2024年11月23日

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【連載】注文は2万件、最高金額は10万円を突破 快走する「e.デパチカ」

約100ブランドの約500点を扱う「デパ地下グルメお届け便 e.デパチカ 西武池袋本店」

《連載》百貨店業界が本腰を入れる食品宅配の現状と課題 第1回 そごう・西武

コロナ禍によって生じた「イエナカ消費」を追い風に、急成長を続けるのが食品の宅配だ。百貨店業界の各社も、新たなサービスを立ち上げるなどで本腰を入れる。いわゆる「デパ地下」の品揃えの上質さや稀少性、特別感は広く知られており、1度の注文で様々な飲食物を届けてもらえる利便性と送料の割安感も手伝い、総じて売上げは好調だ。20代や30代をはじめ、百貨店に馴染みがなかった人々の利用も多い。収穫は多いが、オペレーションや人員などに課題を抱え、「アフター・コロナ」でも食品宅配が一定の需要を維持できるかには疑問符も付く。食品宅配は、百貨店にとって中長期的な収益源に育つのか――。各社の現状を追う。


百貨店業界における食品宅配の成功譚(たん)として耳目を集めるのが、そごう・西武が2月26日に始めた「デパ地下グルメお届け便 e.デパチカ 西武池袋本店」(以下、e.デパチカ)だ。注文は12月16日時点で約2万件にのぼるが、いわゆる「リピート率」が約5割と高く、客単価は初期の3500円台から5500~6000円に上昇。認知度が上がるとともに1万円を超える“大口”の注文が増え、最高で10万円を記録するなど、視界は良好だ。

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e.デパチカは、約100ブランドの約500点を扱う。注文の下限金額は税込み1500円で、送料として同500円がかかる。専用のウェブサイトか出前館で午前9時45分~午後6時30分まで受け付け、午前11時~午後8時に配達。当日以外の日時も指定できる。対象の地域は豊島区と文京区の全域、板橋区、練馬区、北区、新宿区、中野区の一部で、11月30日には豊島区以外の各区で約18万世帯分を拡大した。配達に必要な時間は、西武池袋本店から半径2キロメートル圏内で最短45分を目指す。

始動から10カ月弱、注文は右肩上がりだ。個人だけでなく、法人需要も増加。当初は1日に2件程度だったが、今や平均で4~5件、多い日は7件を数える。コロナ禍で従業員食堂を閉鎖した病院からの昼食の注文、企業の忘年会などの予約が目立つ。

売れ筋は、数量ベースでは惣菜、弁当、菓子の順、金額ベースでは弁当がトップ。野菜が高騰した時期に「RF1」のサラダが、夏場には揚げ物が、それぞれ活況を呈すなど、時流や天候の影響も大きい。流行や“目新しさ”もヒットのキーワードで、マリトッツォやフルーツサンド、スペアリブなどは、大きな数字をつくった。

時流や天候、流行などに素早く対応するため、品揃えは順次見直す。デジタル戦略推進プロジェクト事務局の井上雄三氏は工夫と手応えを明かす。

「東京五輪のイエナカ消費を見込み、開幕前にビールやパン、たい焼きをはじめとするホットスナックを加えたが、パンがかなり売れ、クラフトビールにこだわって(競合と)差異化したビールも注文が多く、プラスワンの需要を引き出して客単価を上げられた。『味咲き』のたい焼きは西武池袋本店のショップで行列が絶えないくらいの人気だが、冷めても美味しく、宅配での売れ行きは上々。数では1週間に100以上、ベスト5に必ず入る。たい焼きの宅配は競合が少なく、それも奏功した。百貨店の華である物産展と連動した弁当やスイーツなどの販売も反応が良い」

物産展との連動では、コロナ禍で生まれた新たなニーズも浮かび上がる。西武池袋本店が7階の催事場で9月30日~10月13日に開いた「秋の北海道うまいもの会」では、店内から同会で買える商品を注文した客がいた。送料やサービス料を払ってでも、3密や行列を避けたいという要望に他ならない。

井上氏は「緊急事態宣言や『まん防』が解除されてからも、そうした需要は残る。送料やサービス料の支払いに抵抗がないくらい、安全・安心への意識が高まった証」と分析するとともに、「集いの場での時短需要にも適うだけに、コロナ禍が一段落しても売上げは緩やかに伸びていくのではないか」と予想する。

その予想は当たった。右肩上がりだった売上げは緊急事態宣言や「まん防」が解除された10月に入って減少に転じたが、12月にV字回復。クリスマスのオードブルの宅配も引く手数多(あまた)で、17日で事前予約の枠が埋まった。まさに順風満帆だが、11月30日には従来の出前館に加えて自社のウェブサイトでも注文を可能にし、2022年の元日も宅配を受け付けるなど、サービスのさらなる改善に余念がない。そごう・西武の福袋のラインナップにも名を連ねたが、それも人気の証左だ。

好評につき、福袋のラインナップにも加わった

“入口”が増え、新たなデータも蓄積されつつある。受注の数は出前館が85%、自社が15%だが、売上げの構成比は出前館が70%、自社が30%。つまり、自社の客単価が高い。具体的には出前館が約3500円、自社が6000円超だ。客層の違いは明らかで、今後の品揃えや“仕掛け”のヒントになり得る。

好評を受け、西武池袋本店以外への水平展開にも乗り出した。6月にはそごう広島店が、11月にはそごう千葉店が、スタートさせた。そごう広島店はウォルトが、そごう千葉店は出前館が、配送を担う。そごう横浜店も来年1月のスタートを検討中だ。

「e.デパチカは百貨店のイメージを変え、興味を持つきっかけになる。ひいては、店舗やネット通販サイト『e.デパート』の売上げの嵩上げを見込める。まずはe.デパチカで百貨店の品質とサービスを体感してもらいたい。e.デパチカでは注文できない商品が、店舗には沢山ある。それを知って買ってもらえれば、より良い。将来的には食品以外と掛け合わせられると、もっと効果が表れるのかもしれない。探っていきながら、クイックコマースニーズに照準を合わせていく」

井上氏は意欲を燃やす。e.デパチカは、単なる食品宅配ではない。百貨店の、そごう・西武の価値を示し、呼び込み、顧客化する要衝だ。

(野間智朗)