2023年 百貨店首脳 年頭所感・弐
<掲載企業>
高島屋 社長 村田 善郎
2022年は、新型コロナウイルスの感染拡大と収束を繰り返しながらも、行動制限のない社会、経済活動の継続により、消費者のマインドや行動が活性化しました。それに伴い、当社の業績もコロナ前の水準に回復しつつあります。しかしながら、世界の地政学的リスクや物価、エネルギー価格の上昇など、経済の先行きは依然不透明であり、予断を許さない状況が続くものと捉えております。
23年は、ブランド価値の源泉である百貨店の再生に向けた3カ年計画の最終年度であり、営業力強化とコスト構造改革の両面から、将来のさらなる成長の土台となる経営基盤を構築して参ります。また当社が百貨店経営においてこだわるのは、日本の百貨店独自の強みである「ワンストップショッピングの利便性」、「お客様の知的欲求に応える文化性」、「期待を上回るおもてなし」であります。お客様第一主義の基本姿勢のもと、これらの3つの提供価値が今日的にどうあるべきかを常に自問自答しつつ、時代や社会の変化にグループの総合力をもって対応し、磨きを掛けて参ります。
ESG経営においては、社会課題の解決と事業成長を両立しながら、社会全体を豊かにしていくことを使命と捉え、脱炭素やフード、アパレルのロス問題をはじめとする環境課題への取り組みを加速致します。加えて、23年の重点課題として企業の成長を支える人的資本経営の進化に取り組みます。従業員一人一人の能力を最大限に引き出し、労働生産性を高めることで、働きがいの向上と企業の成長を推進して参ります。
当社は創業以来190年以上の長きにわたり、ステークホルダーの皆様に支えられて今日を迎えております。次の創業200年を目指し、企業の持続的成長を通じてステークホルダーの皆様への提供価値を高め、共に成長、発展し続けることができるよう取り組んで参ります。
小田急百貨店 社長 樋本 達夫
昨年は新宿駅西口地区開発計画の進捗に伴い、新宿店は新宿駅西口の象徴的な建造物として50年以上に亘り皆様に親しまれてきた本館での営業を10月に終了。新宿西口ハルクに移転し、リニューアルオープンしました。
本館の営業終了に向けて全館で売り尽くしセールや特別企画、長年の愛顧に感謝を込めた各種イベントを開催したほか、ハルク移転に向けたプロモーションを実施しました。本館最終営業日まで、連日多くのお客様に来店いただき、誠に感謝しております。
ハルクで新たな門出を迎えた新宿店は、食品、化粧品、ラグジュアリーブランドを中心とした6フロアでのコンパクトな展開となりましたが、リアル店舗の提供価値として支持の高いイベントスペースやポップアップスペース、百貨店ならではのサービス施設なども開設しました。百貨店の提案力を生かしながらデジタルコミュニケーションを強化することで、お客様の要望にスマートに応えていきます。
ECサイトやリモートショッピングにおける取り扱いアイテムの拡充や、外商顧客を対象としたブランド直営店アテンドサービスの活用促進など、販売チャネルの拡大にも取り組んでおります。
さらに、12月にはリニューアル第2弾として、小田急グループが運営する新宿駅西口地下街「小田急エース」北館内に、当社がプロデュースする新しい食品売場「SHINJUKU DELISH PARK」をオープンしました。新たな環境で顧客との接点拡大に努めるとともに、ハルクとの連動性を高めることで、当社が手掛ける食品売場の魅力向上につなげて参ります。
本年も、引き続き新型コロナウイルス感染拡大や不安定な世界情勢による影響が見込まれますが、マーケットの変化や百貨店業界の動向、当社を取り巻く事業環境を踏まえると、既存事業モデルからの脱却が必須であると捉えております。
小田急グループにおいてリテール事業の中核を担う企業として、商業価値最大化に貢献すべく、「強みに特化した領域を最大限活用し、魅力ある接点(場)を共創するプラットフォーマーとなること」を目指します。
収益性や成長性の観点で選択した領域を、優良な顧客基盤や取引先とのネットワークなどの強みを生かしながら磨き上げるとともに、リアル・デジタル双方における顧客接点の強化を図り、リアル店舗のみに依存しない新たな事業モデルの確立に挑戦して参ります。
京王百貨店 社長 仲岡 一紀
昨年も新型コロナウイルス感染症は新たな変異株が出現するなど、社会に引き続きダメージを与えておりますが、世の中もウィズコロナの中で日常の生活を少しずつ取り戻しているようにも思います。
しかしながら、ロシアのウクライナ侵攻など世界情勢に関する暗いニュースが続き、経済的にも円安、燃料費や原材料費の高騰、物価高など暮らしに不安を与える話題が毎日のように報道されております。
そのような中で、当社の基幹店がある新宿では、新宿駅西口地区開発計画がいよいよ着工しました。これから工事の進捗に合わせて、取り巻く環境は様々な変化を遂げていくことになると思われます。昨年新宿店では、全館規模の改装を実施。「Welcome to New Keio!」をキーメッセージに、営業部のみならず、法人外商部、お得意様外商部、後方部門も含め全社一体となって新しいお客様を迎える準備を進め、新しいお客様に来店いただくようになってきております。
迎えた2023年、コロナも完全に収束することは望めませんが、少しずつウィズコロナが常態化して落ち着いてくると思われ、新宿の再開発も本格的に進んで参ります。そのような中でも、今までのお客様により多く利用いただき、新しく足を運んでいただいたお客様にも満足いただけるように、新宿店は引き続きターミナル百貨店としての利便性を強化させ、日常的に足を運んでいただける百貨店として、新宿駅西口の活性化に寄与して参ります。
聖蹟桜ヶ丘店においては、周辺の大規模開発に対応して準備を進めて参りましたが、いよいよ開発も進み、本格的な入居が始まりました。多摩川や緑に満ちた聖蹟桜ヶ丘の生活を楽しんでいただけるよう、お手伝いして参ります。
そのほか、京王線沿線を中心に展開しているサテライト店や外商、ECなどあらゆる手段を用いて、小規模でありながらギフトなど「百貨店の機能」を果たしながら、沿線に住むお客様に利用いただけるよう進めて参ります。
松屋 社長 秋田 正紀
周期的に押し寄せる新型コロナウイルス感染症と共存しながら社会活動を維持する「行動制限のない新たな時代」を迎えています。一方で、地政学リスクや金融資本市場の変動などで先行き不透明な状況が続いていますが、まん延防止等重点措置の解除に伴い消費マインドが急速に復調したことに加え、訪日外国人観光客の入国緩和により免税売上げもコロナ前となる2019年に迫る勢いの伸びを示すなど、私達を取り巻く環境は力強く前進しています。
長期間に亘るコロナ禍において、私達は人とリアルに接することの価値観、そして絆づくりの大切さを強く認識し、当社ならではの独自性、話題性を磨き上げてきました。いよいよ厳しいコロナ禍からの脱却が始まった今、私達に求められているのは、コロナ禍における最大の「学び」を糧に、銀座に立地する「デザインの松屋」としての価値最大化を目指すことです。
それを実現するために、1つ目は「顧客第一主義」を常に心掛け、日々の業務に取り組みます。度重なる新型コロナウイルス感染症の猛威により、お客様の生活様式や消費行動は大きく様変わりしました。その多様化がさらに勢いを増す中、「顧客第一主義」の精神の下、私達は「お買い物の時間」だけでなく、お客様の「生活の時間」に常に寄り添い、お客様の「豊かな生活」を提案することが責務となっています。
中期経営計画「サステナブルな成長に向けて」では、将来のありたい姿を実現するために「未来に希望の火を灯す、全てのステークホルダーが幸せになれる場を創造する」ことを「MISSION」として位置付け、あらゆるステークホルダーの皆様とのつながりを一層深めていくことを目指しています。また、さらなる店舗運営の効率化と業務改革を推し進めつつ、「攻め」の営業で収益の拡大を目指します。
2つ目は、松屋グループ全体を個性溢れるブランドに磨き上げて参ります。昨秋から、店舗運営の効率化を図るため、銀座店では運営体制を再構築するとともに要員の再配置を行い、外商などの強化部門においては増員を図るなど、収益力強化に向け大きく舵を切りました。
一方で、コロナ禍により先送りしていた売場の改装の再開や、CRM(顧客関係管理)の強化、顧客基盤の拡大に注力するなど、力強い姿勢で「攻守一体の改革」を推し進めます。今後も、松屋グループ全体が独自性の強い個性溢れるブランドになるよう磨き上げて参ります。
ながの東急百貨店 社長 平石 直哉
昨年を振り返りますと、長野市における最大の観光イベントである「善光寺の御開帳」が4~6月まで開催され、多くの観光客が長野市を訪れ、漸く市内に賑わいや人の流れが戻ってきました。
しかしながら、懸案のコロナ禍は感染者数の増減を繰り返しながら収束には至らず、物価高や光熱費の高騰などによる家計負担も増大するなど、消費環境は先行きへの不安感を強めつつ推移しております。
このような足元の環境に加え、来年春には近隣の須坂市に大型ショッピングモールの開業が予定されており、競争を勝ち抜き、地元に根差しながら生き残っていくため、長期の事業ビジョンとして「共に暮らしを育む」を昨年策定致しました。
昨年も説明しましたが、この事業ビジョンには大きく3つの目標があります。1つ目はライフタイムバリュー(顧客生涯価値)の向上です。お客様との接点(オフライン、オンライン)を増やし、購買機会を拡大し、長く、深くお付き合いいただける存在を目指します。
2つ目はローカリスト(地域の顔)としての存在感の発揮です。地域唯一の百貨店としての強み(目利き力、編集力、販売力)を生かし、長野ならではの上質で洗練されたライフスタイルを提供し続けます。
3つ目はサステナブル(持続可能)な事業モデルの構築です。既存事業の魅力向上、安定収益化と新たな事業機会の創出に取り組み、常にお客様に寄り添い、地域と共に発展する企業であり続けます。
迎えた本年は、この事業ビジョンの実現に向けた施策の実施、具現化に積極的に取り組んで参ります。
まず、ハイブリッド化リモデルを推進します。これは百貨店の得意分野である食品、化粧品、ギフトなどに資源を集中する一方で、当社の駅前立地という優位性を生かし、店舗の一部を賃貸化し、安定した賃料収入と新たな利用価値の創造を目指すリモデル計画です。
そして、この一環として1月前半には、眼科をはじめ複数の医院やコンタクトレンズ、調剤薬局を誘致した「クリニックエリア」を店内にオープン致します。
高齢者を中心とする交通の便の良い駅前への通院要望を取り込み、店内に複数の医療施設を配することにより、従来の百貨店での購買機会に加え、医療施設の利用という新たな来店動機による顧客接点の拡大に結び付けて参ります。
今後も、自主売場の集約による効率化などとともに、従来の百貨店の枠にとらわれない新たなテナント導入にも力を入れ、ハイブリッド化リモデルを継続、推進して参ります。
また顧客接点の拡大策として、食料品と化粧品・服飾雑貨フロアの閉店時刻の延長による利便性向上、順調に伸張しているEC事業のさらなる拡充にも鋭意取り組んで参ります。
このほか、地域との連携強化や外商改革の推進、長野県の特産物を通じ地域の魅力を発信する「しなのづくり」プロジェクトの拡大など、事業ビジョンの目標の1つである「ローカリストとしての存在感発揮」に向けた取り組みにも引き続き力を注いで参ります。
新たな年を迎え、このような将来を見据えた施策を通じ、全社一丸となって、事業ビジョンである「共に暮らしを育む」の具現化に邁進して参ります。
岡島 社長 雨宮 潔
創業180周年を迎える岡島にとって、2023年は過去最大の転換期を迎える重要な年となります。2月14日には現在の店舗での営業を終了し、翌3月には近隣施設のココリに移転して、時代にマッチした新たな地方百貨店づくりを目指して参ります。コロナ禍の3年間で、消費の多様化に伴い、百貨店の店頭商売は厳しさを増しましたが、そんな中だからこそ果たすべき役割も明確になって参りました。この状況を見据え、新しい時代にチャレンジする店づくりをまい進して参ります。
22年は、コロナの猛威が続き、来店客数が伸び悩みました。また諸物価高騰により、食料品や日常品の動きが低迷致しましたが、宝飾品や金製品などの購買は確実に増加し、底固い需要を示すことになりました。秋口より店舗移転に伴う在庫処分セールなどをスタートさせましたが、紳士洋品、リビング用品など高額品中心に順調な販売実績を積み上げ、在庫処分も予想以上に早く進む結果となりました。
23年3月にオープンする新店舗では、昨今の環境変化を踏まえ、「リアル店舗で百貨店が果たすべき役割を追求した店づくり」を実現して参ります。面積が大幅縮小となりますが、商圏内のお客様に毎週足を運んでいただくために、各階にプロモーションコーナーを設け、常に新鮮な商品提案を致します。3フロア構成となるため、各階プロモーションコーナーにお立ち寄りいただきながら衣食住の買い回り向上を図り、今まで以上にライフスタイルの完結をお手伝いする店を目指します。
リニア完成までの甲府市の再開発に連動し、地域密着度を高めて様々な地元連動企画にチャレンジして参ります。22年11月に開催致しました「大月なんでもマルシェ」は市役所、観光協会、商工会に一体となってバックアップしていただいた結果、県内の魅力を県庁所在地のお客様に大きく知らしめる結果となり、そこでのお客様の評価が大月市内各事業者の方々の活力にもつながる結果となりました。このようなムーブメントをリアル店舗での実績として繰り返し、幅広い視野で取り組み拡大するという地方百貨店の使命を果たすことで、企業価値向上に努めて参ります。
もちろん、お客様からの最大のリクエストは、東京と時間差なしで体感したいファッションです。衣食住のファッション提案は、新店舗に出店いただく取組先との連携で強化すると同時に、現店舗で展開を終了するブランドに関してもシーズンごとのテンポラリー展開を定着させることで、固定ファンの離反を最小限にして参ります。
一館完結型の百貨店運営を長年行ってきた岡島が、新たな再開発による縮小移転に伴い、最も留意すべきポイントは、地元商店街や今後の甲府城周辺再開発との連携です。行政のまちづくり活動とも足並みを揃え、様々なステークホルダーとの協業で甲府の中心市街地を盛り上げて参りたいと思います。
昨年を振り返りますと、コロナ感染症への意識が薄れてきたのか、前向きに経済活動が活発になってきました。旅行支援により国内外からの観光客が増加し、コロナ以前に戻ったような光景を目にしました。
一方で感染者数の増加は緩まず、子供達の学校では感染が拡大し、その家族の行動が制約され、また高齢者を中心に外出を控えるようなことは現実に起こっていました。それに加え燃料費の高騰、物価の上昇など、取り巻く環境は非常に厳しかったと思われます。少しでもコロナ以前の売上げを目指していた中での向かい風でした。
本年も厳しい環境下で予断を許さない状況ではありますが、少しでも「攻め」の構えで臨むということで、当社の3本柱と称した要となる事業の強化を図ります。
まず1つ目の柱は広域事業の取り組みです。外商部が中心となり、県内外へ卸売事業や出店を実施してきました。長野県のサテライトショップ「銀座NAGANO」のほか、地域の百貨店などに地元の食品を中心に展開させていただきました。
また、県内レストランと開発したレトルト商品の卸売販売で、40社ほどと取り組みができています。その中には海外への輸出もあり、今後も期待できます。そのほかにも飲食店用に簡単な調理で本格的な料理ができる「ミールキット」の卸販売にも取り組み、実績を伸ばしてきています。
2つ目の柱はEC事業の強化です。遅れていた自社ECサイトの立ち上げが、ようやく今月から始まります。今までのメジャープラットフォームでのネット販売に加え、県内顧客を中心に自社ホームページから手軽に商品を選び、購入いただけるように工夫を凝らして構築していきます。
3本目の柱は宅配事業「アイシステム」の強化です。この事業を再開して1年が経過しました。途中から配達エリアを拡大し、徐々に会員数も増えてきています。通常の品揃えの充実とともに、季節限定や催事と連動した商品を増やし、安心安全を届けられるように、さらに磨きを掛けていきます。
厳しい環境はまだ続くとは思いますが、自社の強みとなることに一生懸命に取り組み、必ず復活してくると信じて本年もまい進して参ります。