2023年 百貨店首脳 年頭所感・参
<掲載企業>
大丸松坂屋百貨店 社長 澤田 太郎
新型コロナウイルス感染症の収束は依然として見通せないものの、社会経済活動の本格再開に向けて、国も企業も個人も大きく舵を切る――。そんな力強さを感じながらの年明けとなりました。
当社は、昨年をギア・チェンジの年と位置付けて「守り」から「攻め」へとマインドセットを変え、具体的な成果を追求して参りました。時間と場所の制約を克服するために、お客様とのタッチポイントの多様化を加速させる一方で、好調カテゴリーの強化、店舗の魅力化にも注力致しました。それらが実を結び始め、今年は完全復活(=コロナ前の売上げ・利益水準に復元)とその先の再成長を見据え、もう一段ギアを上げて突き進みたいと意気込んでおります。
百貨店のビジネスモデル変革に向け、当社が最優先課題として取り組んでいるのは「アプリを基軸にしたタッチポイントのデジタル化」です。アプリの有効会員数の拡大に伴い、得られるデータの質が格段に高まり、その分析によって顧客理解が深化しました。潜在需要の掘り起こしにつながる事例が数多くみられるようになり、大きな手応えを感じております。
好調な高額品消費に対しては、積極的な投資によりラグジュアリー、高級時計、アートの拡充を図りました。松坂屋名古屋店の時計売場面積を2倍に拡大したほか、基幹店の売場増強や新たな催事の開催、アートの魅力を発信するウェブメディア「ARToVILLA(アートヴィラ)」の立ち上げ、それらと並行して外商の強化を進め、着実に成果を上げております。
店舗の魅力化につきましては、昨年リニューアルが完成した高知大丸をはじめとする地方店、郊外店で、集客力のある大型専門店や地域のインフラとなる施設導入を進めております。地域密着を深耕し、地元のお客様だけでなく、旅行客の心を捉えるローカリティを打ち出すことで商圏を広げていきたいと考えております。
また松坂屋静岡店にアクアリウム、大丸梅田店に「Nintendo OSAKA」や「CAPCOM STORE&CAFE UMEDA」など、エンターテインメント型のテナントの導入も進めております。今後も新たなコンテンツを積極的に取り入れ、リアル店舗ならではの魅力を高めて参ります。
当社は、創業以来提供してきた本質的な価値は「人」であり、その力を最大限に活用することこそが本分と捉えております。その中で、当社の付加価値を高めてくれるスペシャリストたちが育っています。
例えば、北海道物産展の専任バイヤーや九州のローカルコンテンツを紹介する博多大丸の九州探検隊は、既存のコンテンツの発掘だけでなく、生産者と加工業者を組み合わせるキュレーターの役割も担い、地域のバリューアップに貢献しています。また、15万人以上のフォロワーを持つ社員インフルエンサーは、情報発信だけにとどまらず、取引先とのタイアップ商品を発売するまでになりました。人の力が強化、進化していることを大変頼もしく思っております。
今後も社員が持つ力、やる気を引き出す企業風土を醸成し、お客様に価値のあるコンテンツを提供して参ります。
また、足元だけではなく、将来に向けて避けて通れない課題にも向き合っていく覚悟です。
最重要マテリアリティと位置付けている「脱炭素社会の実現」については、取引先とScope3削減に向けた対話を重ね、協働の道筋を追求して参ります。百貨店アパレルの在り方についても、先送りせずに真剣に考えていく所存です。
本年も地球や環境への負荷が少ない商品、サービスを提案する活動「Think GREEN」と、地域との共生を目指した活動「Think LOCAL」を中心に、成果のみえるサステナビリティ経営を推進致します。
東急百貨店 社長 大石 次則
昨年は年明けの新型コロナウイルス感染症の急激な拡大や、不安定な世界情勢とそれに起因する物価高や光熱費の高騰など、事業環境に厳しさが増す一方で、「行動制限なし」による外出機会の増加やラグジュアリーカテゴリーにおける消費の活況、インバウンドの再開などの追い風も受ける1年でした。
そのような状況の中、昨年は「事業構造の転換」、「新たな価値の提供」を骨子とする中期3カ年経営計画の2年目として、ビジョン「いつでも、どこでも。一人一人の上質な暮らしのパートナー」の具現化に向けて着実に歩みを進めて参りました。
店舗戦略として、変化を受けて多様化するお客様の価値観に対応し、吉祥寺店は“日常のアップデート”、たまプラーザ店は“ファミリーで過ごす場”をコンセプトに、新たなMD(ブランド)を導入し、構造改革リモデルを実施致しました。
また、タイムレス(いつでも)、シームレス(どこでも)に利用いただけるよう、デジタル戦略として、ネットショッピングの利便性向上と選択肢の拡大を目的とした取引先との連携スキームの構築や、OMOなどデジタルを活用した買い物方法の提供に取り組んでおります。
沿線、地域のお客様とのつながり方を多様化し、新規顧客の獲得と既存顧客の維持、拡大を図る顧客戦略も重要な取り組みとして継続して推進致します。
本年は最終年度として、中期3カ年経営計画を完成させる一年となります。
1月末で渋谷の本店が営業終了致しますが、永らく愛顧いただいたお客様との関係維持および新規顧客の獲得を目指し、渋谷で新たな取り組みを行います。
具体的には「アップグレード」をテーマとした渋谷ヒカリエ ShinQsの改装に着手致します。時計・宝飾などのラグジュアリーなカテゴリーの導入、外商顧客専用サロンの新設、ギフトに関するサービス開始など、リアル店舗の価値のアップグレードを図ります。さらに渋谷における強みであるフード事業とコスメティックフロアの一層の拡充にも取り組みます。
店舗戦略として、吉祥寺店とたまプラーザ店で実施した構造改革リモデルを札幌店でも実施致します。従来の百貨店のMDにとどまらない新たなブランドの導入により、地域のお客様のライフスタイルやニーズに応えます。
変化の激しい事業環境の中で上記の計画を推進するためには、「挑戦を楽しむ」ことができる人材の創出と企業風土の改革も進めていかなければなりません。そのためには挑戦する人材を評価できる考課制度や成長を促す育成プログラムの見直しを進め、従業員の挑戦を後押しする人材戦略を実行致します。
本年は「いつでも、どこでも。一人ひとりの上質な暮らしのパートナー」となるための取り組みを完了させ、地域・沿線のお客様の豊かで上質な暮らしづくりにより一層貢献できるよう努めて参ります。
東武百貨店 社長 國津 則彦
東武百貨店は2022年5月に池袋本店が開店60周年を、10月には船橋店が45周年を迎えました。これはひとえにお客様や取引先の愛顧協力の賜物であり、心より感謝申し上げます。
昨年は政府の方針が経済活性化へと大きく舵を切りました。臨時休業や営業時間短縮など五里霧中だった過去2年と比べると、社員が一丸となって売上げ回復や周年事業の成功という目標に向かった1年だったと感じています。
人々の行動も活発になり、年末には国民がサッカーワールドカップの明るい話題に一体となりました。しかしその反面で世界情勢の様々な影響は今後も予断を許さない状況であり、百貨店は益々力量を試される時代を迎えたと言えるでしょう。
その中で、当社の周年事業は地域沿線顧客に支持される真のマイストアとはどうあるべきかに向き合う1年となり、「お客様のご要望をカタチにします」を合言葉に、お客様アンケートを基に新たな改善やサービス・品揃えに取り組みました。
池袋本店ではお客様用施設の美化や「次世代」、「3世帯」をキーワードに子供を対象にした施策を行いました。また若手社員を中心に企画した新規催事「47都道府県にっぽんのグルメショー」、「昭和レトロな世界展」や、食品・レストランフロアでの地域の菓子メーカーとのコラボなどが注目を集め、若い世代のお客様の来店に成果を上げました。
船橋店では『地域密着日本一』を目標に掲げ、より幅広い年齢層のお客様に来店いただけるような滞在型のフロアリニューアルを実施し、専門店の導入や館内外の美化にも力を入れました。
当社は東武グループの中期経営方針の下、地域と共に持続的に発展する企業価値の向上を目指しております。東武グループ共通ポイント「トブポ」のデータの有効活用による地域沿線利用者の利便性向上や、豊島区制90周年事業との連携、船橋市との包括連携協定の締結など、より地域との結び付きを強めています。
一方で、オンラインが定着し既存のお客様が完全には戻らないと想定される中、商圏を広げ次世代の新規顧客、ファミリーなどに向けた施策により注力して参ります。
両店舗を取り巻く環境は刻々と変わっています。期待が高まる池袋駅西口再開発については、国家戦略特別区域として内閣府より令和5年度中の認定が発表され、東武鉄道が事業主体の一員に決定致しました。当社はグループ会社として東武鉄道と密に打ち合わせを重ね、将来の百貨店像を模索しています。
現在は再開発の際に主役となる20~30代の若手、ファミリー層の社員達からライフスタイルやアイデアを聞き、議論しています。西口再開発は駅だけではなく駅前広場の再編、文化芸術拠点としての施設整備を行う大きなプロジェクトです。当社がその駅中核の商業施設として必要とされるよう、従業員には視野広く勉強し大きく夢を描くように言っています。
船橋市は人口増加が続いていますが、JR 南船橋駅周辺の大規模開発や東葉高速鉄道の新駅開発が予定されており、地域内競争も活発になるのは必至です。当社も遅れることなく新しい施策を打って参ります。
各店の周年は、ゴールではなく通過点に過ぎません。周年事業を経て学んだ事を生かし、お客様や取引先の皆様に「東武百貨店は進化した」と感じていただけるよう挑戦し続けることが大切だと思っています。
東武宇都宮百貨店 社長 守 徹
2022年は「新型コロナウイルス」の感染拡大の波は何回か発生したものの、行動制限がなくなり、ワクチン接種により重症化リスクも軽減され、新型コロナウイルスと共存共栄できる「ウィズコロナ」時代が、ようやく到来した感のある年となりました。ゴールデンウイークや秋の紅葉シーズンには、全国旅行支援、県民割などの販促策も功を奏し、国内旅行が盛り上がり、その準備で久しぶりに衣料品や身の回り品が好調な売上げとなりました。
しかしながら、新たにロシアによるウクライナ侵攻に端を発した世界情勢不安、物資の不足や物流停止によるインフレ、物価高、エネルギー関連費用の高騰など、日本経済社会に与える影響は大きく、生活者にとっては家計を圧迫する厳しい状況が生まれてきました。
当社各店でも昨年11月中旬から、入店者数の減少傾向が続き、特に食品売場の売上げが低迷し、生活者の生活防衛、節約ムードが顕著に表われてきています。このような厳しい状況でスタートした23年ですが、私達の役割は2つあると思っています。
1つ目は、地域の皆様のニーズに対応し、百貨店ならではの品揃えや情報発信に努めることです。品質にこだわり、価格よりも価値の高い品物を提供し、話題の商品をいち早く展開する。コロナ禍で新しいニーズや価値観が生まれています。役に立つ情報、サービスを提供し、常に新鮮な品揃えを目指していきたいと思います。
2つ目は、お客様一人一人に寄り添い、信頼と感動を提供し、お客様とワントゥワンの関係性を深めていくことです。数ある店の中から当店を選んでもらうようになるには、今、目の前にいるお客様にきちんと向き合い、お客様の期待以上の接客や対応を心掛けていくことが大切であり、これを積み上げていくことがお客様に信頼と感動を提供し、お客様との関係性を深めることになります。
少子高齢化の時代の中で、地方の百貨店にとって大切なのは「地域のお客様の豊かな生活向上に貢献すること」で間違いありません。わざわざ当店を選んで来店いただいたお客様に、その期待に応えるべく、真心のこもった接客で迎え、楽しい買い物の一時を過ごしていただきたいと思っています。
23年が今後の明るい未来の再スタートの一年となりますことを心より祈っています。
名鉄百貨店 社長 石川 仁志
昨年は、新型コロナウイルスによる行動制限が限定的であったことから、人流が増加するなど個人消費に回復の兆しがみられました。
しかしながら、資源価格や原材料費の高騰、円安の影響など、物価の上昇により家計への負担も増加し、生活防衛意識が強まった年でもありました。
こうした中、当社では環境に、社会に、人に笑みのあふれる暮らしを手伝うアイテムやサービスを揃えた「グローバルスマイルフェア」を開催し、人や自然に優しく、皆が笑顔になるための提案を強化しました。
また、地元東海地方が誇る知られざる「モノ・コト・ヒト」を提案し、新しい価値や創造を図りながら東海の魅力を紹介する「東海の美力フェア」を開催し、さらに講師として社員から選抜されたナナちゃんマスターがお客様の悩み解決をお手伝いする「コンサルティングフェア」の開催などに取り組んで参りました。
本年は、子供から年配者まで愛され、親しまれている当社の広報部員「ナナちゃん」(巨大マネキン人形)が4月に大きな節目となる50歳を迎え、皆さんと一緒に楽しんでいただける誕生日を祝う催しを企画するなど、その時、その場でしか味わえない「ワクワク」した気持ちで買い物を楽しめる、当社ならではの特色を生かした企画、イベントに取り組んで参ります。
そして、コロナ禍がもたらしたお客様の消費の変化を的確に捉え、ターミナルデパートならではの強みを生かしながら、お客様が「名鉄百貨店はいつも安心」と感じていただける店舗の雰囲気づくりと、当店に親しみ、長く利用いただいているお客様が抱いているイメージ、期待している快適さをしっかり守りながら、話題を提供して参ります。
一方、一宮店は歴史ある地元の一宮市周辺の企業や商店と手を携えて、まだまだ知られていない、モノづくりにこだわった「美しさ」、「美味しさ」を市町村や地元企業と協力して発掘して参りました。引き続き、地元密着の百貨店として、地域の「衣」、「食」、「住」の魅力を再発見できる場を提供し、百貨店ならではの企画やイベントに挑戦し続けます。
本年もコロナウイルス感染防止のため、従業員はマスク姿ではありますが、マスクの下は満面の笑顔で、接客をさせていただきます。お客様に「名鉄百貨店があってよかった」と思っていただけるよう、今後も努力を重ねて参ります。
津松菱 社長 谷 政憲
2022年は21年12月から続く消費の回復により初売りから絶好調で、久々の明るい年末年始でしたが、国内でオミクロン型が発見されてからの感染拡大の速さはこれまでに経験したことのないもので、まん延防止等重点措置の発令に至り、消費は再び冷え込みました。
3月以降もコロナ感染者数は高止まりしていたものの、以前のような厳格な行動規制は緩和されたことで、私達の主流顧客層の生活も徐々に正常化し始め、4月の花見シーズンやゴールデンウイーク前には、衣料品やレジャー・旅行用品を求めるお客様が売場に戻られ、中でも婦人服は前年比2桁増で推移して、全館のけん引役となりました。
2階婦人服ヤングキャリアに「icB」が新規オープンし、コロナで停滞していたリニューアルも着々と進み始めました。お客様の生活様式の多様化に合わせた、これまでの百貨店形態にこだわらない美と健康に関するサービスとして、1階化粧品売場に「ネイルサロン白金」、3階婦人服プレタに「エステサロン エクラ」を新たに導入しました。
11月にはこれまでも期間限定ショップや外商外販企画として取引を行っていた買取専門店「コメ兵」を常設店として2階にオープンし、好調に推移しております。
一方、外商部門においては、新規顧客の開拓を計画的に行い、さらなる強化を図りました。「春の美術逸品展」(前年比135%増)、「ペルシア絨毯展」(前年比67.9%増)、「コメ兵買取フェア」(前年比1900万円の増収)などの企画が好調で、これまでのところ前年比10%増の目標をクリアしております。
また下期に開始した新規の地域商社事業として、当社と地元の生産者がタッグを組み、他県の百貨店を通じて販路を拡大していく「三重の食フェア」を、首都圏百貨店の食品催事場で開催。売上げ拡大に貢献しました。
さて23年につきましては、まだまだ不透明感は残るものの、人々の生活はここ数年のコロナから正常化しつつあります。行動規制の緩和は地方百貨店にとって、都市百貨店に再び顧客が戻るマイナス面もあります。コロナによる行動制限下において、それまで利用のなかったシニア層のネット利用、都市部で買い物していた若者の地元回帰など、デジタル、リアルを問わず、人々は様々なサービスを体験する機会を得ました。
これからは本当に自分に適したものを個人個人が取捨選択して行く時代になるでしょう。私達はその中でお客様から選ばれる店にならなくてはなりません。
「ありがとうと言っていただける百貨店」を合言葉に、全従業員がお客様と直に向き合い、地元百貨店だからこそできるサービスの満足感を、地域のお客様に感じていただけるよう店づくりを努めます。