2024年11月22日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 「ギャラ飲み」をしていた富裕層は税務調査にご用心

「周囲の富裕層も心配している。1000万円の追徴課税を受けたという話も聞こえてきて、震え上がっているみたい。自業自得だけどね」

都内在住の富裕層の男性は、経営者仲間で集まった際に出た話について、このように明かす。富裕層たちの悩みの種は、以前行っていた「ギャラ飲み」や「パパ活」にからんで、国税当局から調査を受けるのではないかと心配していたのだ。

ギャラ飲みとは、基本的に男性グループの飲み会に女性が同伴するサービスのこと。利用者は専用アプリを通じて登録している女性キャストに集合場所を指定、一緒に飲食して報酬を支払うというシステムだ。女性にとっては、飲み会に参加しておしゃべりするだけで気軽に稼げるのが大きな魅力で、登録者数は増え続けている。これに対しパパ活は、1対1で食事や買い物といった「疑似デート」をし、その対価を支払うというものだ。

「ギャラ飲み」が贈与税の対象に

こうした男女のマッチングサービスは、すでに100億円近い市場になっているとの指摘もあるが、それをもってなぜ富裕層は不安がっているのか。実は今年2月、東京国税局がギャラ飲みアプリ最大手「パト」の運営会社に調査に入った際に女性キャストの名簿を押収、女性キャストたちによる税金の申告漏れが相次いでいたことが発覚したからだ。

「一度の食事で50万円とか100万円とか渡していた富裕層も多数いた」(冒頭の富裕層)。女性キャストの中には「年間数百万円から数千万円の収入がある子もザラ。月に1400万円という強者もいたという」(前述の富裕層の男性)から驚きだ。

だが、こうした女性キャストたちは、お小遣い感覚で金銭を受け取っていることから、税金を納めていないケースがほとんど。運営会社からギャラが支払われていれば所得税や住民税を、男性から直接ギャラを受け取っていれば贈与税を支払わなければならないにもかかわらずだ。

贈与税に関しては「連帯納付義務」という規定がある。これは個人から個人への贈与で、贈与を受けた側が納税していない場合、贈与した側が連帯して納付する義務を負うというもの。つまり、女性キャストに多額のギャラを渡していた富裕層たちは、税務調査によって贈与財産を限度として贈与税を支払わなければならなくなることを恐れているわけだ。

さらにいえば、納税義務があったにもかかわらず確定申告を行わなかった場合、未納付の税金を納めるだけでは許してもらえない。「無申告加算税」や「延滞税」といったペナルティが課せられることになる。

また、贈与税には原則6年、脱税目的で贈与を隠すなど故意に申告しなかった場合には7年という時効がある。だが贈与した側、された側双方の意思がなければ成立せず、女性キャストにそうした意思がないと認定されれば、時効は成立しない。

「税務調査が来るのが怖い。一体いくらになることやら」。富裕層たちは思案に暮れていたという。

国税当局が狙い定める「贈与税」

それでなくても国税当局は、「贈与税」に狙いを定めている。国税庁の「2020事務年度における相続税の調査等の状況」によれば、贈与税の申告漏れのうち「無申告」が実に82.2%と8割強を占めているからだ。

コロナ禍で、実地調査の件数は前年事務年度比で55.2%と大幅に減少した。しかし、コロナが落ち着きを見せた今年は、実地調査を本格化させるとみられているのだ。

そこで格好のターゲットとなるのが富裕層。元マルサで税務調査に詳しい上田二郎税理士によれば、「コロナ禍が沈静化すれば、脱税額の規模が大きく効率的に徴収できる富裕層は格好のターゲットとなるだろう」と見ている。事実、国税庁は全国の国税局に「富裕層プロジェクトチーム(PT)」を設置、高額所得者を対象とした資産の監視を強化している。

暦年贈与の廃止議論にも不安を抱く富裕層

さらに、富裕層は、贈与税をめぐる“ある議論”にも不安を抱く。

それは相続税と贈与税の一体化。この問題がクローズアップされたのは、21年度の「税制改正大綱」に「相続税と贈与税をより一体的に捉え」という文言が記されたためで、「暦年贈与が廃止されるのではないか」との観測が浮上した。現時点ではまだ現実化していないが、22年度の大綱でも同様の表現が盛り込まれているため、近い将来、一体化が進められていくことは間違いない。

富裕層の多くが、これまで1年間で贈与額が110万円(基礎控除)以内なら贈与税が非課税になるというルールを使って節税してきた。長期間に渡って毎年110万円ずつ贈与し、相続財産を減らすという節税術だ。しかし、相続税と贈与税が一体化すれば、この110万円のルールが廃止され、節税できなくなる。

さらに怖いのは、贈与に関してさかのぼって調査される可能性だ。相続税と贈与税の一体化に伴って、21年度の税制大綱に「相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直す」と書かれているからだ。

現在、死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡した日までの間、つまり相続開始前3年以内に贈与を受けた財産については、課税の対象となるというルールがある。「持ち戻し」と呼ばれるものだ。日本でも暦年贈与は過去3年分が対象だが、相続時精算課税であれば過去全ての贈与財産が対象となっており、相続時精算課税と暦年課税が一体化されてしまえば、持ち戻しの3年ルールがなくなってしまうわけだ。

となると過去に贈与した財産について全て調査されることになり、これまで地道に贈与してきた富裕層たちは、「何のためにやってきたのか、全ての努力が水の泡だ」と嘆いている。

税務調査の本番は7月から12月にかけて。富裕層たちはしばらく不安な日々を過ごさざるを得ないと言えそうだ。

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