「百貨店化」と〝進・百貨店化〟
あけましておめでとうございます。読者の皆様に少しでもお役に立てる情報を発信して参りますので、引き続き、ご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
回復途上も、着実な軌道描く
24日のクリスマスイブ。土曜日でもあり、多くの百貨店の「デパ地下」はさぞかし賑わったことであろう。一部の都内百貨店に足を運んでみたが、午後の時間帯だったこともあり、ケーキやチキンを扱うショップはどこも長蛇の列。それこそコロナ禍前の百貨店に「完全復活」したかのような混雑ぶりである。
2022年の全国百貨店売上高(日本百貨店協会調査)は、1月から11月まで累計前年比で14.5%増。コロナ禍前の19年比では12.2%減となり、まだ「9掛け」に達していない状況だ。ただ、21年の19年比(23.5%減)と比べると10ポイント超も改善しており、着実な回復軌道を描いている。
大手百貨店の23年2・3月期の第2四半期(上期)業績では、百貨店事業が期初計画を上回る売上高を計上し、構造改革によるコスト削減が進んだことで営業損益は前期の赤字から黒字に「V字回復」した。通期の業績予想を上方修正し、コロナ禍前の水準への業績回復が射程圏に入ってきている。
消費マインドの回復が追い風だろうが、各社コロナ禍で修正した中長期経営計画に基づき、「百貨店事業再生」レベルで取り組んできた構造改革と重点戦略が業績に結実してきた。
もちろん、何よりも現場(店頭)での様々な百貨店ならではの価値提供が支持されてきた証しだ。22年は回復途上とはいえ、百貨店の存在意義を再確認できた年でもあろう。
「百貨店化」する大型商業施設
百貨店業界の直近で最も話題に上ったのが、セブン&アイ・ホールディングスによる米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループへのそごう・西武の売却。フォートレスはヨドバシホールディングスと連携して、そごう・西武の再建に取り組むという。ヨドバシは「そごう・西武の百貨店と連携した新たな店舗の出店などを通じてお客様の期待に応える」とコメントを発表した。ヨドバシが西武池袋本店やそごう千葉店への出店を検討しているニュースも流れている。
日経MJは1面(11月25日付)で報じた。そこには「ヨドバシだって百貨店」という見出しで、「ヨドバシカメラ マルチメディアのAkibaや梅田の品揃えは百貨店に負けていない。強いて言えば生鮮食品がないくらいだ」というヨドバシの幹部の談話も掲載されていた。
この両大型店はファッション、生活雑貨、食品、書籍など多彩な専門店を集積しており、いわば「百貨」を揃えている。さらにヨドバシは自社ECサイト「ヨドバシ・ドット・コム」で800万点超の商品を取り扱っている。もちろん戦う土壌が異なるとはいえ、商品数では都心の大型百貨店でさえ足元に及ばない。家電量販店のヤマダやビックカメラなども品揃えの幅を広げ、「百貨店化」を進めているという。
また、都心の大型複合商業施設や駅ビル、大型ショッピングセンターでは、百貨店で展開されているブランドショップが並んでいる。その逆で、これらで展開している専門店が百貨店に出店するケースも増えている。モノ提案だけでなく、地域の行政や企業と協業したイベント、期間限定のポップアップショップ展開、あるいは時間消費ニーズに対応したコト提案や環境整備など、「百貨店コンテンツ」も充実してきている。
ここ数年来、SC(大型商業施設)の「百貨店化」と、百貨店の「SC化」が並走しながら熾烈化するマーケットシェア争いの構図が顕在化してきた。
百貨店再生とノウハウの外販
一方、百貨店業界は各社各様の構造改革によって、次世代型百貨店の創造並びに百貨店を中核とした新しいグループ像の構築が、業績回復とともに前年にも増して進展してきた。百貨店の強みである外商力に磨きがかかり、これまでの百貨店の枠や常識にとらわれない新しい体験価値の提供も活発化した。
また、百貨店事業で培ってきたノウハウやコンテンツを外販する取り組みも広がってきた。阪急阪神百貨店はオンライン決済システム「リモオーダー」をグループ以外の百貨店や商業施設に販売する準備を進めており、近鉄百貨店は大阪府内の農地を借りて自社栽培したイチゴを23年冬頃に販売する計画で、農業ビジネスに参入する。両社に限らず、将来を見据えた様々な「種まき」も相次いだ。
もちろん、大小の改装を基軸にしたリアル店舗の磨き上げも活発化してきた。新しいフロア構成やゾーニング、あるいはライフスタイル型やミックス型など編集売場が続々と登場。過ごしやすく、買い物しやすい環境やサービスの改善も進んできた。
対象顧客の関心事に応じて百貨店ならではの体験価値の提供を実現していくために、マーケティング、品揃え、売り方、販促など、デジタルを活用した新たな手法でトライアルを重ねている百貨店も少なくない。
「百貨店再生」を目指した店舗運営モデル改革の進展とともに、各社各様に目指す「進化した百貨店のあるべき姿」への道筋が見え始めてきている。消費をリードしてきた「団塊の世代」が全て75歳以上の後期高齢者になる25年が迫ってきている。百貨店業界は「新しい百貨店」への進化の過渡期にあり、今年は引き続き改革のアクセルを踏み込み、環境変化に適応していく踏ん張りどころだ。
(ストアーズ社 ストアーズレポート 編集長 羽根浩之)