2024年11月22日

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【成長軌道への攻勢に転じる】三陽商会 大江社長インタビュー

三陽商会にとって22年度は、これまでの「守勢」から「攻勢」に転じるターニングポイントになる。新・中期経営計画が始まり、持続的成長戦略と中長期的な企業価値向上に向け、2年間の「再生プラン」で実行してきた改革を継続しながらも、攻めの戦略に軸足を移していく。24年度(25年2月期)に売上高520億円、営業利益率10%を目指し、新たな成長戦略に向けて陣頭指揮を執る大江伸治社長に、構造改革の成果と攻めの戦略、見通しを聞いた。


粗利率改善と在庫削減が進む

――21年度(22年2月期)で、2年間の「再生プラン」が終了します。事業構造改革を完遂し、基礎収益力の回復と共に黒字化の実現を目指してこられましたが、手応えはいかがですか。

大江社長(以下敬称略) 再生プランの達成比率で言いますと、70%程度まで進んだのではないかと思います。この2年間で様々な改革・改善を実行してきましたが、中でも粗利益率の改善、販管費の削減、在庫の適正化、それと財務改革については、ほぼ計画通りに進みました。ボトムラインが整備され、基礎的なストラクチャー(事業構造)を再構築できたと思います。

この基盤に、しかるべきトップライン(売上げ)を上乗せできれば、確実に利益が出る構造に変革できました。ただ、この消費環境でトップラインを上げていく難易度が高くなっています。ボトムラインの整備は、成長戦略に転じる前提条件でしたので、ようやくスタートラインに立てるようになった状況に過ぎません。

 

――21年度の上期はコロナ禍の影響が続いていましたが、下期(9月以降)に回復基調に転じてきたようです。

大江 下期は緊急事態宣言の解除以降、市場が正常化に向かってきたように感じています。秋冬シーズンは仕入れ(量)を抑え、プロパー販売に徹してきた結果、第3四半期(9~11月)は粗利率が計画を上回りました。下期の粗利率目標50.2%に対し、1.5ポイント上回り、前年比で7~8ポイントも改善しています。在庫は22年2月期末(単体製品在庫)で、期初から約30億円減の60億円を計画していますが、11月末まで計画を上回るペースです。

ただ、市場(消費)の正常化のピッチが想定よりも緩やかですので、米国のような「リベンジ消費」が顕在化したわけではなく、トップラインが計画のやや下目で推移しています。年末年始、1月の商戦を期待していますが、まだコロナ禍の先行きが不透明ですし、消費者の自粛ムードが残っているようです。

 

「常道」のスタートラインに

――粗利益率や消化率の改善、在庫削減といった重要な指標だった改革の成果が表れてきた大きな要因は何でしょうか。

大江 従業員のモチベーションが上がってきたように感じています。再生プランでは、トップダウンでラジカルな改革を進めてきましたので、コロナ禍でもありましたし、不安も抱いてきたと思います。秋冬シーズンで改革の成果が数値に表れてきたのは、これまでの従業員一人ひとりの努力が報われてきた証しだと思います。自律的にPDCAを実践して結果につながり、改革・改善が正しかったことが実感できましたし、この積み重ねが今後の成長戦略の礎になってくるだろうと思います。

例えば、秋冬シーズンはこれまでの粗利率改善策を本格的に実践しました。担当者は品番数や期初発注量の絞り込みに疑心暗鬼を抱いたと思いますが、手応えを得ているようです。期初仕入れ量を80%に抑えて、残り20%で売れ筋を期中に投入して柔軟に運用する「プール制」に切り替えましたが、実際、売上げ計画を下回りそうな時の「ブレーキ」と、売れ筋を追加する「アクセル」の役割を果たしています。

また、全体の在庫が減っているため、アウトレットに回す商材が不足してきましたので、この秋冬からアウトレット専用商材を投入しています。ブランドによっては半数が専用商材になっています。それでプロパー販売並みの粗利率まで上がっており、アウトレットの採算も改善されています。

 

――期中に追加できるアイテムや品番は限られるのではないでしょうか。

大江 国内縫製の商材に関しては、ある程度、対応できます。今秋冬は多くのブランドで期中追加を実施することができました。ただ、問題は生地の確保です。来期は多少のリスクを覚悟して備蓄することを検討しています。

 

――プール仕入れに切り替わると働き方も変わってきます。

大江 例えば、営業担当者は百貨店に商品を納品するまでが仕事で、あとは販売スタッフに任せるプロセスでしたが、投入して初めて仕事が始まるような流れに変わってきました。商品量が限られているため、売れている店に商品を投入しなければ売り逃して、プロパー消化が高まらない。店舗間、エリア間、チャネル間の商品移動が相当活発にできるようになってきました。仕入れ量を絞り込み、売り切らなければ売上げ数字が作れない構造にしていますので、商品企画力や編集力が問われます。同じく販売スタッフも売り切るために接客力を磨かなければならなくなります。総じて機動力が高まってきたように感じています。

改革が相当進んできたように話していますが、着実に利益を上げているアパレル企業では普通のことなのです。繰り越し在庫を持たずシーズン売り切りが原則になっている企業もあります。2年間の再生プランは、異常な状態から常道に戻していくための改革に過ぎないのです。

 

アッパーミドル市場を深耕

――さて、22年度(23年2月期)から新・中期経営計画が始まります。最終の24年度に売上高520億円、営業利益率10%(粗利率55%、販管費率45%)の確保を基本的指針(目標)に掲げられました。新中計ではどのような戦略を描かれていますか。

大江 22年は「守勢」から「攻勢」に転じていかなければならない年です。方向性は(昨年)10月7日の22年2月期中間決算発表時に公表していますが、再生プランで実行してきた構造改革施策を継続しながらKPIの改善を進めていく、このオーガニックグロースによって基礎的な成長を確保することが命題になります。構造改革が進んできましたので、やはり課題は如何にトップラインを上げていけるかです。

21年度の上期はコロナ禍の影響が続き厳しい売上げでしたので、22年度の上期は、この反動増が期待できます。上期で勢いをつけて(売上げを)浮上させたいと思っていますが、ただコロナ禍が落ち着いている消費環境が前提条件になります。

もちろん秋冬のように仕入れ量を抑えますので、売り切る精度を高めていかなければなりません。21年度はプロモーション予算も相当抑えましたので、22年度は状況次第ですが、トップラインを上げていくための投資を増やしていきたいと考えています。

 

――新中計の成長戦略の柱として、「ブランドバリュー再定義」、「デジタルマーケティング強化」、「ECプラットフォーム再構築」、「直営店の出店強化」を掲げられています。

大江 ブランド間の同質化が起きていましたので、再生プランではブランドのポジショニングを再定義して、各々のキャラクターを明確にして、今まで以上にメリハリをつけてきました。そのうえでブランド戦略では、アッパーミドル市場で確固たるプレゼンスを構築して、トップランナーを目指していきます。さらに一部のブランドではアッパーミドル市場で確立されたステイタスをベースにディフュージョンラインを展開して、ミドル市場への参入も手掛けていく予定です。

例えば、21年がブランド設立35周年だった「トランスワーク」は、働く女性に寄り添い、快適で美しいワーキングスタイルを提案していますが、着ると気持ちがシャンとする、緊張感をもたらすキチンとした服は、市場で割と少なくなってきている。三陽商会はこうした服を愚直に作ってきましたし、得意分野です。ファッションですのでトレンドも大事ですが、流れに乗り過ぎてブランドのキャラクターをフラフラさせたくありません。上質・高感度で品位のある服を提案し続けいく、これが三陽商会の持ち味ですし、企業体質に合っています。守るべきものはしっかり守り、今後も承継していかなければならない強みだと思います。

 

トップラインの向上に注力

――トップラインを上げるためには、伸びているオンライン販売もポイントになると思います。

大江 弊社ではゼネラルストアである「サンヨー・アイストア」と、ブランドごとのスペシャリティサイトを運営していますが、統制が取れていない。それでゼネラルストア、ブランドストア、アウトレットストアをひとつのモール(サイト)に集約して、お客様が自由に回遊できるようなサイトに再構築していく予定です。いわゆるマルチブランド戦略を実現していくためのECプラットフォームの再構築を進めている最中で、早ければ22年秋頃にローンチしたいと思っていますが、少し時間がかかるかもしれません。

ただ、ECに関しては、リアル店舗との連動体制を軸に考えています。クロスユーザーを如何に増やしていけるかを重要視しています。私共は高付加価値商品を提供していますので、やはり実際に触って、試着して、販売員の接客を受けてはじめて商品価値を理解していただける。お客様にリアル店舗とECを上手く使い分けていただけるような環境を整えていかなければなりません。クロスユース率を重要な指標にしていまして、それが現在20%近くに高まってきています。

秋冬シーズンで、初めてブランド総合カタログ「サンヨー・スタイル・マガジン」を11月に発行したのですが、ここで私が最も注目したのは、各ページに掲載しているQRコードからオンラインサイトにアクセスするセッション数です。相当数アクセスされているようで、他のブランドを知るきっかけにもなっている。つまりアナログツールがECへのエントリーツールになっているわけで、これこそリアルとデジタルの融合ではないかと思います。まだまだ紙媒体には効果があり、今後、検証したうえで、さらに効果的に活用できるようにしたいと考えています。

 

――デジタルマーケティング強化策として、再生プランでもCRMの基盤強化に取り組まれています。

大江 (21年)9月の組織改正で、デジタルマーケティング戦略本部下にCRM推進課を新設しました。サンヨーメンバーシップ会員数は120万人を超え、アクティブ会員も33万人超に達しています。これは弊社の強みであり、一人ひとりのお客様にフォーカスして、より深くアプローチしていこうと。ターゲットマーケティングを強化して、トップラインの向上につなげていくための重要な施策になります。

 

――トップラインを上げていくためには、やはり商品力の強化や店舗の出店も攻めの戦略で重要なコンテンツになりますが。

大江 物件の条件次第ですが、基幹ブランドの直営店の出店は常に考えていきます。そのため(21年)4月の組織改正で全国店舗開発部を新設して、新規出店について様々な角度で検討している最中です。

商品力に関しては、ブランドバリュー再定義に関連してきますが、ブランドの強みを発揮していくためにも、各々のブランドでコアプロダクトを作っていく必要があります。「マッキントッシュ フィロソフィー」のステンカラーコートのように、各々ブランドの顔となるコアプロダクトがあれば、ブランドの価値がさらに高まり、トップラインも上がってくるだろうと思います。

それと今年の春夏シーズンも戦略的に期中追加を行い、精度を高めていかなければなりません。先程も少し申し上げましたが、生地を作り込んで備蓄しておいて、リスクを負ってでも期中生産を増やしていく方が良いかもしれません。「100年コート」などは、自社の縫製工場の強みも生かせますし、受注生産に近い形ができると思います。

 

――その「100年コート」など御社の商品力の強みを集積した複合型ストア「サンヨー エッセンシャルズ」は百貨店に出店されていますが、新規出店を検討されているのでしょうか。

大江 現在、日本橋高島屋S.C.、ジェイアール名古屋タカシマヤ、阪神梅田本店の3店舗に出店していますが、直営店と同様に物件次第になりますが、基本的には前向きに進めてきたいと思っています。

いずれにしても22年度から始まる新中期経営計画では攻勢に転じなければなりません。再生プランで実行してきたオーガニックグロースの着実な実行がベースになり、そこに成長戦略を付加して、営業利益率10%を目指していきます。

 

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