館おもてなしプログラム」と言えよう。

さらに外商のトップセールスとバイヤーとの連携も強まっている。品揃えや展開から、サービス、おもてなしに至るまでミーティングを重ねている。事例として「顧客が海外コレクションに行きたい」という要望に対し、バイヤーが海外出張の際にその交渉をして実現しているという。

百貨店外商ビジネス並びに富裕層マーケットのポテンシャルは高い。引き続き持続的成長には欠かせない、百貨店が培ってきた強みだ。しかしながら顧客ニーズに応じた新しい営業スタイルに変革していく必要がある。コロナ禍の環境変化を機に、その道筋は開けてきている。

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