2024年11月24日

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【関西主要百貨店<食品>パネルディスカッション】「アフター・コロナ」見据え、求められる“次代のデパ地下”とは

ストアーズ社は11月14日、「関西主要百貨店<食品>パネルディスカッション」をホテル日航大阪で開催した。あべのハルカス近鉄本店、京阪百貨店守口店、大丸梅田店、高島屋大阪店、阪急うめだ本店、阪神梅田本店の食品の責任者を招き、「求められる“次代のデパ地下”とは」をテーマに、新型コロナウイルス禍が変容させた人々の生活や価値観などを踏まえながら、ようやく迫りつつある「アフター・コロナ」で、収益力を高めていくための戦略を語って頂いた。

パネリストは、前半で「2022年度上期の施策と成果」について、後半で「2022年度下期の施策と展望」と「求められる“次代のデパ地下”とは」について、それぞれ言及。各店は立地や顧客特性、競合相手などが異なるだけに、内容は“六者六様”で、聴講者は固唾を飲んで聴き入った。

■パネリスト■

近鉄百貨店 営業政策本部 商品政策推進部長 鈴木崇 氏

京阪百貨店 営業本部 守口店 食品部長 塚本俊晴 氏

大丸松坂屋百貨店 大丸梅田店営業3部 部長 長谷川寛 氏

高島屋大阪店 販売第4部 部長 和嶋武彦 氏

阪急阪神百貨店 第1店舗Gフード商品統括部(阪急本店)GMD 星野大輔 氏

阪急阪神百貨店 阪神本店フード商品統括部 GMD 中尾康宏 氏

※GMD=ゼネラルマーチャンダイザー


〇一巡目:「2022年度上期の施策と成果」

生産者と顧客を結ぶ「ハブ」担う

近鉄百貨店 営業政策本部 商品政策推進部長 鈴木崇 氏

鈴木部長は、あべのハルカス近鉄本店の上期の業績から説明した。食品の売上げは前年比で2桁増と好調。けん引役は和洋菓子やベーカリーで、和洋酒や鮮魚、精肉は不振だった。上期で重要な中元商戦は和洋菓子や産地直送品、佃煮の動きが良かった反面、ビールや飲料、そうめん、乾物などが厳しく、前年実績を割り込んだ。

続いて、上期のトピックスとして21年度の下期に誘致したショップの勢いが持続していると説明。「北海道どさんこプラザ」や「色どりフレンチ Palette(パレット)」、「農家の息子」、「ハルチカマルシェ」などで、ハルチカマルシェは主に近鉄沿線で栽培された農産物を扱い、鈴木部長は「生産者とお客様を結ぶハブを担う。地域共創の一環でもある」と強調した。

こうした食品売場のショップの入れ替えにとどまらず、22年度の上期には婦人服を展開するタワー館4階に生活提案型の売場「サロンドゲート」がオープン。全国各地のこだわりの食品を集め、カフェも併設する。鈴木部長は、あべのハルカス近鉄本店に限らず、近鉄百貨店が各店舗で「食品売場以外での『ミックスマーチャンダイジング』を進めていく」と示した。

改装とネット通販の強化に成果

京阪百貨店 営業本部 守口店 食品部長 塚本俊晴 氏

塚本部長は、京阪百貨店の店舗網や特徴である生鮮品、グローサリー、ギフト、菓子の一部の直営に触れた後、上期の施策や実績に言及。毎週配布してきた折込チラシや催事を中止したものの、レジを2カ所から1カ所に集約したり、グローサリーの品揃えを刷新したりするなど改装の効果が表れて、増収を達成したという。ゴールデンウィークや母の日、お盆といった歳時記の売上げは前年比で2桁の伸長だった。

上期はインターネット通販も強化。5月31日には「サステナブル」、「ローカル」、「オリジナル」、「産地直送」などをキーワードに、こだわりの商品を販売するショッピングモール「よろずを継ぐもの」を開き、中元商戦に向けては「近畿2府4県送料無料ギフト」を拡充した。昨年4月25日に始めた精肉のネット通販も好調という。

“リアル”以外にチャネルを拡大

大丸松坂屋百貨店 大丸梅田店営業3部 部長 長谷川寛 氏

ターミナル型の百貨店である大丸梅田店は、新型コロナウイルス禍によるビジネスパーソンや旅行者の大幅な減少が逆風となる中、①販売チャネルの拡大②デジタルを活用した情報発信の強化③オンリーワンづくり――を推し進めた。

①については、つくり手の想いなどを大事にした限定品を数量限定で扱うインターネット通販サイト「美味テッド~美味しいを限定で。~」、出前館やHELP!と協業した宅配、JR新大阪駅や大阪駅への出店などを紹介。②については「大丸・松坂屋アプリ」を活用した販促の成功事例と、売上げへの寄与を語った。③については、競合相手にないショップの新規導入やイベントスペースへの注力が軸という。

上期の売上げは目標に届かなかったものの、長谷川部長は「講じた施策には手応えがある」と強調。「リアル店舗だけに頼らない、ECや宅配、タッチポイントであるアプリの活用が重要だ」と結んだ。

自主編集軸に品揃え改革を推進

高島屋大阪店 販売第4部 部長 和嶋武彦 氏

高島屋大阪店の和嶋部長は、コロナ禍の前後における客層の変化とその対応から語り始めた。「着任した3年前は訪日外国人が増え、若年層も集まるようになったが、コロナ禍で一変した。『品揃え改革』、『新しいお客様との関係づくり』、『生産性の向上』を軸に、品揃えの質とサービスを向上させるのが大前提だ」

品揃え改革の一環として、今年4月に和洋酒売場を増床・改装。関西随一の品揃えの洋酒コーナーを設け、ワインショップにはカウンターバーを加えるなどしたが、初心者から愛好家まで客層が広がり、売上げは大きく伸びた。高島屋の自主編集売場である「銘菓百選」や「味百選」、「高島屋ファーム」も長く好調。その理由を和嶋部長は「自主編集売場だからこその品揃えのきめ細かさ」とみており、ひいては品揃え改革の重要性を物語る。

上期はECも高伸長。バレンタインデーや母の日や父の日、中元など歳時記が賑わった。和嶋部長は「百貨店への期待を感じる。コロナ禍でデジタル化が加速し、対応は必須。ECは若手社員に業務を担ってもらいつつ、品揃えを拡充していき、SNSでの発信を増やす」方針だ。上期の要衝である中元商戦は、店頭のマイナスをECがカバー。コロナ禍前の18年並みだった。和嶋部長は「あまりコロナ禍のダメージがなく、ギフトセンターでは何人ものお客様から『こういう時だからこそ贈りたい』と言われた」と振り返る。

軸の1つである生産性の向上は、店舗の方向性に沿って着手。具体的には、高島屋ファームを移設した。

唯一無二な魅力と楽しさ提供

阪急阪神百貨店 第1店舗Gフード商品統括部(阪急本店)GMD 星野大輔 氏

星野GMDは、グランドオープンから10年が経つ阪急うめだ本店のプロフィールと食品売場の役割から切り出した。役割とは「オンリーワンな魅力と楽しさを提供し続ける食のスペシャリティストア」であり、専門分野に長けたメンバーが多く、その個性を引き出して運営する。売場の象徴としては「餡(あん)」や「豆」などにフォーカスした「コミューナルフードマーケット」、約100mに亘る「スイーツストリート」、豊富なイベントスペースを挙げた。イベントスペースは、パンの売場が小さいという弱点の補完にも役立てる。星野GMDは「お客様を飽きさせない仕掛けが特長」と話す。

続いて、上期の戦略を説明。コロナ禍ではターミナル型百貨店の集客力が低下しており、いわゆる「OMO」を進化させるとともに、①リアル店舗の磨き上げ②リアル店舗のEC化③既存顧客のファン化と深耕――の3つの施策に乗り出した。

①では、アサヒ飲料と協業して4月8日に「発酵 『CALPIS』 PARLOR」をオープン。連日、老若男女で活況を呈す。②は赤福の「朔日餅(ついたちもち)」をネット通販サイトで予約、店舗で受け取れるようにしたが、赤福の客数が倍増。「並ばずに済むならほしい」という新客の開拓にもつながった。19年10月9日に始めたケーキの宅配の拡大、香港の「シティ・スーパー」への商品供給にもアクセルを踏む。

③はワインや日本酒など嗜好性の高い商品に着目し、愛好家との結び付きを深める。例えば「ワイン好き」を「ワインファン」に“ステップアップ”させるためには、グラスへの関心を引き出すべきと仮定。7階の「リーデルブティック」と組み、ワインの試飲販売を行うなどで、知的好奇心と購買意欲を喚起する。

こうした施策が当たり、食品の売上げは上期も下期も好調。22年度はコロナ禍前の18年度に届く勢いだ。

「エンタメ型食ワールド」目指す

阪急阪神百貨店 阪神本店フード商品統括部 GMD 中尾康宏 氏

今年4月6日にグランドオープンした阪神梅田本店。「食の阪神」と言われるように、食品は屋台骨であり、その商況に耳目を集める。中尾GMDは昨年10月8日の先行オープン、グランドオープンと順を追って食品売場の概要と独自性を解説した。先行オープンでは「興味」や「関心事」にフィーチャーした売場を構築。毎週内容が変わるイベントスペース「食彩テラス」、700種類のおやつが並ぶ「おやつ テラス」、約100種類のパンを揃える「パン テラス」を例示した。以前は「飲食店が弱かった」(中尾GMD)と回顧し、「かなり注力した」と胸を張ったのが、地下2階の「阪神バル横丁」や9階の「阪神大食堂」だ。

グランドオープンに関しては、地下1階から①「スイーツストリート」②惣菜の強化③酒類④全国のローカルグルメをポイントに挙げた。①は東西を結ぶ約100mに、30以上の洋菓子のショップが並ぶ。うち約10ショップが阪神梅田本店限定だ。②は近年の旺盛な中食需要に照準を合わせ、53ブランドを揃えた。うち15が「初」を冠する。ジャンルではエスニックに力点を置き、和洋中に次ぐ4つ目を育て上げる。

③はトレンドの日本ワイン、スパークリングワイン、ナチュールワインを充実させ、百貨店業界では珍しく売場をフロアの中央に据えた。④は「うまいもんみっけ」と名付け、約500種類の「少しカジュアルで、買いやすいローカルグルメ」(中尾GMD)を販売する。今年に入って注目度が一段と増した冷凍食品の比率が高く、とりわけ餃子は60種類に上る。立案時は「梅田から冷凍の餃子を持ち帰る人がいるのか」と疑問視されたが、需要は多いという。

グランドオープンから半年余りの段階で新たな売場づくりの成否を判断するのは難しいが、ストアコンセプトである「毎日が幸せになる百貨店」を体現する食彩テラス、「ナビゲーター」と呼ぶスタッフによるファンコミュニティの形成などは、徐々に成功体験を積み上げてきた。SNSで約8000人のフォロワーを抱えるナビゲーターもいる。中尾部長は「目指すのはエンタメ型食ワールド。最終的には『ユニバーサル・スタジオ・ジャパンで遊んだ後は、食のテーマパークである阪神梅田本店に寄って帰ろう』と、誰もが思うようになりたい」と意欲を燃やした。


〇二巡目:「2022年度下期の施策と展望」と「求められる“次代のデパ地下”とは」

パネリストの一言一句を逃さぬように聴き入る会場の様子

原点回帰で買い物の楽しさ追求

近鉄百貨店 営業政策本部 商品政策推進部長 鈴木崇 氏

あべのハルカス近鉄本店は下期、売上げが前年を上回っており、「好スタートを切った」(鈴木部長)。プロ野球のオリックス・バファローズに関連したセールの押し上げ効果が大きく、9月30日に「ザ・マスター by バターバトラー」や「カリヌゥ」、「あげもちCocoro」など5店舗が開いた洋菓子売場のリニューアルも当たったという。

今後は第一次産業への関わりを強化する。ハルチカマルシェに続く手として、複数の社員をJAに出向。農産物の栽培に乗り出す。生産から販売まで担いながら、近鉄沿線に生産者のネットワークを構築する計画で、イチゴでスタートした。水産物や畜産物は設備に時間がかかるため、農産物を選んだが、いずれは陸上養殖に参画したいという。

パネルディスカッションのテーマである「求められる“次代のデパ地下”とは」については、「私見だが、ECやアプリ、宅配はレッドオーシャンであり、やはり“現場”。コロナ禍では提供できなかった顧客体験を追求していく」(鈴木部長)。具体的には「そもそも、インターネットやSNSで収集できる情報は玉石混交で、分かりづらい。百貨店のブランド力や信用力を生かし、リアル店舗、現場に注力する。例えば、リージョナルなブランドやアイテムの開拓だ。非日常の演出、快適な接客や環境も欠かせない。ECのシェアは10%にも届かないだけに、『楽しく買い物してくれるお客様』を大事に、リアル店舗をブラッシュアップしていく。行動が制限されていないからこそ、原点に回帰する。それが生き残りの手段」と述べた。

強み、こだわり、地域密着を深耕

京阪百貨店 営業本部 守口店 食品部長 塚本俊晴 氏

塚本部長は下期の戦略に関して、「同じことをやっていては通用しない。コロナ禍前の施策の深掘りが必要」と結論付け、①基本に立ち返り、強みを最大限に生かす②本物やこだわりの追求③地域密着――の3つのキーワードを挙げた。

①を塚本部長は「地元に支持された店舗であり、食品売場は冷蔵庫代わり。少量販売など、お客様の声をできるだけ反映する。直営の強みも生かし、良いモノをギリギリの価格で販売していく。中でも野菜を強化し、火曜日に100円均一を復活させた。儲けにはなっていないが、火曜日の朝の賑わいは凄い。ヘビーユーザーへの還元として続ける」と説明。②は象徴として、9月29日に新設した冷凍食品とキッチングッズを揃える「5.0℉(ゴエフ)」を挙げた。イオンリテールが8月30日にイオンスタイル新浦安MONAに開いた冷凍食品売場「@FROZEN(アットフローズン)」との違いは、「身体に良いモノを中心に揃え、併設したキッチンカウンターでは解凍の方法を指南したり、試食を行ったりするなど、体験や体感も提供する」とした。

③は「つながる」を重視し、農家から直接仕入れた野菜の販売会を継続するほか、大学や企業、JAと組んだ過去最大級の食育フェアを計画中だ。

パネルディスカッションのテーマについては「明確に言えないが、来年4月には商圏内の門真市に『ららぽーと門真・三井アウトレットパーク 大阪門真』が進出してくる。この脅威を打破するためにも、3つのキーワードと直営、百貨店の強みを磨き上げていく」(塚本部長)と力を込めた。

最重要は“リアル店舗ならでは”

大丸松坂屋百貨店 大丸梅田店営業3部 部長 長谷川寛 氏

大丸梅田店の下期は、「インバウンドや団体予約が少しずつ戻ってきており、11月11日に13階に誕生した『Nintendo OSAKA』と『CAPCOM STORE & CAFE UMEDA』の集客にも期待できる」(長谷川部長)状況下で、上期に本腰を入れた①販売チャネルの拡大②デジタルを活用した情報発信の強化③オンリーワンづくり――を継続する。

①は8月1日にmenu、9月1日にHELP!して宅配を充実化。リピーターがじわじわと増えており、長谷川部長は「デパ地下の新たな使い方を確立できた」と手応えを掴む。②は大丸・松坂屋アプリで毎月1日に配信するクーポンの種類を増やしており、買得品や限定品などを集めて毎月1日に開く「ついたち祭り」との相乗効果も発揮されてきた。新規に導入したブランドのオープンや、大丸松坂屋百貨店が手掛けるリサイクルキャンペーン「エコフ」に合わせたクーポンの提供も、多くの成果を上げているという。

③では、新たにブランドの創業日などにフィーチャーするイベントを開始。大丸・松坂屋アプリで限定のクーポンや情報を配信するとともに、地下1階のコンコースの10カ所にポスターを掲示して、客足を呼び込む。9月1~4日の「Happy〈ユーハイム〉Day!!」では、1日に西日本で先行販売された「ユーハイムクランツ」を取り上げ、連日完売。期間中の売上げは全国1位だった。原則として既存の取引先と協業し、新たな商機とする。

パネルディスカッションのテーマについては「商品の魅力を感じてもらえるデパ地下、OMOで使ってもらえるデパ地下」(長谷川部長)と定義する一方で、「“リアル店舗ならでは”が最重要。それは変わらない」と断言した。

変化する価値観、顧客起点を徹底

高島屋大阪店 販売第4部 部長 和嶋武彦 氏

高島屋大阪店は下期を「攻めに転じるターム」(和嶋部長)と位置付けた。9~10月にかけて、和洋菓子売場を改装するとともに、5つのショップからなる「ベーカリーガーデン」を開き、タカシマヤファームを移設。「お客様の要望が多い洋菓子とパンを強化した」。洋菓子は「サブレミシェル」や「ヨーグルトフォーシーズンズ」ら5つのショップを入れ、ベーカリーガーデンは各ショップが品揃えを役割分担しつつ、限定品も提供。週替わりのポップアップスペースも構える。タカシマヤファームは生鮮品の品揃えを見直したが、客からはグルテンフリーやビーガン、昆虫食など様々な声が寄せられており、「順次チャレンジしていく」。

和洋菓子やパンの売上げは大幅に増加。リニューアルの効果を享受するが、和嶋部長は「基本品揃えが大事」と気を引き締める。自主編集売場と約10カ所のポップアップスペースを生かし、客のニーズに柔軟に対応。“高島屋らしさ”を表現してファンを育成する。

食品売場に限らず、7階の催会場で開く催事の重要性も指摘。秋の「大北海道展」は第70回の節目でもあり、1週目と2週目、3週目で内容を入れ替え、イートインやフードコート、実演、酒類の販売なども充実させるなど「ライブ感があふれる催事」(和嶋部長)に仕上げ、春の2倍以上の売上げを記録した。

パネルディスカッションのテーマについては「売上げがなかなかコロナ禍前に戻ってこない。お客様の価値観が変わってきた。それに合わせ、どう変われるか。在宅勤務が定着し、かつては大きかった夕方の売上げも戻ってこない。宅配やECなど非接触型のニーズも増加している。スーパーマーケットの惣菜やスイーツのクオリティが上がり、コストパフォーマンスも良い。危機感がある。SDGsに対応した商品やサービス、D2C、ビーガンなどを捉えていく。お客様をしっかりと見ることが大事」と、和嶋部長。25年の「大阪・関西万博」、店舗周辺の再開発や高層マンションの増加を商機にする。

指針は楽しさ、学び、文化の創造

阪急阪神百貨店 第1店舗Gフード商品統括部(阪急本店)GMD 星野大輔 氏

阪急うめだ本店の下期は「基本的に継続」(星野GMD)だ。①リアル店舗の磨き上げ②リアル店舗のEC化③既存顧客のファン化と深耕――に傾注する。①はコロナ禍で最もダメージが大きい和菓子売場を再編した。星野GMDは「生ケーキが売れるなど、洋菓子は自家需要に支えられたが、百貨店の和菓子売場は贈答需要をメインとする“ディフェンス型”のショップが多い。コロナ禍で客数が減少すると、そのスタンスは苦しい。自家需要の獲得が不可欠」と経緯を明かす。自家需要を引き出すカギを「おやつ」と分析し、自主編集売場「日本の銘菓撰」を拡大。おやつからギフトにつなげる狙いもある。

日本の銘菓撰の拡大で工夫したのは「お客様が『こんなのもある』と買い物を楽しめる売場、単価が落ちても『1つからどうぞ』というスタンス、『カワイイ』に特化したコーナー」(星野GMD)だ。さらに、フォーマルな上生菓子をカジュアルに、ケーキのように買える専門店を誘致。「和菓子やケーキよりも罪悪感が少ない」とも訴求し、客を惹き込む。今後は米菓に新しいショップを加える予定だ。

②はケーキの宅配で地域やブランドを増やし、とりわけ祖父母の孫需要を狙う。星野GMDは「ジャパンスペシャルとして“海外の胃袋”も取っていく」と腹案を披露した。③は和菓子で、どれだけファンサイトとつながれるか試みる。

パネルディスカッションのテーマについては、主力顧客である50~70代のファン化、ミレニアル世代やZ世代など若年層の獲得を目指し、新しいモノやコトを提案するのは「当たり前」とした上で、若年層のギフトに着目。若年層が贈り合うカジュアルギフトやソーシャルギフトも含めて「ギフトといえば阪急うめだ本店」を確立する。

その一例として、洋菓子のショップが生ケーキで1つ用の箱をつくって「1つからどうぞ」と勧めたところ、若年層の会社の同僚への誕生日需要などを取り込み、「単価が下がり、売上げが落ちるのではないか」という危惧は杞憂で、売上げが全く落ちなかったと紹介。次世代のデパ地下の実現には「若年層の新しいギフト文化の創造が必要」と熱を入れた。

また、「ブランドの数を競い、選んで楽しむ時代は終わった。学んで楽しむ時代であり、モノの背景にあるコトや文化性を売っていかなければならない」と読み解き、「『選んで楽しいマーケット』で終わると、成長が止まる」と警鐘を鳴らした。

最後に“先輩”から受け継がれてきた言葉を紹介。「百貨店は①楽しくなければならない②学びの場でなければならない③文化性がなければならない――なぜなら、文化をつくれば、文化が人を呼ぶから」。これこそが、阪急うめだ本店の指針だ。

新しい食のマーケットを開拓へ

阪急阪神百貨店 阪神本店フード商品統括部 GMD 中尾康宏 氏

阪神梅田本店の中尾GMDは下期について、「最大の戦略は『ワールド』の精度。小細工せずに突き詰める」と宣言した。ワールドとは客の関心事を軸に構成した売場の単位で、3つの課題があるという。

1つ目は飲食店を含めた約230のショップの収益性。いわゆる開店景気やコロナ禍が一段落し、数字を正確に把握できるようになってきており、予算が未達のショップを調べ、取引先とともに客数や客単価、コストパフォーマンス、トレンドなどをチェックしつつ、2年目の収益性を引き上げる。

2つ目は離反客の多さとグランドオープンの未認知。近年は情報発信や販促がSNS一辺倒になりがちだが、テレビで放映された松葉ガニの特売に長蛇の列が生まれるなど、テレビの力を再認識し、「マスコミが取り上げそうなネタを仕込み、提案する『戦略的広報』」(中尾GMD)を推し進め、再来店やグランドオープンの認知につなげる。

3つ目は顧客のニーズへの対応。来店を促せる品揃えやサービス、特に後者を充実させるほか、ウェブサイトも「遅れていて、楽しさが伝わらない」(中尾GMD)と自省し、メタバースに注目する。

パネルディスカッションのテーマについては「梅田には3つの百貨店があり、どう独自性を出せるか。百貨店は対面販売が最大の強み。“リアルな体験価値”を磨き上げる。私見では、新しい食のマーケットを開拓していかなければならない」(中尾GMD)と指摘。重ねて「トレンドをInstagramのハッシュタグで把握しているが、数が100万を超えると『ミドルマス』、1000万以上が『超巨大マス』と見る。カフェは約2700万、スパイスカレーは約400万、ビーガンは約45万で、現時点でビーガンを深耕するのは(収益性として)危険だろう。トレンド、進化が加速するフードテック、百貨店の強みの3つを掛け合わせると、新しい食のマーケットを開拓できるのではないか」と持論を示した。

(司会:野間智朗)