2024年11月23日

パスワード

松屋銀座店には前年の約1.5倍にあたる約2500人が並んだ

卯年は飛躍の予兆――。デパートニューズウェブの調査によると、東京都および大阪府の主要百貨店の初売りは、前年の売上げや客数を大幅に上回った。新型コロナウイルス禍前の2020年との比較では依然としてマイナスだが、例えば三越日本橋本店は1%減(2~3日の合計)まで回復しており、いよいよ「失われた3年」を挽回する時だ。

西武池袋本店の初売りでは七福神が3年ぶりに“復活”。干支菓子を振る舞った

デパートニューズウェブは、東京都と大阪府の主要百貨店を対象に、初売りの結果をアンケート形式で調査した。売上げと客数は軒並み伸長(以下の表参照)。伸長率のトップは売上げが阪神梅田本店(約40%増)、客数が三越日本橋本店(約44%増)だった。初売りの“華”といえる福袋は食品、体験型をはじめとする「企画系」がけん引し、総じて好調。同じく初売りの定番であるクリアランスも、行動制限の解除後の旺盛な外出需要に支えられて衣料品が売上げを伸ばした。プロパーでは、おおむねセールの対象外であるラグジュアリーブランド、宝飾品や時計、美術といった高額品の勢いが続く。

生活防衛意識の高まりか、例年以上に食品の福袋が好調だった(写真は西武池袋本店)

新宿西口ハルクに移転してから初めての初売りを迎えた小田急百貨店新宿店は、2日の午前10時にオープン。売上げは2~3日で計画通りに推移した。福袋はインターネット通販サイト「小田急百貨店オンラインショッピング」で、70以上のブランドを事前販売。初の試みとして、事前にネット通販サイトで決済し、混雑する食品売場でなく特別に設けたスペースで受け取れる食品の福袋を用意した。コロナ禍での混雑緩和策だ。食品の福袋は売れ行きが良く、品揃えを増やしたネット通販では前年の約1.7倍を記録した。企画系福袋では22回目となる「小田急線新宿駅1日駅長体験&ロマンスカーミュージアム満喫夢袋」に多くの応募があったという。

クリアランスは2~10日で、プロパーも強化。食品では「てみやげフェア」、「フードコレクション」、化粧品では「新春コスメ特集」、服飾雑貨では「春財布特集」、ウサギがモチーフのグッズを集めたショップを、それぞれ展開した。

初売り以降の1月商戦については「イベントスペースでクッキーやお茶に特化した催事を開いたり、下旬から新宿駅西口地下街『小田急エース』内に構える食品店街『SHINJUKU DELISH PARK』でバレンタインデーの施策を講じたり、下旬のカードホルダーへの優待施策に合わせてラグジュアリーブランドや靴、ハンドバッグ、服飾雑貨の売場で新作を訴求したりして、売上げの伸長を狙う」(同社)。

京王百貨店は2日、通常より30分早い午前9時30分に営業を開始した。開店前の行列は前年の1.5倍に上り、同日の売上げは前年比で約23%増、客数は同約21%。22年内に店頭とネット通販サイトで一部の販売を始めた福袋は、混雑を避けるために人気の食品と婦人・紳士洋品の一部を7階の特設会場で提供。前年に続き2回目の対応だが、混乱なく整然と並び、午前中にほぼ全てのショップが完売したという。そのほか、家庭雑貨や趣味雑貨関連の福袋も人気で、企画系では高山グリーンホテルのペア宿泊券が入って5万円の福袋、「お好みダイニング八寸八卓」のケーキプレートが2023円で90分間食べ放題の福袋に多くの応募があった。

京王新宿店は混雑を避けるために人気の食品と婦人・紳士洋品の一部を7階の特設会場で提供

1月商戦の見通しについては「新宿駅周辺の商環境の変化で入店客数が増加。特に食品、レストランの売上げが大幅に増加している。22年度(22年4月~23年3月)の下半期は物産展が好調に推移しており、7日からの『第58回元祖有名駅弁と全国うまいもの大会』、バレンタインデーなどの食物販催事などをフックに、新しいお客様の固定化、売上げの確保を目指す」(同社)という。

西武池袋本店は1日、通常より30分早い午前9時30分に開いた。同日の売上げは前年比で約10%増、客数が同約20%増、1~3日では売上げも客数も同約5%増。コロナ禍前の20年には届かなかったものの、着実に前進した。福袋はそごう・西武の全店で約20万個を用意。西武池袋本店では食品の福袋、11ブランド・約2370個を7階の特設会場で販売し、正午までに完売した。企画系では「八ヶ岳高原結婚式福袋」への問い合わせが多く、限定1組に対して応募は832件を数えた。

クリアランスは1~9日で売上げが約5%増。20年比で約85%まで回復してきた。「サイカイ(再開・再会)を祝おう」をテーマに、獅子舞など正月の文化を感じられるイベントを盛り込んだほか、3年ぶりに七福神に扮した社員が干支菓子を配布するなどで客足を誘引。商品別では外出需要を背景に衣料品が約5%増と伸び、免税売上げは20年の半分ほどだが、約460%増を記録した。

プロパーでは、20万円台のコートが好調。1月商戦の見通しについては「外出需要の回復でファッション関連やトラベルアイテムが復活してくると考えられる」(同社)とした。

大丸松坂屋百貨店の各店は2日から営業し、大丸東京店は通常より50分早い午前9時10分、松坂屋上野店は同じく20分早い午前9時40分に開いた。行列は大丸東京店が2000人、松坂屋上野店が1000人で、同日の売上げと客数は大丸東京店が前年比で約2割増、松坂屋上野店が前年並み。

福袋は、東京店でオープンの直後に202万3000円の「ダイヤモンドルース福袋」が売れた。30代の男性がウェブサイトを見て購入を決め、来店したという。菓子の福袋は開店から1時間でほぼ完売。聘珍楼の福袋は限定100点が開店前に整理券の配布が終了した。約9000個の福袋を用意した松坂屋上野店でも食品が人気。「カフェ・コムサ」の福袋は開店直後に整理券の配布が終わり、3年ぶりに復活した「みはし」の福袋も50点が30分で売り切れるなど、計27のブランドのうち22が午後1時の時点で完売した。同社は「菓子は例年1000円台の動きが良いが、今年は2000円以上が即座に完売した」と振り返る。

クリアランスは、大丸東京店で婦人雑貨、紳士雑貨のバンドルセールが賑わい、松坂屋上野店では特に紳士雑貨や婦人洋品、化粧品などで訪日外国人のまとめ買いが目立った。

高島屋の各店は2日に営業を開始。日本橋店には午前5時頃から列が生まれて数千人が並び、大阪店も行列は前年の2倍の長さだった。売上げは2~3日で日本橋店が前年比22%増、大阪店が同11%増。日本橋店は約460種類・約1万4000個の福袋を用意し、僅か5分で売り切れるものもあった。大阪店の福袋は物価高を受けて食品や靴下など日用品が好調。婦人靴下の福袋は全350点が開店から1時間で売り切れた。

クリアランスは日本橋店、大阪店のどちらも活況。日本橋店は前年を上回り、大阪店は婦人洋品、婦人服、食器、寝具、食品の動きが良かった。1月商戦の見通しについては「日本橋店は特選が引き続き好調で、婦人ファッションもプロパー、セールの両方がプラス。大阪店も同じく特選の勢いが持続しており、急な冷え込みで靴下や手袋など防寒品の売れ行きも良い」(同社)という。

東急百貨店本店は2日、通常より30分早い午前10時にオープン。行列の人数は前年の2倍以上、売上げは同1.5倍に上った。1月末での営業終了を前に、2~31日は「グランドファイナルセール」を行っており、カテゴリー別では全般的に伸びており、「アートや宝飾品といった高額品も好調」(同社)という。

東武百貨店池袋本店は2日、通常より20分早い午前9時10分に営業を開始した。行列の人数は前年の1.3倍の約2000人で、売上げは同7%増、客数は約14万1000人で同6%増。2~4日の売上げは同約5%増だった。福袋は「家計を応援!3年ぶりに3世代!笑顔で集まれる一年を応援」をテーマに、特に食品のラインナップを前年の1.2倍に拡充。食品では菓子やグローサリーが人気で、福袋の売上げは同3%増を記録した。企画系では「フルーツショップアオキ 旬のタルトサブスク福袋」が一番人気で、限定5点に対して応募は約5600件を数えた。倍率は1124倍だ。

クリアランスの滑り出しは上々。2~11日の累計では12%増と2桁伸長を示した。ただ、同社には「昨年からアパレルメーカーのクリアランスへの取り組みは変化しており、コートなどの売れ筋や定番はスタート時に値下げしない、あるいは対象にしないため、在庫が薄い」という懸念がある。

1月商戦の見通しについては「物価高で一般顧客の消費マインドは減退してきている。富裕層顧客のマインドがモノに残るかコトに走るか次第と思われる。前年実績は確保できるだろうが、コロナ禍前を超えるのは厳しいと予想。カテゴリーでは富裕層と訪日外国人に人気のラグジュアリーブランドや宝飾品、腕時計に期待する。人流の活発化が継続すれば、旅行用品や防寒品など必要な商品が好調になるだろう」(同社)とした。

松屋銀座店は2日、午前10時に開いた。行列は前年の約1.5倍に当たる約2500人、売上げは2~3日で同約40%増、客数は同じく同約10%増。20年比では売上げが同約1割減、客数が同約3割減だった。客数の戻りはやや遅いものの、売上げはコロナ禍前に近付きつつある。約550種類・約1万4000個を揃えた福袋は、企画系が人気。食品の「デリガチャ福袋」は限定50点が開店と同時に完売し、「銀座の男 美意識向上福袋」も同5点が開店から10分ほどでなくなった。「昨今の物価高の影響か、食品が大変好調。『靴下100足入り福袋』など実需品も売れた」(同社)という。企画系では「ハワイ高級コンドミニアム福袋」が限定1点に対して97件、「大粒ダイヤモンド福袋」が限定1点に対して17件の応募があった。

クリアランスは2~10日に実施。売上げは約10%増を計上した。1月商戦の見通しについては「引き続きラグジュアリーブランドが著しく好調。宝飾時計や化粧品も大きく伸ばしており、婦人・紳士の衣料品や食品なども全般的に動きが良い」(同社)という。

三越伊勢丹の各店は2日に営業をスタート。伊勢丹新宿本店は前年の約1.15倍の約7470人が並び午前10時に、三越日本橋本店は同約1.64倍の約1800人が並び通常より10分早い午前9時50分に、それぞれオープンした。売上げは2~3日で伊勢丹新宿本店が同約20%増、三越日本橋本店が同約25%増、客数は伊勢丹新宿本店が同約18%増、三越日本橋本店が同約44%増。両店の売上げをけん引したのはプロパーで、伊勢丹新宿本店はクリアランスが同約10%増に対して同約30%増、三越日本橋本店はクリアランスが前年同等に対して同約40%増を記録した。

伊勢丹新宿本店はスーツ、ビジネスシューズ、バッグ、アウターなどの動きが特に良く、アクセサリー、靴、タオルなどクリアランスで定番のアイテムに動員がかかった。クリアランスとプロパーを分けると、前者が復調、後者は高伸長。カテゴリー別では、衣料品で婦人・紳士を問わず、アウターやニットが伸びた。婦人はクリアランス、プロパーを問わず「今使えるアイテム」が好調。紳士はビジネスアイテムが盛況だった。

イベントでは2~4日の「ととのう2023 伊勢丹サウナ館」が人気。文字通りサウナにフォーカスしたイベントで、3回目となる今年は本館6階の催物場に約60のサウナに関連するブランドを集めた。年齢や性別を問わず幅広い客が楽しみ、売上げは前年を大きく上回った。

三越日本橋本店はプロパーで婦人の特選で財布やバッグ、重衣料の目的買いが目立ち、事前商談の大口が計上された美術も高伸長した。カテゴリー別では、重衣料やセーターなどの防寒品が好調。家庭用品はキッチンアイテムやタオルなどで買い替え需要がみられた。食品はクリアランスを実施せず、福袋もネット通販サイトへの移行を進めたが、前年実績を上回る推移だった。和太鼓や獅子舞などのイベントも、4回とも約500人が集まるなど好評を博した。

三越伊勢丹は前年に続き、福袋の大半をネット通販サイトに移行。販売開始と同時に即完売となるものもあり、売上げは前年を上回った。総じて店頭で人気のブランドは福袋も好結果を収めたという。

あべのハルカス近鉄本店は2日、通常より15分早い午前9時15分に営業を開始。約5200人が並んだという。2~3日の売上げは前年比で約10%増、客数は同じく同約3%増。コロナ禍前の20年比では売上げと客数が同約25%減で、なお復調途上だ。約5万個を用意した福袋は好調。中でも菓子や高額品、企画系が人気を集めた。例えば高額品の福袋では、2日に1300万円と300万円の絵画が売れた。企画系では「バレンタイン特別コラボパフェスイーツ講座&先行試食福袋」が限定12点に対して約100件、「Go!Go!バファローズ!憧れのマウンドでプレ始球式福袋」が同じく1点に対して約100件の応募があった。

あべのハルカス近鉄本店には獅子舞が登場

クリアランスは昨年12月7~31日と今年1月2~17日の2回に分けて実施。約400のブランドが参加し、売上げは前年並みで推移した。婦人のコートやニットなどの売れ行きが良い。並行して、プロパーも強化。プロパーではインポートのダウンコートを販売するポップアップショップを行ったり、クリアランスの対象外であるニットやコートをPOPで訴求したりして、購買意欲を喚起した。コロナ禍の一段落でイベントなどへの参加者が増えており、オケージョン需要の取り込みにも注力。セットアップなどが好調だ。カテゴリー別では、婦人服がクリアランスとプロパーの合算で2桁増と高伸長。収益の柱が上昇基調にある。

1月商戦の見通しについては「バレンタインデー商戦が18日に開始したため、菓子のカテゴリーが売上げをけん引すると見込む。今年は卒業式や入学式などセレモニーへの参加が増えると予想され、オケージョン需要で婦人服も期待できる」(同社)とした。

京阪百貨店守口店は2日、午前10時にオープン。行列は前年の約1.3倍に当たる964人で、同日の売上げは同2.5%減だった。福袋を年内やネット通販サイトに振り分けた影響がある。その福袋は食品が前年実績を超え、ファッションは不振だった。ネット通販の売上げ構成比も前年より上がった。

阪急阪神百貨店の阪急うめだ本店と阪神梅田本店は2日、通常より30分早い午前9時に営業を開始した。両店には約2000人が並んだ。売上げは2~3日で阪急うめだ本店が前年比約15%増、阪神梅田本店が同約40%増、客数は同じく阪急うめだ本店が同約20%増、阪神梅田本店が同約40%増だった。福袋は阪急うめだ本店が約6万5000個を、阪神梅田本店が約3万個を、それぞれ用意。阪神梅田本店の福袋は全てのカテゴリーで前年を2割以上も上回った。企画系で毎年人気の阪神タイガースの福袋は限定500点に対して約1700件の応募があった。

クリアランスは両店が12月に一部のブランドが先行してスタート。2~3日は「クリアランス会場も賑わうが、プロパーも好調で、『安いから買うのではなく買いたい時に買う』という傾向がみられた」(阪急うめだ本店)、「クリアランスが前年を大きく上回るスタートとなり、ここ数年では最も賑わいをみせた初売り」(阪神梅田本店)という。

東京都および大阪府の主要百貨店の初売りは活況を呈したが、今後に向けては物価高が懸念材料だ。富裕層の高額消費は堅調だが、ウィズコロナへの移行で海外旅行やクルージングなどに関心が向けば、ブレーキがかかる可能性もある。一方で、インバウンドは急速に上昇しており、エリアによっては受け入れ態勢の整備や購買意欲の喚起が急務だ。地政学リスクは高まるばかりで、景気の先行きを見通すのは難しいが、未曾有(みぞう)の危機をもたらしたコロナ禍は今春にも季節性インフルエンザと同じ「5類」に見直される。“日常”が迫る中、初売りの勢いを落とさず、いや弾みを付けて、卯年を百貨店業界復興への転換点としたい。

(野間智朗)