東急グループの渋谷まちづくり戦略「Greater SHIBUYA2.0」(下)
2012年に開業した「渋谷ヒカリエ」をリーディングプロジェクトとして、100年に1度という東急グループによる渋谷再開発プロジェクトが進行している。同グループによる渋谷の街づくりは第2ステージに入り、今後も渋谷駅前や周辺部に再開発事業の完成が続く。そこで「東急グループの渋谷まちづくり戦略」を3回に分けて取り上げる。3回目は、東急株式会社渋谷開発事業部プロジェクト推進第二グループ課長田邊秀治氏が「東急が進める『渋谷二丁目17地区第一種市街地再開発事業』について」を語る。
渋谷2丁目17地区のビル名称が「SHIBUYA AXSH(渋谷アクシュ)」に決定しました。この名称には、このビルが渋谷駅東側の玄関口として青山と渋谷の街をつなぎ、多種多様な人々が行き交う街で、交流を誘発する施設になっていきたい、という思いを込めました。挨拶や友好の印である「握手(アクシュ)」の意味から、異なる人々や文化がこの場所でつながり、交じり合い、そこから新たな価値が生まれていく様子を表現しています。
渋谷駅東側においては、2012年に「渋谷ヒカリエ」が誕生し、ヒカリエを中心とした賑わいが形成されてきました。渋谷アクシュはヒカリエの坂上に立地し、ヒカリエと共に渋谷駅東側エリアを盛り上げる役割が期待されています。渋谷駅から青山方面に向かって延びる宮益坂は、坂に連続する商業空間によって独自の賑わいを形成しています。さらに歩行者優先のウォーカブルな街を実現するべく、今後歩行者空間の整備が進められていきます。21年にはヒカリエデッキが整備され、宮益坂とともに駅から東西方向につながる重要な歩行者動線を担っています。
さらに宮益坂地区と渋谷二丁目西地区で大規模な再開発が予定されています。宮益坂地区ではオフィスや宿泊施設、渋谷二丁目西地区ではオフィス、宿泊施設に加え、バスターミナルの整備が予定されており、駅の東側は今後ますますオフィスワーカーや来街者が増加し、賑わいがあふれるエリアになっていきます。渋谷アクシュはそのような駅東側エリアの中心に位置しており、駅から街への歩行者ネットワークを周辺につなげるとともに、街区間の回遊性を向上させることでエリア全体の連続した賑わいを創出させます。
1~4階の低層部にはアトリウムと飲食などの商業店舗、5~23階の高層部はオフィスとなります。当施設は坂道の中腹に位置しており、この高低差を解消するアトリウムや周辺街区と接続するデッキを整備することで利便性の高い歩行者ネットワークが実現されます。また、このネットワークに沿って広場と店舗を配置することによって人々が集い、憩える空間に生まれ変わります。渋谷アクシュの開発前は店舗や広場が少なく、人々が通り過ぎるだけのエリアだったのが、今後は駅東側エリアの新たな賑わい拠点となることを目指します。
渋谷ヒカリエ側広場では、賑わい創出に貢献する取り組みとして季節ごとのイベントや大型ビジョンを用いた環境演出を行う予定です。青山側広場においては文化発信の取り組みとしてパブリックアートを展示します。再開発組合の構成員であるNANZUKAがキュレーションを担当し、パブリックアート作品として広場で展示する予定。NANZUKAは当地区にギャラリーを構え世界に作品を発信しており、これから創造性豊かな作品が渋谷の街を彩ることになります。
渋谷アクシュは、駅周辺に不足する緑化にも積極的に取り組みます。渋谷の中心にありながらも緑による癒しを感じられる空間を目指し、建物全体で緑豊かな環境を実現します。その取り組みは屋外だけでなく、インテリアグリーンを手掛けるSOLSOと協働し、コネクティングフォレストというコンセプトのもと、ビル館内にも自然環境の要素を取り入れることで緑豊かな空間を立体的に連続的に表現します。
1~2階をつなぐアトリウムは広々とした吹き抜け空間を生かして、大胆な緑化を実施します。特に2階天井に施した垂直庭園は国内ではみられない新たな取り組みであり、空間全体の緑視率を向上させる効果があります。また、1、2階からつながる3階のオフィスエントランスは、壁面緑化による植栽をふんだんに配置することで緑あふれる雰囲気をつくり上げ、渋谷をホームタウンにする企業に相応しい空間とします。
オフィスサポート機能については、近年、従業員の健康を重視する健康経営の考えが浸透し、企業、ワーカー共に健康に対する意識が高まっています。一方で、多くの企業が集まる渋谷ではこうしたニーズに応える施設やサービスはまだまだ不足している。そこで渋谷アクシュは、周辺エリアを含めたワーカーサポート事業としてのウェルネスに注目して、ビルの利便性、快適性に加えて心と身体の健康を高められるサービスを提供することで、渋谷で働く人の生産性や創造性の向上を支援していきます。
具体的にはオフィスエントランスおよびその上層階で日々の健康状態をチェックする「総合検診センターヘルチェック」を開設し、渋谷で働く人々と企業の健康をサポートしていきます。また、科学・日用品メーカーのサラヤが食事と運動を連動させた店舗を関東で初出店し、心と体のバランスを整えるサービスを展開します。
最後に環境認証についてです。渋谷アクシュはワーカーの健康や快適性の増進を支援する建物として「CASBEE-wo認定制度」のSランクを取得する予定です。また、環境配慮ビルとして省エネルギー施策を積極的に実施することで、オフィス部分において「ZEB Ready」認証を取得。ZEB Readyはエネルギー消費量を標準的なビルに比べ50%以上削減する必要があり、渋谷エリアの超高層ビルでは初の取得となっています。
ビルの名称決定に伴い、渋谷アクシュをテーマにしたアート作品を制作、現地仮囲いに作品掲出を始めました。仮囲いアートによって工事期間中も渋谷の賑わい創出に貢献していきます。
事業名称=渋谷二丁目17地区第一種市街地再開発事業、施工者=渋谷二丁目17地区市街地再開発組合(構成員:塩野義製薬、南塚産業、NANZUKA、東宝、太陽生命保険、東急)、施工地区=渋谷区渋谷二丁目100番地、施工面積=約0.5ha、敷地面積=約3460㎡、延床面積=約4万4500㎡、階数=地上23階・地下4階、高さ=約120m、用途=事務所、店舗、駐車場など、竣工=24年5月末(予定)、開業=24年度上期(予定)
(塚井明彦)