2023年 百貨店首脳 年頭所感・肆
<掲載企業>
天満屋 社長 斎藤 和好
昨年は、長引くコロナ禍でお客様のライフスタイルが変化する中、あらためて当社店舗やグループとしてお客様のお役に立てることは何かを見つめ直し、前向きに取り組んだ1年となりました。百貨店では岡山本店の3年ぶりの大改装をはじめ、ギフトコンサルタントなどの販売技術向上のための資格取得の促進など、単なる買い物をする場所としてではない、リアル店舗の付加価値を高めることに注力しました。そして少しずつ行動制限が解除され、夏休みの水族園などの百貨店らしい催事やイベントを再開できたことで、お客様に来店いただけるありがたさを実感することができました。
世界的にコロナ禍の影響で生活スタイルの変化が加速し、どんな商品でもネットショッピングが当たり前になりつつある中で、リアル店舗での対面販売にしかできない買い物体験には、より付加価値が求められるようになります。本年当社各店では、お客様のニーズやライフスタイルに合わせた店舗への投資を続けるだけでなく、来店下さるお客様の満足度を高めるため、お客様に寄り添った接客、提案をするのはもちろんのこと、DXの推進によって、新しいライフスタイルの創造や、これまでにない楽しい買い物体験を届けられるようにしたいと考えています。
また、地方百貨店の在り方を考え直し、従来の都市型百貨店のビジネスモデルに追随するのではなく、我々の強みである地域とのつながりを生かし、各地に埋もれている県産品のブランド化、行政各団体との提携など、地域のお客様と共に地域そのものの価値を向上させ、新しい地方百貨店像を築き上げられるよう、取り組んで参ります。
さらに、社会的に関心が高いSDGsの取り組みについても強化し、地域のサステナブルな商品を軸にした催事の開催や、環境負荷を軽減する取り組み、従業員が働きやすい環境の整備など、社会課題の解決に積極的に取り組みます。
合わせて、これまでのグループ企業では解決できなかった、地域のお客様の課題を解決するため、新規事業にもチャレンジします。具体的には、2022年に創部30周年を迎えた女子陸上競技部のノウハウを生かしたランニング事業、21年度にスタートした社内新規事業提案制度から選ばれた旅行事業・教育事業を実証中です。
これからも当社店舗とグループ32社の多様性と規模を生かし、地域との連携を深め、地域貢献を果たしていきたいと考えております。
京阪百貨店 社長 辻 良介
昨年も一昨年同様、コロナウイルスの影響を強く受けた年でした。その上、ウクライナ問題により食料やエネルギーの供給不安が生じ、仕入値高騰に電気代上昇と苦難の連続でした。春先は緩やかな回復を期待していただけに、出鼻をくじかれたまま年を終えました。
売上げを時系列で追いますと、4~5月はコロナ患者数も少なく売上げも順調で、無難な滑り出しでした。6月に入りコロナ患者が増加すると売上げも減少に転じ、さらにウクライナ問題が深刻化。ロシア産、北欧産の商品や小麦を原材料にしている加工品全般で深刻な供給不足、原価高騰に陥りました。食品での集客が得意な当社にとっては痛手で、上半期は対策が追い付かない状況でした。
10月以降はコロナ禍で短縮していた営業時間を再延長。従業員の特別休日も日数を減らし、全社で売上げを取っていく方向へシフトし、成果も随所に出ています。引き続き、売上げの挽回を図っていきます。
売場の改装ですが、守口店では新しく直営売場「5.0°F(ゴエフ)」を立ち上げました。冷凍食品を軸に食器や家電を融合したライフスタイルショップで、最新の冷凍技術を切り口に“冷凍なのにおいしい”、“添加物を極力不使用”を打ち出し、冷凍食品が再評価される昨今を先取りしました。京橋店では「ウサギオンラインストア」をFCで開始し順調です。勢いのあるアパレルブランドの商品と百貨店ならではの販売力が功を奏しています。
さて本年ですが、「直営強化」、「外商強化」、「新規事業への挑戦」を掲げ、攻勢を掛けます。
直営強化は、他社との差別化という意味においても、粗利の積み増しという意味でも重要な施策です。我々は商売人であるという原点に立ち返り、良いと思う商品を自らのリスクで仕入れ売り切る、そういった姿勢を従業員と共有しながら会社を成長させたいと常日頃考えています。
次に外商強化です。これまで呉服、宝飾、美術の3アイテムに偏っていた商売を見直します。先般、新規商材を探す組織を強化し、徐々にですが新しい商材が集まり出しています。一段と注力し商売の柱の1つに育てます。さらにラグジュアリーブランドとの提携を開始。昨秋店頭催事を実施した際は、予想を上回る報告が届き、手応えがありました。そのほか、海外の富裕層向けに当社グループのネットワークを生かした商品提案を検討中です。
新規事業では、ECモール「よろずを継ぐもの」が昨春オープン。自社バイヤーが探してきた逸品を、生産者の思いや全国各地の風土と共に紹介しており、買い物だけでなく読み物としても充実したサイトです。2年目の飛躍に期待しています。さらに他社との協業にもチャレンジしていきます。これまで無印良品、好日山荘、マッシュホールディングスと協業してきましたが、さらなる拡大を目指します。
コロナ第8波など先行き不安もありますが、コロナとどう共存していくかが問われる時代です。様々な知恵と工夫で乗り切っていきます。
鶴屋百貨店 社長 福岡 哲生
昨年、当社は創業70周年の節目に当たり「発想力・創造力・実行力」を営業指針に掲げ、様々な周年企画に取り組んで参りました。
1、2月は新型コロナウイルス感染症の第6波の影響で厳しい推移となりましたが、3月にまん延防止等重点措置が解除され、「くまもと花とみどりの博覧会」などの街中のイベントが開催されると、中心市街地への人流が回復。消費活動も活発化して参りました。
そのような中で開催した数々の周年記念催事や商品企画は、多くのお客様から好評をいただきました。特にゴディバと熊本の菓子メーカーのお菓子の香梅がコラボしたオリジナル商品「武者がえしチョコレート」や「くまもとの特産品まつり」、当社では44年ぶりとなる熊本出身の日本画家の堅山南風の大回顧展などが大成功を収め、地元熊本の可能性を実感しました。
このような数々の周年企画を通して、新たなアイデアを行動に移し最後までやり遂げる「発想力 ・創造力・実行力」の大切さを再認識しました。このような成功体験は社員のモチベーションアップにもつながったと思います。
リニューアルでは、別館に大型の生活雑貨店とアウトドア用品の専門店の2つを導入し、新たな客層の取り込みを図るとともに、中心市街地でのワンストップショッピングを目指すリモデルを推し進めて参りました。
また、当社では創業70周年を迎えた2022年をSDGs元年とし、2030年のあるべき姿を目標として具体的な行動計画を策定しました。今後も全社員一丸となってSDGsに取り組んで参ります。
今年は、台湾半導体大手企業TSMCの熊本工場が稼働します。3月には熊本空港の新旅客ターミナルがオープンし、海外からの動きも活発になります。また、当社の隣に星野リゾートの新たなホテルとパルコの運営する商業施設もオープンします。
そのような中で、当社はインバウンド需要の回復、拡大に向け、現在2人在席している台湾出身の社員をさらに増やすほか、TSMC専門のチームを設け、お客様の期待に応えられるような企画の実施や品揃えを目指し、新規顧客の獲得へとつなげて参ります。
今年の営業指針は「深化・新化・真価」と定めました。百貨店の存在価値が問われていることから、顧客満足度を高める「深化」、新たな企画を生み出す「新化」、そして百貨店の原点に帰る「真価」という意味合いです。2つの「深化」と「新化」を進め、百貨店本来の価値を取り戻し、新しい世代の新しい発想を取り入れながら、新たなビジネスチャンスに挑戦して参ります。
山形屋 社長 岩元 修士
昨年1年間もこれまでのコロナ禍同様、私達はこの世界的な災禍に対して地域のお客様に豊かな心と生活をお届けするという百貨店の使命と役割を、高いレベルで適切に対応できたと考えております。
従業員それぞれが、それぞれの局面においてしっかりとコロナに対処し、特にコロナが落ち着いているときは計画通りの結果を出すまでに、私共は力を回復させていると言えましょう。
しかしながら、私共が目標としているのは、その1つ上のレベルであります。コロナの波がどれほど高かろうとも、コロナの波が何度押し寄せようとも、それらを打ち返す強靭な力を獲得することが私共の目標であります。コロナに屈しない営業力、コロナの強大な波にも乗り切れる柔軟な経費構造、さらなる変革が本年は求められております。
本年の私どものテーマは「へーんしん!」であります。一人一人がこれまでの自分をさらに「へんしん」させ、そして組織も「へんしん」させ、これまで以上の成果を出す年であり、さらに自分達の働いている価値を最大化するためにも自らも取り組み方も「へんしん」させていこう、という思いを込めたテーマであります。変わることを恐れず、一歩前に進むべくチェンジしチャレンジする年として参ります。
変化の中でも商売の基本は決して変わりません。私達のお客様は誰で、お客様の求めているものは何で、我々はどのように提供することができるのか? 自分自身の言葉で紡ぎ出し、リアルとデジタルそれぞれの力を最大限に活用しながら商いの中身の精度をより高め、「へんしん」して参りたいと考えております。
コロナ後の新しい時代を先導する「百+1貨店」を自らの手でこの地にデザインすべく、全従業員と一緒になって明るく楽しく前進して参ります。
伊予鉄高島屋 社長 林 巧
日本社会は新型コロナウイルス感染の拡大局面を迎えたものの、行動制限の緩和によって活動再開の動きが加速化しており、経済全体においても緩やかながら回復傾向が表れています。
一方で、緊迫する国際情勢や金融市場の変動、原材料費の高騰など様々な不安定要素が絡み合っており、今後の経済、消費へのマイナス影響が懸念されます。
2022年は伊予鉄高島屋誕生20周年として魅力ある商品、企画を提案する記念事業を展開し、収益拡大と企業価値の向上に取り組みました。顧客の価値観や消費行動はコロナ禍前には戻らないという認識の下、新たな顧客ニーズに対応した大型テナント導入やリニューアルに合わせた品揃えの見直しと買い回り性を高める売場再編に着手致しました。
また、新たな販売チャネルとして独自のオンラインサイトを立ち上げるなど、社会、経済環境の様々な変化に対応すべく、柔軟な発想で営業力の強化に努めました。
一方、強固な企業体質の強化を目指し、費用対効果を意識した経費の見直しや業務のシステム化に取り組み、営業から後方体制まで聖域なく構造改革を推進したことで、一定の成果が得られたと認識しています。
迎える23年においても引き続き営業力強化を目指し、リニューアルによる上質な百貨店MDの強化、フロアをまたいだ品揃えやゾーンの再編を進めるとともに、話題性のあるポップアップや新たなイベントを開催するなど、リアル店舗の魅力向上に取り組んで参ります。
オンライン販売については緒に就いたばかりであり、百貨店ならではのこだわりの商品や強みであるギフト商材の幅を広げながら、オンライン、本店、支店、外商の相乗効果を高める販売スキームの構築に努めて参ります。
また、長引くコロナ禍において顧客政策の重要性を再認識しており、目的や顧客ターゲットを明確に意識した情報発信を行い、固定化、深耕化に取り組みます。そして、本店が立地する松山市駅前の整備事業計画に積極参画し、地域の賑わいを創出する役割を担っていくことで、新たな顧客との接点づくりにつなげるとともに、デジタル媒体などを効果的に活用し次世代顧客の獲得にもチャレンジして参ります。
本年度も、資源エネルギー価格や原材料費などさらなる経費上昇が予測される中、収益性を重視した構造改革を一層進め、外部環境のいかなる変化にも耐え得る経営基盤の確立を目指して参ります。
近鉄百貨店 社長 秋田拓士
今世界は、コロナのパンデミックに加え、不安定な国際情勢が続いたことで、先が見通しにくい状況が続いています。グローバル経済下での自国主義の台頭、国内では急激な円相場の変動や物価高騰など、社会経済全体が大きくパラダイムシフトしようとしています。
このような不確実性の高い状況下、人々の暮らしに対する意識も大きく変化しています。我々は改めて、一人一人のお客様のニーズしっかりと見つめ、その変化に寄り添い、暮らしの新たな価値を創造していかなくてはなりません。
長期的な視点に立ち、SDGsの共通認識のもと、世界や日本が未来に向かって持続的に発展することに貢献することが我々の使命であり、ESG経営の実践でもあります。
当社はこれまで、長きに亘り小売業を原点に、地域社会の発展に貢献してきました。今、この世界的な大きなパラダイムシフトの中で当社は、培ってきた地域との絆をさらに強め、小売業から脱却し、お客様へ地域・地方の新たな価値を提供する事業者への挑戦を始めます。
「日本創生」を主眼として、地方の過疎化や環境保全などの社会課題に向き合い、新たな価値を地方と共に創造し、発信する「地方創生活動」をスタートさせ、まずは2つの施策に取り組みます。
1つ目は、関西のみならず、全国各地方の魅力発掘・発信に取り組みます。既に「北海道どさんこプラザ」、地方百貨店10社を結ぶ「全国ご当地おすすめ名産品」サイトを運営していますが、これまで培った地域共創のノウハウをベースに、当社の販売力や価値共創力を必要とする全国各地と連携して参ります。具体的には、各地方の素晴らしい歴史、文化、暮らしの価値などをクローズアップし、各地の行政や関係者と共創しながらアンテナショップを運営することや、地方振興につながるPRに寄与するなど、当社の幅広いお客様が地方の価値を再発見する「地方創生事業」へと発展させていきます。
2つ目は、農業ビジネスへの参入です。自ら生産者となることと併せ、地域農産物の生産から販売までのネットワークを構築し、地域との結びつきをより深め、就農人口減少などの課題解決も目指します。
生産事業については、需要も高く高付加価商品でありながら生産者が減少している「苺」の生産に、まずは着手します。DXや先端技術も積極的に導入し、順次、生産量や品目も拡大していく予定です。
販売事業については、奈良県を中心に生産者500件をネットワークし、都心部へ直送販売する「ハルチカマルシェ」を展開しています。旬の朝採れ野菜をお届けすることや、グループ協業による鉄道輸送も環境に優しい事業として、お客様にご好評を頂いております。
今後、我々の強みである店舗、外商やECサイトなど販売チャネルをさらに活用し、拡大していきます。今年は、従来の百貨店の枠から飛び出し、新たな事業へ積極的に挑戦していく重要な1年となります。当社が、将来に亘り社会に貢献し続けるためには、これまでの考え方にこだわることなく、常に創造と変革をしていかなくてはなりません。
商品やサービス、事業の価値を生み出すのは、一人一人の創造力です。困難な状況にあっても、臆することなくチャレンジを続け、我々にしかできない新たな百”価”店を共に創って参りましょう。
日本百貨店協会 会長 村田 善郎
昨年は百貨店業界にとって、コロナ禍で傷んだ業績の回復に向け、まずは第一歩を踏み出した1年でありました。
春先までには、まん延防止等重点措置が全国的に解除され、以降、3年ぶりに行動制限のないゴールデンウイークを迎えるなど、社会経済活動の正常化に伴って、会員各社の営業展開も活性化していきました。
秋口からは第8波の感染拡大に入りましたが、コロナとの共存という意識変化が進むことで、これまで内向きだった消費者心理はポジティブに外へ向かいつつあり、最大の商機である年末商戦も例年の賑わいを取り戻しています。
少し具体的な事象を申しますと、全国旅行支援の後押しもあって、国内の旅行需要は大きく盛り上がり、関連商材が良く動きましたし、家族友人の集まる機会が増加したことで、クリスマスケーキやおせちが堅調に推移しました。
また、円安による輸入価格の上昇という課題はある一方、為替効果と昨年10月の水際緩和の好影響から、コロナ以降しばらく消失していたインバウンド需要につきましても、中国を除いて復調、拡大局面に転換しております。
このような増勢基調の下で新春を迎えられたことは誠に喜ばしく、この間、百貨店業界の営業体制維持に対し、多大なる支援、協力をいただいたコラボレーション会員はじめ関係先の皆様には、あらためて感謝申し上げる次第であります。
一方、苦境を越えつつあるとはいえ、お客様に安全安心な買い物環境を提供していくためには、引き続き、コロナへの警戒を解くことはできませんので、会員店各社の理解を得ながら、業界を挙げて感染防止対策に努めて参りたいと思います。
さて本年は、各社におかれまして、いよいよ百貨店事業の本格的な再生、再構築に取り組む年になると思います。さらに加えて現役世代の百貨店経営者には、次世代に向けた成長の基盤づくりが求められて参ります。
魅力ある業態の価値向上を果たしていく上で、視点は様々ありますが、「企業は人なり」の格言を持ち出すまでもなく、いまあらためて「人材の確保と育成」、これが何より重要な経営課題ではないかと考えます。
当協会は昨年、取引先業界からの指摘を踏まえ、「百貨店店頭における労働環境改善指針」を策定致しました。働く場の魅力向上は、人材確保、育成に直結する取引先との共通課題ですので、この方向で各社の取り組みが進むことを期待しております。
また、業界発展のためには、競争領域で健全に切磋琢磨するとともに、非競争領域においては協働研究や共通基盤整備が不可欠な要件となります。
一昨年の経済産業省・百貨店研究会を起点に、その後、当局の指導を得てスタートした各種分科会(情報共有・ロス削減・人・地域・物流の5プロジェクト)での課題解決は、取引先をはじめ消費者や地域社会においても有益であり、間違いなく百貨店進化の方向を示すものですので、本年はこの議論を一層加速させて参りたいと思います。
以上、協会長としての抱負を申しましたが、会員店各社並びにコラボレーション会員各社の経営トップの皆様には、次世代の成長に向けた基盤づくりという中長期的な観点から、是非とも理解と協力をお願い申し上げます。
人口減少と超高齢化が急速に進む社会環境の中で、わが国の百貨店は、世界に比類のない固有の業態価値を持って存在し、これからも進化を重ねながら、豊かな消費生活の実現に、一定の役割を担っていくものと信じております。
今年の干支「卯」は、跳躍・飛躍・向上に由来するという縁起の良い年。お客様の期待に応え、感動を与えられる産業であり続けるべく、コロナ禍を克服し、新たな成長を期して、次代を切り拓いて参りましょう。