2024年11月22日

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高島屋オンラインストア、約6年ぶりの新装で成長力に弾み

読むと役立つ知識や買い物のヒントを得られる“ストーリーコンテンツ”を充実化

高島屋は先ごろ、インターネット通販サイト「高島屋オンラインストア」を約6年ぶりに新装した。閲覧者の約7割がスマートフォンでアクセスするため、その視認性や操作性を向上させるとともに、複数のカテゴリーを横断した生活提案、読むと役立つ知識や買い物のヒントを得られる“ストーリーコンテンツ”、贈答用に使えるメッセージカードのデザインなどを拡充。気に入った商品を友人や家族らと共有できる機能、購入者の感想や評価が分かりやすいレーダーチャートも搭載した。コロナ禍では外出を控え、ネット通販を利用する人が急増。同社でも、2020年度(20年3月~21年2月)のネット通販の売上高が前年の約1.6倍にあたる約297億円に高伸長した。中核である高島屋オンラインストアは前年の約1.7倍の約248億円を記録しており、リニューアルで勢いに弾みを付ける。

リニューアルでは“スマホファースト”を徹底

高島屋は約10年に亘り、ネット通販の強化を推し進めてきた。ICT(情報通信技術)の進展などに合わせ、高島屋オンラインストアを定期的にリニューアル。5年ほど前からは「ギフトナンバーワン」を目指し、百貨店の強みである中元や歳暮、冠婚葬祭などの品揃えを増やしてきた。ギフトの売上げ構成比は20年度で約8割にのぼり、客の支持は厚い。

ただ、“ギフト一本足打法”は課題でもある。データによれば、1年に1回しか高島屋オンラインストアを利用しない客が多い。右肩上がりを維持するためには、新客の獲得だけでなく、既存顧客の買上げ促進が不可欠だ。

手を拱いていたわけではない。実際、昨年8月に高島屋オンラインストアの新装を予定していた。しかし、コロナ禍が直撃。世界的に生活や行動が変容を余儀なくされ、いわゆる「新常態」を迎える中で、リニューアルを延期してプランを組み立て直した。

例えば、品揃えは“百貨店ならでは”を追求。従来は高島屋オンラインストアで扱っていなかったラグジュアリーブランドや化粧品のブランドを次々に加え、“オンライン物産展”にも本腰を入れた。百貨店のファンの「イエナカ消費」を取り込む狙いだ。とりわけ、一部の売場を除いて店舗を休業した昨年4~5月の緊急事態宣言下は、毎週水曜日に新しい商品を投入。期間中に高島屋オンラインストアの品揃えは5倍超に膨らんだ。

結果も付いてきた。牽引役はオンライン物産展だ。物産展は店舗での会期が1~2週間程度と短く、ネット通販で扱うのは難しかったが、MD本部のバイヤーと連携してオンライン化を実現。初めて販売する商品も多く、「びっくりするくらいの数字」(高草亜紀子EC事業部ネットチャネルグループコンテンツグループグループマネジャー)を計上した。

店舗での「3密」を避けたい客の受け皿として力を入れた、母の日や父の日、おせち、福袋の売上げも「かなり伸びた」(中村太輔EC事業部営業推進担当)という。品揃えを大幅に増やしたラグジュアリーブランドの婦人雑貨や「タカシマヤ ウオッチメゾン オンライン」を立ち上げた時計も活況で、客単価の向上に繋がった。

高額品は「手に取り、確かめてから買いたい」という人が多く、ネット通販ではハードルが高いとされてきた。しかし、高草さんは「今のお客様は対面販売にこだわらない。高島屋としての信用があれば、高額品でも購入して頂ける」と強調する。

売上げの伸長だけでなく、客層も広がった。利用者のメインは40代で、50~60代が続く構図だったが、20年度は20~30代が“爆増”。百貨店との接点が少ない20~30代の流入は、飛躍への好機だ。高草さんは「21年度の売上げは20年度の反動もみられるが、高島屋オンラインストアのリニューアルをテコに20~30代を固定化、育成していく」と意欲を燃やす。

そのリニューアルの骨子は「何度も使ってもらえるウェブサイト」。ユーザビリティの向上や品揃えの拡充はもちろん、1年間に何度も高島屋オンラインストアを訪れ、商品を購入したくなる“仕掛け”を組み込んだ。「モーニングルーティーンにおすすめ3選をご紹介。『朝活』で気持ちよい1日のスタートを!」(原文ママ)や「高島屋バイヤーがお教えします。ワインの美味しい飲み方を知って、もっと素敵なワインライフを!」(同)といった生活提案、専門的な知識の伝授が典型的だ。知的欲求を刺激し、購買意欲を喚起する。

カタログ的に商品を販売するだけでなく、生活提案で購買意欲を喚起する

中村氏は、メッセージカードとアイテムレビューの効果に期待を寄せる。「売上げの中心はギフトだけに、子供の写真などを付加してカスタマイズできるメッセージカードはプラスアルファになる。アイテムレビューにはレーダーチャートを併記し、より視覚的に見やすく、分かりやすくした」。

写真も添えられるメッセージカード

ネット通販サイトにとって、ユーザビリティは最重要だ。使い勝手が悪ければ、客は離反していく。松本卓也EC事業部ネットチャネルグループ商品マスタグループグループマネジャーは「ウェブサイト上で迷わず使えるか、そこを重視した。商品を増やしていくうちに、ウェブサイトが複雑化してしまったからだ。ギフトを購入する際、特定の熨斗(のし)紙を選ぶと、次に適した包み方が表示されるが、1つの選択肢に対して最適解が表示されるようにフローを整えた。自宅用をワンタッチに近い形で買えるようにしたり、マイクロサービス化で検索に要する時間を減らしたりもした」と、改良の要点を説明する。

高島屋オンラインストアは新装して以降、コロナ禍の反動で鈍っていた売れ行きが復調。とりわけ、自宅用の売上げは前年の約3倍に跳ね上がった。今後について、高草さんは「『(お客様に)ワクワクしながら買って頂こう』がポイント。基本の『き』を大事に、コンテンツの効果検証を繰り返しながら、お客様にとって『ためになる』を増やしていく」と方針を示す。

21年度のネット通販の売上高は約345億円を見込む。「お客様が変わった分、今まで売れなかった商品も売れ、単価が上昇している。ギフトでは5000円より1万円、食品でも高級なブランドが売れる。うなぎも凄く伸びており、こだわりの家電、アウトドア用品も好調」(高草さん)と視界は良好だ。

「『アフター・コロナ』を見据え、売上げが伸び続ける戦略を立てたい。各店舗への送客も担っていく。日々の潤い、贅沢なひと時を提供できるのが百貨店。“百貨”として、全方位型のネット通販サイトを貫く」と高草さん。“百貨店らしさ”を磨き、深化させて、成長軌道をひた走る。