高層化・複合化進む再開発事業 東京駅周辺・日本橋編(1)
大規模再開発事業に伴い、ホテルやオフィス、マンション、商業施設、公益施設などを整備した超高層の大型複合ビルの竣工が続く。中でも活発なのは東京で、東京駅周辺や日本橋、虎ノ門、麻布台、渋谷、品川などで再開発ビルの竣工が相次ぐ。それ以外の都市でも2025年に関西万博の開催を控える大阪を中心とした関西や名古屋、2030年の札幌冬季オリンピック・パラリンピックの誘致や北海道新幹線の開業を控える札幌、高さが規制緩和されビルの建て替えが進む博多・天神などで開発が目立つ。
1日の平均乗降客数が約115万人(19年度のJRと東京メトロの合算)、同じく発着列車が4000本以上に上る東京駅には国内外から人が集まる。駅の構内外や周辺には数多くの商業施設が林立。丸の内側には日本郵便が運営する大型複合商業施設の「KITTE 丸の内」、三菱地所の「丸ビル」、「新丸ビル」、「丸の内オアゾ」などがある。
東京駅改札内外にも土産店や飲食店、エキナカ施設などが張り付く。エキナカ施設の「GRANSTA TOKYO」、「GRANSTA MARUNOUCHI」、飲食ゾーンの「GRANSTA YAEKITA」、ショップ&レストランの「GranAge」、「GRANROOF」、「GRANROOF FRONT」などだ。
八重洲側には、JR東日本の高層ビル「グラントウキョウノースタワー」の地下1階~地上13階で営業する「大丸東京店」をはじめ、東海道新幹線車両と同じ長さで広がる「東京駅一番街」、1965年に開業した「ヤエチカ」(八重洲地下街)がある。
これらの多くが、昨秋から今春にかけて改装を手掛ける。開業20周年の丸ビルと開業15周年の新丸ビルでは、昨秋から始めた改装が今春完成。東京駅構内外でエキナカ施設などを運営するJR東日本クロスステーションデベロップメントカンパニーは、昨春から昨夏にかけて飲食ゾーンを一新しGRANSTA YAEKITAをオープンしたほか、エキナカの京葉ストリートを改装して名称を「GRANSTA TOKYO(京葉ストリートエリア)」とした。
東京駅一番街を運営する東京ステーション開発は、昨年11月に手土産や土産物などを集めた「東京ギフトパレット」を拡大リニューアルし、同12月には菓子メーカーのアンテナショップを集結した「東京おかしランド」を全面改装した。
ヤエチカも大規模改装を進める。すでに多くの新店舗を加え、集客の目玉として人気店や有名店を集結したエンターテインメント性のあるカレー処とラーメン横丁を開設。店舗の刷新だけでなく、施設改善や環境整備、VI(ビジュアルアイデンティティ)にも着手した。
ヤエチカがこれだけの大改装に踏み切った背景には、東京駅周辺で本格化する再開発事業などによる八重洲エリアの環境激変がある。ヤエチカに大きく影響を及ぼすとみられるのが、隣接して開発される「八重洲一丁目東地区」、「YANMAR TOKYO」(ヤンマー東京ビルの建て替え)、「八重洲二丁目北地区」(東京ミッドタウン八重洲)、「八重洲二丁目中地区」の再開発事業。これらの完成後は、そこに通うオフィスワーカーやビルの関係者が通行路としてヤエチカを利用するからだ。
すでに東京ミッドタウンやYANMAR TOKYOはヤエチカと地下が通路で結ばれており、東京ミッドタウン八重洲の地下1~2階にはバスターミナルも開業。このバスターミナルは八重洲一丁目東地区、八重洲二丁目中地区とも一体的に整備される。全体が完成する28年度には、全体面積が約2万1000㎡、全体で20乗降バース、国内最大級の高速バスターミナルとなる。ヤエチカを運営している八重洲地下街では「再開発ビルやバスターミナルなどの完成によって、現在は約15万人の1日平均通行量が約30万人に倍増する可能性がある」と大きな期待を寄せる。
八重洲エリアの再開発はこれだけではない。八重洲二丁目中地区の隣では「八重洲二丁目南地区」の再開発事業が計画されており、YANMAR TOKYOから少し先の京橋1丁目の「アーティゾン美術館」が入る高層ビルの隣では「(仮称)新TODAビル計画」の開発が進む。
これらの再開発事業で計画されるのは、いずれも多様な用途を持った、いわゆる超高層大規模複合施設。八重洲一丁目東地区では、A地区に建つビルにオフィス、店舗など、B地区の高さ約250mの高層棟にオフィス、店舗、医療施設、バスターミナル、カンファレンスなどを見込む。八重洲二丁目中地区が計画する高さ約226mの超高層ビルにはオフィス、商業施設、劇場、サービスアパートメント、インターナショナルスクール、バスターミナルなどが入る。
戸田建設が進める(仮称)新TODAビル計画は、第1期で上層部にオフィス、低層部に美術館(アーティゾン美術館)を併設した高さ約150mの「ミュージアムタワー京橋」を竣工。その隣の本社跡地に建設されるのが「TODA BUILDING」で、高さは約165m、上層部にオフィスや本社、低層部に芸術・文化の拠点を設ける。今年3月10日にグランドオープンする東京ミッドタウン八重洲の高さ約240mの「八重洲セントラルタワー」にはオフィス、店舗、ホテル、小学校、バスターミナルなど、地上7階建ての「八重洲セントラルスクエア」には店舗、子育て支援施設、住宅などが整備される。
いずれもオフィスやホテル、住宅などが主役であるものの、低層階には商業施設を備え、ビル入居者だけでなく来街者や訪日外国人なども対象にする。すでに東京駅周辺に商業施設が数多くあるだけに、競争が激しさを増すのは必至だ。
東京ミッドタウン八重洲の商業ゾーンは地下1~地上3階までの4フロアが充てられ、店舗面積は5500㎡、店舗数は57店舗。「ジャパン・プレゼンテーション・フィールド~日本の夢が集う街。世界の夢に育つ街~」をコンセプトに、就業者、来街者、国内外観光客などを対象とする。
昨年9月に先行オープンした地下1階はバスターミナルの利用者も対象に入れ、飲食店や物販店を集積。地上1階は現代の日本発ラグジュアリーを提案するフロア、同2階は新しいメイド・イン・ジャパンを提案するフロアとなり、目玉として登場する「ヤエスパブリック」には新しい立ち飲みスポットや裏路地のようなエリア、物販・休憩できるエリアが設けられ、誰でも思い思いに楽しめるスポットになるという。同3階は幅広いジャンルのレストランを集積したフロアだ。
1月13日にグランドオープンしたYANMAR TOKYOも複合ビルの地下1階~地上2階の3フロアに「ヤンマー米ギャラリー」や米と楽しむイタリアンレストラン、地域の名産品を特集する「トチドチ」、イベントスペースなどを集積する。
東京駅周辺の再開発で注目されるのが、東京駅日本橋口前で開発が進む三菱地所の「TOKYO TORCH」。完成まで10年がかりとなる同事業では、約3万1400平米の敷地に超高層ビルの「常盤橋タワー」(A棟)と「Torch Tower」(B棟)、低層棟の「変電所棟」(C棟)と「下水道局棟」(D棟)の4棟が建てられる。すでに常盤橋タワー(21年6月竣工)と下水道局棟の「銭瓶町ビルディング」(22年3月竣工)が完成しており、残るTorch Towerと変電所棟(Ⅱ期)が27年度に完成する。
低層階にショップ&レストランが入る大型オフィスビルの常盤橋タワーは40階建て、高さは212mだが、Torch Towerは地上62階で高さは約390m、日本一の高さに躍り出る。延床面積はTokyo Torchだけで約54万4000㎡、4棟合わせると約74万㎡となる。
Tokyo Torchは典型的な超高層大規模複合ビルで、ショップ&レストラン、ホール、オフィス、スーパーラグジュアリーホテル、展望施設などで構成される。地下1階~地上6階が商業ゾーンとなり、現代の芝居小屋をイメージした約2000席の大規模ホールも開設。Torch Towerと常盤橋タワーの間には7000㎡の大規模広場を設ける。すでにTorch Towerの建設場所に残る東京ビルディングの解体が始まった(朝日生命大手町ビルも解体)。
TOKYO TORCHの常盤橋タワーの隣の街区で開発が計画されるのが「八重洲一丁目北地区市街地再開発事業」。日本橋川に面して開発される同事業では、日本橋川沿いのゲートにふさわしい都市景観の整備を進める。「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」や「日本橋一丁目東地区第一種市街地再開発事業」も日本橋川沿いの再開発となる。
日本橋一丁目中地区は中央通りと昭和通りに挟まれ、COREDO日本橋の裏から、日本橋川沿いの野村證券本社ビルまでの約3.0haの区域面積に高さ約284mの超高層棟を含む3棟が建設される。同街区の中にあったCOREDO日本橋ANNEX、たいめいけん、日本橋西川ビル、日本橋御幸ビル、江戸橋ビルなどはすでに解体され、新築工事が始まった。街の象徴である名橋「日本橋」に隣接する事業として、日本橋川を臨むテラスデッキ、賑わいを創出する広場を複数設け、都心にいながら空と水と緑に囲まれた豊かで潤いある環境をつくり上げる。
日本橋一丁目東地区は、日本橋一丁目中地区と昭和通りを挟んで隣の街区に開発される事業で、高さが200mを超える2棟の超高層棟を含めて5棟を建設。日本橋川沿いには水辺の回遊性や歩行者ネットワークを強化するオープンスペースの整備が行われる模様だ。日本橋川沿いの再開発は、計画に挙がる「日本橋一丁目1・2番地区」と「日本橋室町一丁目地区」を合わせて5つに上る。5地区の再開発と首都高速道路の地下化実現後は、川幅を含めて幅が約100m、長さが約1200mに及ぶ広大な親水空間が誕生する。
(塚井 明彦)