大手百貨店、2024年のおせちを相次ぎ発表・下
大丸松坂屋百貨店は、新型コロナウイルス禍で売上げが急増した冷凍おせちを強化した。取り扱い数は昨年の36種類から43種類に増加。冷凍おせちの売上げは昨年、2019年との比較で約2.7倍まで膨らみ、構成比は10%に達しただけに、今年は品揃えの拡充でさらなる伸長を狙う。
大丸松坂屋百貨店は19年以降、おせちの売上げが毎年過去最高を更新。昨年の売上げは19年比で約1.3倍に上った。そのけん引役が、冷凍おせちだ。自家需要だけでなく、コロナ禍で帰省を自粛する人が多くを占める中、沖縄県と離島を除いて全国に送れる利便性が「離れて住む大切な人と同じものを食べたい」という贈答需要も引き出した。
今年の冷凍おせちは、料理研究家の大原千鶴氏が監修した「和風 一段 なごみ」、和風が二段、洋風と中華が一段の計四段からなる「さくら」などの新登場を含めて43種類をラインナップ。前年比で20%増の売上げを目指す。
冷凍おせちだけでなく、食に精通する著名人や予約困難な人気店らが監修した「特別企画おせち」、大丸松坂屋百貨店が段数や価格などを指定した上で、人気店やホテルなどが主体的につくり上げる「厳選おせち」もコロナ禍では好調。昨年の売上げは、特別企画おせちが19年の約1.5倍、厳選おせちが同じく約1.4倍を記録した。
とりわけ特別企画おせちは、大原千鶴氏が監修した「口福おせち」が昨年まで5年連続で売上げナンバーワンになるなど、支持が厚い。同業他社との差異化にもつながっており、今年も「銀座ふじやま」が監修した「和風おせち 一段(お雑煮・ばちこ付き)」、「銀座しのはら」が監修した「迎春セット」、“ワインのおつまみ研究家”として知られる大橋みちこ氏が監修した「みちこのおつまみ宝石箱」などを新たに追加。勢いに弾みを付ける。
柴田智本社営業本部MDコンテンツ開発第2部ディベロッパー&エディターフーズ(レストラン/喫茶・おせち料理)担当は「アフターコロナで旅行者が増えると予見され、おせちの購入者は減る可能性が高いため、全国配送の冷凍おせちで新しいお客様を獲得する。鍋料理やオードブルなど、おせち以外の需要も取り込み、単価を上げたい。あらゆる分野で原材料が高騰しているが、当社の厳選おせちは価格を据え置いており、ひいては競争力が高まった。今年のおせちの売上げ目標は前年比5%増」と意気込む。
大丸松坂屋百貨店はインターネット通販サイト「大丸松坂屋オンラインストア」で9月22日から、店頭では10月1日から、それぞれ注文を受け付ける。
そごう・西武は、近年の消費の二極化を捉え、年始の集いというハレの日にふさわしい贅沢なおせちを拡充した。料亭や名店が手掛ける一段重「料亭・名店の贅沢一段重」を昨年の3倍以上に増やし、昨年に初めて投入した二段重のうち一段を肉や海産物だけで詰め合わせる「美味づくし」をリニューアル。すき焼き、鍋といったおせち以外の“ごちそう”も昨年の約1.5倍を揃えた。今年は前年より5%多い約300種類を扱い、売上げは前年比5%増を狙う。
料亭・名店の贅沢一段重は10種類で、「京料理 美濃吉」など7種類が新規。内容を見直した美味づくしは、一段にエビとカニを盛り合わせた「和洋中二段重『福』」、同じく肉料理を詰め込んだ「和洋二段重『輝』」で構成する。集いの場に最適なごちそうは30種類で、「下関 なかお」の「天然とらふく料理セット」など15種類が新規だ。長岡俊範リーシング本部リーシング二部フード担当は「特に鍋料理を強化したが、どれもこだわり抜いた商品だ」と強調する。
ペットも家族の一員となった時代を踏まえ、昨年から販売する犬用の「ワンちゃんのご褒美おせち」も一部を改変して引き続き提案。昨年は一段重と三段重を用意したが、今年は2種類の一段重と二段重の3種類に変えた。「大型犬を想定して三段重を販売したが、とりわけ都内の家庭は小型犬が多く、二段重の方が合う」(長岡氏)と分析したからだ。
そごう・西武は、新型コロナウイルス禍の「巣ごもり需要」に支えられ、おせちの売上げを伸ばしてきた。長岡氏は「百貨店らしい商品が人気で、中でも限定やごちそうの好調が目立つ。お客様の買い方が“おせち+α”になってきた」と振り返りつつ、「今年は西武池袋本店とそごう千葉店で初めてBOPISを採用。これまでの店頭受け取り予約は、事前に店舗で予約と決済を済ませなければならなかったが、今年は対象商品であれば自宅でいつでも予約と決済が可能。インターネット通販は、まだ伸ばせる」と、さらなる拡販に自信を示した。
そごう・西武は約300種類のおせちを揃え、インターネット通販サイト「e.デパート」では9月21日~12月15日、店頭では9月25日~12月22日、それぞれ注文を受け付ける。
東武百貨店は、3~5人前の大人数向けおせちを昨年より1割増やすとともに、若年層や子供が楽しめるおせちを強化した。アフターコロナの今年は大人数での集いの場が増えると予想したからだ。「家族、友人とみんなで集い・楽しむ」をテーマに、前年比3%増の売上げを目指す。
東武百貨店は近年、1~2人前など少人数向けのおせちを充実させてきたが、今年は大人数でも満足できるサイズのおせちを用意。和食の名店「乃木坂しん」の「和風二重段」や、今年で2回目となる「銀座朔月」の「和風二段重」、47都道府県の名産品や郷土料理が楽しめる「日本の味めぐり~47都道府県~和風三段重」などで、いずれも3~5人で食べられる量だ。
初登場の乃木坂しんの石田伸二店主は「コロナ禍が始まった約3年前、お客様の要望に応えるため、おせちの前身となる『おつまみセット』を始めた」という。東武百貨店からの依頼を受け、本格的なおせち料理を手掛けた。店での提供と変わらず、焼き物は炭火で焼き、野菜も煮しめではなく一つ一つ丁寧に炊くなど、全て手づくりの40種類をセット。食べやすさも意識し、家族が皆で楽しめる料理の献立を目指した。「新年一発目のお食事として、皆さんで楽しんでいただきたい」(石田氏)。
子供や若年層が楽しめるおせちも充実化。根強い人気の「肉」を存分に味わえるおせちや、手軽につまめる“パーティー感”のあるオードブルタイプなどを揃えた。「友人同士で正月を楽しむ機会もあると思う。そうしたニーズに向けて訴求したい」(因幡氏)と、おせちの新たなスタイルを提案する。
格段にインパクトを放つのが「ギルティオードブルおせち一段」だ。お重の中央には、いわゆる“マンガ肉”と呼ばれる大きな俵型の骨付き肉が鎮座し、別添えで肉にかけるラクレットチーズも付く。生クリームで覆った栗きんとんや、レーズンバターをサンドしたはちみつバター伊達巻なども入り、総カロリー7500kcal以上の大ボリュームを売りにアピールする。同じく肉に特化した「肉オードブルおせち一段」も、フォアグラやトリュフを使ったソースで食べる黒毛和牛ローストビーフなど、9種類の肉を贅沢に食べ比べられる。
賑やかなパーティーの場で手軽に味わえるおせちとして、「アサンブラージュ.エフ」の「フィンガーフードおせち冷凍洋風二段重」と「ベーカリーズキッチン オハナ×嵐山熊彦」の「ベーカリーオードブル」を販売する。ベーカリーオードブルは京料理の技法を取り入れ、日本の食材にこだわったパンをバラエティ豊かに詰め合わせた。丹波の黒豆をシュークリーム生地に入れ込んで揚げ、きな粉をまぶした「クラッフェン」や、ワインにも合うミニバーガー、締めさばのサンドなども入る。
ベーカリーズキッチン オハナの久保田浩二氏は「初めての試みだが、通常の店舗でも売れるような価格帯で用意した。多くの人にパンとスイーツでおせちを楽しんでもらいたい」と意気込んだ。
料理の腕前の良さで知られる、お笑いトリオ「ロバート」の馬場裕之氏が監修した「ロバート馬場 三世代おせち」の「冷凍和洋二段重」も、東武百貨店オリジナルとして登場。馬場氏が幼少期にどうしても残してしまうおせち料理があった経験から、ココア風味の黒豆やチーズ入りの伊達巻など、子供でも残さず食べられるメニューを考案した。
「番外編」として「体験型チケットの販売」と「新型特急スペーシア Xおせち」も打ち出す。体験型チケットは、おせちも販売する乃木坂しんと銀座朔月に加え、京懐石料理店「日本橋 OIKAWA」の3店それぞれで、東武百貨店限定の特別なコース料理を堪能できる。アフターコロナで気兼ねなく外出を楽しめるようになり、名店の味を満喫できるリアル体験を提供する。
新型特急スペーシア Xおせちは、今年7月に運行を開始した東武鉄道の新型特急「スペーシア X」とのコラボ商品。車両をデザインした容器におせち料理を詰め込んだ。6つのお重を並べてスペーシア Xを再現できる「スペーシア X 6両編成おせち 和洋六段重」をはじめ、3種類からなる。老若男女問わず皆で楽しめるよう、豪華な和洋折衷の味を盛り込んだ。
東武百貨店でも、おせちの売上げは右肩上がりだ。因幡(いなば)秀樹食品部商品企画課マネージャーは「コロナ禍を境によく売れるようになった」と話す。一昨年は前年比19%増、昨年は同5%増だった。
とりわけ、ネット通販サイト「東武オンラインショッピング」が好調。昨年の売上げは前年比12%増と2桁伸長だった。今年はサイトでの取り扱い商品を前年より2割増やし、予約も14日早めて9月1日にスタート(12月24日まで)。前年比で約2%増の売上げを目指す。
店頭を含めたラインナップは、昨年より67種類多い391種類。うちネット通販サイト限定が28種類で、東武百貨店限定は37種類。店頭予約は前年より1日早めて9月14日に開始し、12月25日まで受け付ける。
(野間智朗/中林桂子)