2024年11月22日

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大丸松坂屋百貨店の「明日見世」、第9弾は心と身体の切り替え提案

「Active&Rest」をテーマに、24のD2Cブランドを集積

大丸松坂屋百貨店が大丸東京店の4階で運営するショールーミングスペース「明日見世」で23日、第9弾が始まった。明日見世は3カ月ごとに内容を一新しており、今回は「Active&Rest/心と身体を動かす・癒す」をテーマに、「心身を解放する」、「自然とつながる」、「感情を動かす」などのキーワードで、24のD2Cブランドを集積。秋の行楽シーズンが迫る中、オンとオフ、あるいはアクティブとレストの切り替えにメリハリを付けるライフスタイルを提案する。

明日見世は従来、いわゆる「カレンダーマーケット」を重視してきたが、第9弾はそれだけにとらわれず、「市場調査に基づき人々の価値観やライフスタイルの変化を予測し、より新しい価値観を提供する」(原亜美多本社経営戦略本部DX推進部スタッフデジタル事業開発担当)。大丸松坂屋百貨店としての“ウィル(=意志)”を強めた格好だ。テーマやキーワードにも、それを込めた。

他にも新たな試みがある。地方自治体のコーナーを初めて展開。北海道中川町の地域商社が運営するウェブサイト「ナカガワのナカガワ」で販売する商品の売れ筋を揃えた。環境調査会社に勤めた後に中川町に移住し、創作活動を始めた髙橋綾子氏が未利用材でつくるピアスやボールペン、木材工房のRawwoodが中川町産の木材でつくる「森の中で木こりが切り株に腰掛けるシーンを疑似体験できるスツール」、中川町を拠点に鹿角を用いたアクセサリーなどを手掛けるNorthern Alchemyのペンダントなどだ。札幌市の中心部に位置するダイニングバー、minotakeが製造する「燻製ピスタチオ」は一見、中川町と関係性がないが、燻製に使うチップは、髙橋綾子氏の創作活動の過程で生まれる木くずが原材料だ。

巨大なビジュアルが目を惹く「ナカガワのナカガワ」

中川町は面積の約8割が森林で占められ、行政はその活用やクリエイターの誘致を積極化。近年は移住者が増えており、豊富な森林資源と優れたクリエイターの相乗で生み出される魅力的な商品は、松坂屋上野店で1年に2回の頻度で開くポップアップショップでも好評だ。

出店者に向けた、新たなプランも追加した。特別プランと呼び、ほかのプランよりもスペースが広く、特別なビジュアルも使って、世界観を表現できる。従来は税抜き21万円のエントリープラン、同45万円のスタンダードプラン、同90万円のプレミアムプランの3種類で、スペースや接客を通じて得た情報のフィードバックなどに差があった。特別プランの金額は個別に設定する。

今回はナカガワのナカガワと「ブレインスリープ」が特別プランを利用。前者はスツールや燻製ピスタチオ、アウトドアガレージブランド「10 to 10」のテーブルなどをコーディネートして打ち出し、睡眠に特化した寝具や食品などを扱う後者はベッドを置いたり、枕の素材を展示したりして、特長を分かりやすく伝える。

テーブルコーディネートのように訴求

24のブランドには“新顔”も多い。百貨店初登場の「jigyeo(ジグイェオ)」は、美容インフルエンサーのSHOKO氏がこだわり抜いてつくり上げるアロマキャンドルやネイルオイルなどを展示。SHOKOこと三森暁子社長は新型コロナウイルス禍でアロマキャンドルにハマり、会社員時代の2022年2月にjigyeoを立ち上げ、売れ行きの良さから独立したというエピソードを持つ。アロマキャンドルには上質な香料がたっぷりと含まれており、10畳の部屋でも十分に広がるという。客からも「アロマキャンドルなのに、しっかりと香る」と支持されており、香りそのものも「適度なエッジが効いている」、「複雑な調香にもかかわらず、ぼやけない」などと人気だ。今年7月にはネイルオイルを追加。一部の商品は早々に売り切れた。

「jigyeo」のアロマキャンドルは香りの良さと広がりが特長

明日見世を皮切りに、大阪府や東京都、福岡県、愛知県などでポップアップショップを予定しており、リアル店舗での接点を増やして拡販につなげる。「まだ自分が好きな香りが分からない人は多い。それを知るきっかけにしてほしい。まだまだニーズはある。子供がいるなどで火を点けるのが怖い人もいるため、入浴剤やルームスプレーなどにラインナップを広げていきたい」と三森社長は意気込む。

同じく“香り”では、京都市で創業110年の画材・額縁店、画箋堂が今年5月にデビューさせたアロマディフューザー「artme(アトメ)」も登場。絵画を額縁に入れる際、絵画と額縁の間に挟んで経年劣化を防ぐマット紙の切れ端を使ったリード、清水焼の容器、北山杉など京都府の特産品をエキスに用いたアロマオイルのセットだ。リードのデザインは学生を対象に公募。水蒸気が湧き立ち上る様子を表した「立涌(たてわく)文様」を採用した。偶然ながら、これも京都府の学生の案という。全てから“京都の香り”が漂うアロマディフューザーだが、「なかなか認知度が上がらず、露出を増やしたい」(山本修三代表取締役)と明日見世に出店した。

画材・額縁店が手掛けるアロマディフューザー「artme」

明日見世は21年10月にオープン。AIによるデータ分析、産学連携、自動販売機の設置、出店料の多様化といったトライ&エラーを繰り返しながら、早期の黒字化を目指す。

(野間智朗)